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《テール=エクリプス》~君が物語を描くことをやめた、その瞬間――世界は崩れはじめた。~  作者: たまごもんじろう
第4章 魔界『ヘルヴァナ=アスタロディア』

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第68話 創造主と対するは、被創造物

 「なら、聞きますけど……どうやってルシモディア先輩を倒したんすか??」

 修一は刃を受け流しながら、呼吸すら乱さず答える。


「毒だよ。

 この右腕の刃に、知り合いのスライムの粘液を仕込んだんだ」


 ザルギエスの顔に、わずかな驚愕の影が走る。

 修一は淡々と言葉を重ねた。


「っていっても、ルシモディア以外の断罪の四骸には、効かないから安心しろ。

 あいつは能力こそ大層だが、身体そのものは人間と同レベルだ。

 

 だから、状態異常なんてのは通りやすい。

 そこに――増殖し続けるスライムの粘液を与えることで……あと小一時間は、悶絶フィーバーってわけだ」


 修一は首だけ後ろへ返し、倒れたルシモディアを一瞥する。


「一生イってろ、敏感野郎が」

 

 薄い笑みが口端に浮かぶ。


 だがそのとき、冷たい声が修一の耳朶を打った。

「麿たちの弱点を把握しているとおっしゃいましたが……。

 では、星の質量を前にして、どう対処いたすのですか、創造主様?」


 ヴァルティーアの声音と同時に、その死霊――惑星の残骸から生まれた、ぷらねーたくんが襲来する。

 振り下ろされる質量の奔流。


 修一がすんでのところで身をひねると、その背後で地面が火山のカルデラのように抉れた。


 続けざまに、ぷらねーたくんとの一対一の撃ち合いが始まる。

 修一の猛攻は確かに鋭いが、しかし死霊の一撃はあまりにも重く、そのまま直撃した修一の身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

 顔は血に染まり、足取りはふらつく。

 それでも、修一はひざを折らず立ち上がる。


 ヴァルティーアとぷらねーたくんが、ゆっくりと修一の前に立ち塞がる。

 背後でザルギエスとネクロフィリアが、二人の戦いを邪魔せぬよう距離を取った。


 勝敗は、誰の目にも明らか――修一は、このまま死ぬ。

 そう思われた、その瞬間だった。


 修一が、肺の底から大きく息を吸い込んだ。


 たった一呼吸。

 

 だがその瞬間、修一の全身から放たれる気迫が急激に膨れ上がり、空気が震えた。

 さっきまでの数十倍、いや数百倍にまで跳ね上がる。


 そして修一は、自嘲するように笑い出した。


「……フッ。あっはっはははは! 馬鹿だ。馬鹿だよ、俺は!

 まさか……深海の奥底にずっといたせいで、“呼吸”を忘れてしまっていただなんてなッ!」


 ネクロフィリアが目を見開く。


「呼吸を……今までしていなかっただとッ!」


 『ぷらねーたくん』が再び襲いかかる。

 しかし修一は軽快に歩くように、流れるようにその巨体の横をすり抜けた。

 その刹那、進行方向はまっすぐヴァルティーアへ。


「ヴァルティーア! いかん、下がれッ!」

 父であるネクロフィリアの咆哮が響く。


 だがその警告より早く、修一の左拳がヴァルティーアに迫る。


「たしかにお前の死霊は、星の質量を帯びた、完全無欠な存在かもしれないが……お前はそうじゃねぇだろ? ヴァルティーア??」


 静かな呟き。

 次の瞬間、拳がヴァルティーアを打ち抜き、軽々と吹き飛ばした。


 ネクロフィリアはすぐに駆け寄り、倒れた娘を優しく抱きとめ、そのままそっと地面に寝かせた。


 そして背後では、母であるヴァルティーアが意識を失ったことで、

 『ぷらねーたくん』の巨体が光の粒子へと崩れ、静かに消えていった。


 ヴァルティーアが傷つけられたことで、ネクロフィリアの奥底に眠る怒りが、ゆっくりと、しかし確実に燃え上がっていった。

 骨の指が鎌の柄を締め上げ、軋む音すら怒りの脈動に聞こえる。


 次の瞬間、彼は地を削るほどの勢いで修一へ突進した。


 黒い刃が唸りを上げる。

 修一は迎撃しつつも、その猛攻の圧に後退を余儀なくされた。

 

 さらに背面からは、ザルギエスの拳が差し込む。

 面倒極まりない状況だ。


 ネクロフィリアの声は、鬼気迫る低音へと変わっていた。


「いくら創造主殿であろうと……ヴァルティーアを傷つけられたのでは、吾輩とて黙っておれんッ!

 かような――“被創造物”を、貴殿は許してくださりますかッ!?」


 修一は刃を弾き返し、真正面からその怒りに向き合う。瞳だけは鋭く静まっていた。


「あぁ。そうでなければ魔王の前哨戦にもならねぇ。

 ……()()気で来やがれッ!! ネクロフィリアッ!!!」


 その言葉に呼応するように、ネクロフィリアの骨で出来た右手が、禍々しい光を帯びる。


「――万死刻印・|しめやかなる寝息《ラクリメ=ネクロ=タナトリエ》ッ!」


 放たれた呪文と同時に、周囲へ漆黒の闇が奔り、無数の“死因”が混ざり合う濃密な死気が渦を巻いた。


 ネクロフィリアは鎌を構え、ゆっくりと口を開く。

 声は静かだが、その内実は殺意の圧だ。


「吾輩が所有する――病死、餓死、焼死、窒息、溺死、圧死、老衰、毒死……

 あらゆる“死”が詰まった災厄の霊圏ぞ。さて、創造主殿……生きていられるかな?」


 修一の周囲を闇が閉ざす。逃げ場はない。

 “死因”が重なり、魂すら削る闇へと包まれた。


 そして。


 ――血が、飛んだ。


 闇の中心で、修一が笑いながら、右腕の刃で自らの首を掻き切ったのだ。


 ネクロフィリアはそれに気づかず、自らの過ちを悔いるようにして、顔に手を当てる。

 「……あぁ、吾輩はなんてことを。

 よもや、この世界の創造主を手にかけるとは……」


 その横でザルギエスが、ただひとり、修一の異様な行動の意味に気づいていた。


「ネクロフィリア先輩ッ! 修一先輩はまだ!!」


 警告は間に合わなかった。


 闇の残り香を裂き、修一が姿を現した。

 殺気ではない。


 静かな確信を宿した眼で。


「な、な……なぜ生きて……!?」

 ネクロフィリアは、当然のように驚愕を隠せず、そう言う。

 だからこそ、修一はからくりを説明する。


「死と同時に――“自殺”した。

 それにより、“死を無効化”したんだよ。

 マイナス×マイナス=プラス……その要領でな」

 

 そして一撃。

 豪快なまでの、右腕から振り放たれた一撃が、ネクロフィリアの胸部を砕き、骨の身体を彼方へ吹き飛ばした。


 ネクロフィリアは地面を転がり、骨粉が辺りに散りゆく中、意識を失った。

 残る断罪の四骸は――ザルギエスただ一人。


 だというのに、彼はいつもの調子で修一に話しかけてくる。


「へぇ~、修一先輩。ボクちゃんの想像を、遥かに上回るほど強くなりましたねぇ。

 呼吸を忘れるぐらいでしたが……どんだけ深海に籠もってたんっすか?」


 修一は血を滴らせたまま、淡々と答える。


「さぁな。俺の感覚だけでいえば……数十年。

 いや、もうひと桁上かもしれないな」


「えぇ!? 数百年規模で、海の底に!?

 あの過酷な環境下で、辛くなかったんっすか??」


 修一は苦笑しながら首を振る。


「あぁ。イグフェリエルの過去に同調した時に比べりゃ、なんてことはねぇさ。

 それよりも――」


 右腕の刃を向ける。


「時間稼ぎは、これで終いだ。

 さっさと決着をつけるぞ、ザルギエスッ!」


 するとザルギエスは、わざとらしく頭を掻きながら笑った。


「あちゃっ! バレちゃってました??

 時間を稼いで、ボクちゃんの力を、もっと強めようと思ってたんですが!」


 そして――刃と拳が交差する。

 

 四本腕のザルギエスの猛攻。

 修一の一撃一撃が、火花を散らし乱打される。


 激烈な戦いの幕が、ついに切って落とされた。


 修一は胸の奥で、ザルギエスの異能を静かに反芻する。

 ――“死”へと歩を進めるほど、跳ね上がる身体能力。

 

 今はネクロフィリアの恩恵で、その“死”の淵に辿り着いている。

 だからこそ、奴の力は刻一刻と、指数関数じみた速度で肥大していく。


 (……もちろん、抜け道がないわけじゃない。

 単純な理屈だ。奴の力が完成する前に叩き折ればいい。

 だが、――。)


 修一は心の中で、そう思考していたが、それを遮るように空気が震える。


 ザルギエスの拳が、いままでとは違う質量で迫る。

 対等に渡り合えていたはずの衝突が、ひとつ、またひとつと重さを増し、修一の身体を押し返す。

 

 (――だが、既に時間が経過しすぎたんだ。力が完成しつつあるほどに。

 

 もちろん、早いうちに仕留めなければならないと、理解していたが……

 あの混戦の中、ザルギエスだけを早く無力化させるなど、どだい無理な話だったのだ)


 それでも修一は、ルナテミスの父、国王アルヴァレイン・セリューヌと研ぎ澄ませた技術を以て、押し返す。

 

 刃と拳が閃光の尾を引くように撃ち合われ、ついに奴の懐へと入り込む。

 ――以前と同じ、不可避の一撃。

 

 右腕の刃を、首へ。

 刃は肉を裂き、半ばまで沈む。

 だが。


 迷い。

 ほんの一瞬、その揺らぎが刃を止めた。


「……修一先輩、何してんすか」


 ザルギエスの声は、もはや今までの軽薄さを、一滴も含んでいなかった。


「どうして、刃を途中でなんか止めんすか。

 

 ……その程度の覚悟じゃあ、魔王様なんか、倒せねぇぞぉぉおおお!!」


 怒号が獣の吠え声に変わるのと同時、拳が乱打の雨となって襲いかかった。


 胸骨を撫で潰すような衝撃。

 みぞおちが裏返るほどの打撃。

 

 肩が、まるで関節ごと外に弾け飛びそうな勢いでへし折られ――

 最後に、視界そのものを殴り砕く“顔面への一撃”。


 世界が回転した。

 地面から離れたと気づくのに、数拍の遅れがあった。


 そして、衝突する。


 瓦礫の山が背中を、肋骨を、肺そのものを削り取る。

 骨が擦れる、内臓が揺れる、皮膚が裂ける。


 そんな生々しい音が、――修一の身体から聞こえる。


 廃墟の壁が崩れ、瓦礫の破片が雨のように降り注いだ。

 土煙が、荒く乱れた呼吸の隙間に入り込み、喉の奥をざらつかせる。


 金属にも似た、鉄の味が舌に広がる。

 血泡が、ひゅっと喉の奥で弾けた。


 それでも――修一の視線だけは、揺れなかった。


 土煙の向こう。

 仄かな闇を裂くように、重い足音が、ひとつ、またひとつと近づいてくる。


 ――ザルギエス。


 修一は、痛む左腕を持ち上げ、刃へと変じた右腕の側面をそっと撫でた。

 

 まるで旧友に触れるように。

 その声は低く、だが確固としていた。


「……行けるか、黄昏」

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