6話:5時間は繰り返す
『【調合】を習得しました』
『【薬学】を習得しました』
『【薬学】のレベルが上昇しました』
『【薬学】のレベルが上昇しました』
『【調合】のレベルが上昇しました』
『【集中】を習得しました』
『【薬師の才】を習得しました』
「うーん、これくらい覚えれば何とかなるかなぁ」
「そ、うか……」
RPが剥がれかける。
疲れた、とにかく疲れた。お疲れ様、と彼が出してくれたあたたかな紅茶をありがたく頂く。ほんのり甘いリンゴ味がフル回転した脳みそに染み渡る。猫舌なのか、自分の分にはふーふー息を吹きかけている子供をぼんやりと見つめた。
頭の回転が鈍い。だが仕方もないだろう。なにせ先ほどに続きなぜかこのクエストまでも、俺は5時間くらい小難しい技術や知識を叩き込まれていたのだ。単純作業とはまた違う修行みたいな時間。もはや仕事だ。思わず投げ出したくなったのだが、スキルの習得ができないと、薬は作れないよ!のだそう。俺は負けた。
アルバイトをするのに事前研修があったのだ、と考えるしかない。この時間にもアルバイト代ね、とお駄賃を渡されては文句も言えなかった。あと内容自体も、学生時代のちょっとした実験や、ゲームの設定を取扱説明書で読むみたいで楽しかったし。
例えば、回復薬について。
この世界の回復薬はゲームらしく、飲むだけで傷がいきなり治る。それはゲームだからと言ってしまえばそれまでだが、NPCにとって、世界の仕組みとしてどうなっているのかなんて話を聞けた。
この世界では大地が何らかのスキルでえぐられたとしても、即座に修復される(具体的には戦闘がおわれば)。そりゃサーバー重くなるだろうし、元に戻るのは当たり前だろう。
だがゲーム的には勿論違う。大地は世界にめぐる八神(やっぱそんな概念はあるんだな)の加護により、あるべき姿に修復されるからということになっており、回復薬も同じなのだそうだ。調合で使われる薬にはすべて素材として、世界の一部が含まれており、それを【調合】とかのスキルで昇華することで直されるべき世界の一部として誤認させる。それにより、加護の力で傷を治すのが本質なのだとか。ちなみに能力アップ系の薬も、本来のステータスを世界へ誤認させるものだそう。うーん、新しい回復薬の解釈を見た。こういう話を知れるのはちょっと面白い。
とはいえ、俺は今どこに向かっているのだろう。ただの魔法使い志望だったはずなのに。今のスキル構成はもはや薬師みたいなもんだ。ちょっとだけ魔法も使えるタイプの。しかし手に入れてしまったものは仕方がないし、ソロを続ける上ではきっと役に立つはず。そう自分に言い聞かせる。
そもそも当初の予定では、【調合】スキルは初期のうちに入手する予定だったのだ。だって、眼鏡美人が黙って調合しているのは絶対かっこいい。だが初期投資にもなる道具を買うのが、何やらけっこう大変らしいと聞いて、結局すぐに取得するのはやめた……はずだったんだけどなぁ。ま、本格的なのは生産職のみなさん頑張ってくれ。俺には【集中】と【薬師の才】だけでいい。
ちなみに【調合】はないと薬が作れない。で、薬を作る時は【薬学】を持っていると、より品質の良い薬を作りやすくなるのだとか。【集中】は集中が出来ていればだが、運が絡むもの、例えば【調合】や戦闘中の一部の技能の成功率上昇。【薬師の才】は薬系のアイテムを使った時に、その効果が僅かに上昇するのだとか。うん、ソロプレイヤーの味方だな。
「異世界人ってすごいねぇ、こんなあっという間にスキルを覚えられちゃうなんて。ほんと、薬師になっちゃえばいいのに」
「……悪いが、俺は魔法使いだ」
「わかってるよぉ……そんな心配しなくても、言っただけだって!」
魔法使いのほうがこのキャラの見た目にあうし、ソロにむいている。既にスキル【本】や【幻式】も入手した後だから、今更変えるのが惜しいというのも大きい。こんなしみったれたことを考えているなんてバレたくなくて、腰に手を当てぷくりと頬を膨らませる彼から目を逸らす。
「じゃあアルバイトの件だけど、明日からそっちの都合がいい日だけでいいから1週間、昼の12時~夕方の5時まで。そのあとの2時間くらいで、古代言語の基礎を教えてあげるよ。1日のアルバイト代は2,000Mね」
「ああ、わかった」
本当は毎日がいいんだけど、きみ異世界人だもんねと彼が細い肩をすくめる。ログアウトも考慮されてるようで、何より何より。とはいえあまりバイトをさぼると言語の習得ができなくなりそうだし、できる限りきちんとやりたいものだ。……このアルバイト代が相場と比べて適当なのかがわからないが、技術も学べて古代言語の基礎も学べると思えば、たとえ安くとも文句は言えないだろう。安かったら別の手段で金を稼ごうな、俺。
「はい、これ。回復薬と解毒薬と栄養剤のレシピ。明日から作ってもらうから、よろしく!器具とか材料はこっちで用意するから。来る日は12時までに表通りの神殿に来てくれる?」
「神殿?」
「そうそう。本当は一日、ここで本屋やっていたいんだけどねぇ。ギルドから人手が足りないからって駆り出されて、昼から夕方まではそこで働いているんだ。そこで僕の助手をしてくれればいいよ」
今日はたまたま休みなんだけどさ、と子供は大きくため息。書店を朝だけやる理由はそれか。この店よりは簡単に向かえそうだし、俺に否やはない。
「ああ、わかった」
「入り口で僕の名前出せば案内してくれると思うよ。じゃあ、ボクのためにもよろしくね~」
ニコニコ笑うエルフに見送られ建物を出る。バイバ〜イ、とジャンプをしながらをブンブン手を振って見送ってくれた彼は、タタンと踊るような足音を鳴らし、扉の中へひょっこり消えてった。──いちいち、大げさに芝居がかった動きをする奴だ。悪いやつではないと思うが、
『友好NPCアールを手に入れた』
……友好というか。あっちが俺をメールで呼び出しができるよう、とりあえず友好NPCになっておこうね!の意味合いのほうが強く思えるのは、気のせいだろうか。──あまり、深く考えないことにした。俺とはしてはこれで一応、これで本を読むことも出来るようになりそうだ。よかった、よかった、ということにしておこう。
さて、もう午後だ。夕方というにはまだ早いが…これからどうするか。とりあえず、いったんログアウトで休憩かなぁ。久しぶりにこんなに勉強して……疲れた。
ゲーム考察板より抜粋
0142 名無しゲーマーですよ
ちなこれ、俺らの設定まとめな
↓
・異世の界渡りと呼ばれる他の世界からの訪問者
・略称:異世界人
・普段はほとんど発生しないけど、数十年に一度、一気に訪れることがある(サーバー解放のタイミング)
・この世界で新たな肉体を持つから、レベルとかが1スタート
・異世界人は色んな方面に素質が優秀なやつが多いから歓迎される
・世界に魂が安定してないから長い睡眠、渡眠り (ログアウト)をよくする
・この世界の生き物でもないから、進化(種族変更)をしやすく、転生 (レベルリセット)をしても記憶は保持される




