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《テール=エクリプス》~君が物語を描くことをやめた、その瞬間――世界は崩れはじめた。~  作者: たまごもんじろう
第3章 『テフ=カ=ディレム』

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第26話 同衾

 『その目……創造主様、まさか全員に“神の御業”を行うつもりですか?』


 『当たり前だ……俺は、あいつらを見捨てた。今度こそ、救わなきゃならない』


 『はっきり申し上げさせていただきますと、その所業は愚挙に他なりません。

 きっと創造主様が思っている以上の“代償”が待っている。ひとりやふたりではないのですよ? 

 この劇場に満ちる魂全てに――など……』


 『それでいいんだ……。

 あいつらが、長い年月、どれだけの苦しみを味わってきたかに比べれば……何てことない。』

 

 『……それでこそ、我らが救世主にして創造主様、田島修一。』


 かつて、魔女エリザシュア・ルミナが創世した、没キャラクターたちが住まう世界。

 《没世界》の中で、俺と魔王ディアーナが交わした言葉だ。


 そして、このあとの身に余る理論構築により、今俺は、意識を失い、眠っているのだ。


 だが、今ようやく、目覚めることになる。


 ◇ ◇ ◇


 俺――田島修一はうなだれたまま、ゆっくりと瞼を開けた。

 

 視界が少しぼやけている。

 ポケットをまさぐり、眼鏡を取り出し着用する。

 

 それでも、まだぼやけている。

 これは眩暈なのだろうか。

 

 額には、ひんやりとした感触があった。

 貼られたそれの端が微かに肌に張り付き、ほんのり薬の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 頭の奥でぐるぐると渦巻く眩暈に身を任せ、意識を手繰り寄せる。


 まず目に入ったのは、天井のシミだ。

 使い古したカーテンの隙間から漏れる光が、ゆっくりと揺れている。

 

 息を吐き、目を細めてじっと見つめる。

 ああ、これは夢じゃない。確かに見覚えのある天井だ。


 次に視線を下ろすと、ベッドのシーツ――くすんだ青色のシーツ。

 懐かしい手触りだ。冷たく、でも柔らかい。


 俺は手を伸ばし、指先で確かめるように触る。

 

 耳を澄ませると、外から遠くに車の音が聞こえ、隣の一軒家の犬が吠える声も微かに届く。

 窓の外からは風の音も混ざり、部屋の空気の微妙な揺らぎを感じ取る。


 呼吸を整え、手足の感覚を確かめる。冷たい床に足を下ろすと、足裏の感触がをここがどこかなのか教えてくれる。

 俺は深く息を吸い、その答えを心の中でそっと口にする。


 ――ここは、現実世界の俺の寝室か……?


 たしか、俺は――勇者ルナテミスや魔女エリザシュア・ルミナ、そしてかつて没世界の住人であった人形のモルフィーナたちと共に、終焉の穴の門番(ヴァルゲート)を討伐したはずだった。

 

 剣閃の閃光。

 魔術の渦巻く光の奔流。瓦礫が飛び散る世界。

 

 仲間たちの叫び声と、命を削る戦闘の喧騒――それらすべてが、頭の奥で微かに、しかし確かに残響していた。

 胸の奥でまだ震える鼓動。あの熱と恐怖の記憶が、現実の空気の中で不意に揺れる。


 だが、次の瞬間、頭がぐらりと揺れ、意識は闇へと落ちた。

 そして今――こんな現実に戻されている。


 そんなことを考えていたら、鼻腔をくすぐる、ほんのり甘くてやさしい香りが俺を魅了する。

 足をベッドから引きずるようにして起き上がる。ふらつく体を支えながら、俺はそっとキッチンへ向かう。

 空気は湿って温かく、米の香りが柔らかく漂っている。

 

 ――お粥の匂いだ。

 鍋から湯気が立ち上り、ふわりと米の柔らかい匂いと出汁の香りが混ざる。

 耳には火の弾ける音、鍋底にしゃもじが触れる音。日常の音が、頭の奥に残る戦場の余韻と奇妙に重なり合う。

 

 キッチンにいたのは、大魔女――エリザシュア・ルミナだった。

 長い赤い髪を後ろで丁寧に束ね、淡い色のエプロンを着け、鍋をかき混ぜている。

 

 髪の先が湯気にほんのり濡れて光り、火の熱で立ち上る湯気が顔の周囲を柔らかく揺らす。

 だが、その瞳は――凍り付いたように冷たく、どこか遠くを見つめている。

 温かな料理の空気と、視線の冷たさが奇妙な対比を作り出し、俺の胸をざわつかせた。


「こ、こらっ、修一くん!

 そんなにもボロボロなお体なんですから、ご自愛ください!」

 柔らかく、けれどしっかりした声で言われた。胸の奥がきゅうっとなる。思わず声が出た。

「な、なぜ……ここにエリが……!」


 すると、横から軽快な声が響いた。

「我もいるぞー」


 振り向くと、勇者ルナテミスがソファに寝転び、手には厚めの漫画単行本。

 ページをめくるたびに爆笑している。

 

 表紙には大きく描かれたヒーローたちが、悪党を蹴散らす姿。

 ルナテミスは漫画に向かって声を上げて笑っていた。

「うわはは、ここでこう来るか! 最高だな!」


 さらに声がした。

「あたいもいるよー」


 モルフィーナだ。テレビの前で正座し、相撲中継に熱狂していた。

 新進気鋭の力士同士の一番らしく、二人とも二十代前半。

 勢いのある突き押しでぶつかり合うたびに、モルフィーナは拳を握って声を上げる。

「いけえ!負けるな負けるな、おデブさんたち!」


 俺はその光景を理解できずに立ち尽くす。


 キッチンの火の音、香ばしい匂い、ルナテミスの笑い声、相撲のぶつかる音。

 すべてが現実なのに、どうも俺の頭は混乱していた。

 まるで夢の断片が現実に混ざり込んだような感覚だ。


 エリは俺の視線を受けて微笑む。

「わてちしが、すぐにお料理をお持ちいたしますので、どうかご自室にてお待ちください」

 その笑顔には安心感があったが、それと同時に「さっさと安静になりやがれください」と言わんばかりの圧もあった。


「……はい、わかりました……」

 そう、呟くしかできなかった。


 足元の冷たさと、体の重みを感じながら、俺はベッドへ戻った。

 布団にもぐりこむと、ようやく少し落ち着いた気がした。

 

 しかし、安堵も束の間、体の異常を意識する。

 全身が痛く、関節のひとつひとつが重く鉛のようだ。

 

 気怠さが体の隅々に広がり、皮膚には微かな熱が篭る。思わずくしゃみをする。

「くしゅん……」

 その瞬間、軽やかな足音とともに、エリが現れた。

 赤い髪を後ろでまとめ、凍り付いた瞳を少し細めながら、淡い色のエプロン姿で、鍋を抱えている。


「ほら、だから申し上げましたでしょうに、ご自愛なさるべきでございます、と……」

 口調は厳しいが、どこか含み笑いのような響きも混ざる。

 彼女は少し悪態をつきながらも、丁寧にお粥を差し出した。湯気が立ち上り、米の柔らかい香りがふわりと漂う。


 俺は布団の中で体を起こし、そっと受け取った。箸で一口すくって口に運ぶと――

 ――驚くほど、旨い。


 口の中でふわりと広がる優しい味わい。

 温かさが体に染み渡り、筋肉の痛みや気怠さが少しずつ和らいでいくのがわかる。

 胃の奥から、少しずつ力が湧き上がるような感覚。


 「……う、うまいぞ……、エリ……」

 思わず顔を上げて言うと、魔女は少し顔を赤らめ、しかし当然です、と胸を張る。


 「当然でございますよ! 修一くんのために、腕によりをかけて作ったんですからっ!」

 俺は満足げに頷き、口を拭いながら続ける。

 「おかげで元気が湧いてきたよ」


 体の熱が下がり、痛みが和らぐのを感じる。

 ふと呼吸を整えながら、俺は静かに問いかけた。


「……で、俺がこんなボロボロな身体なのは、なんでなんだ……?」


 エリは鍋を手に持ったまま、眉を少しひそめ、俺を見つめる。


 「なんでですって……??」


 その声は一気に高くなり、逆ギレとしか思えない迫力を帯びる。

 赤い髪が揺れ、凍り付いた瞳が鋭く光った。

 

「修一くんが――あの没世界で身に余る、神の所業を施したからに決まってんだろうがよぉぉ!」

 俺は思わず息を呑む。

 言葉の端々に、怒りと苛立ち、そして心配が混ざり合っている。

 

 ――確かに俺は理論構築によって、没世界にいるすべての没キャラクターの魂を再利用し、 『天魔双極~幻影幻想曲第14番 <Phantom Fable>』の世界で生きられるようにした。

 

 ただそれは、魔王ディアーナにも忠告された通り、俺ひとりが行える理を脱していたのだ。


 エリは手を腰に当て、想像するだけで身の毛が弥立つ、俺の当時の状況を説明し始めた。

 

「気絶した瞬間、修一くんの身体を見たとき、正直言って、言葉を失ったよぉ!

 血管のひとつひとつが、まるで光の線のように浮き上がり、異常に緊張して絡まり合っていた。

 筋肉は硬直し、皮膚の下の微細な神経まで、まるで絶え間なく情報を伝達しているみたいに震えていてな」

 

 彼女は続けて、こう口にする。

 「そんでわてちしは、なんとかあとは自然治癒ってとこでまで治し、森の洋館のベッドに寝かせてたんだけど……一向に回復しなかった。

 当然だわな。わてちしたちが住まう世界と、修一くんが生きるこの世界とでは何もかもがまるっきり違うんだからよっ!」


 言葉のひとつひとつが、俺の頭に重く、でもはっきりと響く。

 「そうして今俺は、現実世界の自室にいるってわけか」

 俺の疑問が一旦は解消された。


 エリは少し怒りが収まったようで、冷静になりながら俺に忠告する。

 「……こほんっ! その通りです。

 あと、当たり前の話ですけれど、もう金輪際、神の御業を使わないでくださいね。

 次にまた使用してしまっては、もう元の万全な身体に戻ることはないと思っていてください」

 

 「はい、すみません……エリザシュア・ルミナ様」

 俺は観念したようにそう告げると、

 「よろしいです」

 彼女は満足気にそう答える。


 エリはふと手を止め、眉をひそめて考え込むように小さく唸った。

「そういえば……」

 

 そして、淡い色のエプロンのポケットに手を突っ込み、何かを探す仕草を見せる。

 しばらくして取り出したのは、小さな白い箱。

 中から取り出したのは、見慣れた形の普通の風邪薬だった。


「……こちらも、念のために……飲んでおいたほうがよろしいかと」

 少し忘れていたことを思い出したかのように、エリは苦笑しながら差し出す。


 俺は少し戸惑いながらも、口を開けて薬を受け取り、喉の奥に流し込む。

 水も不要なほど小さく、あっという間に飲み終えた。


「ふぅ……」

 手元をさっと拭き、軽く息をつく。

 体にはさっきのお粥の温かさと、先ほどの薬の力がじんわりと残っている。


 「……ところで、エリ」

 少し顔を上げて尋ねる。

 

 「家に、こんな風邪薬なんて、なかったはずだろ……?

 それに俺の額に貼られているこれもなかったと思うんだけど」


 エリは一瞬、目を丸くしてから、くすりと笑った。

 「……あぁ、それでしたらルナテミス様とモルフィーナ様が薬局にて購入してくださっておりましたよ」

 

 大魔女エリザシュア・ルミナの口から、「薬局」などという聞きなれない言葉を耳にする。

 「へぇ、そりゃありがたいな。

 でもあいつらよく買えたな。すっかりこの世界に順応しているじゃねぇか」


 その瞬間、寝室の扉が軽やかに開き、勇者ルナテミスとモルフィーナが入ってきた。

 「それは我らが説明しようぞ!」

 

 そうルナテミスは元気溌剌に宣言し、事の顛末を説明する。

 「我らもな、修一のためになるものを調達しようとしていたのだが、人混みの中、街を歩いては迷い、立ち止まり二進も三進もいかない状態であった。

 ……だが、そのような折に、ひとりの男性が声をかけてくださったのだ」


 そして今度はモルフィーナが語り始める。

 

 「あたいたちの事情をお話しすると、その人はね驚くこともなく、すぐに理解を示してくれたんだよ。

 そして必要な品々――薬、栄養のある食材、さらにはこの世界の常識までもを、丁寧に教えてくれたの。

 おかげでこうして、お父ちゃんの健康状態も良くなってきているというわけなのだ!」

 

 ルナテミスとモルフィーナは、息があったように決めポーズをして、俺に感謝をしてほしくて堪らないような顔をする。

「ありがとな、ルナテミス、モルフィーナ」

 

 俺の感謝を聞くとふたりは、高笑いをして喜びを隠せずにいる。

 そして、少し落ち着いたルナテミスが俺の方を見て言った。

「ちなみに、その男性というのはな、修一が以前一緒にいた者だぞ」


 俺の頭で点と点がつながる。

 ――ああ、会社の後輩の佐藤くんか。


 胸の奥がじんわり温かくなる。

「……そうか、佐藤くんが助けてくれたのか」


 心の中でそっと呟く。

 ――今度会ったら、ちゃんとお礼を言わなきゃな……。


 ふたりが決めポーズのまま高笑いをしていると、俺はふと違和感を覚えた。

 「……てかおい、お前ら、その服……」


 改めて見てみると、ルナテミスは深い群青色のワンピースに白いジャケットを羽織り、モルフィーナはカジュアルなシャツワンピに華やかなスカーフを巻いていた。

 ――ルナテミスの服は以前買ったものとは異なる。

 つまりこの時点で3着分の金額が失われている。

 

 俺の指摘に、ルナテミスは自信満々に胸を張った。

 「む? 気づいたか修一! 以前、そちは言っていたであろう。

 ――“その鎧姿では目立ちすぎる”とな!

 ならばと我は考えたのだ、いっそのこと装束を幾つも買い揃えてしまえばよいと!」


 「いやいや……何着もって、おい。

 まさか今着ている服以外も買っているわけじゃないよな……?」

 俺は思わず額に手を当てる。


 しかしルナテミスはまるで気にも留めず、誇らしげに笑う。

 「そんな些末なことよりだ! 修一、我らは今から再び“あの氷菓子”を食しに行くつもりである!」


 「そうそう!」

 とモルフィーナも笑顔で両手を広げる。

 

 「お父ちゃん、あのアイスってやつはすごいね! 

 甘くて冷たくて、まるで妖精の魔術みたいなんだ! あたい、もう一回食べたくてたまんないよ!」


 「お、おい待て! ちゃんと節約はして――」

 慌てて止めようとする俺をよそに、ふたりは勢いよく踵を返す。


 「では行ってくるぞ、修一!」

 「お父ちゃんはゆっくり寝ててね!」


 寝室の扉が勢いよく閉まり、部屋には俺とエリだけが取り残された。

 ため息をつきながら、俺は枕元で小さく呟いた。

 

 「……ま、いっか。金ならあるし」


 扉が閉まり、静寂が戻る。

 部屋の中には、俺とエリだけ。さっきまでの賑やかな空気が嘘みたいに、急に気まずい沈黙が流れる。


 まあ、当然か。

 ……こいつは俺を憎んで、殺そうとまでした張本人だ。

 俺だって殺されかけたんだし、すぐに仲良しってわけにもいかねぇ。


 ふと、俺は思い出したように口を開く。

 「なぁ、エリ。……モルフィーナに、ちゃんと謝ったのか?」


 その名を出した途端、エリの肩がわずかに震えた。

 やがて、深く俯いたまま、絞り出すような声で答える。

 

 「……はい。

 あのときのわてちしは……あの幼気な少女を、本気で殺めようといたしました。

 許されるはずのない愚行でございました……」

 赤い髪が揺れ、冷ややかな瞳が翳りを帯びる。

 

 「モルフィーナ様に、そしてあの場にいたシャーリア様やグラウス様にも、迷惑をおかけしたすべての方々に改めて謝罪を申し上げました。

 皆様……受け入れてくださいました」


 その声音には、後悔と安堵が入り混じっている。

 俺はほっと胸を撫で下ろし、小さく頷いた。

 「そうか……それならいい」


 また少し沈黙。

 だが気まずさに耐えかねて、俺はわざと軽い調子で切り出した。

 

 「そういやさ、エリ。……お前、覚えてるか? あの没世界に俺を閉じ込める前に言っただろ。もし出られたら“ご褒美”をやるって」

 にやりと笑いながら、挑発するように言ってやる。

 

 「――で、そのご褒美は、まだもらってねぇんだけど?」


 その瞬間、魔女の目がギラリと光った。

 「な、なにをぉ……? 

 修一くん、そこまで愚弄なさるなら……もう一度、あの鞭で――徹底的にいたぶって差し上げましょうかッ!??」

 豹変したような口調に、俺は思わず布団を頭までかぶる。

 「や、やめろっ! 冗談だって! マジで勘弁してくれ!」


 ……しばし、沈黙。

 布団の隙間から覗くと、エリは赤面しながら視線を逸らしていた。

 

 やがて、ためらいがちに、けれど恥じらいを捨てたように俺の肩へと身を寄せてくる。


 温もりと、かすかな震え。

 そして涙ぐんだ声が、俺の耳元に落ちた。


 「……もう一度、わてちしたちに向き合ってくださり……ありがとうございます、修一くん」


 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。


 俺は、そっと腕を回すようにして、耳元で囁いた。

 「……もう一度、信じてくれてありがとな、エリ」


 返事はなかった。

 不安になって顔を覗き込むと、彼女の瞼は静かに閉じられていた。


 「……おい、大丈夫か?」

 呼びかけても動かない。胸が一瞬ざわつくが、すぐに規則正しい寝息が耳に届いた。


 ――ただ、眠っているだけか。


 思わず、苦笑いが漏れる。

 言葉ではきついことを並べていたが、エリはずっと俺のために治癒と看病を続けてくれていたんだ。

 きっと、その困難に何時間も向き合ってくれたのだろう。


 だから、今になって疲れがどっと押し寄せてきたんだな。


 俺は彼女をそっと体に触れ、自分の布団の中に一緒に寝かせた。


 目の前で眠る彼女の頬はほんのり赤く、吐息は小さく揺れている。

 その温もりに包まれると、不思議と安心感が広がっていった。


 「……おやすみ、エリ」

 彼女の髪を愛でるように撫で、俺も目を閉じる。


 やがて静かな夜の気配の中、俺とエリは、同じ布団に身を寄せ合い、眠りへと落ちていった。


 ◇

 

 ……「ただいまー!」


 玄関から響く明るい声に、俺は目を覚ました。

 耳に馴染んだのは、勇者ルナテミスとモルフィーナの声。


 時計を見れば、もう数時間は眠っていたらしい。

 カーテンから漏れ出る光も、赤みを帯びている。

 

 体を起こすと、驚くほど軽い。

 熱っぽさも消えているし、鈍くまとわりついていた全身の痛みも和らいでいた。まるで、長い夢から解き放たれたかのようだ。


 そのとき、横から小さな声が聞こえた。

 「……ん……」

 

 寝返りを打ったエリが、ゆっくりと瞳を開ける。

 そして、自分が俺と同じ布団にいることに気づいた瞬間――


 「し、修一くんっ!? な、なな、なぜ同衾しているのですかぁああ!!!

 この野獣助兵衛ッ!ひょうろく玉のあほんだらぁ!

 やっぱり過去に戻って、殺し直してきまーす!」


 部屋の空気を切り裂くような悲鳴が轟いた。

 俺は慌てて両手を上げ、なだめるように声をかける。

 「ち、違ぇよ! お前も疲れているようだったから一緒に寝てただけだって! 深い意味はねぇから落ち着けって!」


 「お、落ち着けるわけないでしょうがぁああっ!」

 真っ赤になった顔を抱えながら大騒ぎするエリをなんとか宥め、俺は立ち上がる。


 リビングへ行くと、ルナテミスとモルフィーナが荷物を片付けているところだった。

 俺は真っ直ぐ二人に向き合い、口を開く。


 「お前たちのおかげで、体は万全だ。もう大丈夫だ」

 そう言い切ると、胸の奥に熱が宿るのを感じた。

 「……だから、もう一度歩き出そう。世界を救う旅に――行くぞ」


 ルナテミスが振り返る。

 その顔には、さっきまでの屈託のない少女の笑みはもうない。

 静かな炎を宿した瞳が俺を射抜き、勇者としての気高さが滲み出ていた。


 「うむ、修一。我らが創造主よ。

 その決意、しかと受け取った――!」


 彼女の声が部屋に響いた瞬間、俺の心にも再び戦う覚悟が蘇った。

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