第4話:影の広がり
翌日、陽翔は学校に向かう途中、通学路の並木道を歩きながら昨日のことを思い返していた。
スマホをポケットに入れたまま、無意識に手が触れる。
画面は一度も開かず、ただ存在しているだけなのに、胸の奥がざわつく。
教室に入ると、いつも通りの朝の雑踏が広がっていた。
だが、何かが違った。
ノートをめくる音、椅子を引く音、窓の外の風の音――
すべてが微妙にずれているように感じられる。
隣の席の翔太が、軽い口調で話しかけてくる。
「おい、陽翔、今日さ、なんか変な夢見たんだよな。聞く?」
陽翔は思わず顔を上げた。翔太は普段通り笑っている。
でも、その笑顔の端に、昨日と同じ、微かに違和感を感じた。
教室の黒板の端、窓際の光の角度、さらにはクラスメイトの視線――
陽翔は少しずつ、日常の小さなズレを意識し始める。
目の前の光景は、確かにいつも通りなのに、どこか異質で、何かがほんのわずかに狂っている。
昼休み、陽翔は美咲と一緒に廊下を歩く。
「陽翔、元気ないね?」
彼女の声は柔らかく、笑顔も変わらない。
それなのに、廊下の空気がわずかにひんやりしているような気がして、陽翔の心をざわつかせる。
そして、ふとスマホを確認すると、「Eve」のアカウントが再び画面に現れていた。
表示されているのは、昨日と同じくプロフィール画像だけ。
文字も通知もない。ただ、存在している――
その静かな圧力が、陽翔の胸の奥に小さな不安の種を落とした。
「…どうして、こうなるんだ?」
つぶやく声は、図書室の静寂よりも軽く、しかし確かに陽翔の耳に響いた。
そして、校舎の外の風が、一瞬だけ木々の葉を震わせる。
その小さな音が、まるで世界が少しだけずれて動いているかのように、陽翔の意識を引き寄せた。
普段の朝昼放課後――どれも変わらないはずなのに、陽翔の周囲には少しずつ、しかし確実に、何か“影”のようなものが広がっている。




