第1話:フォローすると消える
夕暮れの教室は、柔らかいオレンジ色の光で満ちていた。
雪村陽翔は、自分の席でノートに向かっていたが、文字はあまり進んでいなかった。
前髪を指でかき上げ、目だけを窓の外に向ける。風に揺れる校庭の木々が、まるで生きているかのように光を跳ね返す。
「今日も何もない、かな…」
独り言は小さく、周囲の声にかき消されそうだった。
机の上にはスマートフォンが置かれている。無意識に画面を見て、彼は指先でスクロールする。
画面には普段通りの通知が並ぶ――クラスの連絡、友達からの軽いメッセージ、広告のバナー。
でもその中に、見覚えのないアカウントがひとつだけ混ざっていた。
アカウント名は短く「Eve」とだけ表示され、プロフィール画像も白くぼやけていて何も分からない。
好奇心がむずむずと湧いて、陽翔は思わず画面をタップした。
「…誰だろう」
小さな疑問とともに、フォローのボタンが指先に触れる。
押すか、押さないか。ほんの一瞬の迷いだった。
教室の外では、放課後のざわめきが聞こえる。
陽翔の視線はスマホ画面に釘付けのまま。
その指先が、静かにフォローボタンに触れる――
その瞬間、画面が一瞬だけ明るく光り、通知音が耳に小さく響いた。
「…え?」
振り向くと、クラスの誰もこちらを見ていない。
でも、どこか視線を感じるような不思議な感覚が、陽翔の背筋を走った。
心臓がわずかに早くなる。
普段の放課後とは少し違う、何かがほんの少しだけ、日常をずらしていく。
この感覚――好奇心と、少しの不安が混ざった妙な高揚感――が、陽翔を知らぬ間に引き寄せていた。
「…ただの気のせいかな」
そう自分に言い聞かせ、彼は机に戻る。しかし、スマホの画面に小さな赤い通知アイコンが一つ光っているのを、陽翔は見逃さなかった。




