第23話 パーティ募集
石畳の路地を抜け、俺は冒険者ギルドの扉を押し開けた。
朝のまだ人の少ない時間帯。
磨き上げられた木のカウンターが並ぶ。
実用的でありながら装飾も施された内装が目を引いた。
(なんか明るい)
これがレベックの冒険者ギルドか。
カホンとは全然雰囲気が違う。
クエスト完了報告で、マナ認証の板に手を置く。
「お疲れ様です。配達クエスト、完了ですね」
女性職員が丁寧に頷き、封蝋で閉じられた袋を差し出す。
「こちらが報酬です。そして……おめでとうございます。銅級に昇格です」
「昇格?」
「はい。ギルドでは本人のレベル、クエスト達成数や達成率などを基準に評価されます。ランクは無級から銅級、銀級、金級と上がり、それによって受注できるクエストが解放されます」
「へえ……」
(モーリンからそういう話全然聞かなかったな)
「さらに銅級からは、クランの設立や加入が可能になります」
「クラン!?」
目の端に新しいアイコンがアンロックされた。
クランの項目だった。
(そういえば……そういう世界だったな)
そんなやりとりをしている間に。
気付けばギルドは、朝の冒険者たちで賑わっていた。
掲示板にはびっしりとクエスト札が貼られている。
受付を通さずとも、そこからクエスト一覧にアクセスできるようだ。
(こっちのやり方が主流っぽいな。カホンじゃカウンターに行列なんて見なかったけど)
俺も彼らを真似て、札に触れる。
視界にウィンドウが展開される。
フリークエストの項目とは別の、新たに解放された「銅級」タブを開く。
そこに並んでいたのは、見慣れない"パーティ募集"の文字だった。
(パーティ募集……?)
背後から冒険者たちの声が耳に入る。
「銅級からは人手が要るクエストばかりだ」
「デルミ討伐なんて1人じゃ無理だろ」
「採取も魔物の巣の近くばっかだしな」
(銅級クエストのほとんどがパーティ向けなのか)
俺は腕を組み、考え込むように天井を見上げた。
(今、ユラとパーティ入ってるけど、どうなるんだ?)
一旦解散して、別パーティに入れてもらう感じなるのかな?
いきなりパーティ解散されたら、ユラが驚きそうだな。
ふと、募集の中でも魔法使い枠の需要が目立つことに気づく。
(前衛職とは需要が段違いだな)
杖とマントを新調して、魔法寄りにすると食いっぱぐれないか。
魔法使いならローブだよなあ。
でも、この皮鎧気に入ってるんだよな。
◇ ◇ ◇
午前の市場通り。
陽光と人の熱気で輝いていた。
露店の布地は鮮やかに揺れる。
香辛料や焼き肉の匂いが、風に乗って流れてくる。
屋台の親父が串を返しながら声を張る。
「焼きたてデルミ! デルミの串焼きだよ!」
(デルミ屋がそこら中にあるな)
そういえば昨日の宿の食事も、デルミ煮って言ってたっけ?
「ひとつ下さい」
手にした串からは、香ばしい皮の焦げと、甘く脂が溶ける匂いが立ち上る。
噛めば、外はパリッと、中から肉汁が溢れ出す。
濃いタレが舌に絡みつく。
(甘いタレだ!)
照り焼き、みたいな?
……これもうまいな。白米が欲しくなる。
この世界にはお米はないのかな。
旨味を噛みしめながら、足は自然と武器屋へと向かっていた。
◇ ◇ ◇
レベックには武器屋といっても複数存在していた。
今回は、魔法具専門の店を選んだ。
杖やローブ、魔道具、装飾品まで多種多様な品が並ぶ。
「魔法職は今、上街でも人気なんです。去年公演した『魔導士ラオスの川下り』の影響だって話ですよ」
(舞台を見ただけで魔法使いに憧れるのか?)
案外ありそうだな。
俺も子供の頃に特撮を見てヒーローに憧れたしな。
というか何だよそのタイトル、気になるじゃん。
マントは迷った末に深緑を選んだ。
落ち着いた色味が、新しい自分の方向性を形にしてくれる気がした。
皮鎧の上にローブは無理だった。
マントなら動きも邪魔しない。
《見習いのマント/防御力:+5/魔法耐性:+10/耐久:50/50》を手に入れた。
杖の棚から、小振りで軽いものを選ぶ。
《オークの杖/魔力:+10/INT:+1/耐久:30/30》を手に入れた。
(パラメータの変化っていまいち体感しづらいんだよな)
剣は腰に、杖は背に。
ベルトからすぐに抜けるよう調整する。
(なんかクラスチェンジした気分)
杖はこのくらい小振りの方が使いやすそうだ。
でもやっぱ高いよな、装備って。
◇ ◇ ◇
魔法使いスタイルの準備が終わり、再びギルドの掲示板前へ。
銅級の中から、魔法使い枠を募集していたデルミ討伐を選ぶ。
(あんだけ屋台が並んでるんだ。需要しかないだろ!)
募集要項に触れて、参加申請を送る。
――パーティに加入しました。
(は!? いきなりかよ)
視界の端にパーティメンバーの情報が追加される。
ユラとのパーティ表示はそのままに、別のタブで管理されるようだ。
(パーティって重複できんのかよ)
ギルド公式のクエスト用パーティと、個人間のパーティは別枠扱いなのか?
これなら、ユラの安否確認もできるし好都合だ。
マップに仲間の位置が表示され、1人の剣士が手を挙げた。
「お、やっと魔法使い枠が来たな。俺がこのパーティのリーダーのチャールズだ。こっちは弓使いのヒラリー、黒ローブが回復師のデイヴだ」
「タケルです。よろしく」
差し出した手を、チャールズが力強く握る。
「よろしくね」
ヒラリーが笑顔で挨拶する。
デイヴは軽く手を上げただけだった。
「なんだ? 剣も持ってるのか?」
「練習中なんだ。メインは魔法だよ」
「いいじゃん。剣も魔法も使えるのって面白い」
ヒラリーは楽しそうに言った。
「パラメータのバランスが悪くなるだけだよ」
デイヴがぼそりと呟く。
「人の装備やスキルにケチつけるのは無しだ。悪い、今のは好奇心で聞いただけだ」
チャールズが俺の肩を軽く叩く。
(この人、リーダー気質だな)
「3人はパーティ組んで長いの?」
「そんなに長くはないよ。でもアカデミー生だから、付き合いは長いの」
ヒラリーが答える。
(アカデミー?)
「学生なんだ?」
「ギルド評価を上げると単位になるんだ」
チャールズが補足する。
(そういえば、3人とも身なりが良い気がする)
「アカデミーの評価が上がれば、出資してる貴族の地位も上がるってわけ」
ヒラリーは得意げに話す。
「王都からあぶれた貴族だけどね」
デイヴがまたぼそっと言う。
「色々事情があるんだね。レベックに来たばっかりで、全然知らないから助かるよ」
「時間がもったいないし、行くか」
チャールズの一声で全員が立ち上がる。
こうして、俺の初めてのパーティ戦が幕を開けようとしていた。
ユラが無茶をしてないか心配だけど、信じるしかない。
この新しい出会いが、自分の旅を大きく変える予感を、俺は静かに感じていた。




