新しい時代:シチューと再構築
天空都市クラウド・シティに戦いの傷跡が残ってから、既に半年が経過していた。
都市の外殻は無残に崩壊し、青いエーテル・シールドは未だに再起動されていない。しかし、人々はもうパニックにならなかった。彼らは、リナの指示のもと、瓦礫を運び、損傷した外壁に新しい金属を溶接していた。作業は遅く、決して効率的ではなかったが、彼らの瞳には、かつての調和の時代にはなかった、確かな意志の光が宿っていた。
「リナ。セクター2の復旧は予定より300%遅延しています。住民の士気は高いですが、技術の習熟度が…」
コマンドルームの隅で、コッコが損傷したプロセッサを修理しつつ、かすれた電子音で報告した。
リナは設計図から顔を上げ、微笑んだ。「いいのよ、コッコ。彼らは自らの手で街を直している。非効率こそが、私たちが守るべき自由の証なの」
リナは、カイが命を賭して破壊したエーテル発電所の代わりに、太陽フレア蓄電池群の出力を、都市の基盤システムに慎重に分配していた。彼女は知っていた。エーテルに頼りすぎれば、再び宇宙の監視者に狙われる。これからは、地上と協力し、旧時代の技術を最大限に活用する、新たな道を探らなければならない。
その頃、カイは、街の最も賑やかな場所、中央広場にいた。
彼の「王の仕事」は、戦うことから、食料の確保へと変わっていた。彼はスクラップランドの仲間たちと連絡を取り、リヒター艦隊の残骸や都市のジャンクパーツを地上と交換し、新鮮な肉と野菜を手に入れていた。
「今日のシチューは、地上で採れたジャガイモがたっぷりだ!みんな、好きなだけ食ってくれ!」
住民たちは歓声を上げ、大きな鍋の周りに集まった。彼らは、カイを英雄として祭り上げるのではなく、**『シチューをくれる親愛なるリーダー』**として愛していた。
「カイ!」
リナがタワーから降りてきた。彼女は顔に油をつけながらも、疲労の中にも満足感を漂わせていた。
「リナ。ちょうどいい。お前も食え」カイは彼女にシチューの皿を差し出した。
リナは皿を受け取ると、ゆっくりと食べ始めた。「ねぇ、コッコの解析によると、清掃部隊の残存システムは、今回の件で大きな衝撃を受け、地球に対する警戒レベルを一時的に解除したそうよ。少なくとも、今後数年間は、大規模な攻撃はないわ」
「そうか。少しはゆっくりできるってわけだな」
カイは、空を仰いだ。以前なら、そこにあるべき秩序の影に気づくこともなかった。しかし、今は違う。彼は、宇宙の広大さと、その冷酷な「秩序」を知った。
「なあ、リナ」
「何?」
「この街の壁はボロボロだ。いつか、また奴らが来るかもしれない」
リナは、シチューを一口飲み込んだ。「そうね。でも、その時は、私たちが戦うわ」
カイは、彼女の自信に満ちた表情を見て、静かに笑った。
「ああ。俺は、この最高の美味いシチューを守るためなら、宇宙だって敵に回せるってことを、もう知っちまったからな」
天空都市は、もう誰にも支配されない。「錆びた時代」は終わりを告げ、「人間の意志の時代」が、この雲の上から、静かに、しかし力強く始まろうとしていた。その力は、エーテルでも、秩序でもなく、たった一杯の熱いビーフシチューの中に宿っていた。




