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《テール=エクリプス》~君が物語を描くことをやめた、その瞬間――世界は崩れはじめた。~  作者: たまごもんじろう
第3章 『テフ=カ=ディレム』

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第48話 すべての真相が、明るみになる

 蒼白の光が、終焉の穴を照らしていた。

 その目の前に立つ救星神――イグフェリエルは、静謐さをまといながら、淡く唇を動かした。


「――して、貴殿は申すか。此方が“終焉の穴”、その門番(ヴァルゲート)に相違なしと」

 凪いだ声。

 だがその声の一拍ごとに、天がたわむような圧が宿っていた。

 

「ならば語れ、修一様。その由を、根源まで話し給え」


 俺は、少し息を整える。

「了解だ。……だがその前に、順を追って解かねばならないふたつの謎がある」

 低く、ゆっくりと。

 

「――まずは“ループ”だ」


 イグフェリエルの長い睫毛が、わずかに動く。


「いいや。俺が体験したのは“ループ”なんかじゃない。

 

 ――ただ俺が”過去”の中に意識だけを飛ばされただけだったんだ。

 分かりやすく言えば、“追体験”だろうか」


 その言葉に、光の女神は眉をわずかに寄せた。

 

「“追体験”、とな……。面白きことを言う。

 ならば証を挙げよ。当てなき推量で、此方を愚弄するなかれ」


 俺は目を閉じ、思い出を呼び覚ます。

「色々理由は思い当たる。

 例えば、あれはそう、二度目の世界のことだ。

 

 あの赤い森の奥の塔……つまり斧の悪魔が現れる場所で、前の世界にはなかったはずの“白骨遺体”があったこと。

 

 しかもその遺体には覚えがある。

 ……最初の世界で、俺の目の前で斧に裂かれた、グラウスとシャーリアの亡骸だ」


 あぁ、そうだ。

 あのときは、ザルギエスの声に呼ばれたことで、考える時間などなかったが……。


 やはり、ループしているというのならば、全く同じ舞台でなければおかしい。

 

「それに、遺跡そのものが、ループを重ねるたびに劣化していた。」

 

 イグフェリエルの瞳が、静かに光を帯びる。

 俺は更に続けた。

 

「だが決定的なのは、大天使シェラフィアス=エル=ヴァルハイルの存在だ」

 

 彼女の名を出したとき、イグフェリエルの顔に揺らぎが見えたような気がした。

 

 「――三度目の世界、俺が助けると誓ったあの少女は、まだ幼かった。

 

 だが今この世界のシェラフィアスは、大天使となり、成熟した大人の女性へと成長している。

 ……これらの事柄は不思議なことに、ループではなく、世界が変わるごとに、時間が進んでいたんだとしたら、簡単に話はつく」


 イグフェリエルは沈黙した。光がきらめき、髪が揺れる。

 

 俺は拳を握り、言葉を続ける。

「恐らく、救星神認定選抜試験より前の時間の、あの荒野での走り込みの時だ。

 お前と一緒に汗を流していた最中、俺の頭に電流のような痛みが走った。

 

 ……多分、あの瞬間から、意識が徐々に“過去の視点”へと、フェードインしていったんじゃないのか」


 静寂。

 終焉の穴を照らす光が、わずかに揺らいだ。

 俺は息を吐き、ゆっくりと視線を上げる。


「……そして、もうひとつ大きな謎がある」


 イグフェリエルの銀の瞳が、かすかに動いた。


 俺は唇を結び、思考を言葉に変えていく。

「ならば過去の視点とはいうが、俺は誰の中に入っていたのか。

 

 俺の知っているルナテミスたちの姿ではないのに関わらず、

 なぜか俺の知っている名で呼び合っていたのはどうしてなのか、ということについてだ」


 ――ヴァルティーアがおじさんだったり、俺の姿が見知らぬ女性の姿であったことの、答えでもある。


 光の女神は黙して見つめる。

 俺は、口を開いた。


「これはあくまで俺の予想の範疇を出ないが。

 ――恐らく、“創造主”や“勇者”のように、一般人に何か『役』を与えて……シミュレーションのようなことをしていたんじゃないか」


 自嘲するように息を吐く。

「そう、ロールプレイのように、だ」


 天の空気が、微かに震える。

 イグフェリエルの瞳に、一瞬だけ翳が走った。


「理由としては……正直、俺の直感としか言えない。

 だが、どうにも――今までの旅が“出来すぎて”いる気がしてならないんだ」


 ――俺は自らの歩んだ道を思い返す。

 

 黒歴史の漫画が突然光り、その中に吸い込まれた。

 そこには俺のせいで疲弊しきった世界があり、“終焉の穴”を塞げば救われる、という筋書きが待っていた。

 

 次々と現れる問題、仲間、そして勝利。

 

 気づけば、まるで――神の用意した脚本の上を歩いているようだった。


「……気持ち悪いほどに、ご都合主義なんだよ。まるで、俺ではない“創造主”にとっての、な」


 今まで何処かで感じていた毒を、ようやくここで吐き出す。


 光の女神が、ゆるやかにまぶたを伏せる。

 俺は一歩、踏み出した。


 「――ここまでが、大きなふたつの謎への俺の考えだ。

 そしてもし、この考えが正しいとするならば……大前提として、ひとつおかしなことがある」

 

 そして、漸く本題に入る。 

 

 「――それは、今、お前が“生きている”だ」


 その瞬間、イグフェリエルの表情がわずかに揺らいだ気がした。

「だって、お前は――死んでいるはずだろ」

 

 俺の声が、鋭く門の空気を切り裂く。

「3度目の世界の中で、お前は確かに……惨たらしい姿で絶命した。

 そうだよな、イグフェリエル!!?」


 声が響く。

 世界の光が一瞬、淡く明滅する。


 沈黙ののち、俺はさらに続けた。

「……そして、もうひとつ思い当たることがある」


「終焉の穴が、救星神の間にあるはずだと……。

 そう、あらかじめ知っていたかのように言いだしたのは、お前だったよな」


 ===

 

『テフ=カ=ディレムの下界は探索したって言ってましたけど……天界のほうは?』

 

『は、はい……まだ此方が救星神であった頃に、隈なく――』

 

『……救星神の間は……まだ、入っていない……!

 此方としたことが、真っ先に踏み入るべき場所に立ち入るのを忘れていたっ!』


 ===


 ご丁寧に、救星神の間以外のテフ=カ=ディレムを、探索し尽くしたなんておかしいにも、ほどがある。


「それこそが、俺が“お前が門番(ヴァルゲート)なのではないか”と考える理由だ」


 イグフェリエルが、言葉を発す。

「……それはただの、憶測なのでは」

 ただ、光の羽根がひとひら、静かに舞い落ちた。


「……あぁ、普通なら、こんな俺の考えなんて憶測でしかない。

 だが、もし今までの旅が誰かによって“仕組まれたもの”だとするなら――どういうわけか、納得がいってしまうんだ。

 

 ――『救星神の間に終焉の穴があるはずだから、イグフェリエルをもう一度救星神にしよう』だなんて綺麗すぎる流れ、普通はないだろ」


 俺は、女神を見つめる。

 その瞳の奥に、真実の光を探すように。


 ――その瞬間、空気が変わった。

 イグフェリエルの唇が、微笑みにも似たものをかすかに描いた。

 

「修一様……貴殿は、やはり凄まじい御方だ」

 その声音は、褒め称えるでも、畏れるでもない。ただ静かに諦める響きがあった。

「ここまでの僅かな情報で、よもやそこまで辿り着かれようとは」


 女神は、ゆっくりと瞳を閉じる。

 

「あぁ――そうだとも。

 此方こそがテフ=カ=ディレムに於ける、“終焉の穴”の門番(ヴァルゲート)なり」


 心臓が強く跳ねた。

 瞬間、背筋を冷たいものが駆け上がる。

 

 イグフェリエルの纏う光がわずかに軋み、衣の布地が滑る。

 純白の装飾衣を指先で摘まみ、女神は静かにそれをずらした。


 白磁のような肌が、淡く輝きながら露わになる。

 腹部やや下――そこに、何か黒く蠢く“紋”が刻まれていた。

 

「……触れてみてはくれぬか、修一様」


 彼女の声は、慈しみとも命令ともつかない。

 俺は息を呑む。

 警戒と本能がせめぎ合い、けれど結局、指を伸ばしてしまう。


 指先が触れた瞬間、脳の奥で何かが破裂した。

 視界が白に塗り潰され、胸の奥が灼けるような衝撃。

 

 とんでもない情報の奔流が、直接、脳に叩き込まれる。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――対象:イグフェリエル=テラ=オルディア

 ――理論:「お前如き被創造物は、■■■■■■に従わない道理などない」

 ――副理論:「被創造物は下賤であり醜悪な存在」

 ↓

 ――結論:イグフェリエル=テラ=オルディア及びその眷属である天界の民は、■■■■■■に絶対服従。


      絶対服従

      [効果]:■■■■■■に絶対服従

      [分類]:永久呪縛


 ――理論は、構築された。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


 ――そこにあったのは、絶対服従の理論。

 

 俺ではない、創造主と名乗る者に対し、逆らうことを許さぬ構築式。

 魂ごと鎖で縛る、冷たく完璧な従属の法。


「……見えたであろう」

 イグフェリエルは、淡く微笑む。

「此方はあの日、創造主を名乗る者により、絶対服従の理論を刻まれた身なのだ」


 その瞳は、悲哀とも倦怠とも違う。

 ただ、長い永劫を受け入れた者の眼だった。

 

 そして以前とは違い、もう既に天罰が下っている最中のためか、すべてを語り始める。


「そしてあの者の――悍ましき計画の一端を知らされ、まずひとつの命が下された」

 女神はゆっくりと目を伏せ、息を整える。


 「それが、模擬実験(プロット)への参加。

 貴殿に倣えば、シュミレーションとでも言うべきだろうか」


 俺は息を詰めた。

 イグフェリエルは淡々と語り続ける。


 「修一様が申された通り、

 この世界では過去数万年に渡り、“一般人”に『創造主』や『勇者』、『大魔女』などの記憶を植え付け、幾度となくシュミレーションが繰り返されていたのだ」


 ――……まじで、あんな惨劇が、実際に起こったことだってのかよ。

 確かにそう予想していたけれど、虫唾が走り、思わず顔を顰める。


「――勇者ルナテミス・セリューヌと共に旅を始める世界。

 魔王軍断罪の四骸、ヴァルティーア・シャリンハイムと共に旅を始める世界。

 そして、元救星神イグフェリエル=テラ=オルディアと共に旅を始める世界……


 などといった具合に、条件や設定を変え続け、やがて訪れる本物の創造主様の旅が最適化されるようにな」


 ――……だから、世界が変わるたびに周囲の環境が違っていたのか。

 終焉の穴をもう既に塞いでいたり、魔王軍と仲間になっていたりと。


 俺は唇を噛む。


 イグフェリエルは、一拍置いて続けた。

「そして、次に命じられたのが――“使い終わった被験者”の抹消」


「……ッ」

 息を呑む。思考が爆ぜる。


「それで……お前たちは遺跡の中で、……!」

 声が震える。

 怒りでも、悲しみでもなく、ただ事実を受け止める声で。


 心臓が、ぎゅっと軋む音を立てた。

 女神の顔を見ても、もう何も言えなかった。


「あぁ。そして……ご存じの通り、此方は“修道女リシャシェーラ”の役を担う者の手により、命を落とした。

 此方は、正直のところあのとき、奴の計画に少しでも抗えればと思い上がっていた」


 唇に儚い笑みを浮かべながら、イグフェリエルは目を伏せる。

 

「だが、あの者は此方の死体を利用し、“終焉の穴”の門番(ヴァルゲート)とする理論を構築した」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――対象:イグフェリエル=テラ=オルディア

 ――理論:「お前はまだ、死んではならない」

 ――副理論:「お前にはまだ、利用価値がある」

 ↓

 ――結論:イグフェリエル=テラ=オルディアの遺体を利用し、“終焉の穴”の門番(ヴァルゲート)として再誕させる。


 ――理論は、構築された。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


 そのときの記憶を辿るように、彼女は静かに呟いた。


「そして――あの者は、こう言ったのだ」

 イグフェリエルの声が、低く震える。


 ――『何やら抗おうとしていたみたいだけど、残念だったね。

 元から君を殺して、門番(ヴァルゲート)にする、筋書きだったんだよ』――


 その言葉が、女神の口からこぼれた瞬間、

 空気が、世界そのものが、きしむ音を立てた。


 ――闇に灯る微光のように、イグフェリエルは微かに目を伏せた。

 その声音には、天の理を統べる救星神とは思えぬほどの、静かで、脆い響きがあった。


「……それから此方は門番(ヴァルゲート)として、テフ=カ=ディレムの生気を奪い続ける。

 そういう役割をこなしていった。

 

 ――そして、何のためにそう命じられたのかは、分からぬが。

 今回の創造主には、『狂おしいほどに絶望させよ』という命を受け、修一様の意識を、過去の”創造主”役の者へと、転送させていたのだ」


 彼女は唇に苦い笑みを浮かべ、両の手を胸前で組む。

 その仕草は、祈りにも似ていたが、どこか――赦しを乞う者のようでもあった。


「絶望するまで、終わらぬ螺旋の牢獄の中に、閉じ込めてな――」


 その言葉に、俺の胸が締めつけられる。

 あの無限に続く悪夢。誰かを救っても、また誰かが死ぬ地獄の輪舞。

 それが、イグフェリエルの手によるものだったのか。


「……じゃあ、あのときお前が言っていた『ループから脱する方法は遺跡を攻略すること』――あれはやっぱり嘘だったのか?」


 俺の声が、低く掠れる。

 イグフェリエルは一瞬だけ目を伏せ、やがて乾いた笑いを漏らす。


「あぁ――そう、なのだろう。

 ……“だろう”というのは、もう随分と昔の話ゆえ、細部までは思い出せぬ。

 だが、おそらく此方は……貴殿への苦しみを早く終わらせたかったのだ。故に“早く絶望させる道”を選んだのだろう」


 俺は拳を握りしめ、唇を噛んだ。

 あのときのイグフェリエル――自らを辱め、俺のために命を散らす彼女の姿を想像し、胸が灼けるように痛んだ。


 イグフェリエルはふと、思い出したように小首を傾げる。


「……そういえば、貴殿は言っていたな。

 

 『理論に背いた罰を、どうにかする』と。

 

 あれは……妄言か?

 妄言なれば、テフ=カ=ディレムは……いや世界は、じきにあの悪魔たちによって呑まれるだろうが」


 俺は、息を吸い込む。

 そして、ゆっくりと、真っ直ぐに彼女を見据えた。


「イグフェリエル。お前を苦しめてきた原因――それは、“創造主”と名乗る俺とは別の、誰かの理論構築によるものだな?」


「……あぁ」


 それだけの答えに、俺の眼が強く光る。


「ならば――俺がお前に“新たな理論”を施す!」

「……!」


 その声は、まるで神託を打ち破る宣言のように響いた。

 イグフェリエルの頬を、風が掠める。


「そうすれば、天使の呪いも、終焉の穴の門番(ヴァルゲート)としての責務も、全部、なかったことにできるはずだ!

 お前を縛るすべての“理論”を、俺が描き換える!」

 

 俺は、握り締めた拳を胸の前に押し当てる。

 血が滲むほど爪を立てながら、それでも視線を逸らさなかった。


 「だから――俺を信じてくれ! 信じてくれさえすれば、お前に理論を施せる!」


 ――理論構築は、信頼された仲間でないと行使できない。


 ここまで、イグフェリエルへの理論構築の後回ししてきたのは、そのためだ。

 いきなり、理論構築を施すには信用が足りない。

 

 そう考えた俺は、創造主として皆を救う姿を見せつけてきたのだ。

 ――すべては、イグフェリエルに信用してもらうため。

 

 だが、イグフェリエルの表情は曇っていた。

 その瞳は、遠い過去――裏切りの記憶を映すように、凍える。


「……それで、此方が……貴殿を本当に信頼できると思うのか?」

 

 声は震えていた。

 それは、風に千切れそうな羽音のようで――今にも崩れ落ちてしまいそうな儚さを孕んでいた。


「たしかに、遺跡の中で命を張って、皆を巧みに救う姿は逞しく、まさに創造主としての威厳があった。

 だが……」

 

 だが――そう続け、イグフェリエルは今、抱えている想いをぶちまける。


「……以前も、そのようにして、“あの創造主と名乗る人物”を信用してしまった。

 そして――結果はこの通りだ。

 

 苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて……苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで――ッ!

 数多の犠牲を出し、此方自身も、永遠の苦痛に沈んだ……」


 肩が微かに揺れる。

 もはや天使ではなく、一人の女としての苦悶がそこにあった。


「此方は……もう、誰も信じられぬのだ……。

 ……どうせこの状況も、何かのシュミレーションの一環で、また此方たちを苦しむために催されていると、思ってならない」


 しばし沈黙が落ちる。

 やがて、イグフェリエルは、ひとつ息を吐き――掠れた声で、最後の祈りのように呟いた。


「だから、貴殿が本当の、此方の“創造主”であると申すならば。


 ――そう、信じさせてくれ……」


 その言葉は、涙のように、静かに大地に落ちた。


 ――音が、消えた。

 空気が凝固し、風が息を止める。


 その瞬間、天より“輪”が降りた。

 

 光を失った金環のような――否、よく見ればそれは、縄で編まれた円。

 糸のように細い、しかし逃れようのない、理の輪。


 それがふわりと降下し、まるで運命をなぞるように、イグフェリエルの首へとかかった。


「――ぁ……」


 その声は、驚愕でも恐怖でもなく。

 ただ、諦念の響きだった。


 空間が捩れ、色が剥がれ落ちる。

 世界の枠線が悲鳴を上げ、天と地の境が反転する。


 そして。


 イグフェリエルは“それ”になった。


 翼は枯れ落ち、黒鉄の羽根が混ざり合って膨張する。

 その身体は天を覆う巨躯と化し、天井を突き破るほどの悪魔へと変貌していた。

 

 顔はひとつではない。かつて彼女が救えなかった者たちの顔が、無数に彼女の皮膚から滲み出ている。

 泣き、笑い、叫び、同時に祈る。

 だがその声は、誰にも届かない。


 胸の中央には、縄で縫い止められた巨大な心の穴。

 そこから吹き出す黒い霧は、見る者の心を吸い取り、内側から腐らせる。


 宙には、無数の縄が漂っていた。

 思わずその縄に首をかけてしまいそうな希死念慮を感じる。


 光は消え、代わりに影が生きている。

 その悪魔のような姿を前に、俺はただ息を呑む。


 ――神は死に、悪魔が生まれた。

 それは希望を食らう絶望そのものだった。












 私の未熟ゆえ、少々複雑かと思われますので、軽く要点をまとめさせていただきました。


《時系列》


 救星神イグフェリエル、誕生。

 ↓

 田島修一ではない、創造主が現れ、イグフェリエルに絶対服従の理論を構築する。

 ↓

 田島修一の旅を最適化するための、シュミレーションに参加させられる。

 なお、『勇者』や『創造主』などの役を、一般人に与えて行う。

 ↓

 そうして、使い終わった役者の一般人を、あの遺跡にて処理する生活。



 (*1)  

  勇者ルナテミス・セリューヌと共に、旅を始める設定のシュミレーション。

 (田島修一からすれば、一度目の世界。エリザシュアが、笑顔の悪魔に拷問される)

 

  魔王軍断罪の四骸、ヴァルティーア・シャリンハイムと共に旅を始める設定のシュミレーション。

 (田島修一からすれば、ニ度目の世界。ヴァルティーアがおっさんだった)


  そして、元救星神イグフェリエル=テラ=オルディアと共に旅を始める設定のシュミレーション。

 (田島修一からすれば、三度目の世界。イグフェリエルの凌辱)


 :

 :

 : そうして、長い年月が経過。

 :

 :



 ↓

 現代。


 本物の田島修一が来訪する。


 意図は分からないが、『絶望させよ』という命を受け、(*1)の過去の『創造主』役の、一般人の視点に送る。


 なお、いきなり過去に送るのではなく、違和感を持たれないよう、徐々にフェードインしていく。

 

 このとき見ていた光景が、本編。



《要点》

 『ループの真相』→→→

実際はループでなく、過去の惨劇を順番に、『創造主』役の視点で見ていた。


一度目になかったはずの、白骨遺体があったことや、大天使シェラフィアスが、現代にて成長した姿になっていることが、何よりの証拠。

 


 『ヴァルティーアがおっさんだった真相』→→→

『勇者』や『創造主』などの役を、与えていただけの、一般人であるため。


今回で言えば、本当は最初から、『ヴァルティーア』役のおっさんと共に行動していた。


だが、修一が鏡を見て、自身の姿が見知らぬ女性だと気付いたことで、洗脳が解けるようにして、おっさんだと認識できるようになった。

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