3話:初めてのクエスト
子供の家に向かう道すがら、子供が勝手に色々と話すのでそれをただただ聞いていた。こうしてれば、他のプレイヤーにも絡まれにくい……と俺は信じている!
この子供の名前はレメ。ちょっと女の子みたいな名前だなと思ったのがバレたのか、ポコポコ叩かれた。悪かったって。予想通りこの町に住む人間の子供らしい、歳は9歳。
父親はギルドで働いており、母親は新しくできた妹の世話にかかりきりで忙しいため、日中はかなり暇なのだそうだ。きっと寂しいのだろう。俺も弟が生まれた時は、それで親を困らせた記憶がある。
子供いわく、普段は暇に任せて家でゴロゴロしたり、貸本屋に行ったり、近所の子供たちと遊んでいるそうだが、今日は異世界人(俺たちプレイヤーのことだ)が一斉に来たため気になって広場に来て、さっきのことが起きたのだとか。人に迷惑をかけてないこの子は偉いな。
「そうしたらこんなすごいまほうスキルが見れるなんて、本当にうれしい!!お兄さん、ありがとう!!」
子供は嬉しい、嬉しいと俺のローブの裾を掴む手をブンブン振る。クエストだから受けただけの俺の良心に、ダイレクトアタック!!効果は抜群だ……目に痛いほどキラキラと眩しい笑顔も合わさり、罪悪感で倒れそう。
「魔法が好きなのか?」
「うん、大好き!!」
こーんくらい!と、今度は小さな腕を目一杯に伸ばして彼は語る。これはとったスキルがバチ当たりしたんだな??火の玉が綺麗で気が逸れたとかじゃなくて、魔法が見れて喜んだだけだったんだな??俺、魔法使いで良かったな──
彼は俺のことも聞いてきたが、残念ながら俺が答えられることはほとんどなかった。名前と、今日この町に来た異世界人の魔法使い志望であることくらいだ、話せたのは。設定、練っておくんだったなぁ。……今度、考えておこ。反省である。
で、子供は少なくとも今は何もない、そんな俺の話にもなぜかウキウキと楽し気。最初の怯えをどこにやった!?魔法が楽しみなだけじゃなくて、俺の中身がしみだしているからな気がする。くそっ、もうRPが剝がれているというのか!?しっかりクールイケメンを演じないと……
この子の家は町の中心街からは離れた、他のプレイヤーが一人も見受けられないほどの細い路地の先にあった。こんなところにも入り込めるように作られているのかと感心する俺をよそに、子供は家の中へ消えていく。
本当は一緒に家に行くべきだったのかもしれない、クエストだし。だがここであの子供の母親から通報はない、よな??と無表情でも怯えてしまい、結局俺は庭で過ごすことにし──たのだが。家の中から子供と共に、特にMPは回復しないほうの焼き菓子を持った母親までも現れ、この子が本当にごめんなさいと謝られ、今度こそ家の中へと通された。親公認なら許されるだろう、たぶん。
この子供のこんな魔法を見たい!!と突き進むような行動は、どうやら初めてのことではない模様。良かったと思うべきなのか、どうなのか少々複雑。だがまぁ、俺にとっては都合が良かったことだし、きっと治安がいいのだろう。最初の町だし、きっとそう。
通された家の中は完成度がとても高い。座り心地が良いソファとかもそうだが、適度な生活感のある汚れ方。部屋の隅にわずかに埃が積もっていたり、家の鍵が無造作に机の上に放置されていたりと。本当にここで、誰かがずっと暮らしているかのようだ。もしや、本当に一軒一軒がこうなのだろうか。そりゃ人気が出るわけである。運営のこだわりが、もはや頭おかしいレベルじゃないか。
さて、母親は家のお菓子はご自由にどうぞ、レメをお願いしますと残すと、あっという間に泣きだした赤子の世話へと戻っていった。使えるものは異世界人でも使え、ということか??改めて、どうやらこの町は最初の町にふさわしく、本当に平和らしい。
子供が棚の中からクッキーを出してくるのを、勧められた椅子に座りぼんやり見やる。張り切ってるし、手伝わないほうがいいだろう。キャラにも合わないし……
はっ!こんな見た目のキャラなら、ここで本とかを取り出したりするべきなのでは?パラパラと読み始めたりとかしたいぞ!?買い物リストにかっこよさげな本をエントリー。お金は足りるかな?
なんてしているうちに準備が終わったらしい子供が、ふふん、と得意な顔をして戻ってきた。
「これはMPをかいふくできるし、ふつうのお薬とちがっておいしいんだよ!」
「……普通の薬はまずいのか」
「お薬だもん、まずいよ!」
知らないの?という顔で見てくる子供から目をそらしつつ、差し出されるままにサクリとクッキーを食べてみる。うん、普通のバタークッキーだ。バターの香ばしい香りと共に、食感も味もしっかり再現されていることに、改めて感動。クッキーなら、戦闘の片手間でもがんばれば食べられるかもしれないな。生産スキルは何を取るか決めてなかったが、料理スキルもいいかもしれない。おかげで先ほど消費されたMPが少し回復した。
「それで、スキルだったな……【幻式】」
言葉に、世界が呼応する。
今度は色とりどりな火ではなく、シャボン玉のようなものがふわふわ周りにたくさん現れた。
スキルレベルが低すぎて、まだ内容は指定できないようだ。戦闘とかじゃ役にたたないだろうな。キラキラ輝きながら浮くそれらは、俺にとっては今更騒ぐようなもの。だが、子供にとってはそうではないらしい。一度口をあんぐりと開けてから、すごい!すごい!と先ほどよりもっともっと目を輝かせ手を伸ばす。名前の通り幻なので実際に触ることは出来ないが、それでも子供の笑みは止まらない。
そんな彼を横目に、俺はこれからひたすらクッキーを食べる作業だ。サクリ、と軽い音と共に、口内にバターの素朴な味が広がった。
『【幻式】のレベルが上昇しました』
『【幻式】のレベルが上昇しました』
『【幻式】のレベルが上昇しました』
──あれからゲーム内の時間でだが、きっと5時間は【幻式】を使わされ続けた(ゲーム内の時間は、現実より早く感じ、実際に進む特殊な技術が使われているのだとか。だからたぶん、リアルには経ってない)。使わされた、は言葉が悪いか……最終的に決めたのは己自身だ。
その【幻式】で出したものはシャボン玉以外にも最初の火や、花、蝶々に鳥、虹みたいなものから天使の羽っぽいものまで色々と多岐にわたる。
これだけ使って、3つしかスキルレベルが上がらないのってマジ????いつになったら【式】の上位スキルにあたる【術】や、最上位の【法】にいけるのだろうか(このゲームでは魔法っぽいものは、この順で強くなる法則らしい)。一応レベルがあがったためか、出すもののふんわりとした指定や持続時間の延長など、少しは向上したが、。
でもまだまだ。5時間前と同じく、戦闘で使えるレベルからは程遠い。ソロで取得するには外れだったかもしれない、と今気づいた。もう多くのSPを消費した後だし、後には引けないんだれど。うーん。
ただこの耐久で正直、途中で精神が無事お亡くなりになるかと思った。単純作業をすること自体は決して嫌いじゃないけれど、それでもちょっと限界はある。
何度かもう止めると言いそうになった。がしかし、目を輝かせる子供には勝てない。すべての子供は幸せであるべき。独身ゆえに最近よく思う。だからこそ、どれだけ見た目をきつそうにしても、クールなRPを心掛けたくても……中身が俺な以上断れるわけがなかったのだ。
まぁ、どんなゲームでもレベリングなんてこんなもん。実際に、序盤のうちでこれだけMPの消費量の激しいスキルのレベルが上がったのは、ここはゲームらしく無限に出てくるお菓子のおかげだ。おかげでEP切れ……つまり腹ペコ状態になることもなかったのだから。俺の知っている事前情報によるとEPがなくなってしまうと能力低下、最悪の状態まで行くと死亡してしまうらしいので、MP共々切らすことにならなくて何より。
クエストは結局、父親が家に戻ってきてようやく終わりとなった。帰ってこなかったら、さらに延長になってたかも。親に諭され、しょんぼり肩を落とし、ごめんなさいと謝る子供へそっと手を振る。
両親はこれほど長く相手をしていたことを、大層に感謝しつつ謝ってきた。この子供の妹が大変に腕白らしくずっと泣いていたから、母親がこの状態に気づけなかったのは無理もないだろうと思うし、そこを責めるつもりはない。赤子は泣くのが仕事だし。もう少し、この子にも気をかけてあげてやって欲しいが──まぁそこは分かってるだろう。
父親が、彼の頭をガシガシ撫でているのを見てほっとした。こちらとしてもただでレベリングが出来たと思えば、めっちゃくちゃ疲れはしたが儲けもんだし。
別れ際には子供に「また来てね?ぜったいだからね、やくそくだからね!!」と涙ながらに言われ(始まりのことを思い出し、少し肝が冷えた)、両親からもあなたならいくらでも来て欲しいとお話を頂き。うん、親公認のレベリングポイントをゲットだ。
親子に見送られ家から出ると目の前にポップが浮かぶ。
―クエスト≪●●●●●のお願い≫をクリアしました。
クリア報酬:1,000M、友好NPCハクト、アップルパイ×3―
おう……1,000Mどこから来た??(Mってのはこの世界のお金の単位だ。マニーってことなのか?)確認したら、いつの間にか増えていた。そこはゲームらしいというかなんというか。
アップルパイは帰り際に母親がくれた。クッキーはちょっと見たくなくなっていたので助かる。効果はHPとMPの同時回復。けっこう優秀なものだが、戦闘の片手間に食べることは難しそうだ。EP対策も兼ねて適当なときに食べよう。
あと友好NPCというのはさっきゲーム内で説明文が出たのだが、そのまんまだった。ある程度NPCと仲良くなるなど、一定条件を満たすと『友好』枠に入るらしい。すると戦闘に呼び出したり、一般のプレイヤー同士のようにメールが打てるようになるらしい。ただし、すべての友好NPCを戦闘に呼び出せるわけじゃなくて……うんたらかんたら。何事も例外はありますよ、ということのようだ。さっきの子供とか、戦闘に出したらだめだろう。ちなみに、相手からもメールでの呼び出しをされることもあるらしい。断ることもできるが、そこは平等ってわけだ。
ところで少し気になることがある。あの子供の名前、レメ?……だったか。とにかく、名前が入るには長すぎるあのブランク。あの5文字の正体は、この系列クエストを進めればいつか明らかになるのだろうか。いつか分かるといいな。
さて、すっかり日も暮れてしまった。
夜の戦闘が危ないのはこのゲームでも同じらしい。いったんログアウトをして、小休憩をしてこよう。
攻略まとめページより抜粋
このゲームはサーバー毎にNPCの名前や見た目、性別、年齢等が変更されている。
NPCとの接触は様々なクエストへのきっかけとなるため、いかに強NPCや主要NPCを探すかが攻略組としては鍵になるだろう。
特にメインクエストに関連するNPCや十の英雄の子孫NPC等は接触をすることで特殊クエスト、それに伴う特殊な報酬を入手できることも多く、仲間にしても強力なため、積極的に接触を図るべきである。




