第24話 魔法職の理由
城門を抜けると、整えられた石畳はやがて土の道へと変わった。
朝の風は刺すように冷たく、吐く息は白い。
街道沿いには、低く茂る草花が揺れる。
遠くに広がる畑地が、朝日を浴びて金色にきらめいていた。
「そういえばさ」
並んで歩くチャールズへ、俺は何気ない口調で問いかける。
「魔法職の募集って掲示板でよく見るけど……何か理由があるの?」
「理由ねぇ……いくつかあるな」
チャールズは片眉を上げ、肩をすくめた。
「魔法攻撃は敵の耐性に左右されやすくてな。物理職みたいに安定してダメージを出せない。だから安定志向のやつは剣や弓に流れる」
「ふむ……」
(物理に強い敵もいそうだけどな)
俺は頷きつつ、その奥に何か事情がありそうだと感じる。
「それに、見た目は派手で華やかだが、実際は位置取りや味方との連携が必要だ。対人戦じゃ真っ先に狙われるしな。そりゃ人気も出ない」
(それはありそう。対人戦はもうやりたくないけど)
「なるほど……そういうことか」
「――なんてのは、言い訳だ」
(え? 違うの?)
俺は思わず首をかしげる。
「本当の理由は、30年くらい前だ。魔法職の装備やスキル書に規制がかけられた。強力なもんは基本的に手に入らない。戦争で魔法が乱用されて、街ひとつ消えたこともあったらしい」
(タールのことか?)
チャールズは空を仰ぎ、低く吐息をこぼした。
「そっから一気に魔法職は希少職になった」
「……そういう理由だったのか」
危険すぎる力ゆえに制限され、自然と数も減った。
それで今度はパーティの需要が増えてきた、と。
「去年ね、『魔導士ラオス』の舞台をやったんだって! すっごく評判よくて、それで魔法職に憧れる人が増えたらしいの!」
ヒラリーが明るい声で口をはさむ。
(それ魔法具店の人も言ってたな)
「あの舞台の関係者、めっちゃ怒られたらしいよ」
デイヴが苦笑しながら付け加えた。
「ホントに舞台で増えるんだ……」
俺は思わず吹き出す。
(たしかに、ちょっと観たいかもな)
冷たい空気の中でも、会話が心を温め、足取りを軽くしてくれる。
◇ ◇ ◇
俺たちは、デルミの出現地域へと足を踏み入れる。
見渡す限り広がる草原と、どこまでも高い空。
(パーティ戦は初めてだ……ちょっと緊張するな)
固定パーティを作るとか、クランに入ればクエストも楽に選べるんだろうけど、もうちょい自由でいたいよな。
「そういえば、みんな同じレベルなのって――」
「クエスト一覧のパーティ募集は、大体同じレベル帯が表示されるのよ」
ヒラリーが俺の意図を察して答える。
「そうなんだ」
(いいシステムだな)
――そのとき。
(……ん? 〈探知〉に反応!)
「おしゃべりは終わりだ。いたぞ」
チャールズの声が鋭く低くなる。
(このタイミング、チャールズも〈探知〉持ちか?)
〈デルミイノブ/雷属性/レベル:6〉
ゾウのような巨体。
角のあるイノシシのような姿。
(でっか。お前がデルミ焼きのデルミか)
「鼻を攻撃すると電撃をばら撒く。そのあとしばらく動きが鈍る。そこで総攻撃だ」
チャールズの説明は端的で迷いがない。
(攻略法が分かってるなら心強いな)
ヒラリーの矢が牽制を放つ。
それに続いて、チャールズが剣を抜いて突撃する。
(この2人、息が合ってる)
デイヴが何かの魔法をチャールズに付与した。
チャールズの身体が輝く。
一瞬で加速する。
チャールズの剣がデルミイノブの鼻先を裂いた。
(速い! 今のスキルか!?)
鋭い悲鳴が草原に響き渡った。
「電撃が来るぞ、下がれ!」
警告と同時にデルミイノブの全身が青白く光る。
稲妻が四方へ弾ける。
皿を割るような甲高い音が耳を打った。
「音が……!」
(耳が……キーンってなる……)
やがて電撃が収まり、巨体がぐったりとその場に沈む。
「よし、今だ! まず弓と魔法で! 最後に俺が削る。これを繰り返すぞ」
(パターンにハメる戦い方か。慣れてるな)
「よし!」
(同じレベルなんだ)
出し惜しみはなしだ。
実力を知ってもらわなきゃ、連携も何もない!
(そういえば、杖を装備して魔法使うの初めてだな)
杖を握る手に汗が滲む。
俺はマナを練り上げた。
(心臓の鼓動が速くなるのを感じる)
〈フレイム・ランス〉
杖の先から巨大な炎の槍が一直線に走る。
デルミイノブの横っ腹をえぐり、火柱が立ち上がる。
熱風が一気に周囲を包み込む。
草木が焦げる匂いが広がった。
(この杖、撃ちやすい!)
なんか、すっとマナが突き抜けていく感じ。
威力も上がってる?
肉厚な体を貫きはしなかった。
しかし、確実に深手を負わせる威力だった。
「上級……魔法……?」
デイヴが目を見開き、手から杖を落とす。
「すご……」
ヒラリーの瞳は炎のように揺れていた。
(まだ動く!)
「チャールズ! とどめを!」
「あ、ああ!」
我に返ったチャールズが剣を振り下ろし、巨体を沈黙させる。
◇ ◇ ◇
「中級魔法ですらスキル書の購入に許可がいるのに……まさかドロップしたのか!? どの敵からだ!」
デイヴが興奮して早口になる。
「特性じゃないのか? 『火属性の上位スキルを取得できる』とか」
チャールズが冷静に可能性を探る。
「そんな特性もあるの?」
ヒラリーが興味深げに首をかしげる。
「分からんが、あってもおかしくはない。現にタケルは使えてるだろ」
「ちょっと、まって……」
混乱していたのは俺も同じだった。
(どういうことだ?)
中級魔法が許可制?
装備やスキル書に規制って言ってたけど、上級はどういう扱いなんだ?
全ての職業のスキルを取得できる。
それが俺の特異性だとして……。
ワイバーン戦のあとに「火属性魔法をいくつか取った」とは伝えたけど。
モーリンは何も言わなかった。
中級や上級魔法については。
(あえて何も言わなかったのか……?)
何か意図がある?
とはいえ、色々伝えてないのは俺も同じか。
(分からん、余計に混乱してきた)
とりあえず、誤魔化すしかないか?
もう、こういうのってあとでボロが出そうで嫌なんだけどな。
「俺にも分からないことだらけで……。ただ、調査クエストの報酬でレアなスキル書をもらったんだ」
「調査って、フリークエストのだよな?」
チャールズが確認するように言う。
「たまに報酬に当たりがあるって噂は聞くけど……あれ、ホントだったのか」
デイヴが考え込むように呟く。
(少し心が痛むけど、嘘は言ってない)
「俺も聞きたい。スキル書なしで上級魔法を取得するのって不可能なの?」
「不可能じゃない。そういう特性もあるはずだ」
チャールズが答える。
「でもそれ、立証はされてないだろ?」
デイヴが反論する。
「そもそも特性なんて自己申告だけで、確認のしようがないからな」
チャールズは熱を帯びた声で言い切った。
「ねーねー、これって騒ぎにならない? もしアカデミーに上級持ちが入ったら先生が飛んでくると思うんだけど」
ヒラリーが一番冷静な発言をした。
「確かにな」
チャールズは口元に手を当てて言う。
「タケル、他に使える魔法は?」
「中級魔法なら」
「しばらくは、それを切り札にしておけ」
(上級魔法は封印か……)
ユラもムスターもそんなこと言わなかったけど……。
あ、驚きはしてたか。
彼らは魔法事情に詳しくなかっただけかもしれない。
「その方が、よさそうだね」
俺の初めてのパーティ戦。
自身の正体と、この世界の深い秘密に触れる、波乱の幕開けとなってしまった。




