第11話:自力での調査
翌日、陽翔は朝から妙に落ち着かない気持ちで教室に入った。
昨日の放課後、教室で目に見える異常を体感したことが、頭から離れない。
机や椅子、ノートの微細な動き――どれも偶然ではないと、陽翔の直感は告げていた。
隣の翔太が、普段通りの声で話しかけてくる。
「おい、陽翔、昨日の帰り道、なんか変じゃなかった?」
陽翔は一瞬答えに迷う。
「いや…別に」
ごまかしの返事をしてしまう。
翔太には、まだ本当のことを話す勇気がなかった。
美咲も、窓際で机に向かいながら小さく笑う。
その笑顔は変わらないが、目の端に微かな違和感があることに陽翔は気づく。
普段なら気づかない仕草が、昨日からの違和感で引っかかるのだ。
昼休み、陽翔はスマホを取り出し、「Eve」のアカウントを再確認する。
やはり文字や通知はない。ただ存在しているだけ。
それでも、胸の奥にざわめきが広がる。
「何か手がかりがあるはずだ…」
陽翔は心の中でつぶやき、机の上にノートとペンを広げた。
周囲のクラスメイトたちの笑い声や足音、光と影の揺れ――
昨日の教室で感じた違和感を、一つずつ記録していく。
「光の角度、机の位置、音のタイミング…」
メモを取るたびに、世界の微妙な歪みが、確かに存在することを実感する。
放課後、陽翔は再び教室に残った。
スマホを手に、昨日の椅子やノートの微細な動きが再現されるか確認する。
小さな音がするたび、息をのむ。
微かに揺れる光の影が、心臓を早鐘のように打たせる。
「…これは、偶然じゃない」
つぶやきながら、陽翔は記録したメモを見返す。
周囲の人間にまだ話せない不安と恐怖、
しかし、自分で調べるしかない現実。
胸の奥にあるざわめきは、恐怖だけではなく、好奇心と決意も帯びていた。
この異常の手がかりを、自分の目で確かめ、理解しなければ――
そう思った瞬間、教室の窓際の光が微かに揺れ、世界の輪郭がわずかに歪む。
陽翔は深呼吸を一つして、次の行動に向けて心を整えた。
世界の端に広がる影――
それを、自分の力で確かめる覚悟が、今、彼の胸に生まれたのだった。




