30日間の試練:覚醒と超圧縮
宇宙からの清掃部隊の到着まで、カウントダウンが始まった。
クラウド・シティの雰囲気は一変した。もはや、それは支配されたユートピアでも、逃げ惑う難民キャンプでもない。**「美味いビーフシチュー」**を守るという共通の目的のもと、市民は一つにまとまり、巨大な要塞へと変貌しつつあった。
リナはコマンドルームに新たな区画を作り、エーテル防衛システムを監視していた。彼女は古い防衛記録を漁り、絶望的な事実を掴んだ。
「ダメよ、コッコ。現在のエーテル・シールドの出力では、奴らの星間兵器は一撃で貫通するわ」
『リナ。唯一、可能性のあるプロトコルを発見しました。「超圧縮防御フィールド(スーパー・コンプレス・フィールド)」の設計図です。シティの全エーテル出力を、信じられないほど高密度な層に変換する技術です』
「超圧縮…!でも、それを維持するには、エーテル発電所の流れを、一瞬も乱さずに制御し続ける必要があるわ。人間の手では無理よ」
リナはカイに目を向けた。その制御を担えるのは、今や「魂の共鳴」を会得した、彼だけだった。
カイのトレーニングは、エーテル発電所の最も不安定なコア・チャンバーで行われていた。彼はエーテル装甲を装着し、周囲を流れる生の、制御不能なエーテル流に身を晒していた。
「ぐっ…!力を…制御しろ…!」
エーテルは、まるで荒れ狂う海のように彼の装甲に叩きつけられ、その接続を試す。これまでのカイの戦い方は、ソウル・スパークを爆発的に解放し、混沌と野蛮さで圧倒するものだった。しかし、この訓練の目的は逆だった。
『マスター。宇宙の脅威に対抗するには、あなたの力は精密でなければなりません。混沌を制御し、一点に超圧縮するのです!』コッコが指示を出す。
カイは目を閉じ、自身の奥底にある混沌の炎を、一点の針のように細く研ぎ澄まそうとした。それは、彼自身の本質と戦うことだった。力を解放したいという欲望と、それを厳密に抑え込むという理性の激しい衝突だ。
皮膚が裂け、装甲の継ぎ目が火花を散らす。彼の体は、純粋なエネルギーの過負荷によって悲鳴を上げていた。
数日後。
激しい試行錯誤の末、ついにその瞬間が訪れた。
カイは全身のエーテルを、右手の拳へと集めた。通常ならば、この量のエネルギーは即座に大爆発を引き起こす。だが、今、エネルギーは圧縮され、拳の周りに、青く微動だにしない、完璧な静止点を作り出していた。
「これが…魂の超圧縮…!」
エーテルはもはや熱や爆発ではなく、絶対的な硬度を持った塊となっていた。
その圧縮が成功した瞬間、エーテル装甲の隠された機能が起動した。装甲の腕部に、細長く伸びた砲身が展開した。
『マスター!装甲の予備兵器、エーテル・レールガンの射出機構が活性化しました!超圧縮したエーテルを、光速に近い速度で射出可能です!』
カイは、そのレールガンを空に向け、圧縮したエーテルを解放した。
ズドドドドドドン!!!
砲身から放たれた青い光線は、音もなく天空を貫き、雲の層を巨大な穴で開けた。それは、彼のこれまでの攻撃とは比べ物にならない、精密で絶対的な破壊力だった。
「これで、遠くの敵も撃てるな…」
トレーニングが終わり、カイとリナがコマンドルームに戻ると、コッコが警報を鳴らした。
『マスター!リナ!宇宙からの反応!メイン・プローブ(主要探査機)ではありませんが、高速偵察ドローンがシールド圏内に侵入しました!』
カウントダウンは、ちょうど15日を指していた。
画面に映し出されたドローンは、人類の兵器とはかけ離れた、銀色の流線型をしていた。それは何の熱も持たず、ただ冷たい光を放ちながら、シールドの耐久度を試すように、レーザーを放ってきた。
「くそっ、様子見か!」カイは装甲をチェックした。
リナは冷静に指示を出した。「カイ、超圧縮防御フィールドの最終調整に、あと3時間はかかるわ。ドローンの侵入を防いで!ここで奴らに、私たちの本当の力を見せつけるのよ!」
カイは、エーテル装甲のレールガンを構えた。新たな、そして最も過酷な戦いが、今、始まった。




