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2話:スキル【幻式】

チュートリアルは職業:魔法使いを選び、冒険者登録だけをしてそのあとはすっ飛ばし。事前に動画で勉強したし、待ちきれなかったのだ。うーん、物語の主人公だったら、しっかりやったから分かったこと!みたいな何かでチートしていくとこ。……でもまぁ?もし分からないことが出てくれば調べれば良いし??ね??


もし種族を人間以外にするのならば、ここの段階でキャラの再調整をしなければいけないらしいが、俺はこのままでいくので関係ない。……エルフもいいかもと少し思っていたのだが、この段階が面倒くさくなりやめたのだ。



結局チュートリアル終了時点での俺のステータスは以下のようになった。



カル・アーデスタ Lv.1

冒険者ランク G

職業 魔法使い

称号

──

スキル(15SP)

──


名前は適当に。俺のセンスのままにつけたが、カッコつけすぎだろうか。カルだけでは重複してしまっていたため、苗字をつけてごまかし。冒険者ランクは初めてすらいないので、もちろん最低ランクのG。


なおスキルは新規向けの解説曰く、本来はチュートリアルの戦闘で取得方法等を説明され、その時に振る人が多いらしい。が、すっ飛ばしたのでまだ振れていない。よくあるように、SPとやらを必要なポイント分振ればいいらしいことは雰囲気で分かったため、あとでじっくり考える予定だ。とは言っても魔法使いであることは確かなのだから、何か1つくらいそういうスキルはとっておいても良かったかもしれない。まぁいいや、後で考えよう。





チュートリアルが終わると俺はまばゆい光に包まれ、気が付くと時計台のある広場にいた。足の裏に感じる固い石畳の感触、広場の周りの屋台から漂う美味しそうな香り。数多のプレイヤーであふれる広場。ざわざわと聞こえる音も、集中すれば聞き分けができる。フルダイブ型ってやばい。


獣人、エルフ、ドワーフ、人間が辺りを行きかう。その姿はプレイヤーが思い思いに作り上げたからか、最大身長から最大幅、最小身長、老人に美女、ロリにショタと数多数多。髪の色も含めて鮮やかで目に痛いほどだ。

この中のどこかにNPCも混じっているのかもしれないと思うと心が躍る。もしかしたら、プレイヤーが初期に選べる人間・エルフ・ドワーフ・獣人の4種族以外も混じっているのかも。

建物は中世のヨーロッパをイメージしたのか、とても美しい木とレンガ造りの家々が立ち並んでいた。その前に広がる俗っぽい屋台となんだか不釣りあいだとも感じるが、これはこれで一種の趣がある。



さて、今の自分を広場の隅の鏡っぽい何かに映してみれば、そこには近づきがたさを感じるクール系のイケメンの姿。いいね、眼鏡もばっちり似合っている。だけど、初期装備のぼろぼろローブがあまりに似合わない。嫌味っぽさのあるインテリ眼鏡風のキャラが、こんなぼろぼろのローブ装備はなさすぎる。これはさっさと買い換えないと。初期投資は武器と防具だな。


あと、思わずウゲッとなった今の表情も似合わない。こういうキャラは無表情か、シニカルに嘲笑するのが似合うのだから、これはいただけない。俺の内心の感情と、キャラの顔面が連動しないようにメニュー画面でチェックを入れる。これ大事、RPするならすごく重要。中の俺とこのキャラの性格がかなり違う自覚は、勿論すでにめっちゃくちゃある。さらっと嘲笑ができるような器用さは俺にはまずないため、無表情キャラへ全振りだ。したところで、キャラ崩壊がいつ起こるのか、その戦いがここから始まるだろうけど。


さて、軽く調整もできたし、ゲーム開始御礼系のログインボーナスも受け取って、この軍資金をもとにいざ買い物!と意気揚々。俺は方向転換して歩きだそうとして。

その瞬間、

何かが足に思いっきりぶつかった感覚。そしてそれを俺は、軽くだが──蹴飛ばしてしまった。


「うわぁっ!!!」

どすんと軽い音と、子供のかん高い声が響く。

内心、冷汗が止まらない。もしかして今、子供を蹴とばしたりでもした……?


ギギギという音が出そうなほど、恐る恐る声がした方を向くと、そこには地面に倒れた男の子が一人。茶髪の平凡な容姿をしている10歳前後の子供。武器も持たず、プレイヤーの初期装備とはデザインの違う、普通の布の服を身に着けているから、おそらくただの一般NPCだ。その子は自分に何が起こったのかよくわかっておらず、だが今にも泣きだしそう。


まずい。これはまずい。

このゲーム、色々と精巧に出来ており、中には通報というシステムもあるのだとか。初心者向けの動画でも普通のゲームとは違うから、気をつけろ!!と注意喚起がされていた。全世界へ大々的に売っているゲームなだけあって、子供へのなんらかの行為は取り締まりがかなり厳しいらしい。それがなくても、子供を相手に何かする気なんて到底なかったけれど。まさか、初っ端からこうなるとは。


子供に気付かずに蹴って泣かした……が、流石にとんでもなく重い刑になるとは思わない。が、こんなこところで犯罪歴が付くのも、時間を無駄に牢屋で過ごすのもまっぴら御免である。あと普通に、そもそも子供を泣かせるような目にも合わせたくない!!……ちょっとこれは手遅れそうだけど。

慌てて子供に駆け寄った。大丈夫、今ならまだ周りの騒ぎに飲まれてほとんど誰も気づいてない。


「……すまない、怪我はないか?」

声をかけるも、そもそも子供に接することなんて殆どなかったものだから、どう接すればいいかわからない。そこ、コミュ障とか言うな!!


とりあえず助け起こ、いや触っていいのか??今の時代、いろいろと難しい。SNSで見たし。だが怪我をしている可能性もあるので、今だけ許して欲しい。さっと確認してみた限りでは大丈夫そう、だが泣きそうな表情は変わらない。子供らしい大きな鳶色の目が、うるうると揺れている。幸い、どこかから血を流しているということはないのだが……やっぱりそういうものじゃないのだろう。子供を育てたことはないが、その程度の想像はできなくもない。


慌てて辺りを見回すが、もちろん都合よく子供の気を逸らせそうなものなど落ちてはいない。なりふりなど、構っちゃいられなかった。


フルフル震えだす子供の手の平を意味もなくさすりつつ、もう片方の手でメニューを表示しスキル欄を漁る。緊急事態なのだ。何か良さそうなスキル……【幻式】?

さっさと飛ばしたから見落としただけかもしれないが、【炎式】や【風式】、【集中】等に並んで、チュートリアルの時には見た記憶がないスキルがある。名前的にたぶん、幻覚とかを見せられるようなやつか。これはうまいこといけば、子供の気を逸らせるかもしれない。必要SPは10。かなり痛いが、何かレアっぽそうだし、子供はガチで泣き出す寸前だしと慌てて取得。


Lv.1の一番簡単なものの発動方法は【幻式】と唱えること。発動するだけでもMPもかなり損失するらしいが、そこは諦めよう。MPは回復するなんとかなる!!


「泣くな。今からお……私が面白いものを見せてやる。【幻式】」


だがRPだけは、どんな時でも忘れるべからず。とはいえ子供に嫌味を吐く気になんてならないけど。そもそも嫌味なんか言うの、頭も良くないからたいしてできないだろうし。そっち側のRPは今この瞬間に諦めた。


【幻式】、そう俺が唱えると、俺と子供の周りに突然火の玉が現れる。それだけなら単純に怖いだけが、その火は黄色だったり緑色だったり、青色だったりと幼いころ理科の実験で見たあの驚きの色をしていた。子供のためのものだったはずが、俺自身の心までもが躍る。

肝心の泣きだしそうになっていた子供もすっかり目を奪われ、「わぁ~!!」と目をキラキラさせた。よかった、これならセーフ、範囲扱いも避けられたかな。子供にとっても悪い思い出ではなく、楽しかった!ものとして記憶されて……くれ!ふわりふわりと漂う小さな火の玉に囲まれ、子供と共に俺も小さく息をついた。




「悪かったな、ぶつかってしまって」

あっという間のMP切れで【幻式】が消えてしまい、俺は立ち上がりながら子供に改めて謝る。すると俺の顔面は結構キツイ感じがするだろうに、子供はきちんと俺と目をあわせ

「ぼくのほうこそ、えっと……ちゃんと前見てなくて、ごめんなさい!」

なんて、しっかり謝ってきた。ちゃんと教育が行き届いている。偉い子だ。


変わったスキルも見つけられたし、これは結果的にはいいイベントだったな。あとはレアスキルかもしれないこれで、他プレイヤーに絡まれたら嫌なので逃亡するのみ。

子供の謝罪に問題ないと返し、歩きだそうとする。

のだが、


「…‥なんだ?」

子供が、俺の不本意なぼろローブの裾を思いっきりつかんでいる。

さっきは気づかなかったが、この子供やっぱりまだけっこう怯えてないか?俺の裾をつかむ手は震えてるし、表情にも微かな怯えを感じる。このもともとのキツイ顔面と、拍車をかける動かない表情が原因かもしれない。しかしこれはソロだからこそ大事にしたいRP、あまり譲れない。──子供より大切にするべきものなのか、と言われると少々考えたいけれど。


「あの、お兄さん。さっきの、もう一度……やってよ!」

「………いや、さっきのはもう、」

怯えているくせに、もう一度を要求するガッツはあるらしい子供。だがしかし、俺はもうMP切れで出来ない、と断ろうとしたとき──

目の前に突然ポップが浮かぶ。


―クエスト≪●●●●●のお願い≫を受理できます。受理しますか? YES/NO ―


ク、クエスト……?え、まさかこの子は特殊NPC?

目の前の子供を見る。どう考えてもそこらで走り回っている子供らと変わらない、平凡な見た目をしているが……


すっと一度、深呼吸。



―クエスト≪●●●●●のお願い≫を受理しました。破棄するには対象NPCに申告してください。―


「……いや、見せてやってもいい。だが私は今MPがないから、後で回復させてからでも良いか?」

「ほんと!?なら、ぼくのお家に来てよ!!」

依頼を受けた途端、明るくなる子供の表情。ぴょんぴょんその場で飛び跳ねたかと思うと、食い気味に顔を寄せてきて、ついさっきまでの怯えはどこにいったのやら──けっこう現金な性格だな。

「MPの回復ができるおかしが家にあるから、それをいっしょに食べようよ!」

「……」


菓子……は別に苦手ではないが、初対面で子供に誘われ家に上がるのはどうなのだろう。これもこれで、別の通報案件ではないだろうか。


「……ああ、今から行こうか」

クエストだし、向こうから誘ってきたんだし、と考えないことにした。






ゲーム攻略まとめページより

【幻式】

獲得方法:チュートリアルでスキルを取得しない/プレイヤーのレベルが20を超える

消費SP:消費SP10

取得おすすめ度:☆☆☆☆★

【幻術】・【幻法】の下位スキル。幻覚をみせることができるスキルだが、上位スキルを獲得するまでスキルレベルを上げていっても直接的な攻撃手段を一切得られないため、取得するならば固定パーティーを組んでいた方がいい。【幻式】のうちの役割はMP依存の回避タンクとなるため、メインスキルとするにはそれほど相応しくなく、消費SPも重いため序盤の取得はおすすめしない。

ネタとしては映えるスキルが使えるようになるため、後々に取得するのはおすすめ。


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