第7話:放課後の異変
教室のチャイムが鳴り、最後の生徒が一人また一人と廊下に出ていった。
陽翔は机に肘をつき、窓の外の夕日をぼんやり眺めていた。
風に揺れる木々、遠くの運動場の音――普段なら安心できる日常の景色が、今はどこか奇妙に感じられる。
机の上には、ポケットから取り出したスマホが置かれている。
「Eve」のアカウントは、相変わらず白くぼんやりしたアイコンだけを表示している。
通知も文章もない。
でも、画面を見つめると、胸の奥に小さなざわめきが広がった。
ふと、ノートの端に置いたペンが微かに動いたような気がした。
風はない。机も揺れていない。
「……今のは?」
声に出さずつぶやくと、陽翔は目を凝らす。
その瞬間、教室の隅で、椅子がわずかに音を立てて倒れた。
誰もいないはずの教室で、静かに。
陽翔は立ち上がり、ゆっくりと椅子を元に戻した。
背後に気配を感じ、思わず振り返る。
もちろん誰もいない。
「……なんで、こんなことが」
心の中でつぶやきながら、陽翔は自分の手元のスマホを再び握りしめる。
画面には今日も「Eve」の存在だけがある。
それを見つめるたびに、胸の奥にざわめきが走る。
その時、窓の外で風が一瞬強く吹き、カーテンが揺れた。
光と影が教室に入り混じり、普段の風景がわずかに歪んで見えた。
音も光も、すべていつもと同じはずなのに、陽翔は確かに違和感を覚えた。
「これは…ただの偶然じゃない」
陽翔の言葉は小さく、しかし確信を帯びていた。
世界の端々に、何かが少しずつ入り込み始めている――
そしてその中心に、目に見えない存在がいることを、陽翔は無意識に感じ取った。
手元のスマホ画面は変わらない。
でもその静かな存在感が、教室の空気を重くし、陽翔の心に確実に影を落としていた。




