天空への階段:霧の金属都市『エアロス』
貨物列車は、唸りを上げて巨大な斜面を登り続け、ついにスクラップランドを脱した。
シュウウウウ…。
目的地である中継都市「エアロス」のターミナルに到着すると、カイは思わず深呼吸をした。空気が澄んでいる。スクラップランド特有のオイルと錆の匂いがなく、代わりに微かな鉱物の香りがした。
「すごい!空気が綺麗だ!しかも見てみろ、リナ!」
カイは興奮して、ターミナルの隅にある露店を指さした。ガラスケースの中には、色鮮やかな野菜や、脂身ののった本物の肉が並んでいた。
「くっ…この目で見る本物のメシ!」カイの目から熱いものがこみ上げる。
『マスター、エネルギーの安定を確認。この都市は、雲上の覇者の影響下にあるものの、独立した交易都市として機能しています。しかし、我々は列車強奪犯として追われています。目立たないように』コッコが警告する。
「肉だ、リナ!肉を買うぞ!」カイはコッコの忠告を無視した。
リナはため息をつきつつも、カイの空腹を理解していた。「いいわ、私はここで次のフライトの手配を探す。あんたは絶対にトラブルを起こさないで、このバーガーを食べて、すぐ戻ってくるのよ」
リナは持っていた現金のほとんどをカイに渡し、彼を露店に残して人混みの中へ消えた。
カイは早速、人生で初めて見るような大きな肉塊が挟まれた**「エアロス・バーガー」**を注文し、至福の表情でかぶりついた。
ガブリッ!
「うおおお!これが肉!これこそが生きる喜びだ!」
その時だった。カイの背後から、冷たい声が響いた。
「まさか、ここで列車強盗の顔を見ることになるとはな。いいハンバーガーだったか?」
カイが振り返ると、そこにいたのは、全身が黒いレザーと特殊合金で覆われた男。霧のように白い煙を常に発する小型装置を身につけている。「雲上の覇者」直属の追跡者、「霧の猟師」バトスだ。
「貴様らには、我々の輸送ルートを乱した代償を払ってもらう」
「食い逃げは嫌いだ!」カイはバーガーを手に持ったまま、即座に大剣「鉄クズ」を構えた。
バトスは不敵に笑う。
「遅い。ここはスクラップランドじゃない。この霧は、貴様の鈍重なソウル・スパークの感知を無効化する」
バトスが起動装置を作動させると、ターミナル全体が濃い白い霧に包まれた。
「くそ!何も見えねぇ!」カイは視界を奪われ、完全に標的を見失った。
ドォン!
バトスは霧の中から飛び出し、カイの脇腹に音波振動を伴う拳を叩き込んだ。
「ぐっ!」カイは痛みに呻きながら後退する。「コッコ!どうする!霧の中じゃ、鉄クズの勢いが活かせねぇ!」
『マスター、冷静に。霧は視覚を遮断しますが、あなたの「ソウル・スパーク」は熱と動きの痕跡を追うことができます。視覚ではなく、熱の残響に意識を集中してください!』コッコが冷静にアドバイスする。
「熱の残響…!」
カイは目を閉じ、全身の意識をソウル・スパークに集中させた。周囲の冷たい霧の中に、かすかな熱の揺らぎが残っているのを感じ取る。それはバトスが移動した直後の空気の震えだ!
「そこか!」
カイは目を開けることなく、熱の残響が濃い場所へ向けて、水平に大剣を薙ぎ払った。
キンッ!
大剣はバトスの特殊装甲に激突。予想外の正確さに、バトスは驚愕の声を上げた。
「なぜだ!貴様、見えていないはず!」
「そいつは俺の腹時計が教えてくれた!テメェが俺のバーガーを台無しにした熱を、俺のソウルが覚えてんだよ!」
カイは続けて噴射エンジンを起動させ、濃霧の中で見えない追撃を仕掛ける。バトスは防戦一方となり、徐々に後退した。
バトスは撤退を余儀なくされ、捨て台詞を残して霧の中へ消えた。「覚えておけ、小僧!クラウド・シティへは、誰も正規の手段では辿り着けねぇ!」
霧が晴れると、カイは息を弾ませていた。バーガーは潰れてしまったが、勝利は手にした。
その時、一人の小柄な老人が、店の奥からカイの元へやってきた。彼はリナが探していた、この都市の裏社会に詳しい整備士だった。
「やるな、坊主。アンタさんの命を狙ってたのは、ただの追跡者じゃねぇ。さあ、私についてきな。リナが待ってるよ。そして、クラウド・シティへの本当の階段を教えてやろう」
カイは老人の案内に従い、潰れたバーガーを抱きしめながら、霧の都市の奥深くへと足を踏み入れた。新たな敵と、さらなる高みを目指して。




