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俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-1節:ブリア王国編-始まりの町アインツ
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18話:とある天才の誕生

アインツの町への門ををくぐると、俺たちはソーリャの本屋を目指し歩いていく。空は今日も明るく良い天気だ。大通りを駆け抜ける爽やかな風が、香ばしいパンの香りを運んでくる。

うーん、クッキーをあれだけ腹に詰め込んでなければ食べたのにな。美味しそうなホットサンドの屋台を通過。


石畳を進んで行き、この町でいちばんの賑わいを示す、広場の方へと向かう。初期リスポーン位置でもあったこの場所は、どんな時間帯でも盛況だ。ガヤガヤと人通りは激しく、路肩には多くの店が立ち並んでいる。だけどおかしいな。"アイツ"は、いつもはこの辺りにいるんだが。

レメと一緒にきょろりと辺りを見回していると、とんとんとウカに肩を叩かれた。振り向いてみると、広場の端の方を指している。

その先に彼はいた。


異国情緒が溢れる、ゆったりとした豪奢な服を身に纏う褐色肌のエルフの男。丸いカラーグラスをかけ、軽くカールした深緑の髪を弄りながらへらりと笑う様は、どう見ても怪しさ万点だ。偏見で悪いが、ここにプラスして糸目だし。とても、普通は話しかけたりなんてしない相手だろう。

近付き彼の前にしゃがみこむと、その笑みはさらに深くなる。


「おはようさん。今日は何か買ぉていくん?」

「新聞を」

「兄さんソレばっかやな。最初みたいに他のも買ぉてや。このアメジストっぽい石とかどや?」

「アメジストですらないのか……」


広げた絨毯の上に次々と商品を並べる男は、ほなこれはどない?とプレゼンを繰り返す。自立していそうなウカはまだしも、レメにもちょっかいを出してくるので慌てて止めた。教育に悪い。


「あかんの?きっとこの子かて、冒険したいやろうに」

コレとかどや?と子供用の小さなブーツを見せられる。足の疲れを軽減する、特殊な効果付きなんだそう。旅もバンバン行けるで、なんて。

──う、それを言われると。


実際、彼の口からも度々出てる言葉でもあった。とりあえず街のすぐ外だけ──なんて今は誤魔化してるが。レメの本当の願い、この世界にあるもっとたくさんの魔法が見たい、を叶えるには旅をするのが一番であろうから。

「カルお兄さん……えっと、ぼくだいじょうぶだから。まずは、その……【召喚式】だもん!」

健気な子供の言葉。本当はこんな心に正直でないことなんて、勿論言わせたくないのだが……


「──今は、新聞だけでいい。お前の文は面白いから」

「褒めてくれんのは嬉しいんやけどね……」

男はひょいとすぐに引き下がる。彼も分かっているのだろう。俺が決定する気なんてないことを。

親との仲が良好で、よほど状況が差し迫っていないなら。極力、話し合いをしていくべきだと思ってる甘さを。大切にできるというなら、大切にするべきだ。だが結局そのために子供の言葉に甘えるなんて、本当に恥ずかしい。



「……どうせ、コレだけ買われても利益が出る額だろお前の値付けは」

話を逸らす情けない俺に、バレたかと笑う青年。男の名前はテッド。ゲーム内二日目に、俺が諸々の装備を買わせてもらった商人だった。


今振り返ると、彼のとこで装備を買って、ソーリャを紹介してもらったことが、俺の今のゲーム体験の殆ど全ての始まりな気がする。

ソーリャは勿論。レメの召喚士への道はソーリャが教えたし、教えてもらった本屋に行く道の道中にいたのがウカで、王子らは語るに及ばず。


だから、実はめちゃくちゃ重要人物なのだ。

二日目の俺、よくやった。置いてあった装備しか目に入っておらず、後から商人を認識してビビっていたのはココだけの秘密である。


差し出してくる手のひらに500M置くと、どうもぉと代わりに1枚の紙っぺらが置かれた。現実での新聞と比較すると、たった一枚なんてかなり粗末なものだ。だがコレが全て彼1人で情報を集め、裏を取り、手書きで毎度作られたものと知ると、そんな思いは吹き飛ぶもの。懐へ丁寧に仕舞う。


カッコつけるための"本"はもう手に入れてるのに。なぜわざわざ、新しく読み物を手に入れなきゃならないのか。なんて思う人もいるだろう。

うん、その本『廻る知恵嗤う蛇』が問題なのだ。読み方は今まさに教わっているところだが、今もまだメモ帳を片手しないと全く読めないのだから。

これも解読みたいで、一種のカッコ良さはあるだろう。だが頭脳明晰クール男子としては、すらすら本を読んでいたいところ。新しく別の本を買うことも考えたが、ビビッとくるものはいまだ見つからず。


結果、新聞に行きついたというわけだ。読んでるだけでカッコいい、できる大人のお供である。もともとゲーム内の情報を集めて考察、なんてのも嫌いじゃなかったし。情勢に敏感な男ってのも、クール男子としては悪くないだろう。


「もう行くん?」

立ち上がった俺を見て、男は惜しそうな声を出す。ああと肯定を返せば、悲しげにため息をつき商品をポイポイと収納していった。

「お前こそ、今日はもう撤収するのか」

「んー、せやな。兄さんらはこっから本屋さんなん?」

それにも肯定を返す。しかし日も登りきらないうちに店仕舞いなんて、まるで本当は開ける気は無かったのに、俺のためだけに店を開いてくれてたみたいじゃないか。そこまで好感度を稼いだ覚えはないから、多分違うんだろうけど。友好NPCですらないし。


「……兄さん、いつも買うてくれるお得意さんやからな。せやから、オレからひとつアドバイスや」

ふと、彼が表情から笑顔を消した。日が雲に覆われ、世界が陰る。「兄さん兄さん」とちょいちょい手で招かれ、屈んで顔を近付けると、耳元で男はくすりと声だけで笑う。

そうして、


「──商人はな、莫大なリターンが見込めんモノに入れ上げたりせんよ。それがどんなに、商売っ気なさそうな人でもな」

兄さん人がええみたいやし、気ぃつけや?と、男は俺にだけ聞こえる声で囁いたのだ。


「……紹介したのはお前だろう」

「紹介したからこそや」

そんなことを言われたって、今更いきなり関係を切るだなんて考えられなかった。彼と別れるのは、俺がこの町を出て冒険に出る時だろう。

──それは、あまり遠くはない日になるだろうが。


「なら、お前と同じくらいの信用にしておくさ」

太陽が、また世界に現れる。腰を上げ、彼から一歩ほど距離を取ると男は既にへらっと笑っていた。

「……そうしときや」

だが日差しに照らされた男の顔は、どこか冷たさを孕んでいたのだった。



あんな不穏な話をされたって、戻る場所は変わらない。あの商人の言うことだけが、必ずしも全てというわけでもないし。

それに俺が返せるリターンってのも、まるで思いつかない。むしろあるなら、溜まり溜まったこの恩を返させて欲しいくらいだ。


だが──以前、商人が教えてくれた汚い小道を抜け本屋の前まで辿り着き、戸を叩こうとする手には迷いが生じる。

「カルさん、どうしたの?」

ウカは不思議そう。俺の顔を下から覗き込んでくる。

「いや……」

トントン、と軽く戸を叩くと中から、「空いてるよ〜」と家主の声が聞こえてくる。レメがぐいっと扉を開けるので俺も続いた。


「……何でもない」

小さく首を振る。

どうしたって、この後の方針は変わらないのだから。ならば子供に、余計な心労なんてかける必要なんてないだろう。






扉の中は、相変わらず本の山だ。天井高くまで書籍が積み上げられている。今のところ客は、俺たち以外見たことない。初対面の時の、出ていけと言わんばかりのあの態度を思えば当然か。だがたまに本が動いている気がするので、俺たちが出かけてる間に多少は来ているのかもしれない。


そんな本の山に囲まれた先にあるカウンターに、小さな姿が二つ見えた。ソーリャとヨーリアだ。2人して頭を突き合わせ、何か作業をしている。

「そうそう。糸を間に潜らせて……うん、うまいね!」

近づいてみると、何やらヨーリアが本に穴を開け、麻糸を通していた。隣でソーリャはアレコレ指示を出している。何だコレ。


「おかえり〜。今ね、ヨーリアくんに本に糸を綴じ直してもらってるの」

「……」

幼子の方は真剣そのもので、こちらには一切の反応をしない。鮮やかな赤い目は真剣そのもの。紅葉のような小さな手で、慎重に糸を結んでいる。


「本の修復ってことか?」

「そうそう。ヒマそうにしてたからさ、少しやってみてもらったんだ」

ほっといたら小部屋の中に根っこ生やして、一生出てこなさそうだったから、と彼は続ける。

たしかに。今まさに細心の注意を払って蝶結びに挑戦してるこの子は、声さえかければ外に出てくる。だがそれ以外では、恐ろしいほど部屋にこもっていた。

王城にいた頃は部屋の外は皆敵だったから、なんて理由でないことを祈るばかりだ。ただのインドア派であってくれ、頼む。


「──できた」

ヨーリアがぴょいと本を持ち上げた。ちょうちょ結びなんて、俺はいっつも縦になったり、すぐ解けたりしてるのに、何やらめっちゃ上手い。綺麗に結ばれてる。何もできないとか言ってたくせに、とっても器用なやつだ。


「む、……」

少年がきょとんと首を傾げた。

「スキ、ル……のかくと、く……だと?」

なんだって??俺たちがポンとスキルを取れるのとは違い、NPCは簡単には取得できないはずだ。だけど特にピカーって光ったり、くす玉が割れたりもしない。頻度が違うんだし、そこはプレイヤーと同じじゃなくてもいいんじゃないの?

「ええ、すごいね!どんなやつだったの?」

「──【書籍修復】と……」


本当に、今お試しでやったことで獲得したようだ。ソーリャが目をパチパチと瞬かせている。「ヨーくんいいなぁ、すごいなぁ!!」とレメが抱きつかれながらも、幼子は呆然としていた。

「凄いな、お前たちのあの絵本も直せるんじゃないか?」

「……う、む」

ヨーリアは直したばかりの本をカウンターに置くと、微かに震える己の手を見下ろしている。


「何もできない余が……何かを、できる、なんて……」

彼の骨身まで染みついた呪いの言葉が、ヨーリアを怯えさせてるのだろう。いったいどれだけ、母親や周囲から心無い言葉を吐きかけられてきたのか。先ほどの想像は、やっぱり間違っていなかったのかも。あまりに悲しすぎる。


「ヨーくんすごいよ、天才ってやつだよ!!ぼくもみならわなきゃな〜」

ガバッと上から抱きついてる子供にゆすられ、ヨーリアは未だに目を白黒させてる。服の裾を今度はぎゅっと握って、努めて呼吸をしている様が見受けられた。

「余が、凄い……」

「ああ、何にもできないことなんてなかったんだ」

「うん、すごいすごい!ぼくもきっと【召喚式】使えるようになるから、待っててね!!」

ゆっくり小さく頷き、きゅっとレメに抱きつき返す子どもが少しでも幸せになれるように。俺は、知りもしない八神に向かって祈っていた。



あの後レメが今日こそ!と、ソーリャに小石をバラバラと渡していったので、その間にとウカと2階に上がりキッチンに立つ。俺は腹がはち切れそうなほどなので飯は当然要らないが、他の4人はそうもいかない。このゲームに成長期という概念があるのかは分からないが、子供がご飯をお腹いっぱいに食べられないなんて耐えらないので、たくさん用意をしたいもの。

【料理】スキルは獲得していないので、ウカの邪魔をしない程度のお手伝いに留めているのだが。


俺がピーラーでなんとか皮を剥がしていく隣で、ウカはさらっと根菜を桂むきしていく。プロじゃん、思わず見惚れてしまう。

「お前も凄い器用だな……」

「そうかな?野菜って自分から動きもしないし、言われるほどでもないよ。でも嬉しいな、ありがとう」

動くモノを切るって概念がね、あんまりないのよ現実には。珍しくフードを外した姿で、耳元までこんなことで紅潮させ照れ臭げに笑う少年。世が世なら、この顔だけで傾国でもできたんじゃないだろうか。

……俺としては、あまりしっかりと目線が合わない左目のほうが、よほど気にかかってしまったのだけど。


「気味が悪いよね」

ウカが苦笑いをする。フードでそっと隠そうとするので、首を振った。

「悪い、痛くないのかとか……心配していただけなんだ」

「それは……大丈夫。昔、目を槍で突かれたんだけど、幸い俺は幸いついていたみたいでね。後遺症は、視覚が殆どないくらいだけなんだ」

たしかに、それは死ななかったのが奇跡のようなものだろう。だがそれをこんな若い、現実なら中学生くらいの子供が言ってるのだ。あまりに辛い。ゲームの設定だと分かっていても吐きたくなる。


「でも心配してくれたのは、とっても嬉しいよ。どうもありがとう」

気まで使わせて本当に最悪!!と思いたかったのに、心の底からそう感じていそうな微笑みを見せられ、俺はさらに叩き落とされる心地なのであった。



テキパキご飯作りを進めるウカの横で、内心ずーんと落ち込んでいる。と、ふと階下から歓声が響いた。

なんだろう。2人で軽く首を傾げ、揃って1階を覗く。そこには手を天井に突き上げ、ぴょんぴょんと跳ねているレメの姿があった。ヨーリアも小さく拍手をして、ニコニコ笑ってるソーリャの手の平の上には小さな小石。

まさか?


「……あったのか?」

「うん、そうだよ。これがツキサシバニーの召喚石。ボクが【審美眼】で鑑定したものだから、絶対ホンモノだ」

エルフの少年の手の平の上にあるのは、彼の保証があってなお、ただの道端に転がってる小石に見える産物だった。

だが説明欄には、ツキサシバニーの召喚石と出てくる。おおっ……ここ数日の努力が報われたのか!!あの確率を、俺たちは抜け出したのだっ!!俺の心も思わず踊る。


「ねぇ、ねぇ触っていい!?」

2人で階段を降りていくと、レメはソーリャに迫っていた。長年求めていた【召喚】への道が、ついに開けたのだ。無理もない。

興味深げにじーっと見ているヨーリアの横で、ソーリャは落とさないようにね〜と、


少年に小石を手渡した。


ただそれだけだったのに。

ピカリと小さな閃光が走る。


「え……?」

子供の呆然とした、何も理解していない声。ウカのケープの下にいつの間にかまた庇われながら、俺もその光景を見つめていた。


召喚石から真っ黒な毛を持つ、美しいウサギのような生き物が飛び出す様を。小さく真っ白なツノを天へ掲げ、誇示する姿を。



木製の床の上に降り立ったそれ間違いなく、つい先程まで倒していたツキサシバニーであった。



―クエスト≪天才召喚士の誕生≫が開始しました―





有名ゲーム配信者の発言より抜粋

「このゲーム、商人が情報屋を兼ねてるの面白いよね〜。単純な販売力だけじゃなくて、こっちの新聞の情報の正確性とか、発行部数とかもランクアップの条件の一つなの。かなり攻めてる、魔物図鑑の時も思ったけど。運営のこだわりなんだろうね」


「……うん、たしかに!穴埋め式か、自分で書くか決められるのは、いいよね。ボクみたいないっぱい書きたいヒトは書けばいいし、ささっと済ませたければ、NPCとの会話をヒントに穴埋めすればいいし」


「毎日、地味ニュース見つけるのは楽しいよ。……うん、今日はツヴァイで見たでかカボチャについて書くつもり。家の何倍もあったアレは書かずにはいられないよっ!!」

エセ関西弁らしきものです。

あくまでゲーム世界の方言のひとつ、ということにして下さい

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