5話:本屋の主人
道中で想定外のことは起きたが、なんとか教えられた本屋にたどり着くことができた。だがこの目的地、ぱっと見はとても店には見えない。周辺にある、ただの普通の民家と同じように見える。本当に、ここであっているのだろうか。商人から貰った結構汚い手描きの地図は、たぶんここを指しているのだが。看板の一つも出ていないので、何も確証が持てない。
とはいえ、男は度胸!!こんなところで、物怖じをしている場合ではないのだ。RP重視マンは強いハートを持って……はいないが、やるべきことはやれるのだ。もしただの民家だったら申し訳ないが、その時は謝って正しい本屋の場所を教えてもらおう……うん。
ノックをする。返事はない。
何度か続けてそれでも返事はなかったので、今度は扉にそっと手をかけてみる。鍵はかかっていなかったようで、扉はスッと開いた。
扉を開けた先、そこは本の山だった。
まだ朝も早いからか、うす暗く埃っぽさもある室内は右を見ても本、左を見ても本、上を見ても本、奥を見ても本がうず高く積まれている。活字中毒者なら大喜びをしそうであるが、残念ながら俺はそこまでじゃない。人並にしか本を読まない俺にとっては、これほどの量になると普通に頬が引きつりそうだ。だが、今の俺は顔面と内面が一致しないため無表情のはず。なので許して、お願い。気難しい店主とかじゃないことを祈る。
「いらっしゃーい、見かけない顔だねぇ」
そんな俺に声がかかる。
店の奥、本の影から出てきたのは小さな人影だった。
「……子供?」
「うーん、子供ではないかなぁ。見た目はこれでもキミよりは年上、ご長寿様だよ。だって1000歳を超えてるもん」
ふんす、と彼は大袈裟に頬を膨らませ、腰に手を当てる。
「それは──すまない、」
「まぁ、慣れてるからいいけどね。同族にもよく間違われるし」
今度は手をひらりと振ってそう返す彼は、容姿だけなら明らかに少年だ。
おかっぱに切りそろえられた空色の髪に、碧色のパッチリとした大きなたれ目、エルフ族の特徴でもある先がとがった細い耳を持つ彼は、体全体の線も細く、黙っていれば薄幸の美少年と言える容姿だった。ただし、口を開けたら台無し感が既に溢れている。少なくとも幸薄くはない。絶対、こいつ図太いだろう。そう確信できる。
しかし見た目はただの子供だ。俺の腰くらいまでしかないし、6、7歳頃の子供にしか見えない。これで本人曰く1000歳──そうでなくとも店を経営できる年のようだから、ショタジジィ?とでもいうべき存在なのだろう。エルフは長寿というお決まりの設定は、このゲームにも適応されているらしい。一部の界隈には、大変ありがたがられそうだ。おれはショタコンでもなんでもないので、特にそこに何かを感じることはないが。──あ、ロリコンでもないからな!?
「──それでキミ、異世界人だよね?わざわざ、こんな不便なところにあるボクの書店に何の用かなぁ?普通の本屋なら表通りにあるでしょう?」
「……この本を読みたくて。露天商に紹介されてきた」
目をきゅっと細め、ニコニコと笑う彼。なんとなく向こうからの拒絶感を感じるが、これもRPのためだ。持っていた本を差し出す。「ああ、テッドに紹介されてきたの」と呟き顔より大きなソレを受け取った彼は、少し中に目を通すとぱちぱちと瞬きをした。
「これは……なかなか珍しい言語のものだねぇ?『喜びの蛇』か。内容は、へレス神聖古代帝国にいたある獣についてのもの。むしろボクが買い取りたいくらいのものだけど──ダメなんだろうね。キミの目を見れば分かる。この本にこだわりをキミは持ってる」
「……ああ」
ただ単に自分の髪色と同じ色の表紙だったから、とは言えない気配を察知。きっと、表情の連動機能を切っているからだ。こだわりを持っているのは確かなので、賢い俺は黙った。
「だけどボクも今、結構忙しい時期なんだよねぇ。見返りなしってのもだし……あ、そうだっ!」
「……なんだ?」
ぽん、と手を打った子供は、本を片手にずいっと近づいてくる。
「キミ、ボクのお手伝いのアルバイトをしようよ!キミがバイトしてくれたら多少の暇もできるし、その時間でこの言語の基礎くらいなら教えてあげる。キミはスキルとアルバイト代も手に入る──どうかな?」
―クエスト≪●●のバイト≫を受理できます。受理しますか? YES/NO ―
またもブランクが不穏なんだが。
「どんなものなんだ?」
「ん?キミ、治癒士じゃないよね?だから薬師見習いになってもらって、それで回復薬とかを作る手伝いをしてもらおうかなって」
―クエスト≪薬師のバイト≫を受理できます。受理しますか? YES/NO ―
すまない、全く不穏じゃなかった。
だが少し大袈裟な身振り手振りをして、ずっとニコニコ笑っている彼も、あんまり良くないと思う。必要以上に不安感を煽られてしまう。これを世間では他責と言います。はい、つまり俺が悪いです。
今度は普通に受理する。
「それなら、よろしく頼む」
「了解、契約成立だね!ボクの名前はソーリャ。キミの名前は?」
「カル・アーデスタだ」
「了解、じゃあカルくんね!早速で悪いけど、この後何か予定は?」
「特に、ないが」
猛烈に嫌な予感がする。先ほどぶっ続けたアレと似たようなものを感じ…………内心、盛大に顔を引きつらせ、思わず一歩下がろうとしたのに。その前に子供にガシッと腕を捕まれる。
「じゃあ、今からみっちり薬学の基本を教えるね!」
喉から、かすかに悲鳴が漏れ出た気がする。
変わらず、ニコニコ笑うこのエルフの力は見た目に反してかなり強く、逃げられる気はしなかった。よ、寄り道がかなり増えてきたというか、まだ一歩も町の外に出れてないんですけど……が、頑張ろう。
ゲーム考察ページより抜粋
【エルフという種族について】
平均年齢は500歳前後だが、長命なものは800~1000歳まで生きる。
寿命を迎える200年前くらいまでは若々しい青年の姿で生き、そこから一気に見た目も年を取り、最期を迎えると樹木に姿を変える。
また子供が生まれにくく、そのためその子供の親が誰であるかを重視せず、部族全体で育てることが多い。普通は妖精が寄り集まってできた国アルフヘイム連邦におり、他の国に出てくることはあまりない。そんな中出てきているエルフは余程の変わり者か、何か特別な目的や、理由をもっていることが多い。




