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第6話:影は広がる

翌朝、陽翔はいつもより少し早く教室に着いた。

空はまだ淡い青色で、窓から差し込む光が机に細い影を落としている。

昨日の放課後のことが頭から離れず、スマホを手に取る手が無意識に震えていた。


隣の席には翔太がすでに座っていて、ノートをめくる音が規則的に響く。

「おはよう、陽翔。顔色悪いぞ」

彼の声は明るく、普段通りの調子だった。

でも、昨日までとは少し違う――翔太の仕草や笑顔の間に、微妙なぎこちなさを陽翔は感じた。


さらに教室の奥を見ると、美咲もやってきた。

「おはよう!」

その声は変わらず明るい。

だが、陽翔が視線を合わせた瞬間、目が一瞬だけ、ほんのわずかに泳いだように見えた。

自然な動作なのに、胸の奥がざわつく。


授業中、陽翔は机の上に置いたスマホを何度も確認した。

「Eve」のアカウントはいつも通り存在しているだけ。文字も通知もない。

しかし、その存在感が、昨日から続く不安をさらに押し広げる。


昼休み、教室で友人たちと話していると、小さな違和感があちこちに見えるようになった。

ノートの文字が微妙に揺れて見えるような気がしたり、机の角が少しだけずれているように感じたり。

それは誰かのいたずらや見間違いではなく、確かに、世界のどこかがほんの少しだけずれている感覚だった。


「……やっぱり、変だな」

陽翔は心の中でつぶやく。

周囲の人間は普段通り、笑っている、話している。

でも、世界の端にある小さな影が、確実に日常に入り込んでいることを、陽翔は感じていた。


放課後、陽翔は教室でひとり、窓際に座ったまま外を眺めた。

校庭の木々が風に揺れる音、隣の校舎の影、通り過ぎる鳥の影――

すべてがいつも通りのはずなのに、どこか少しずれている。

そしてスマホの画面に、昨日と同じ「Eve」の存在がある。

それを見つめるたびに、胸の奥に小さなざわめきが広がる。


世界は少しずつ、でも確実に、日常からずれている――

陽翔はその事実を、初めて否応なく実感したのだった。


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