9話:王族
「突然、子供が倒れてたから預かってくれってキミねぇ……」
「私には家もないしな。受け入れてくれて助かった」
「しーかも、なんか仮死状態で?それを治せそうな薬も、たまたま近くに転がってたんだって?」
つんつん腹部をつついてくるエルフに、「そうだが」と心と連動しない鉄仮面で押し通す。子供は勿論兄から預かり、仮死状態を戻せる薬だってその時に貰ったものだ。だが、言えない。
無理があるのは分かってるが、あの兄の存在はあまり明らかにするべきでないだろうと。顔色ひとつ変えず嘘をつく俺を、碧眼がじとーと睨みあげてくる。手の平を見せ、嘘なんて何もついてないと装ってみせれば、彼は口を尖らせ、諦めたようにため息をついた。
俺は今、朝に失礼したばかりの本屋。その2階の住居部へ、お邪魔させてもらっている。今朝とは違う、ゆったりとした麻布の服を身に纏った彼に迎えに入れてもらった室内は、最初のあの子供の家とはまた違う。一人暮らしだからか物は少なく、また丁寧に整えられている。本の香りと読書用に別にあるランプだけが、ここが決してモデルルームとかじゃないと示しているようだった。
ま、自分に家もなくまともに匿えないなら、家を持っている彼に預ければいいじゃない。ってわけだ。他力本願、万歳ってな。
力が弱く、魔法が得意なはずのエルフ族なのにあの力強さ。ガシッと掴まれた腕についた跡が忘れられない。千年生きてるという本人の談からも、けっこう強いNPCなんだろう、きっと。俺が一人でなんとかしようとするより、絶対マシなはずだ。
だからメールで聞いてみた。厄介ごとになるであろうことは伝えたのだが、それでも受けてくれたこのエルフ──ソーリャはいい奴だ。なのに全部を話せていないのだから、申し訳なくなってしまう。
「だからってさぁ、今日会ったばかりのボクに頼るかい?ボクはちょっと治癒士のマネごとができるだけの、ただの本屋さんだよ?」
「だが私はレベル1だからな。独りで動くよりは良いだろう」
「そんな弱さで、な〜んでこんな厄介ごと拾ってきちゃうかなぁ……」
ため息をつかれるが、結局預かることを決めた彼も彼だ。コチラをつつくのをやめ、小さなソファへ腰を下ろし膨れっ面をしてみせる姿を見やる。
「まったくもぉ」
「……受けたお前もお前だろう」
「コラ、そこをつかないの!」
びしっとされた。立場は圧倒的に弱いので、すんと黙る。
「それで、どうするのあの子。ずっと付きっきりでいることは出来ないよ?ボクだって、神殿に行かなくちゃいけないし」
「連れてはいけないのか?」
あの子を寝かせてもらった3階を指差す彼に聞くと、大きな目を一度ぱちくり。その後、ふぅと息を吐かれた。
「まぁ、異世界人だもんね。しかも、昨日来たばっりだし……」
「……すまないな」
そんなあからさまにしなくても。若干イラっとくるが、巻き込んでしまった身なので何も言えない。RPは壊しすぎない範囲で、申し訳なさそうな態度をとってみる。
「貴縁がないと、接触できないって言われんでしょ?」
「そうだな」
だから貴族か、そうでなくともお偉いさんの息子なのかと思っていたのだが。違うのだろうか?内心首を傾げる俺に、そんなのね、答えはひとつだよと彼は告げる。
「あの子ね、この国の王族──王子だよ?」
王子サマ。
「………思っていたより大物が来たな」
たぶん第七か八王子とかじゃない?とのこと。もはや、そこは何でもいい。こりゃそんな態度も取られますわ。
ボクの診察の時からして、キミも分かってだと思ってたよ。あの手袋の下、王族の指輪してるんでしょ。キミがいなかったら、ボクは姿も見れなかっただろうね。との言に、曖昧に返すしかない。
兄が、この下はあの子が起きるまでは見ないでやってくれ。と話していたのは、そういうことだったのか。それと、すぐに私たちの正体は分かるだろうと断定していたことも。
内心が忙しない、とりあえずぐったり。
メインストーリーの舞台、その国の王子なんて。大変な子供たちと接触したものだ。
そして、その王子である片方は"殺されてる"なんて。ますます、このゲームの不穏度が上がってくる。兄が言っていた言葉にも、ただの反乱以上の意味が出てくるってもの。
脳内に、歳の割にしっかりとしていたあの子供の姿が思い浮かぶ。王族、王族か……どんな重いんだろうな、その言葉は。泣くことすらできず、震える体を掴み押さえ込んでいた──哀れな少年。
でもあの子を助けてやる方法なんて、もちろん俺にはない。せめて一番上手く、あの弟を保護するくらいしか。
「本格的にダメなってきたねぇ、この国も」
「駄目、とは……」
まぁ王子が道端で倒れてた、はそら駄目に当たるだろうけど。
「んー、キミももう体験したはずだよ?」
目を細め、小さな手は口の前に揃え、彼はひそひそ内緒の話をするように続ける。
「──冒険者ギルド。どうして突然やってきた不審者かもしれないキミたちが、なーんも言われないで登録できたんだと思う?」
言われてみれば、確かに。突然、大挙して押し寄せる俺たちは、全員が全員良い人なわけがない。人がこれだけ居れば事故的に何かは起こるし、そもそもアウトロープレイを目的としてるプレイヤーだっている。なのに、無条件にギルドには登録できた。言われてみれば、なぜだろう?
「あのね、今の国王様はね。お貴族サマの言いなり。周辺国でも有名だよ?」
「そんなこと……言っていいのか?」
たとえ事実なのだとしても、こんな中世風の世界で、国王に対して。
「こんな家の中まで聞き耳立ててこないよ……キミが、告げ口しなきゃね?」
さらりと髪を揺らし、ばちこんとウィンク。今の俺の立場で、どうしてこの人を売れるというのだろう。両手を掲げて、己の意を示す、が。ま、いざって時はこの国からも脱出するけどね〜と、緩い調子で彼は笑う。
「ま、そんな国だからね。経済も悪けりゃ、人手も足りず、魔物退治もままならず……国民が革命を考えだしそうで、為政者はそりゃ怖いよねぇ?」
これをぜ〜んぶを解決する魔法みたいなもの、さてなんでしょう?首を傾げてみせる千歳越えエルフは、泰然とした様で笑う。
「──それが、異世界人なのか」
「キミたちは良くも悪くも経済を回す。人手はそのまま、魔物退治も──やってくれる子は多いでしょ?」
治安が多少悪くなってもお釣りが来るってわけ、と。
まぁ、たしかに。異世界人のギルドの登録料も、この国だと7割くらいは税金なんだよとの言には、ちょっと小市民な俺が泣いてしまった。高ぇ……。チュートリアルで勝手に払った感覚だから、そこまで実感はないけれど。
「──それに何より、キミたちはこの世界に興味があるけど興味がない。他人事でしょ?だから報酬さえ出せば、与させやすいって思われたの」
「そ、れは……」
「少なくとも今までの異世界人、だいたいそうだったから」
実際、所詮ゲームだと思ってることは、まぁ事実だ。現実に何か生き物を殺すなんて、俺には到底できないし。俺はする気はないがPKをやる連中だって、ゲームだからこそそんな行為に走っているのだろう。たとえそれで何が起こっても所詮ゲーム、自分からは遠い他人事だと。
だけど現実ではないゲームだからこそ、逆に勇気を持ってやれることもある。だから俺は、
「──あの子供を、拾ったのは報酬があったからとか。そんなものではない」
「ふふ……キミは不思議だよね」
だから、助けてあげちゃった。ぷらぷら脚を揺らし、ソーリャは微笑う。
「でもいつかちゃんと力をつけて、恩返しもしてね」
タダでなんでも助けてあげるほど、ボクはずっと優しくないよ?と。
それは、当然……
「そのつもりだ。──感謝する」
頭を下げる。この程度ならRP崩しにもならないだろうし。今の俺がすぐに見せられる誠意は、それくらいしかなかったから。
頭上では、彼がまた小さく笑う気配がした。
序盤攻略まとめページより抜粋
貴縁シリーズについて
ブリア王国の王族に接触ができるようになる、武具やアクセサリー。王族側が【スキル】を使用して、姿を見せるようにしていない限り、このシリーズを所持していないと姿を見ることもできない。
序盤にアーサー等と接触したいならば、入手は必須。
序盤の入手方法
・港町ドライ―都市フィーアの間で夜間に出る魔物 兵士ゾンビから確率でドロップ(確率:1/512)
・クエスト《●●●●の捜索》にて、NPCガヴェイン(―サーバー毎の名称揺れ一覧)からクエスト中に入手
・王都フュンフ 闇市にて確率で出現する商人から150,000Mで購入




