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11話:悲劇の序章

朝早くからどこかへ出かけるNPCたちに紛れ、共に門を潜り抜け、町の外へと足を踏み出す。

アンファン草原、と文字が目の前に浮かび消えた後。そこには壮大な景色が広がっていた。


目前に広がるのは広大な草原、視界を遮るもののない蒼い空を風が吹き抜ける。鳥や翼が生えた人々(獣人の一種か?)がこの空を渡り、どこかへと飛んでいく。飛んでいく先、遠くの方には森や山々、湖らしきものがうっすらのぞき、さらに先にはまだ見ぬ街があるに違いない。そこへ向けて整備された街道が続いており、何人もの人や馬車がその上を行き交っていた。


この見えてる世界、その全てが冒険の場所なんだ!!非日常感に思わず、顔は動かずともテンションが上がる。


──だがもちろん、周りは皆そんな美しい風景に、いちいち感動なんてしない。


街道に出た途端に何台もの幌馬車が、魔物に捕まらないためかムチを打って颯爽と駆け抜けて行く。

少し視線を逸らすと、鍬や鋤を担いでいた人々は、城壁から出てすぐの場所に広がる耕作地へと歩いて行った。何かの木や畑に水を撒いている姿が遠目に見える。そっか、中に作るなんて場所が勿体無いし、生産量としても足りないもんな。魔物避けと思われる鈴の音が、ここまで微かに聞こえてくる。

馬や牛の放牧を放牧してる様子も見受けられ、多くの人々が日が登りきらないうちから働いていた。うーん、現実的。


だが、そのどこにも子供の姿が見えないことが、この世界は確かにゲームなんだと俺に実感させてくれた。児童労働なんて見たくもないし、それで勿論良い。子供は子供らしくあって欲しい。

──二人の王子のことを思うと、本当に胸が苦しくなるが。


とはいえこの調子じゃあ、戻ってもまたソーリャにまた叩き出されてしまうから閑話休題。今は俺にできることを、少しずつやって行こう。


ぐるりと周囲を見回す。NPCの姿は多く見受けられども、俺と同じプレイヤーの姿は見当たらない。これが初日辺りならプレイヤーであふれていただろうが、すでにゲーム内で三日目の今だ。外に出る者は次の町に行くか、そうでなくとももっと効率のいいところでレベリングをしてるのだろうし。生産職として街に篭るなら篭るで、出てこないのだろう。


さてはて。プレイヤーが見受けられないのはともかく、魔物まで見当たらないのは困ったことだ。往来が激しいこの辺りじゃ、あんまり出て来ないのかもしれない。街道から少し離れた場所を、メガネのツルを弄りながら歩いてみる。普段身に付けてないから、やっぱりちょっと気になってしまう。だがこんなことしててもクールに見えるんだから、顔がいいって最高だな。


……とそんなことをしていたら、小さな影が見えてきた。視界の左端にあるミニマップにも、小さな赤い点が浮かび上がる。それは額に小さなツノが生えた、ふわふわした黒ウサギの群れ。きっと魔物だ。いかにも畑の野菜を襲撃してそうだが、そんなに強そうには見えない。

名前は──ツキサシバニー?


なかなか怖い名前だなんてのんびり考えていたら、カサリと足元で音が鳴った。その瞬間、どこにいたというのだろう。黒い影が、びょんと小さなツノを向けて飛び出して来る。


いつの間にっ……突き刺さされる!?


咄嗟の反応。固まったまま動けない足はそのままに、お抱えていた本で俺はソレを振り抜いた。


バキン!と甲高い音。確かな手応えと共に、どさりと小さな姿が少し遠くへ落ちて行く。魔物は、その一撃で動かなくなっていた。白く美しかった本から赤い液体が滴り、ぽたりぽたりと落ちるばかり。

やがて倒れた魔物の姿は蒼い粒子となって消えていき、跡には丁寧に剥がれた後の毛皮だけが残る。本から、赤い水も落ちなくなっていた。

ステータスをそっと確認すると、僅かばかりだが経験値のメモリが進んだ。


なるほど、これがこのゲームの戦闘。シームレスな戦闘だと聞いていたが、気付いていない敵はミニマップにも表示されず、奇襲を受けることもありか。これで一撃じゃ終わらない、物理が効かない敵だったら。

小さな毛皮を拾い、アイテムボックスは仕舞う。

序盤の弱い敵で──本当によかった。





『【本】のレベルが上昇しました』

『【本】のレベルが上昇しました』


手に抱えた書籍で、何度も小さな姿を叩き潰す。その度に甲高い音が鳴り、すぐにその姿は消えてった。それを俺は見届けることなく、次の魔物へと頭上からまた叩き付ける。


ある程度戦ってみると、魔物への戦い方も多少慣れるもの。このツキハシバニーは最初に出会う魔物らしく、大して強くもなかった。

HPが低いこともさることながら、動きも全体的にノロく、タメだってとっても分かりやすい。そのタメを行って出てくるのは単調な突進攻撃で、足元を注意していれば、簡単にかわせる程度だ。まぁ俺はローブで動きにくく、たまに攻撃へ当たってしまうが、モロにあたっても多少HPが減る程度。掠ったみたいなレベルなら、1もHPが減らないこともざら。


うん、普通に戦える。

極力、戦闘への忌避感なく最初は入れるようにと設計されているのだろう。最初のは突然出てきたから驚いてしまったけれど、それさえなければ恐るるに足らず。

しっかり攻撃していれば良いだけである。


物理的に本を叩き付けるのは、わざわざ気に入って買い求めた、繊細かつ美しいアンティーク調の装丁が傷付いてしまいそうだけど。地形と同じく、全ての武器の耐久度なんて運営側も保存してられないはずだ。実際、真っ白な本が血に濡れたままなことも、どこか痛んだ様子もない。

魔物にぶつけた時のヒビ割れたような音に、表紙についた青い魔石が壊れたのかと思ったが、何回か確認してもそんな様子も全くなかったので多分あってる。


え?ちゃんと魔法使いらしく魔法で戦えって??

いやだって、何か新しい魔法を覚えるにはSPが足らず、【幻式】は攻撃魔法でもないし、MPの消費も激しすぎる。なのに本を使って物理的に戦うと、スキル【本】に経験値が溜まって、実際にレベルアップするんだもの。そりゃ、使わない手はない。


【本】や【杖】はレベルが上がれば上がるほど、魔法への威力補正があるので、これは仕方がないこと。きっとMP節約で俺以外の魔法使いもやってる。

そう信じて振り抜くのみだ!!


また一撃。

足元へ駆けてくる姿へ、本を掲げ体重をかけて振り下ろす。すると、


バキンッ!!


いつもより、ほんの少しだけ大きな音が辺りに響き渡り。



─称号【悲劇の序章】を手に入れました─

 


え……?

思わず固まる。その隙に魔物が寄ってくるので足で転がし、急ぎその場を離れた。

どういうことだ?顎に手を当てぐるぐると考える。

本で物理的に攻撃することって、やっぱりよくなかった??こんな物騒そうな称号を手に入れるほどに??


またステータスを開いて、今度は称号欄を確認する。やはりアナウンス通り俺にとっては初めての称号が授与されていた。


称号

●通常

──

●終末への刻

【悲劇の序章】


終末ってこれ、絶対にやばい分類のやつだな??街道沿いに、町へととりあえず戻る足が無意識に早くなる。

そ、そりゃ読書好きには殺されそうなことをしたけど!!本屋のソーリャとかが知ったら、烈火の如く怒りそうなことだろうけど!!ここまで不穏な欄になることがあるか??


【鑑定】スキルがないので、詳しい説明も確認できない。見れたのは一つだけ。


【悲劇の序章】

──獣を呼び覚ます者


という、カッコつけた言葉のみ。獣、獣……あれ?

さっきまで魔物を殴っていた本。題名は『喜びの蛇』だって、ソーリャは言ってたような。もしかして、何か?


手にしていた本を眺めてみる。大きな変化は見当たらない。だけど、

あれ……この本の魔石って、こんな紅色だったっけ?

首を傾げる。真っ白な表紙が自分の髪色と同じで気に入っただけだし、ちょっと自信がない。けど、なんか違う色だったような?


記憶は怪しい。だがもし色が変わったのが事実だとしてだ。これはどういうことだ?装備は変わらずできるので、魔石が壊れて効力を失ったとかではない。


……もしかして、この本って何かを封じてたりした??こんな序盤でも買えるほど安く売られていた本に??だいたい何かってなんだろう。

何も分からなかった。称号の意味も、この本も。

軽く頭を振る。


とりあえず町に戻って、ソーリャに相談してみるのがいいかもしれない。ただの本屋じゃなくて教会の関係者っぽいし、何百年も生きてるって設定なのだから、もしかしたら何か知ってるのかもしれない。少なくとも俺が一人でもんもんと考えるよりは、よほどマシな考えを出してくれるだろう。色々と頼りになるし。


なんてソワソワ考えながら、しかし表面上は誰も見ていなくてもRPは大切に。メガネ越しの冷たい目で表紙を見つめていると、また唐突に声。


「……やっと、見つけた」


本から視線を上げる。まっすぐ最初の町まで戻る街道。その道中にいつのまにか、深く被ったフードで顔を半分は隠した人物が存在した。俺の姿を認め、口元を笑みを浮かべている。


「貴方に、また会いたくてたまらなかった──」


ふ、不審者だー!?!?





制作秘話より抜粋

当初ツキサシバニーは名前の通り、体は小さくても、額の上の鋭いツノに裂けた口、筋骨隆々な恐ろしい姿で、人体の急所を露骨に狙う魔物だったんですよね。ヒットアンドアウェイを学ばせる存在で、かつ魔物っていうことを分かりやすく理解してもらうために設計していたので。


ただ開発段階で特にドワーフ族でプレイしていると、本当に目に向かってツノが飛び込んでしまいまして。流石にこれはと、修正されたんですよね。

その後βテストを経て怖すぎた見た目や、スピード等も調査れまして、皆さんが知ってらっしゃる今の可愛らしいツキサシバニーになったんです。


ふわふわの愛らしいマスコットになって、結果的にはこの調整をして良かったと思ってますよ。今度、ツキサシバニーを主役とした、新イベントも開催予定ですので、よろしければぜひご参加ください!

報酬として、ペットに着けられる首輪も限定デザインを配布予定です。

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