22話:初めての旅路
どこからか鳴る陽気なBGMと共に、草原をのんびり歩いていく。
子供たちに合わせているから、進みはそこそこ遅い。ちょくちょく、レメの魔物観察でも止まるし。
俺もソーリャ監修の元、調合のための素材集めをしていた。せっかく覚えたんだし、使わなかったら勿体無いよ!と乗せられた結果である。
これがプロト草、あれはアラギ石とか……うーん、絶対に覚えられない。ただの雑草にしか見えない緑の草と、その辺を転がってそうな苔むした小石を前に頭を抱える。【鑑定】スキルを諦めて取得。もともと【調合】関係なしに欲しかったものだし、良い機会だ。
なおスキルレベルが低すぎて、まだそれがインタラクトができる対象かどうかの見極めしかできない模様。インタラクトしてみたらただの雑草だったり、他の効果のある草、毒草なんてことばかり。困る、まだ何の役にも立たぬ。だが未来に期待し、ひたすら今は【鑑定】のレベル上げをするしかない。はい、これはインタラクトできる。
ん?なに??葉の葉脈が平行になってて、どちらかというと根っこが赤黒いやつがプロト草?葉脈とか、学生の頃に勉強した以来だな。葉脈が斜めに伸びてて、根が赤いやつのだと別の毒草になんだとさ。そっちは接種すると腹痛になるらしい。
視力検査か?グラスをそっと掛け直す。群生してても、プロト草と毒草が混ざってることがよくあるのだとか。しっかり一本一本を見てねとか、難易度が高いな。
食べれる木の実とかをサラッと回収してるウカの横で、俺はそっと絶望に打ちひしがれていた。まぁウカは冒険者の大先輩だし、仕方ない。なのにたまに参加するだけのヨーリアにも、さらっと惨敗。あの子【鑑定】はまだ持っていないはずなのに、なんでもない顔で毒草は避け、的確にプロト草を採取してる。こんなに小さな子だって軽々できているのに、俺は、俺は……。
頑張ろうね、ほんと。いつか一目見た瞬間になんでもわかる、インテリなクール男子になろう。
と、こんな感じなので本当に進みは遅いのだ。
ただ次の町ツヴァイとの間は、どうやらそんなに遠くないらしいので、心配はしていない。ゲーム的な理由を考えるなら、プレイヤーの初めての旅路になるのだし、そら早めに目的地に辿り着く設計にするよね。
あとたしかスキル【騎獣】が開放されるのが、次の町ツヴァイからなのだ。特定の魔物に使うと彼らに乗ることができ、素早く移動できるようになる、わりと色んなゲームで見かけるやつ。これは漏れなく、このゲームにも実装されている。
だからアインツからの道は短めなのだ。
だって、プレイヤーの選べる初期種族にはドワーフとかもいる。耐久力や器用さが高い種族だが、背丈は子供ほどで歩みが遅い。あとプレイヤーが他の種族でも子供キャラも作れる設計になっている以上、【騎獣】は必須だ。俺も旅メンツを鑑みれば、早めにゲットしたいとこ。
こんな白髪メガネクール男子が黒い馬とかに乗ってたら、カッコよくないか??
「カルくん、今のは毒草ね」
──夢を見る前にまず、草を見分けることくらいできるようになろう。差し出してくる小さな手のひらにそうっと毒草を乗せ、俺は小さくため息をついた。
現実ならば、こんな中世の世界での町から町の移動なんて一大行事だ。きっと何時間や何日もかけ、えんやこらするのだろう。だから宿場町なんてもんが発達したのだし。
だがこの世界はゲームなので、そんな長くなることはない。大人が歩けば半刻くらい、子供やドワーフでも1時間くらいで次の町へ辿り着く。
ただこんなに寄り道して、しかもスキルを使っていればEP切れにもなるもの。俺の腹が間抜けに鳴るような、クールイケメンとしては決して許せぬ屈辱の前に小休憩。
たまたま、ちょうど綺麗な湖畔を望める場所があったのだ。草原の中に現れた湖は、水底の小石まではっきり分かるほどの透き通った水をたたえてる。水面は風に揺れていた。さり気ない所にまで、映像美が凄すぎる。
試しにその辺にあった小石を投げ入れると、ぽちゃんと合わせて波紋が広がるのだから恐ろしや。
俺たちはそんな湖の前へと腰をおろす。水気を含みしなっとした草の上に座り、ウカがフライパンを取り出した。干し肉やらフランスパンやらも用意して準備は万端。少年はスキルで火を起こした。
俺の本をまた借りてったソーリャや、ずうっと魔物図鑑に齧り付いたままのレメは置いておいて、ヨーリアと俺は二人。手のひらサイズのナイフで手際よく、パンや肉を切り分けるウカの手元を覗き込む。
既にもう美味しそう。
「……なにか、余も手伝えるか?」
「そうだなぁ。なら、この香草を洗ってきてくれるかい?」
彼がついさっき摘んでいたヤツだ。うむ、と受け取って少年は湖の側まで駆けていった。彼は最近、お手伝いがブームだ。料理、掃除、仕事のお手伝いなんでもやる。【料理】・【採取】とあっという間にスキルを獲得していく様は、俺の感覚を狂わせた。おかしい、ゲーム説明文にはNPCは獲得しづらいと書いてあるのに。ただの天才じゃないか。我が事のように誇らしい。
なお俺も何かと申し出たところ、これ以上は特にないかな。と断られてしまっている。情けない大人一丁上がり!あ、処刑台はあちらですか?って気持ち。
じゅう、と少し厚めの肉が白い煙をあげて焼けていく。何度見ても凄い。どんな演算処理をやってれば、ゲーム内でしっかり料理できるんだ?決まった動き、加工をするんじゃなくて、その時のナイフの入れ方一つできちんと変わる仕様が恐ろしい。パンも隣で焼いて、香ばしい香りが辺りに漂う。
「なぜ、干し肉なんだ?」
「ん?どういう意味だい?」
やることが無さすぎてウカに話しかける。なんとこれ、自家製らしい。凄すぎる。ただこの世界、アイテムボックスがあるので持ち運びに困ることはあまりないし、モノも腐ることもない。だから要らない気もするんだけどなぁ。
「手間もかかるだろう」
「ああ、そういうお話か。よく考えたことはなかったけれど……たぶん、趣味なんだと思うよ?」
彼は目線を宙へと投げた。
「……なにも考えないで済むからね」
思わず沈黙。水分が抜けてる分、同じ量でも栄養が取れて回復量も上がるしね?と少年はフードの下で笑った。
「でも今は、料理中でも考えたいことがいっぱいあるよ。例えば、カルさんが好きなものとか……今はもちろん知りたいからね」
頬を染めて、ふふふと肉をひっくり返す。小さく調子はずれな鼻歌まで歌っていた。
うん、なんだろう……本当に、本当に。もっと何か、俺にできることがあれば良いのだけれど。
「……食べやすいものなら、なんでも好きだ」
「そうなのかい?なら、このサンドイッチは正解だったわけだ」
食べるかい?と、こんがり焼いた肉を差し出される。
一口、口に入れてみればアツアツな肉汁が口の中でパチンと弾けた。
水辺から、ヨーリアが戻ってくる。そろそろ焼き上がりそうな肉と合わせ、パンに乗せて食べればきっと活力も湧いてくるな違いない。そろそろ本当に、EP切れを示すマーカーがつきそうだ。能力低下はごめんこうむるし、早めに食にありつきたいところ。
手を上げて彼を出迎えようとして、
バチン!!!
と。突如、世界がセピア色に染まった。
風の音、草が擦れる音、虫の音など、フィールド音も完全に止む。
ヨーリアが走って来る姿のまま、ピタリと固まっていた。隣のウカも焼いていたパンを片手に持ちながら、背後をチラリと伺った姿勢のまま固まっている。俺も目線を僅かに動かせるだけで、ほとんど動けない。
何事!?ゲームバグった!?
動揺してると、目の前に文字が浮かぶ。
ーイベント戦闘《●●の●との邂逅》の開始要件を満たしました。開始しますか? YES/NO ー
突然の選択肢!!今まで戦闘なんてシームレスにしかはじまなかったのに、なにが起きるっていうんだ。選択のために現在、体感時間を引き伸ばしてるらしい。だから周囲が固まってるように見えるのか。人体への負荷を考慮して、二分の間に選択しなければ自動的にNOを選んだ処理で進むのだとか。こっわ!
にしてもイベント戦闘?俺はまだまだ弱いし、強敵との戦いは避けたいところ。だが、選ばなかったらどうなるんだ。
──まさか。
今まさに、湖の側から駆け寄って来る少年を見やる。いかにも背後から何か現れそうなシチュエーション。このまま彼を襲うとか、いかにもあり得そうだ。何か潜んでいるようには見えなかったが、ゲームならあるあるな光景。
もし選ばなかったら、あの子は黙って攫われてしまうとしたら?
選ばない選択肢は無くなった。
最悪、死ぬことができる俺が盾になればいいはずだ、きっと。だから武器を手元に用意……って、ソーリャに貸していたんだった!!
時が進み出したら、そこもすぐに回収しないと。
まだEPを回復できていないところは痛いが、せっかく町を出れたんだ。こんなところで、すぐ終わるわけにはいかない。序盤なのだし、敵もそんなに凶悪でない可能性に賭けて突き進め。
―イベント戦闘《●●の●との邂逅》を開始します。三秒後に時が通常のものに戻ります。―
心の中で深呼吸。よし、やるぞ。
バチン!!!
と、再び音が鳴る。
世界に色と音が戻った。瞬間、俺は幼子に向かって走り出す。だが気付く。
"こっちじゃない"
俺たちの足元の草原が、みるみるうちに茶色く枯れ果てた。その上に描かれるは、巨大な魔法陣。
ヨーリアを抱え込んで、無理やり体をひねる。勢いで、彼が手放してしまった香草が空を舞った。隙間から覗くのはある光景。
ウカが腰に差した刀と共に、陣の中央へ向かって駆け寄って行き。そのまさしく中央には、本が何冊か積み上がっていた。たぶん、ソーリャの。その彼も、少し離れたところで身の丈ほどある杖を両手で持ち、中央へと突きつけていた。
彼らは気付いている。何かがそこに現れると。
複雑な幾何学模様を描く魔法陣の起点には、一人の少年がいた。
本を覗き込んだ姿勢のまま驚き、固まる子供の姿が。
「──レメッ!!」
大声にビクリと跳ねた彼を、ソーリャのなにかしらのスキルがその場から吹き飛ばす。勢いよく飛んだ小さな体は、ウカが手を伸ばし回収した。
直後、少年が立っていた地面から見上げるほどの巨木が生えた。ゴツゴツとした、真っ白な葉の一枚も生えていない大きな枯れ木。
幹は俺たちが手を繋いでくるっと囲むことすらできない太さ、枝の一本すら俺と同じくらいに太くてでかい。現実に存在すれば、樹齢はきっと数百年なんてレベルだろう。
そんな木はぐんぐんと伸びて行き、まさしく天をつく大きさとなる。
その上に、いつの間にか"何か"がいた。
太ましい枝に巻きつく、長大な姿。真っ白な鱗の一枚一枚が、俺の顔より多分でかい。額には血のように真っ赤な宝石が、口元からは鋭い牙がのぞく。
「ヘビ……」
腕に抱えた幼子はポツリと呟いた。
魔法陣が消える。
枯れ果てた大地の上、俺たちの前には大きな枯れ木。そこに全長10メートルはありそうな巨大な蛇の魔物が、突如この場へ現れたのだ。
「愚かなヒトの子がまた生まれたのか」
ソレは囁き、笑った。
初心者向け攻略動画【魔物と仲良くなりた〜い!方法は???】より抜粋
「こ〜んな可愛くてカッコいい魔物たちと、一緒に旅をする方法はいくつかあります!
1つ目、ペットにする。
2番目の町ツヴァイに到達して、レベル5以上になると、さっき説明した【騎獣】スキルと開放される要素ですね。
魔物の好物をあげ続けていると、確率で魔物が仲間になってくれることがあります。戦闘には出せないし、【騎獣】も使えないけれど、1番オーソドックスな方法です。懐いてくれると、とっても可愛いくて堪らない存在になります!
二つ目、魔物使いになって【導獣】で仲間にする。
いろんな方法で転職条件は満たせるけど、オーソドックスなのはレベル15到達ですね。戦闘に、【騎獣】にと大活躍してくれるし、懐いてもくれるので、両特って感じですね!オススメです!
ただNPCと同じくHPが0になってしまうと、ロストしてしまいますので注意です。
三つ目、【召喚】を獲得して召喚石で呼び出す。
獲得するには魔物図鑑を1ページ完成させる、が1番オススメです。
これは少し特殊で、戦闘も【騎獣】も使えるけれど、呼び出す度に違う個体が現れる仕様となります。だから懐くことのステータスボーナスとかはない代わりに、仮にHPが0になっても、また呼び出すことができますね。あと【導獣】と違って、【召喚】をしている間中MPを消費してしまうから、主に戦闘で活躍してもらいましょう!
四つ目、町で伝魔を借りる。
お金を出せば町で借りられる、次の町に向かうために貸し出されてる調教された魔物ですね。
ちょっと趣旨とは変わってしまいますが、こんな方法もあります。戦闘に参加はできないですが、もちろん【騎獣】は使えますよ。
主な方法はこの辺りとなります。
他にも【ネクロマンシー】を使ったり、ブリーダーとなって繁殖させる方法もありますが、皆さんの目的に合わせて選びましょう。
分かりやすいように、表でまとめてみました!こちらです。」




