静かなる日々:天上都市の再建と星々の視線
リヒター艦隊を退けてから数日が過ぎた。天空都市クラウド・シティには、つかの間の平和が訪れていた。
都市の表側では、かつて無感動だった住民たちが、今や積極的に都市の修復に参加していた。彼らはカイの単純な約束—「美味いシチューを守る」—のために、初めて自らの意志で動いていた。
カイは、その光景に落ち着かなかった。彼は中央タワーの屋上で、大剣の手入れをしながら、住民たちが差し入れに来る熱々のビーフシチューを受け取っていた。
「マスター。またシチューですか。今日の摂取カロリーは基準値の3倍を超えています」コッコが呆れたように言った。
「うるせぇ。これは平和の味だ。味わっとけ」
カイは、感謝の言葉を伝える住民たちの素朴な笑顔に、まだ慣れずにいた。彼らはカイを、救世主としてではなく、**『美味しいご飯をくれるリーダー』**として尊敬していた。
その間、リナはコマンドルームに篭りきりだった。彼女は、戦争終結時に検出された、あの未知の衛星信号の解析に集中していた。
「コッコ、あの信号の出所は?」
『地上のいかなる勢力とも一致しません。旧時代の地球軌道外監視記録にも存在しません。しかし、その信号強度と技術レベルは…オールド・ワールドの科学を遥かに凌駕しています』
リナは、カイがエーテル装甲で戦った際に発生した、異常なソウル・スパークの増幅データと、衛星の観測記録を重ね合わせた。
「…コッコ、この衛星は、私たちがエーテルを制御不能なレベルで使ったことに対して反応したのね」
『その通りです。ヘリックス博士のログ断片と照合したところ、旧時代の科学者たちが噂していた**「監視者ネットワーク(ザ・ゲイザー)」**の一部である可能性が極めて高いです』
監視者ネットワーク。それは、人類がエーテル技術を兵器として宇宙に持ち出さないよう、遠い星々から地球を監視する、非人類的なシステムだとされていた。
「ドクター・ヘリックスが必死に都市のエネルギー効率を上げ、エーテルの使用を隠蔽していたのは、この監視者に気づかれないためだったのね…」リナは全身に寒気を感じた。
『リナ。信号の解読が完了しました。これは警告であり、同時に行動宣言です』
コッコの電子音が緊迫した。「内容:『観測目標。規定値以上のエーテル・ノイズを発生。種族カテゴリー**「危険」**に分類。排除プログラムを発動する』」
「排除プログラム…!?」
『はい。彼らは、我々を宇宙規模の脅威とみなし、この都市を、そしてエーテル技術の使用を根絶するつもりです。現在、最も近いアセンブリ・ポイントから**清掃部隊**が向かっています』
「どれくらいの時間がかかるの?」リナは声を震わせた。
『彼らの推進力を逆算すると…到着まで最短で30日。長くて60日です。彼らは急いでいません。我々の抵抗が無意味だと確信しています』
たった30日。天空都市のつかの間の平和は、宇宙からの冷徹な宣告によって打ち砕かれた。
リナはコマンドルームを飛び出し、シチューを食べているカイのもとへ走った。
「カイ!大変よ!今度の敵は、リヒターなんかじゃないわ!宇宙よ!私たちは…星の監視者に目をつけられた!」
カイは最後のスプーン一杯のシチューを飲み込み、その深刻な報せを聞いた後も、驚いた様子はなかった。
「ふむ。つまり、この美味いメシが、宇宙人に狙われたってことか?」
カイは立ち上がり、エーテル装甲の修理が終わった格納庫を振り返った。彼の顔には、新たな決意が宿っていた。
「上等だ。地球で一番美味いシチューを奪おうなんて、どの星の奴だろうと、**俺が許さねぇ。**リナ、コッコ。新しい目標だ。この街を、宇宙からの攻撃にも耐えられる、最高の要塞に変えるぞ!」
天空都市クラウド・シティは今、その存在と、その自由、そしてその最高の食事を賭けて、全宇宙を相手に戦う準備を始めた。




