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《テール=エクリプス》~君が物語を描くことをやめた、その瞬間――世界は崩れはじめた。~  作者: たまごもんじろう
第4章 魔界『ヘルヴァナ=アスタロディア』

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第65話 断罪の四骸、ここに在りッ!!!

 四つの骸が、ゆらりと輪を描く。

 ルシモディア、ザルギエス、ネクロフィリア、ヴァルティーア――断罪の四骸が、獲物を囲む獣のようにエリザシュアたちを包囲していた。


 エリザシュアは胸の奥がひやりと凍るのを覚える。

 (ザルギエスひとりでも、分が悪かったというのに……四骸すべてが相手……)

 

 正面からぶつかれば確実に負ける。

 だからこそ、彼女は一縷の望みに賭けた。


 「……断罪の四骸。

 貴方たちと冥府で触れ合う中で、そこにはわてちしたちの想像した、別の姿がありました。

 だから――聞かせてください」


 その声音は震えていなかった。だが必死さが滲み出る。

 「魔王は、この世界を終焉へ導こうとしている……! いえ、きっとそれ以上のよからぬ策略を巡らせている!

 ――貴方たちは本当に、それで宜しいのですかッ!!」


 空気を裂くような叫びに、一瞬の沈黙。

 だが真っ先に笑いだしたのは、青い継ぎ肌の女――ルシモディアだった。


 「えぇ~~っ? これより混沌? そんなの、最高じゃンッ!」


 説得が通じないと悟り、エリザシュアは唇を噛む。

 代わりにイグフェリエルが一歩前へ出た。


 「断罪の四骸――ネクロフィリア=シャリンハイム!

 世界が終焉に沈み、ヴァルティーアが……貴様の大切な“娘”が、死んでもよいのか!」


 その剣のような声に、骸の王ネクロフィリアの表情が揺らいだ。

 そして、岩を擦るような低い声を漏らす。


 「……確かに貴様の言うとおりだ、救星神よ。

 吾輩は娘を愛しておる。死んでほしくなどはない。

 

 だが――」


 次の瞬間、声音が鋭く跳ねあがる。


 「だが、魔王の力は常軌を逸している。

 吾輩たちには、逆らい、仇なすことなど到底出来ないのだ。

 たとえあやつが、忌まわしい目論みを抱えていようとな!」


 イグフェリエルはその言葉に確信した。

 

 彼らは理解している。

 本当は、抗うべきなのだと。


 だが、魔王への恐怖が支配している。


 その空気を割って、ザルギエスが軽薄に笑った。


 「ま、そういうことっすよ! ボクちゃんらの意思なんて、もはや関係ないんっす。

 魔王様の足元にも及ばない、ボクちゃんら断罪の四骸を軽々と打ち負かすぐらいでなければ、魔王城に行く資格なんてありません!」


 エリザシュアたちは静かに構え直した。

 だが、ザルギエスは続けて、ふいに隣を向く。


 「ねぇ、ネクロフィリア先輩。心臓潰されて死んだ人って、います?」


 「あぁ」


 ネクロフィリアは手を翳し、黒い闇でザルギエスを包む。

「――骸録・死相抹消(デスグラフ・デリート)=心圧死」


 ザルギエスは――自分の胸に手を突っ込み、心臓を引き抜いた。

 そして、握り潰した。


 血が零れ、肉が千切れる音さえも鮮明だった。


「――|終端狂騒《エンドロール=カプリチオ》」

 そしてザルギエスは死ぬ直前、確かにそう呟いた。


 そして、死んだ――。

 

 と誰しもが思ったが、不思議なことに彼は――生きていた。

 それどころか、溢れだす気配は桁違いに跳ねあがっている。


 エリザシュアはこの緊張下で、必死に思考を張り巡らせる。


 (ネクロフィリアは収集した『死』をして、死因を無効化できる。

 そして実際にザルギエスの『死』を無効化した。でも、その行動に何の意味が……)


 そして、気づく。


 今のザルギエスは生きているが、本来であれば死んでいる状態。

 ――つまり『死』に辿り着いてしまったのだ。『死』に近づくほど身体能力が跳ね上がるザルギエスは。


 ザルギエスが、狂気そのままの笑みを浮かべた。

 そして心拍のリズムを刻むようにして、ザルギエスの覇気が強まる。


 「ってことで、殺り合いましょうよ――すべての命が朽ちるまで」


 そして、戦いの火蓋が裂けるようにして落ちた。


 最初に地を蹴ったのは、戦騎士長グラウスだった。

 炎で皮膚が爛れ、血が滲み、それでも片手の大剣を振りかぶりネクロフィリアへと突進していく。


 彼の思惑は明確だった。


 もし断罪の四骸が、束になってひとりずつ潰していこうものなら、容易く敗北を喫する。

 そう考えたグラウスは、断罪の四骸をそれぞれ分断し、一騎討ちで戦おうとしているのだ。


 たしかにそれでも、勝機は薄い。

 だが、僅かながらも存在している。


 その意図を感じとったエリザシュア、イグフェリエル、シャーリアは反射的に動く。

 

 エリザシュアはルシモディアへ。

 イグフェリエルはザルギエスへ。

 シャーリアはヴァルティーアへ。


 四つの軌跡が交差し、混戦は一瞬にして解体された。

 戦場は四つの死へと割れる。


 ◇


 グラウスの大剣が唸り、骨と刃が火花を散らす。

 その剣速は、大剣とは思えぬ軽快さだった。老いた肉体を焙る炎の痛みすら、戦士の執念がかき消す。


 「ぬ゛ッ――!」


 何合目かわからぬ激突の最中、グラウスは一瞬の隙を見つけた。

 そのまま刃をねじ込み、ネクロフィリアの肋骨を粉砕する勢いで貫く。


 確かな手応えがあった。


 だが――。


 「……見事だ」


 低く、深く、死の底から響くような声が返ってきた。


 「寿命百にも満たぬ人間が、この剣戟よ。吾輩が人なら死んでいた。

 だが――」

 ざり、と鎌の両刃が闇を吸う。


 「――その死は、すでに記録してある」


 ネクロフィリアの大鎌が、無防備になったグラウスへとうねりを上げる。


 ◇


 ヴァルティーアの死霊たちが群れのように押し寄せる。

 

 シャーリアは竜の爪で薙ぎ、牙で砕き、炎で灰へと返した。

 そうして、すべての死霊を祓ったものの、息が荒さを増すばかり。


 竜の巨体とはいえ、冥府の死霊は質が違う。


 そんな彼女に、ヴァルティーアは上品な拍手を送った。


 「お見事です、シャーリアさん。

 今の死霊たちは、かつて冥府に名を轟かせた猛者たち。

 ですが……中々にやりますね」


 その声音は優雅。

 だが瞳は死そのものだった。


 そして――ふっと微笑む。


 「では、こちらもそろそろ、“全霊”をもって挑ませていただきましょう」


 手が胸に添えられ、彼女が呟く。


 「――召従・星屑崩胎エクリプス・レミナンス


 次の瞬間、ヴァルティーアの腹が不自然なほど膨れ上がり、周囲の空気が歪曲する。

 そして――破裂。


 どちゃり、と嫌悪感を催す音が響き、返り血とともに、何かが産み落とされた。


 シャーリアは竜の姿のまま、息を呑んで固まった。

 存在そのものが本能を否定する。


 そんな()()だった。


 ヴァルティーアは返り血を涼しい顔で拭いながら、解説するように言葉を紡ぎ始める。


 「この子はですね……約十数億年先の、ある星の残骸を核として生み出した死霊です。

 無論、惑星そのものに挑むことと、同義ですので、油断なさらないように」


 そして、悩むようにして顎に手を当て、少し首を傾げる。

 「さて……この子の名前はどうしましょうか。

 ……そうですねぇ、惑星から名をとって。では――『ぷらねーたくん』にしましょう」


 ヴァルティーアは優しく命じた。

 「ぷらねーたくん。シャーリアさんを――倒してあげなさい」


 ぷらねーたくんは、意外にも透き通るような美声で答えた。

 「はい。了解いたしました、母刀自よ」


 次の瞬間、影が跳ね、空間が破れた。


 ぷらねーたくんは一瞬でシャーリアの頭上に舞い上がり――

 竜の頭を、地面へと叩きつけた。


 ◇


 天へと駆け上がったイグフェリエルの翼が、星光を散らして広がる。

 

 彼女は空中で鋭く旋回し、聖槍をザルギエスへと目掛けて、幾万と放ちながら雲間を渡っていく。

 だが――その槍は一度も届くことなく、傷一つすら刻めない。


 『死』に辿り着いたことで更に強化された、彼の速度に、聖槍が全くもって、追い付いていないのだ。


 (……やはり、分が悪い)


 彼は自慢の力で、廃墟の瓦礫を、何度も何度も投擲してくるが、

 少しずつ距離を取り、冷たい雲を切り裂くように滑空して逃れる。

 

 それを下から眺めていたザルギエスは、地上を疾走しながら嘲るように叫んだ。


 「いつまで逃げてばっかなんっすかァ! イグフェリエルちゃぁん!

 今更、こんな槍なんて――食らいませんよぉ!」


 そう叫び、彼は、跳んだ。

 一瞬で、イグフェリエルの目の前に。


 「だって、今のボクちゃんは、『死』に辿り着いたことで、

 指数関数的に力を増しているんですから、ね!」


 拳が迫る。

 殴打、と呼ぶにはあまりに凶悪な質量。


 ――ゴオォォォオオオンヌゥッ!!

 彼女の身体は大滝へと叩き飛ばされ、崖は粉砕され、滝が破裂し、豪雨のごとく降り注ぐ。

 

 血に濡れた顔を歪めながらも、イグフェリエルは立ち上がった。

 その瞳には怯えも迷いもなく、ただ敵を射抜く光が宿る。


 ◇


 第三冥府の薄暗い森を駆けながら、エリザシュアはルシモディアへと、次々と魔術を撃ち放つ。

 しかし、そのすべてが。


 「あっひひひ! 気持ち~よ、エリザシュアちゃん!!

 もっと! もっともっと、ちょーだいッ!!」


 無効化。

 快感に変換されるという異常。


 ルシモディアは恍惚とした表情を浮かべ、四足歩行で獣のようにエリザシュアへと向かってくる。


 「この、変態がッ!!」


 そう叫びながらも、エリザシュアは必死に思考を巡らせる。

 時を凍結しても、爆破しても、焼いても――全部“快感”にされてしまう。

 

 どうあっても突破口が見えない。


 (……そういえば、修一くんが、断罪の四骸の能力と、その()()()を教えてくださっていたではありませんか……!)


 ふと、思い出す。


 断罪の四骸の能力と対処法。

 修一が語った言葉が、ふいに脳裏に蘇る。


 ――ルシモディアは、どんな攻撃でも快感に変換する。

   なら、逆に“快感の渦”に閉じ込めればいいんだよ。


 エリザシュアの表情が、ぱっと明るくなる。

 何か策を思いついたかのようにして、彼女は魔力を収束させ、詠唱する。


 「|時空凍結症候《クロノ・フリーズ=シンドローム》!!」


 時が凍りついた。

 しかし凍ったのは、ルシモディアの“周囲だけ”だった。


 「アハァ……! 気持ちいいのぅ……ッ!」

 ルシモディアは恍惚の笑みを浮かべ、再び時の凍結を、快感として喰らう。

 

 エリザシュアは、それで攻撃を終えることなく、続けざまに同じ呪文を紡ぐ。


 「|時空凍結症候《クロノ・フリーズ=シンドローム》!!」


 二層目の凍結。

 またしも、ルシモディアの周囲だけが再び凍りつく。


 (全域凍結は連続使用不可能……でも局所なら、重ねがけができる!)


 そうして、凍結をルシモディアが養分とする中、エリザシュアは、何度も何度も、凍結を施す。

 快感が快感を呼び、出口のない拘束へと変質していく。


 まさに、快感の牢獄。


 「よし……これなら、いけます!!」


 エリザシュアは歓喜の息を漏らしつつ、絶え間ない“快感の牢獄”を維持するため、何度も呪文を紡ぎ続けた。


 ルシモディアは凍結と恍惚を往復しながら、

 もはや抗うことすらできず、拘束されていく――。


 断罪の四骸のひとりを、これにて無効化したのである。

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