天空への道:旧時代の列車に乗って
炭酸エナジーを補給し、ソウル・スパークの奔流が体内に戻ったカイは、もはや飢えの亡者ではない。今の彼は、大いなる野望に燃えるヒーロー…いや、空腹を満たすチャンスに燃える青年だ。
「よし、コッコ!クラウド・シティに行くには、どこを通るんだ!」
カイの手首のコッコは、コーラを仮想的に飲み干す音を立てた。
『マスターの身体能力は理論値の92%に回復。次の目的地は、旧時代の大陸間輸送網の中枢、「クロス・レール・ジャンクション」です。』
「クロス・レール・ジャンクション?」リナが眉をひそめた。「それはスクラップランドの最果てよ。あそこは『雲上の覇者』の支配エリアに最も近い。つまり、敵の兵隊がうようよいるってことよ!」
コッコが電子音で注意を促す。
『その通りです。彼らが雲上へ資源を輸送するために使用している巨大貨物列車を強奪します。これが地上を離れる唯一の手段です。』
三人は、錆びた荒野の果てに、巨大な建造物を見た。それは何百もの線路が絡み合い、巨大な円錐状の山を登るように設計された、旧時代の大規模ターミナルだった。そして、その線路には、山一つを運べるほどの巨体を誇る半自動貨物列車が停車していた。
しかし、その周囲には、これまでの盗賊とは一線を画す、黒い装甲服に身を包んだ兵士たちが厳重に警備に当たっていた。彼らは、リナの知る限り最も洗練された「覇者」の正規兵だ。
「チッ、予想以上に多いわね。カイ、私はまず、あの列車の制御盤をハッキングして発車させる!あんたは時間を稼ぎなさい!」リナは背中のスナイパーライフルを構え、物陰に隠れた。
「任せとけ!」
カイは興奮で噴気孔から湯気を出す大剣「鉄クズ」を構え、真正面から突撃した。
「メシの邪魔だ!どけぇぇぇ!」
「侵入者だ!射殺せよ!」
兵士たちはレーザーライフルを一斉に発射する。弾幕がカイに降り注いだが、彼はソウル・スパークを全身に纏い、その光の鎧で弾丸を弾き飛ばしながら突っ込む。
キン!キン!
カイの剣が次々と兵士を薙ぎ払い、装甲を紙のように切り裂く。戦闘は一方的…かと思われた、その時。
列車の最前部から、一人の特殊部隊員が飛び出してきた。彼は全身に銀色の重装甲を纏い、背中には巨大なエネルギーパックが光っている。
「さすがスクラップランドの虫けら。だが、私は違うぞ!」
兵士は奇妙な紋様の刻まれた拳を振り上げた。
ドォン!
カイは剣で受け止めるが、その衝撃はこれまでの敵とは比べ物にならない。
『マスター!分析完了!対象の装甲は、あなたのソウル・スパークを打ち消す**「オーラ・ダンパー」**システムを搭載しています!生身の拳で戦うな!』コッコが緊急警告を発する。
「な、なんだと!力が…抜けていく!」
ソウル・スパークを纏っているはずのカイの腕が重く感じられる。この装甲は、彼の最大の武器である「熱血と勢い」を奪う!
「終わりだ、スカベンジャー!」特殊部隊員は追撃の手を緩めない。
その瞬間、リナの鋭い叫びがトランシーバー越しに響いた。
「コッコ!オーラ・ダンパーの構造弱点は!?」
『…応答。装甲を支えるエネルギーの流れは、右腰のケーブルに集中!持続時間は10秒です!』
「カイ!腰のケーブルを切れ!」
その言葉を聞いたカイの目が、一瞬で状況を理解した。彼は笑みを浮かべ、あえて大剣を捨てた。
「わかったよ、リナ!クソッタレ!ピンポイント・スラッシュ!」
カイは全身のソウル・スパークを右手の指先に集中させ、目にも止まらぬ速さで、特殊部隊員の腰にある細いケーブルに指を走らせた。それは剣の斬撃よりも、正確かつ薄い刃物のような動きだった。
ブチッ!
ケーブルが切断されると同時に、特殊部隊員の装甲から光が消えた。オーラ・ダンパーが停止したのだ。
「な…なぜだ!」
「へへ…アンタは俺の空腹まで消せねぇんだよ!」
カイは、ソウル・スパークの炎を再び全身に爆発させ、ゼロ距離で腹部に渾身の頭突きを叩き込んだ!
ガツンッ!!!
特殊部隊員は装甲ごと吹き飛ばされ、遠くの瓦礫にめり込んだ。
キュルルルル…ゴゴゴゴゴ…
その時、列車の機関部から轟音が響き、巨大な貨物列車がゆっくりと動き出した。リナがハッキングに成功したのだ。
「カイ!早く飛び乗って!」リナが叫ぶ。
カイは急いで巨大な貨物列車の梯子に飛びつき、動き出した列車と共に上昇を開始した。列車は巨大な山を登る線路を唸りを上げて進み、スクラップランドの赤い空を後にする。
眼下に広がるのは、いつもの錆と砂塵。しかし、列車が登る先には、雲を突き抜け、青く澄んだ空と、伝説の地「クラウド・シティ」を予感させる、新たな世界が待っていた。
「よっしゃあ!」
カイは、吹き付ける風の中で拳を握りしめた。




