楽園の門前:不時着と潜入
激しい空中戦を生き延びた『疾風の騎手』は、その名の通り、満身創痍の状態で最後の力を振り絞っていた。
そして、その時、彼らの目の前に伝説の光景が広がった。
「あれが…クラウド・シティ…」
リナが息を呑んだ。
巨大な青いエーテルバリアに覆われたその都市は、遥か上空で静かに輝いていた。それは地上で見たどの遺物とも違い、磨き上げられた純白の合金と、生命力溢れる緑が織りなす、真の楽園だった。
「うおおお!すげぇ!あんな綺麗な場所があるのか!」カイは窓にへばりついた。
『マスター、感情の高ぶりを確認。しかし、冷静に。この都市こそが「オールド・ワールド」の究極のテクノロジー、そして大量の食材を保有する場所です』コッコが核心をつく。
「よし、乗り込むぞ!」
しかし、その決意とは裏腹に、機体が悲鳴を上げた。
バキッ!
「ダメだ!機体が持たないわ!特に左翼の支柱が限界!」リナが叫ぶ。
『警告!エーテルバリア突破は不可能。現在、都市外周の最低部に、外部廃棄物用のアクセスルートを発見しました。直ちに潜水艦モードへ移行し、強行突入します!』コッコがナビゲーションを強制的に切り替えた。
「潜水艦モード?こんなボロボロで!?」
機体は急降下し、エーテルバリアの海へと突っ込んだ。エーテル粒子が水のように機体を叩きつけ、船内は激しく揺れる。リナは必死に操縦桿を操作し、カイは全身のソウル・スパークを船体に叩きつけ、爆散を防いだ。
ゴオオオオオ!ドガン!
彼らは都市の最下層、巨大な廃棄物処理パイプが複雑に絡み合う空間に、文字通り不時着した。衝撃で機体は完全に沈黙したが、彼らは生きていた。
「ハァ…ハァ…無事…ね」リナはよろめきながら操縦席から這い出した。
カイは急いで機体ハッチを開けた。外の空気は冷たく、無菌室のように清潔だが、湿気が強い。周囲は純白のセラミック合金で覆われたパイプと通路ばかりで、生命の気配が全くない。
「ここが楽園の裏側か…」
『ここは「セクターM-9」。都市の維持管理区域です。高セキュリティですが、無人です』コッコが腕のブレスレットから静かに語りかける。『マスター、私のエネルギーは完全ですが、あなたの生命維持に関わる問題が…』
「わかってる、空腹だろ!」
カイは通路を進み、ようやく見つけた「補給ステーション」の表示に飛びついた。そこには、ガラスの筒に入った色とりどりのジェル状の食材が並んでいる。
「これだ!夢にまで見たクラウド・シティの飯だ!」
彼は興奮して一袋手に取り、一気に吸い込んだ。
「…ん?」
カイは動きを止めた。味がない。いや、強いて言えば、科学と虚無の味だ。
『マスター。これは「遺伝子最適化栄養パック」。栄養価は完璧ですが、味覚刺激はゼロです。この都市は、効率を最優先しています』
「嘘だろ…美味いメシがねぇのか!?」カイは天を仰いで絶望した。彼の冒険の動機が、根底から揺らいだ瞬間だった。
その時、通路の角から、小型のドローンが姿を現した。それは昆虫ほどの大きさだが、赤い光を放つカメラで彼らをロックオンした。
「警告。未登録生命体を確認。直ちに排除します」
「チッ、もう見つかったか!」
リナは愛用のスナイパーライフルを構えるが、弾丸はこんな精密機械には不向きだ。
「いいや、俺に任せろ!」
カイは絶望から一転、怒りに燃えていた。美味しくない飯に、腹を立てたのだ。
「魂の…フック!」
カイはドローンにソウル・スパークをまとった拳を叩き込み、それを火花と共に粉砕した。
『対象排除。しかし、この信号はセクター全域に伝達されました。マスター、潜入は成功しましたが、もはや時間的余裕はありません。核心部を目指します』
「わかったよ!」
カイは、味のない栄養パックを噛み締めながら、真の楽園の核心部を目指し、静かで巨大な迷宮の中を走り出した。




