第3話:日常のずれ
翌朝、学校に向かう道すがら、陽翔は昨日の通知のことを考えていた。
「見ている」「近くにいる」――たった二行の文字が、頭から離れない。
スマホを触らずにはいられない衝動と、恐怖心が交錯する。
教室に入ると、いつもと変わらない景色が広がっていた。
窓際の席に座る陽翔の前に、美咲が明るく手を振る。
「おはよう、陽翔!」
彼女の笑顔はいつも通り、太陽のように眩しかった。
でも、どこか違和感があった。
美咲の目の端が、ちらりと陽翔を追うように動いた。
何でもない動作なのに、陽翔の心はざわつく。
自分が意識しすぎなのか、それとも…
そう思いながらも、彼はスマホをポケットに隠す。
授業中、教室の通知音が一瞬だけ頭の中で響いた気がした。
同級生のノートの音、先生の声、窓の外の風――
すべてが少しずれて聞こえる。
違和感は小さく、でも確実に日常を侵食していた。
放課後、陽翔は親友の翔太と図書室で待ち合わせた。
「おい、陽翔、最近変だぞ。顔色悪いし、なんか悩んでるの?」
翔太の明るい声に、少し救われた気がする。
でも、心のどこかで、昨日の通知のことを口に出す勇気はなかった。
ふと、机の上に置いたスマホの画面が光った。
通知ではない。スクリーンに、昨日と同じように白くぼやけたアカウント「Eve」が表示されていた。
画面にはまだ何も書かれていない。
ただ、存在している――それだけで、陽翔の胸は少し重くなる。
「…またか」
呟いた声は、図書室の静けさに吸い込まれて消えた。
周囲はいつも通り、ページをめくる音、机を叩く音、窓の外の木々のざわめき。
でも、陽翔の世界はもう、昨日のあの瞬間から少しずつ、何かがずれているように感じられた。




