新たな支配者:雲上の船と飢えた群れ
中央タワーの崩壊から数時間。クラウド・シティは沈黙していた。システムは停止し、完璧だった光と調和は失われた。
カイは、静かになったコア・ユニットの部屋の隅で、幸福の絶頂にいた。目の前には、第12章で手に入れた**『極上ビーフシチュー缶』**が積み上がっている。
「う、うめぇええ!」
缶を開け、熱も通さずにスプーンでシチューを口に運ぶ。その濃密な肉の旨みと、スクラップランドでは忘れ去られていた「味」の記憶に、カイの目は潤んだ。
『マスター、現在のカロリー摂取量、推定5000キロカロリー。目標達成おめでとうございます』コッコが静かに祝福した。
「ああ、コッコ…ありがとう!お前のおかげで、俺の人生は報われた…!」
しかし、リナには食べる余裕などなかった。彼女は中央コアの破片にデバイスを繋ぎ、必死に都市システムの残骸を解析していた。
「問題はシチューじゃないわ、カイ!コアの破壊で、都市全体が緊急停止した。生命維持、動力、全てが危ういわ。私たちがこれを安定させないと、シティ全体が地上に墜落する!」
そして、さらに大きな問題が、都市の表側で起こっていた。調和フィールドから解放された住民たちは、混乱と恐怖に包まれていた。彼らは長年の精神操作から覚醒し、何をしていいかわからず、ただパニックに陥っていた。
『リナ。外部探査レーダーが異常を検出しました』コッコが緊迫した声を上げた。『地上から、大規模な飛行目標群が急速に接近しています。その数、推定300機以上!』
「まさか…!雲上の覇者の残党?」
『違います。信号は旧式。すべてスクラップランドの盗賊団、スカベンジャー、そして武装勢力です。都市の混乱を察知し、資源を強奪するために昇ってきています!』
リナは絶望した。「嘘でしょ…。私たちが解放したせいで、この街は飢えたハイエナの餌食になるなんて!」
その時、リナのデバイスに古い通信が入った。それはエアロスで出会った老整備士、ジジイからだ。
『聞こえるか、リナ!コア破壊のショックウェーブは地上にも届いた!シティは**「獲物」**として認識されたぞ!すぐに外周の防御システムを探せ!』
「防御システムなんて、ヘリックス博士が全て効率化のために停止させてるわ!」
『バカ!旧式の防御砲台は、電源すら入ってない状態で残っているはずだ!あれは自動システムじゃない。誰かが手動で操作する必要がある!』
リナは即座にシステムの残骸から、その旧式砲台の位置を特定した。それは都市の最も脆弱な外周メンテナンスプラットフォームにあった。
「カイ!聞いているの!?あなたを呼んでいるわ!」リナがビーフシチューを食べているカイに怒鳴った。
「…シチュー食ってるところ悪いが、聞いている」カイは立ち上がった。空腹は満たされたが、その目はまだスクラップランドの野性を宿している。「今度は何だ?」
「今度は防衛よ!あんたが手に入れた『メシ』と、この街の平和を守るの!外周プラットフォームへ急いで!昔の対空砲台を起動させるわ!あんたのソウル・スパークと鉄クズで、それまでの時間を稼ぐのよ!」
カイはビーフシチューの缶を懐にしまい込んだ。
「仕方ねぇな。せっかく手に入れた美味いメシが、汚い野郎どもに奪われてたまるか」
カイは外周のメンテナンスプラットフォームへと走り出した。彼の背後には、空に群がる飢えたハイエナたちの影。彼の前に広がるのは、白く輝く都市のフチ。
彼は今、ただのスカベンジャーではなく、この空の船、クラウド・シティの最初の守護者として、大剣を構えた。
メンテナンスプラットフォームに辿り着いたカイの眼前には、汚いエンジン音を立てた十数機のスカベンジャーの小型飛行艇が既に接近していた。その先頭には、見覚えのあるチェーンソーを振り回す大男の姿!
「ヒャッハー!クラウド・シティは俺たちのモンだ!鉄クズども、シチューをよこせぇ!」
それは、かつてカイに敗れた錆喰い鳥のリーダー、ギルだった。
「テメェらか。いいだろう…!このビーフシチューの門は、そう簡単に通らせねぇぞ!」
カイはジェット大剣を噴射させ、新たな時代の、最初で最も熱い防御戦に突入した。




