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《テール=エクリプス》~君が物語を描くことをやめた、その瞬間――世界は崩れはじめた。~  作者: たまごもんじろう
第4章 魔界『ヘルヴァナ=アスタロディア』

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第60話 テレビ生放送、出演!!

 高層ビルのテレビ局。

 その楽屋には、生放送のテレビ番組に臨もうとする、エリザシュアたちの緊張と期待が混じった空気が漂っていた。


 シャーリアはページをめくりながら台本を確認している。


 台本の流れはこうだ。


 ――新進気鋭のアイドル《へるりん♡ぱらだいす》が巫女の役になりきり、死霊を祓い、奇妙なギミックステージを次々と攻略していく。

 そして最終的には死霊の親玉『死者の女王』役の、トップアイドル:ヴァルティーアを除霊するという筋書き。


「……ですよね? ヴァルティーアさんっ!」

 シャーリアはメイク中のヴァルティーアに声をかける。


 ヴァルティーアは鏡に向かって静かに顔を整えながら、振り向かずに答える。

「えぇ、そうですよ、シャーリアさん。

 そして皆さん、本日はどうかお手柔らかによろしくお願いいたします」


 その声は優しく穏やかで、楽屋にいる全員の緊張を少しだけ溶かす。


「あぁ、此方からも、よろしく申し上げる。

 断罪の四骸ヴァルティーア=シャリンハイムよ」

 イグフェリエルが静かに告げると、シャーリアはぺこりと頭を下げ、グラウスも一礼して静かに礼を返す。


 だが、エリザシュアだけは違った。

 ルシモディアに貰った携帯電話に夢中になり、画面に向かって指を動かしている。

 

「そいえば、さっきから何をしているんだイ~エリザシュアちゃん?」

 ルシモディアの問いかけに、エリザシュアは必死に画面を見つめながら叫ぶ。


 そしてルシモディアがエリザシュアの携帯を覗き見すると、魔界で流通しているSNSにて、壮絶なレスバを延々と繰り広げていた。


 ◇

 

 とあるSNSの投稿

 『へるりん♡ぱらだいすの紅い髪の女のダンス、マジでひどすぎるだろw 動きガタガタじゃん』

 歌も音痴だし、なんでアイドルやってんだよw

 グラウスは頑張ってるの伝わるけど、こいつは何??』


 エリザシュアの返信(公式アカ)

 『……はい? アイドルやってて悪いですか?

 わてちしはこれでも、下手なのを自覚したうえで、日々研鑽を積んでいるのですが。

 所詮お前みたいな、引きこもりキモニートなんか、努力の味も知らねぇくせに、上から物言うんじゃねぇよ』


 投稿主の返信

「草w公式アカウントからレスバとかマジで痛いwww そんなだから人気最下位なんだよw」

 :

 :

 :

 

 ◇

 

 そしてよく見ると、彼女がレスバしているのは《公式アカウント》でのやり取りだった。

 ルシモディアは呆れ、両手を上げてお手上げポーズ。

 

 その瞬間、エリザシュアの『人気』ゲージは急降下する。

「……嘘でしょ!? この程度で『人気』が減るなんて、わてちしへの愛は偽物だったのですか、皆さん!!?」

 怒りと悲しみに震えながら、エリザシュアはさらにSNSに投稿を重ねる。


 そんな中、シャーリアが「おしっこ!」と叫び、一人じゃ寂しいからとグラウスとともに楽屋を抜ける。


 「んじゃ、あーみゅは、いっちょ夜風でも浴びてくるか!」

 ルシモディアもそう言い、外へと出て行く。


 メイク担当も去り、楽屋に残ったのはエリザシュア、イグフェリエル、ヴァルティーアの三人。

 イグフェリエルは小腹を満たすため、辛いスナック菓子を頬張りながら満足そうに微笑む。


 一方、エリザシュアはずっとヴァルティーアを見つめ続けていた。

 その視線に気づいたヴァルティーアは、柔らかく微笑みながら問いかける。

「そんなに麿を見つめて、どうか致しましたか?」


 エリザシュアは観念したように深く息を吸い、声を絞り出す。

「ヴァルティーア……。

 

 いえ、貴方の本当の姿は……『月からの侵略者』なのですか?」


 楽屋の空気は一瞬、静まり返る。

 三人の呼吸だけが微かに響き、緊張と期待の間で時が止まったかのようだった。


 楽屋に緊張が走った。

 イグフェリエルは口にスナック菓子を含んでいたが、すぐに呑み込み、驚いたように言った。


 「……エリザシュア、何を言っているのだ?

 『月からの侵略者』というのは、此方や貴殿、そして勇者ルナテミス、魔王ディア―ナとともに戦った、宿敵のことではないか!?

 どうして、その者がヴァルティーア=シャリンハイムだと……」


 彼女は言葉を続けながら、少し考え込むように目を伏せた。


「……たしかに思い返せばどういう訳か、かの者の情報を、終焉の穴の誕生以降、聞いておらぬが……。

 まるで記憶が、抜け落ちていたみたいに――」


 その瞬間、ヴァルティーアの頭からウサギのような長い耳が生えてきた。

 口調も畏まったものでなく、野蛮で軽快なものに変わる。


「へぇ~、どうやってヴァルティーア=シャリンハイムの中身が、名無しちゃんだと気付けたんだ?

 名無しちゃんがボロを出したとしても、認識を操作して、ヴァルティーアだと誤認させてきたのにさ」

 

「修一くんにお聞きしました。

 ……そしてこのことは、イグフェリエル様には言っても宜しい、と仰せつかっております」


 その言葉に、ヴァルティーアは「キャシャシャ……」と不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。


「あーはいはい、そういうことなんですね、創造主様。

 分かりました、分かりましたよー」

 

 そう意味深なことを言い、楽屋の扉へ向かう。


 エリザシュアは、声を出して呼び止めようとする。

「貴方と魔王は一体、裏で何を企んでいるというのですか!?」


 だがヴァルティーアの頭からウサギの耳は消えており、壁の時計の針の音が、生放送開始の時間が迫っていることを教える。


「遅れないようにしてくださいね、エリザシュアさん、そしてイグフェリエルさん」

 と何事もなかったかのようにヴァルティーアは言い、扉を開ける。

 

 だが次の瞬間――誰かとぶつかり、尻もちをつく。


 扉の前にいたシャーリアを見やり、ヴァルティーアは問いかけた。

「……扉の前で何をしていらっしゃったんですか、シャーリアさん?」


 シャーリアは、にこやかに答える。

 

「あぁいや、3人で仲良く何を話されているのかなーと思いましてみゃあ」


 

 ◇ ◇ ◇

 


 暗く霧に包まれた街。

 廃れた建物の間から、低く呻くような声が響き、影の中に蠢く魂たちの姿が見え隠れする。


 巫女衣装に身を包んだイグフェリエルが、静かに中央に立つ。

 息を整え、仲間たちを見渡す。


「ここは、死霊の魂に支配された街。

 神の手違いによって、地獄の扉が誤って開かれたため、魂たちは自由を得てしまった。」


 彼女の言葉に合わせ、同じく巫女姿のエリザシュア、グラウス、シャーリア、ルシモディアも整列する。

 五人の瞳は決意に光り、巫女の衣装がわずかに揺れる。

 

 イグフェリエルは視線を前方に向け、静かに力強く言う。


「此方ら霊掃隊(れいそうたい)の――使命はただ一つ。

 死者の女王、ヴァルティーアを祓い、この街に平穏を取り戻すこと」


 シャーリアが小さく頭を下げ、グラウスは拳を握りしめる。

 ルシモディア、エリザシュアも鋭い眼差しで前方を見据える。


「この街の奥――あそこが、女王ヴァルティーアの根城とする屋敷だ」


 イグフェリエルの声が静かに高まり、五人は決めポーズをとる。

 光の中でその姿は、死者の蔓延る街に抗う希望の光のように映る。


「必ず、女王ヴァルティーアを祓い、この街に平穏を――取り戻そうではないか!」


 画面はゆっくりと引き、霧と影に包まれた街の全景が映る。

 五人の巫女たちは揃って歩き出し、静かに死者の影へと近づいていった。


 そして、生放送のコメントは、大盛り上がりであった――


『イグフェリエルちゃん、今日も可愛いでそ!』

『あの巫女の子、何ていうの!? 天使か!?』『←俺の嫁です』


 イグフェリエルは特に人気で、映るたび、コメント欄は熱狂的な書き込みで埋め尽くされていった。


 一方カメラがエリザシュアを捉えると、画面にごみのようなコメントが次々と流れ始めた。


『うわっ! さっきまでレスバしてた人だ!』

『効いちゃってやんのw』


 エリザシュアは目を見開き、カメラを睨む。

「あぁん、何だとォォ!?」

 と、怒りを露わに叫ぶ。


 その瞬間、ルシモディアがすっと前に出て、冷静に声を張る。

「まぁまぁ、落ち着いて、エリザシュアちゃん。いちいち反応してたら、話進まないからネ~」


 エリザシュアは一度深呼吸し、視線を正して頷く。


 そして廃れた街の薄暗い路地を進む中、突如死霊が蠢きながら現れた。


 「おっとっと! 死霊くんたちを、あーみゅの花園に招待した覚えなんて、ないんだがネ~?」

 

 ルシモディアが軽口交じりに言い、五人は武器を構える。

 薙刀、神楽鈴、琴、弓、柄杓――それぞれが持てる力で対抗するが、死霊は中々の耐久を誇り、攻撃力も侮れない。


 エリザシュアは目を見開き、叫ぶ。

「嘘でしょ! 台本では、最初の雑魚敵はさくっと倒す流れだったですのに!」


 ルシモディアは口元に手を添え、ひそやかに呟く。

 

「……これは、あーみゅの勝手な推測だけど、あの死霊……まじもんの死霊くさいね。

 予算が足りなかったのか、リアリティを出したかったのか知らないけど、あれはお嬢……ヴァルティーアちゃんの魔術を使って作られたものだヨ。

 

 ――『死骸を集め、再利用することで新たな生命を生む』っていうサ」


 その言葉に、イグフェリエルは静かにうなずき、薙刀に浄化の光を纏わせる。

「ならば此方らも、少々本気で行かねばならんようだな!」

 光を帯びた薙刀が死霊を貫き、静かに消えていく。


 シャーリアは竜へと変身し、力任せに死霊を撃退する。

 

 しかし、その行動で『人気』が下がり、目を丸くして叫ぶ。

「なんで『人気』が下がっちゃうゆらー!」


 グラウスは低く、冷静に呟く。

「恐らく、巫女と死霊が戦う、この世界観にそぐわない行動をとったためだろう。

 協調性がないとして、『人気』が下がるのも致し方なし」


 エリザシュアは反論する。

「ならば、どうしてイグフェリエル様の『人気』は……!」


 ルシモディアは微笑み、推測を語る。

「浄化の光は、世界観に合っているからじゃないカネ?

 要は、バレないように、本来の力を使えってことなんだヨ!」

 

 一同は頷き、戦法を即座に組み直した。


 エリザシュアは神楽鈴の揺らぎに月光の魔術を薄く混ぜ、銀色の光弾を死霊の影へさらりと滑らせる。

 触れた箇所が爛れ、亡骸が灰のように崩れ落ちた。

 

 シャーリアは腕だけを巧みに竜へ擬態させ、弓を弾く力を強め、射る。

 ぱきり、と骨の砕ける音が響き、振り払うたび瘴気が飛び散る。


 ……そう言った具合で、延々と湧き続ける死霊を倒し、道を切り開く。


 そんな最中だった。


 今までの死霊とは異なる存在が、彼女らの目の前に現れた。


 全身を覆う黒いタイツのような姿で、人が中に入っているようだ。

 手には鉄砲のようなものを構え、エリザシュアたちに向けて、液体を放つ。


 避けきれず、彼女らはその攻撃を食らう。

 触れた瞬間、驚くべきことに痛みは一切なかった。


 その代わりと言ってはなんだが、彼女らの巫女服はまるで触れられただけで崩れる砂糖菓子のように、静かに溶け始めた。


 ひと呼吸のあいだに、肩布がするりと落ち、白い肩が露わになる。

 次いで胸元の布が薄膜のように透け、内側の起伏が形だけを残して浮かび上がる。

 指でなぞれば破れてしまいそうなほど脆くなった布は、かすかな風に煽られてほどけ、胸の曲線が露光のもとに現れた。


 裾が溶け落ちた瞬間、赤い粒子が脚へこぼれ、太ももから腰骨へ向かって、生身のラインが一気に滑り出す。

 背面の布も同時に剥がれ、うなじから背すじへ、一本の光の線が描くように肌が露出していく。


 最後に、胸元を支えていた細い紐がほどけるように消え――

 布は一度に崩れ、全身の輪郭がそのまま世界へさらされた。


 五人は咄嗟に身を守り、恥じらいながら体を隠す。

 

 『うひょーーー!』

 『こりゃたまらんですな』

 『お母さん、今日の夕ご飯はこれねー』

 視聴者は画面越しに大盛り上がり。


 ルシモディアは、柄にもなく頬を赤らめ、微笑みながら言う。

「……あひひ、どうやらエロエロ光線だったようですナ」


 グラウスは、怒りを露わにしながら、低い声で言う。

「視聴率を稼ぐための、番組スタッフの度し難いテコ入れだろうな」


 シャーリアは、恥じらいながら叫ぶ。

「お、おらの身体なんか見ても、何にも面白くないみゃあ!」


 黒タイツの怪人は水鉄砲を撃ち続けるが、エリザシュアとイグフェリエルは近づき、鉄砲を握りつぶす。

 そして、冷徹な視線を向けて、その存在を宇宙の彼方へと吹き飛ばす。


 エリザシュアは魔術で衣服を元に戻し、仲間たちとともに再び前進する。

 街の闇が二人を包む中、彼女たちはようやく、ヴァルティーアの待つ根城の屋敷へと、足を踏み入れた――。

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