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俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-1節:ブリア王国編-始まりの町アインツ
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13話:名前をなくした王子様

またローブを深くかぶり直した子と一緒に、ソーリャの本屋兼自宅へと戻る。突然知らんヤツを連れて帰るのはどうかと思うが、一階は店舗なんだし許して欲しい。階下から声をかけると、子供はトタトタトタっと軽い音を立てて降りてきた。知らん奴がいるのに気がつき、目をまんまるにしている。


すまない。NPC的に完全友好ってどんな扱いなのかさっぱりで、メール文面を書きあぐねているうちに家に着いてしまったのだ。

なので直接かくかくしかじか。翼のことは流石に伏せつつ彼が恩返しをしたいということ、俺だってしょっちゅう渡眠り(ログアウト)するだろうし、その間の護衛をして欲しいんだという方面で相談。


「本当、キミってちょ〜っと目を離すとすぐ何か引き起こすねぇ。それが異世界人ってことなの?」

「……そう、なのかもしれないな」

プレイヤーだし、色々と事が起きやすいようには設計されてるだろう。ちなみに完全友好は意味が通じた。ギョッと目を見開いて軽く頭を押さえていたので、もしかしたらNPCにとっては、出てきた説明以上の意味があることなのかもしれない。何ともないことのようにウカは笑っていたが。

「……うん、まぁいいや。カルくんも気分転換はちゃんとできたみたいだし、上出来ってことにしてあげる!」

ぱっちりとした碧色の目でにっこりとウィンクされ、どうやら流すことにしたらしい。ウカと共に、2階へまた通された。




貴縁は丁寧に返却される。ソーリャの予測通り、王子はまだ起きていないらしい。これ、簡単に人に渡すもんじゃないからね!と軽いお叱り。その後、ボクこれから神殿に行くから好きにしてていいよ。アルバイトも今日は免除ね、と残して彼は出かけていった。


ので王子の様子を見に行く前に、勝手にウカの役割を決めたことを謝罪。あくまで恩返しをしたいならだからと言い訳をしてると、ウカは首を振る。

「ううん、俺は嬉しいよカルさん。一緒にいていいんだなって、実感できたんだ」とのこと。

口元はふわりと綻んでいる。結果的には意思には反しなかったしセーフだな、よしっ!ちなみに、彼からの呼び名はカルさんになった。さま付けも主もごめん被る。クールイケメンがそう呼ばれるのはカッコいいけど、子供に言って欲しくはなかった。



子供には怖がられやすいから外で見張りをしてる、と廊下に残るウカを残し入室。あのフード姿は大人にとっても怖いし怪しいし、懸命な判断だ。なら外せばいいという話なのだが、あの顔面の良さを考えると、きっとそのことでイヤな目にあってきたことがあるんだろうな。製作者が絶対に美少年にする!と、気合いを入れまくったような造形だったもの。トラウマの一つや二つ存在してそうだ。


閑話休題。カーテンを閉めきっている客室では、相変わらず王子がよく眠っていた。枕元の小さなランプが唯一の光源だ。その小さな灯りに照らされ、彼はすぅ……すぅ……と小さな口できちんと呼吸し、胸もゆっくり上下しているので、ほっと溜息。預かった時はこんなものすら、殆ど感じられなかったから。

さて、椅子にかけつつこれからどうしようか。【幻式】の練習でもするか、使ってないSPで何か技能を習得するか。椅子に腰掛けつつ、これからの予定を組み立てようとしていた時だった。


王子の瞼が微かに震える。うお、さすがイベント。タイミングが絶妙過ぎる。微かな呻き声の後、そのままその瞳はさらされた。

鮮烈な赤い瞳。輝くルビーのような美しさ……と表しても良いのに、なぜだろう。まるで鮮血のようだ、と感じてしまった。ぞわりと、背筋に怖気が走る。その瞳は暫くふらふらとあたりを彷徨い……俺を見た。


「き、様は……だれ、だ……?」

乾き、掠れた声が漏れ出る。うお、口悪いな。

ベッドサイドに用意されていた水差しから水を注いで、彼へずいと差し出す。


「飲め」

「え……」

言ってから、王子に対する口調じゃないことに気づいた。幼子も、びっくりして固まっている。こんな口調、今までされたことなかったのかもしれない。そらそうか。あの兄が特殊だったんだ。


「喉は乾いているだ……でしょう?」

だめだ、半日親しんだ口調がすぐに抜けない。現実で俺大丈夫か?ちょっと心配になった。

「い……や、口調は……楽にしてくれてかまわない。かんしゃ、する……」

起き掛けの幼子にまで気を使われてしまった!もうダメだ、気まずい。誤魔化すために、あと毒味擬きも兼ねて己も同じ水を飲めば、彼も真似をしてこくりこくりと飲み込んでいた。すぐに空っぽになったので、追加も入れてやる。

暫くしてふぅと僅かに落ち着いた様子をみせた彼に、ようやく聞かれた通りの自己紹介だ。


「……お前を預かって保護した。私は異世界人のカル・アーデスタ、ただの魔法使いだ。ここはアインツ町で、私の知り合いがやっている店の二階の住居スペース。これ以外で知りたいことは?」

王子は黙って目を伏せている。

年の割にはしっかりしているというか。起きたら突然知らない場所にいたというのに、それほど驚いてさえもいない。なんだろう、イヤな予感がする。殺されそうになるのとか、誘拐に慣れすぎた影響でこういうことにも動じなくなったとか。嫌だ……ドロドロだし、悲し過ぎる。


「まず、余……私、を助けてくれたことを感謝しよう。異世界人か……そうか」

尊大な口調、だが王族ならこんなものだろう。あの兄が低姿勢すぎなんだ。だがこの子は別の意味で──

ずっと無表情。俺みたいに連動チェックを外したから、なんて理由であるはずがない。鮮血のようでありながら、どろりと暗い瞳。その光のない色はまるで兄の生き写し。こんなところ、似ないでほしい。レメと今朝会ったばかりだから、より差が引き立ち、俺の心もズキンと痛くなる。

王子とは、こういうものなのだろうか。平民の俺には測ることの出来ない世界だ。


「聞きたいことか……そうだな。余……、私をあずかったと言ったな?」

頷くと、小さな手はぎゅっと布団を握った。震えている。そうだよな、そりゃ、

「余には……もう、」

ははっ!!と、大人びた乾いた笑い声を上げる。

「殺す価値もないのかっ……」



「そんなことないっ!!」



思わず叫んでいた。RPも全部忘れて、小さな姿へと縋り付く。

「お願いだ……どうか、そんなことは言わないでくれ。お前の兄は、きっと命懸けでお前を逃したんだ……」


彼が話していた言葉が蘇る。母親からお前は何もするなと、抱きしめてすら貰えず。使用人から見捨てられた子供だと、蔑まれ続けていたと。

現実なら小学生にもなっていないであろう子供に、こんな言葉を吐き出させる程の環境だったのだ。噛み締めた歯が、ぎしりと音を立てる。憎らしい。ゲームだなんて関係なく。


「兄上……が……?」

子供は呆然としている。俺は子供の体をそっと離すと、アイテムボックスから預かり物を取り出した。

「この絵本は、二人で作ったものなのか?」

これを渡せば信じてもらえると思います。と兄から渡されたのは、手のひらサイズの本だった。不格好に紙を繋ぎ合わせ、絵も決してうまいものではなく。文字もまるで幼子が書いたような、ガタガタとしたもの。だが大切に扱われていたのだろう。何度も、修繕を試みた跡がある。


『メロとアルのぼうけん』

聞かなかったがきっと二人の名前か、少しもじっているのだろう。一から二人で、大切に作ったに違いない。その思い出を兄は俺へよこしてきたのだ。今度はそれを、俺が弟へと渡した。

震える手で幼子は絵本を受け取り、胸の前でそっと抱きしめる。


「……あにうえ、」

吐息のように小さな声だった。

「どんな物語なんだ」

躊躇うように視線を彷徨わせ、子供はしばし沈黙する。

「語りなくないなら、話さなくていい」

緩く、首を振られる。やかでぽつり、ぽつりと子供は語りだした。


「兄上が王さまになって、余が……ささえる話だ」

「兄の役に立ちたかったのか」

小さく頷く。

「──王家であるのに、余は何ひとつできない。剣もできず、勉学も苦手。……母上が、余に何もするなと言うのも当たり前だ」

違う。兄の言ったことが真実なら、生まれる前からそれこそ──。だが、余程その方が残酷で口には出せなかった。あの子もきっと同じだったのだろう。その否定が、より恐ろしい真実を露呈させる。


「でも兄上はちがう──何でもできる。剣も、勉学も、まほうも……なんでもっ……」

とってもかんぺきなんだ。子供は言い募る。

「だから、そんな兄上をささえる人になりたかった。兄上のために、どんなぼうけんもしてくるような──」

子供の手の隙間から見える裏表紙には、男の子が二人手を繋いでいる絵が載っている。きっとこれが二人にとっての理想で、


「──だが今はどうだ!余は兄上に命をかけさせ、めいわくをかけておる。余に、死ぬ価値があったなら死んでよかった!!それがこうも生きては……王家として民にも、顔向けできぬ」

どれほど──重い言葉なのだろう。


俺には王家なんて分からない。死ぬことが民のためになるとする思考回路も、死んで良いと己を犠牲にできる心も。軽々に否定もできない。きっとこれは、この子が唯一背負ってこれた矜持だ。

他人に否定され続け、己が死ぬことの意義に囚われるほど。縋れるものが何もないのだろう。


でも、だからこそ。

立ち上がって窓辺へと寄り、カーテンをそっと開いた。明るい日差しが、暗い室内へ差し込んでくる。眩しげに目を細める子供へ。


「──お前は、お前の兄が生きる理由になってくれないか」

「兄上が……生きる理由……?」

本当なら自分のために生きろとか、もっと何か言えただろう。だけど俺には説得できるほどの理由が思いつかず、空虚な軽い言葉になるだけな気がしたから。

大切なお兄さんの存在を勝手に借りた。


「お前に生きて欲しい、そう言ってた。──迎えにくると、約束させた」

「迎え、に……」

「なら、お前が生きていないといけないだろう」

実際あの時俺が出会って、たまたま弟が生き残らなければ。彼はその命を本当に全て、尽きるまで捧げる覚悟に見えた。何か理由があるのだとしても、民を犠牲にする──その絶望の上に、あの子は立っていたのだろう。


王家であるなら。重い言葉、立場だろう。

でもほんの子供なのだ。二人とも、何かを背負うにはあまりに若過ぎる。だから兄に言った時のように、俺はいくらでも詭弁を弄そう。

「民のために何かしたいのなら、これからも方法を探そう。今までやってこなかったことも、今の立場ならきっとできる」


──だからどうか、死ぬことだけが己の価値だと思わないで。


「……余は、まだメロなのか?」

子供の澱んだ瞳と目が合う。ああ、絵本のそっちの名前がこの子供の名前なのか。幼子が相手だというのに、思わず背筋が伸びる。

「……死んだことになったと聞いている。葬儀もしたと……」

そうか、と彼は小さく頷く。


「余は──名を無くしたのだな」

「それは、」

ただ死んだことになっているのではなく、彼にとってはさらに小さかった頃に作ったその本が。叶わないことを意味している。兄も理解していたのだろう。だが、それでも


「……生きる、か」

最近は、考えたこともなかったな。

子が本の表紙を撫でながらポツリと呟いた。窓の外からの陽光が、彼の絹のように美しい金糸を艶やかに照らす。


―救国クエスト≪●●王子の運命≫をクリアしました。

 クリア報酬:1,000M―


そうか、救国か。やっぱり重要人物なんだな、2人とも。重たいストーリーに胸焼けを起こしそうだ。

黒塗りだったところにも納得する。兄も含め、皆幸せになればいいのにな。理想論で、きっと難しいのだろうけど。少しでも、その一助になりたいと願った。




と、ここで空気を読んでかここまで入室をして来なかったウカが、温かなお茶を持って現れる。フードは妥協して外したようで、あの兄のようなスカーフで鼻まで覆ったスタイルだ。やっぱその辺に収束するのね。

大声を出した時も、飛び込んで来たりせずに様子を見てくれてありがとう。外に彼がいたことを今更思い出した。できれば、そのことは忘れて欲しい。さっきはRPをかなぐり捨てたとはいえ、やっぱり重視マンではあるので。


湿っぽい空気も変わり、王子の腹も小さく鳴ったので、最後のアップルパイを取り出す。一切れはウカに、もう一切れは己、そして初めから切ってある一切れは王子に渡した。あの王子たちに出会った時、切ったもの残りの一つだ。


「お前の兄も食べたものだ。美味しいと思うが」

「……感謝、する」

3人で、サクリと食べた。

サクサクのパイ生地と、りんごのとろっと煮詰められた甘さが絶妙なハーモニー。うん、冷めててもいいね。「わぁ、美味しいね」と食べ進めるウカと、小さな口で懸命に少しずつ食べ進める王子。彼らを眺め、改めて決意する。


ゲームだけど、だからこそ守ろう。腐っても大人として、この子たちを。俺にできる形で、少しでも。


決意と共に口に入れたある母親が作ったパイは、変わらずとても美味しかった。





ゲーム攻略ページより抜粋

完全友好について

友好NPCの段階が進んだ際になることが可能。特定の条件をクリアする、好感度を稼ぐ等なり方はNPC毎に様々ある。

NPC毎に完全友好にできるプレイヤー数は決まっており、おおよそ1人〜3人が対象。

また、特定のクエストの達成条件になっている場合もある。


メリット

・強制呼び出し権の獲得

 自分がいる場にNPCを同意なしに呼び出せる能力

・基礎能力向上

 プレイヤーの能力がわずかに上昇する

・好感度の低下がなくなる

 選択による好感度の低下が一切なくなる

 ※運営に処されることはあるため、節度を持った行動をとりましょう。

・【念話】の解放

 スキル【念話】の獲得条件のひとつ


デメリット

・死亡時の基礎能力の低下

 NPCが死んだ際に上昇分が消える(一部、死別が完全友好になる条件のNPC等を除く)

・NPCから強制呼び出しがかかる場合がある

 こちら側からのものとは違い、断ることも可能。断らなかった場合は、強制テレポートが発生する。断っても好感度は下がらない。

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