成年の儀③
大太刀を持って山を降りると父が鳥居の前で待っていた。
「………無事済んだようだな。」
山から降りてきたわたしを見つけると父は安堵の表情を浮かべ穏やかな声で言った。
「はい…盃の液体を飲み干した後白龍様からこの大太刀を賜りました。父上…あの液体はなんだったのでしょうか?」
あの何も聞いていなかった黒い液体の正体を父は知っているのだろうか?
「あの液体は白龍様のお力そのものだ。液体が身体に馴染めば真に白龍様に認めていただけたという証となり、その大太刀の力を操ることができるようになる。
逆に身体に馴染まなければその瞬間お前の心の臓は止まっていただろう。言わば白龍様のお力を賜るに値する者になれたかどうか見極める試練だ。だから事前に伝えることは出来なかった。だが柾葵、お前はその試練を乗り越えたんだ。おめでとう。これからはその力でこの里のため、皇國のために力を尽くしなさい。」
父上の顔に自然と笑みが浮かぶ。
ーーーそうか…わたしは白龍様に認めていただけたのか…
そう思うと改めて背筋が伸びる。
「はい…!精進して参ります!!」
父につられて笑みがこぼれたわたしの肩に手をポンッと乗せ、では屋敷に戻って朝餉を頂こう。と笑いかけるとわたし達は帰路についた。
「お父さん、柾葵、おかえりなさい。」
家に帰ると母――茉椰が門の前に立っていた。
わたしの顔を見るとよかった………と呟き強く抱き締める。察するに母も恐らく試練の事を知っていたのだろう。
「ただいま帰りました…母上…」
小さく震える母の背中に手を回し答える。
ゆっくり身体を離すと手に持っている大太刀を見た母は、
「柾葵、あなたはこの光宮家の正統な次期後継者です。白龍様に授けて頂いたお力を正しく奮い、これからはこの里のため、皇國のために父上と共に力を尽くしなさい。」
と静かに凛とした声でわたしに言う。
わたしは母の目を真っ直ぐに見つめて答えた。
「はい。身命を賭してこの里を、皇國を護ってまいります」
わたしの言葉を聞いてフッと目尻を緩ませ笑顔になると、手をパンッと合わせ、
「さぁ!次期当主成年の義の朝は忙しいわよ!まずは朝餉を頂いてから各里長の所へご挨拶に伺って、その後は皇居での祭事とやることは沢山あるのよ!だから早く中にお入んなさい!」
と言ってわたしの背中に手を添えた。
「ふふ……はい。わかりました。」
いつもの調子に戻った母を見て笑うと父と母と居間に足を向けた。
スッーーーー
襖を開けて居間に入ると中に弟の彰柾が定位置に座っている。
「姉上!ご成年おめでとうございます!」
まだ幼さの残る屈託のない笑顔をわたしに向ける。
「ありがとう、」と言葉を返すとわたしが手に持っている大太刀を見ると少し伏せ目がちに問いかけてきた。
「その手に持っておられるのが白龍様に頂いた大太刀なんですね…僕も父上や姉上のように大太刀を扱える隊士になれるでしょうか…」
獅子吼は各里当主の隊長、次期当主の副隊長に加え戦闘員と祈祷師で1つの部隊としており、属している戦闘員や祈祷師は各里の本家及び分家の出身だ。各隊に属する戦闘員は隊長が治める土地を守護している龍が持つ力を操ることができる。
分家の者は年に一度合同で行われる成年の儀で、帝より正式に適性を判断されそれぞれの隊に配属されることになっており、必ずしも自身が生まれた里に与えられた力が扱えるとは限らない。しかし、本家の者は龍に寵愛を受けた者の血縁者であるため隊長たちほどでは無いが龍の力を操ることができるため、他の隊に配属されることは無い。
なので彰柾も成年を迎えればわたし達の隊に属することが決まっている。
獅子吼では将来の隊士を育成するため養成学校を開校しており、10歳から成年を迎える半年前まで様々な事を学ぶことができる。入学の際に適性を仮判定され戦闘員の適性があるものは将来自身が扱うことになる力と、自分に合った武器の扱い方を祈祷師を希望するものは作法や術を学ぶことができ、わたしも半年前までは生徒だった。
光宮家は代々大太刀を扱っており、わたしも父上から大太刀の扱い方を教わったし、彰柾も現在父に教わっている。しかしまだ小さな身体で大きな刀身を持つ刀を扱うのは容易ではなく、自信を無くしているようだ。
「彰柾も光宮の子なんだし、男の子なんだから必ずわたしより身体も大きくなる。日々諦めず鍛錬を重ねれば絶対に扱えるようになるよ!わたしも彰柾に負けないようにこれからも鍛錬頑張らないと!」
と笑いながら頭を撫でると、彰柾は顔を上げ
「はい!!父上と姉上を支えられるような立派な隊士になれるように一生懸命がんばります!!!」
と笑顔を見せた。
居間にはお膳が4つ並べられており、最奥に父、向かいに母、父の隣にわたし、母の隣に弟と場所が決まっている。
「柾葵、彰柾、座りなさい。朝餉をいただこう。」
父がわたし達に声をかけ、全員着座したことを確認すると手を合わせた。
「「「「いただきます。」」」」
わたし達が食べるものは全てこの里で取れた作物や魚、肉で、献立は当主の配偶者ーー光宮の場合は母が毎日決めている。
今日は白米に、ほうれん草のお浸し、卵焼き、鯖の塩焼き、しめじのお味噌汁、梨だ。
一番最初に卵焼きを口に入れると出汁が染み出してくる。母が作る卵焼きが好きでこれだけは母に作ってくれといつもお願いしている。
美味しいなぁ、と頬を緩めながら食べていると、
「この後は正装に着替えて総統括の屋敷がある北部にて各里の当主と次期当主に成年の挨拶を行う。次に帝の分家である御三家の当主が集まる帝都に。その後皇居で帝による成年の儀が執り行われる。最後に光宮部隊 副隊長任命式と顔合わせだ。ゆっくりしている暇は無いぞ。」
と父に声をかけられる。
「っ、、急ぎます!」
西部であるここから北部まではそれなりに距離がある。北部から帝都までも距離がある。その上祭事の時間は決まっているため、絶対に遅れることはできない。だからのんびり朝餉を味わっている時間はないのだ。
急いで朝餉を平らげると「ご馳走様でした。」と手を合わせ、まだ食べている母と彰柾を横目に立ち上がり急いで自室に向かった。




