殿下、婚約解消いたしましょうよ!
とうとうサティアス殿下がやらかしてしまった。
というより、現在進行形でやらかしている。
学園に通い始めて数か月、彼は目新しさに庶子の男爵令嬢という貴族の中では下位となる女性に入れあげていた。
アリエナ・イヌス男爵令嬢は、銀色の髪に水色の大きな瞳を持つ、可愛らしい令嬢だ。
庶民の中に居てさえも、その容姿では目立っただろう。
早い段階で、男爵は彼女を養女に迎えた。
妻である夫人も、これならばと特に虐げもせず大事な男爵家の駒として、家庭教師を付けて育てさせたのだ。
だから、礼儀作法は低位貴族のそれとしても、不敬にあたるような言動はしない。
庶子とはいえ、平民の中で育った訳でもないので、普通の可愛らしい令嬢だ。
サティアスは、金の髪に青の瞳の完璧な王子様である。
この国の第一王子であり、次期王太子であり、ルルフェイアの婚約者でもあった。
ルルフェイア・エルメ公爵令嬢は、溜息を一つ吐く。
人前では穏やかに微笑んで推移を見守っていたのだが、公爵からは苦言を呈されていた。
『未来の王妃として対処して見せよ』
まーあ、ですわよねえーと心の中でぐったりする。
幼い頃は、美しい王子に夢中だったし、公爵家という自身の地位にも満足していた。
王妃教育だって、そこまで苦にはならない。
寧ろ家で行われていた淑女教育の方が地獄だったから。
それもこれも、サティアスの隣に並ぶが為である。
恋や愛もあったと思う。
けれど、最近の行いで霧散した。
だからといって、物語の様にすぱっと家をかなぐり捨てて出奔したりするとか、そんな事は現実的ではない。
そうするだけの情熱が他の男性にでもあれば別だが、公爵家はルルフェイアを未来の王妃として育てたのだ。
当然、年頃の男子などと触れ合う機会など作らせなかった。
使用人どころか、護衛ですらすべて女性だ。
万が一があっては困るからである。
大切に育てられた箱入りの令嬢として生きて来て、学園で初めてサティアス以外の男性に出会った。
だが、サティアスのように踏み外す気はなく、ルルフェイアは毅然として穏やかに過ごしていたのだ。
公爵に付けられた側近は、派閥や寄子の家の令嬢達で友人というよりは、相談役と監視を兼ねている。
仲良くはあるけれど、それだけだ。
「そうですわね、そろそろお話をしないとなりませんわね。イヌス男爵令嬢にお声がけをして、放課後サロンに来て頂いて」
「畏まりました」
ルルフェイアの侍女である子爵令嬢のレイアが会釈をして、アリエナの元へと向かった。
そして、放課後。
可愛らしいアリエナと共に、サティアス王子と側近達までもがサロンに訪れた。
本来なら男子禁制、と言いたいところだが婚約者である王子も共にいるので、仕方なく部屋に入れる。
「先触れもなく押し掛けるなど、非常識ではございませんか」
「何を言う!大方、学園の噂を真に受けてイヌス嬢に嫌がらせをするつもりだったのだろうが、我々は友人に過ぎない!不貞を疑う程信頼関係がないのならば、婚約を解消してもいいのだぞ」
怒りに任せて、サティアスがアリエナの細い肩を抱いて、言い放つ。
アリエナは困った様に、けれど何処かに優越を滲ませた目を向けた。
ルルフェイアはまあ、と口に手を当ててから微笑む。
「分かりました。では、王命による婚約でしたが、殿下より解消の旨お達しがあったという事で、手続きに入らせて頂きますわね」
「お待ちください!そのように短慮を起こしてはなりません」
公爵令息のキリキア・ロレンスが慌てて割って入る。
それはそうだろう。
彼もサティアスが失脚すれば、自分の地位も揺らぐのだから。
「あら、ロレンス公爵令息。後ろ盾なら貴方のロレンス公爵家だけで宜しいのではなくて?」
「それでは足りぬと分かっておいででしょう?」
「嫌ですわ、そんな。イヌス男爵家も後ろ盾に加わるのですもの。心強いでしょう?」
くすくす、と軽やかな笑い声を立てるルルフェイアに、さすがにサティアスも不味いと気が付いたようだ。
ルルフェイアの背後には、派閥と側近の令嬢達が何人も傅いている。
その全てが第一王子の派閥から、離れてしまうとしたら。
「どうか、エルメ嬢」
困った様に目を向けるキリキアに、ルルフェイアがにこりと微笑んだ。
「貴方がどう仰ろうと、肝心の殿下がこれではね。もうイヌス嬢にお話しする気も失せましたし、どうぞ、お帰り下さいませ」
しっしっと追いやるように閉じたままの扇を上下に振れば、他の側近、ロニー・ボドス侯爵令息が困った様に声をかけた。
「殿下」
「………私も言い過ぎたようだ。先程の言葉は撤回する」
「あら、残念ですこと。では、イヌス嬢とお話ししなくてはならないのね。面倒なこと」
心底面倒臭そうに、ルルフェイアは紅茶を優雅な手つきで口に運んだ。
「あの……残念、て……エルメ様はサティ……サティアス様を愛しているのではないのですか……?」
わざと愛称で呼んで言い直すところがまた、あざとい、とルルフェイアは紅茶を含んだ口が緩みそうになる。
笑ってはいけないわ……。
ごくりと嚥下して、ルルフェイアは目の前の長椅子を指し示す。
「どうぞ、おかけになって。……わたくしと殿下の婚約は政略によって結ばれた物で、恋愛によって結ばれた事でない事ぐらい、先程の会話でお分かりにならなくて?それとも、愛がないから自分の愛を選ぶべきだと主張しているのかしら?」
「ぐ……」
ところが、悔しそうな顔をしたのはサティアスの方で、アリエナはその姿に目を瞠る。
「いえ……でしたら、わたくしに何のお話を……と思いまして」
困った様に言うアリエナに、思わずといったようにルルフェイアは笑う。
扇で口元を隠しながら。
「うふ、ふふふ。だって、今学園には噂が蔓延しているでしょう?わたくしの父の耳にも入っているのだから、高位貴族の中では常識になっているのではないかしら?『第一王子の寵愛を男爵令嬢が頂いている』と。ですから、イヌス男爵令嬢、貴女の希望を叶えて差し上げようかと思って」
「わたくしの希望、ですか?」
警戒するように、アリエナは上目遣いでルルフェイアを見る。
学校の噂は知っていたし、アリエナの望み通りだった。
勿論、正妃になろうなんて思っていないし、難しい政務だってアリエナには無理だ。
だから。
「ええ、望まれるのであれば側妃に推そうかと思っていたのだけれど」
アリエナはパッと顔を輝かせて傍らのサティアスを見るが、サティアスは苦い顔のままだ。
「何を、企んでいる」
サティアスはぎり、と歯噛みしながらルルフェイアを睨んでいた。
ルルフェイアは扇を広げて、その影に隠れる。
「まあ、怖いお顔。わたくしは殿下の尻拭いをさせられているというのに、企んでいる、だなんて」
「何が尻拭いなのだ」
激高するサティアスに、顔の前で扇を閉じて、冷たい目をルルフェイアが向ける。
「尻拭いでなく何だと?男爵令嬢如きに熱をあげる第一王子、公爵家と公爵令嬢を蔑ろにして家名に泥を塗る王子、身分制度を理解していない阿呆、それどころか公爵の怒りを買い自分の首を絞めている被虐主義者、そんな風に思われているのに、放置されているのですから………ああ、本当に殿下との結婚がますます嫌になって参りましたわ。やはり、解消で良いでしょう、これ。ねえ、お帰り戴けないかしら?」
話している内に嫌になったのか、放り出す言葉を口にするルルフェイアに、羞恥と怒りでサティアスの顔が赤に染まる。
「貴様、言うに事欠いて、不敬な……っ!」
「では、反論なさいませ。何故、噂を放置なさいますのか。友人と言いつつ度を越えた寵愛を与えて、貴族子女達の言葉をその親にまで広げて、自身の価値を落とすのか。何かお考えの事があってなら、お聞かせ願えますか?」
「ぐっ……それはっ本当に、友人で……」
「では、側妃になさるおつもりはないと?」
冷たいルルフェイアの問いに、サティアスは傍らで不安そうに眼を潤ませるアリエナを見る。
可憐な姿を愛しいと思ったし恋情もあるが、建前上友人と言い、自分の心も誤魔化してきた。
今、ルルフェイアの言葉に否と言えば、アリエナは誰か他の男のものになってしまうのだ。
「……君は、それでいいのか?」
暫くアリエナを見つめた後で、サティアスが絞り出すようにそう言った。
「嫌だと言ったら、穏便に婚約を解消して下さるのなら、それでも良いですけれど?」
「そういう言い方が!可愛げがないのだ!側妃として受け入れるのか、聞いている」
「ですから、受け入れる心算が無くばそのようなお話はしないでしょう。何なのです?本当に。……はぁ、ロレンス様にボドス様、本当にこの方を未来の王になさるおつもりなの?国に対する冒涜ではないかしら」
呆れた様に言うルルフェイアに、キリキアもロニーも溜息を吐いた。
「エルメ嬢がお支えすれば、何とか……」
「ここまで失望させられて、まだお仕えしなくてはならないのが苦痛ですわ。ねぇ殿下、もう国王の座はお諦めになって、第二王子にその座を譲られませ。そうしましたら、側妃などと言わずイヌス嬢を妻と出来るのですよ?」
「………は?な、何を言い出すんだ……」
先程からその話しかしていなかったと思うのだが、理解が追い付いていないらしい。
ルルフェイアはもう面倒くさくなっていた。
「ですからね。イヌス嬢一人と婚姻したいのでしたら、第二王子に国王の座は譲って、殿下は臣籍降下をして新しく爵位と領地を戴いて、イヌス嬢と愛のある生活をお送りするのがお勧めでございますよ。能力的に見て……伯爵位くらいまでが妥当だと存じますけれど」
え?とアリエナとサティアスが固まった。
アリエナにしてみれば、国王の妻と伯爵の妻では全然違う。
伯爵の妻というのだって、立派な玉の輿だが、それならば側近の侯爵令息や公爵令息の方が身分が高い。
身分の高さに比例して、大体は財産も多くなる。
それに、正直に言えばサティアスにも幻滅し始めていた。
もっと強くて毅然とした優秀な王子だと、思っていたのだ。
「で……殿下、わたくしの為に玉座をお捨てになるのは、お止め下さい」
「……アリエナ……」
「いいや、王位継承権を捨ててでも、其方と結ばれたいのだ!、と仰るところでは?」
見つめ合う二人の間に、ルルフェイアの茶々が入る。
物語ならそんな展開になるものだ。
「……っだいたい!其方は私との婚姻がなくなったらどうするのだ!瑕疵がついた令嬢など貰い手がないのだぞ」
「さあ、どうなるのかは、父上が決める事でございます。多分ですけれど、他国の王族か準王族に嫁がされるでしょうね。わたくしは既に王妃教育を終えておりますので、父としても有効活用したいでしょう」
さらり、と言ってのけるルルフェイアに、サティアスとアリエナはまたもや固まった。
「婚約解消は瑕疵などではございませんわ。特に、身分の低い魅力的な令嬢に心を奪われて自らの地位を落とした王族との解消なんて、毛ほども傷はつきません。ご安心なさいませ。どうしてもわたくしを使い物にならぬと父が判断すれば、修道院でのんびり暮らす事に致しますけれど、多分それはないでしょうね」
のんびりと思いを巡らせるようにルルフェイアは言った。
「大きな商会で公爵家と釣り合う程の大金があるなら、それもアリ、でございましょうか。父から見て価値は下がろうと、世間一般では公爵家の令嬢というだけで、垂涎の的ですもの。美しさという点でも王族に並びますからね。では、そういう事ですので、安心してお二人は真実の愛に邁進なさいませ」
「おい、何故そうやってすぐ解消しようとする!」
「もとはと言えば、殿下が言い出された事ですし、わたくしももう、愛情どころか愛想が尽きたのですもの」
「愛想が尽きた」
「ええ」
寧ろ、どうやったら尽きないと言うのか教えてほしい、とルルフェイアは焼き菓子を口に入れた。
「貴女達も座って、お茶を戴きなさいな」
振り返って側近の令嬢達を促したルルフェイアは、紅茶も飲む。
側近の令嬢達も、呆れたような視線を王子達に送っていたが、ルルフェイアの言葉に従って、近くにある卓についてお茶を飲み始めた。
ルルフェイアが首を傾げて示せば、何とか止めようとしていたロレンスやボドスなどの側近も別の卓でお茶を飲み始める。
「……………」
「……………」
真実の愛の二人は黙りこくったまま。
きっと現実的な未来と、自分の愛の重さを比べているのだろう。
でもルルフェイアの天秤は、解消に大きく傾いたまま元に戻らない。
「解消致しましょう、殿下。その方が殿下にとって幸せでございましょう。愛する女性に愛される幸せな生活が待っておりますよ。学園でだって、お二人で青春を謳歌出来ますし、周囲だってお二人が真実の愛を選んだのならと祝福して下さるでしょう。どっちつかずでわたくしを婚約者に据えたまま不義理を働くよりも、余程印象が宜しいかと」
などと言ってみるが、普通に、解消して自由にしてほしいだけである。
だが、裏切り者が出た。
「殿下、駄目でございますわ!殿下には導かねばならぬ民がいるのですもの」
「アリエナ……」
「殿下に導かれたら、民は迷子になって遭難すると思いますわ」
焼き菓子をサクサクと食べながら、ルルフェイアが茶々を入れる。
「ルルフェイア!貴様という女は!」
「でしょう?嫌でございましょう?では解消いたしましょうよ」
既にルルフェイアのサティアスの扱いが雑になってきている。
だが、解消というと、ぐっとサティアスは答えに詰まるのだ。
「あのですね、殿下。あれもこれもは無理なのでございますよ。真実の愛を貫きたいのなら、我が父を説得してみせたら如何です?お前の娘は可愛げがないから正妃にはしないが、後ろ盾は下りないで私を応援してくれ!と」
「そんな都合のいい話があるか!」
「ええでも、殿下はそれをお望みなのでしょう?夢物語ですわよね。分かって頂けたのでしたら、真実の愛を選びましょう。きっと劇になって人気も出ますことよ」
無責任な言いっぷりに、サティアスはわなわな震えた。
都合のいい話なのは分かっている。
けれど、アリエナを側室に迎えればいいだけの話だ。
「だから、解消せずに、アリエナを側妃に迎える」
「わたくしが嫌だと申し上げたらどうなさいます?」
「「えっ?」」
ここにきて突然掌を返されて、サティアスは言葉を失った。
アリエナはそんなサティアスを見ている。
「だが、先程、其方が提案したのではないか……」
「ええ。そもそもイヌス嬢を呼び出したのはその覚悟があるかどうか、わたくしが整えて良いのかどうか確認するためだったのですよ。それなのに、殿下がズカズカと勝手に割り入ってきて、声高に婚約解消を叫ばれたのですが、この期に及んでまだその件について謝罪を戴いてませんけれど」
くっ、と喉を鳴らして言い淀むサティアスに、ルルフェイアは小さく手で制した。
「いえ、良いのでございます。心にもない上辺だけの謝罪を、相手に求められてから嫌々口にされても許す気にはなれませんもの……はぁ、わたくしもう殿下の顔を拝見するのも嫌になって参りましたわ」
「………なっ!」
よりにもよって、まだ婚約者である王族に対して言って良い言葉ではない。
怒りに声を荒げそうになるが、こてん、とルルフェイアが首を傾げた。
「如何でございます?好意もない相手に疎まれるご気分は。蔑ろにされる気持ちが少しはご理解頂けて?」
う、とサティアスは顔色を悪くする。
今までずっと、尽くしてくれたルルフェイアに対して、自分がどんな態度で何を返してきたか漸く思い当たったようだ。
それに、たとえ好意があったとしても、そんな風に言われ続けたら愛情など保ち続けられないと。
「イヌス嬢、貴女も少し考えてみた方が宜しくてよ。この方は目新しい『真実の愛』を見つければ、貴女の事もまた蔑ろにするでしょう。疎ましいと撥ねつけ、何か言おうとすれば悪意塗れの解釈をして、傲慢にも怒鳴りつけ謝罪もなさらない、そんな風に扱われますのよ。ええ、分かっておりますとも。ご自分だけは違う、とお思いになりたいでしょう?そう思うのでしたら、信じてお側にお仕え遊ばせ。でもね、わたくし、他に何人殿下の『真実の愛』が出てこようとも、貴女に配慮なんていたしませんことよ?」
ヒュッと喉を鳴らしてアリエナは息を吸い込んだ。
それは、良く知っている。
小間使いに手を付けた父には、今も別の愛人がいるのだ。
男爵夫人がアリエナを目の敵にしなかったのは、そういう理由もあった。
とっくに愛情は枯れ果て、お好きになさいませと放置している。
そして夫人もまた、愛人を抱えていた。
裏切る者は何度だって裏切るし、浮気する人間は何度だって浮気をする。
配慮しないという事は、サティアスが望めば愛人は増えて行くという事だ。
「それと、継承法という国際的な法律がありますから、側妃になったとしても貴女がたの子供は王位を継承する事は出来ませんの。正妃と国王の子供だけが、その権利を得られます。ですけれど、殿下が臣籍降下すれば、お二人のお子様は爵位を継ぐ事が出来ましてよ」
にっこりとルルフェイアは微笑んで言うが、結局二人の子供はどうしたって王位継承者とはなれないのだ。
別にアリエナだって、正妃になりたいとか次代の王の母になりたいとか思っている訳ではなかった。
けれど、たった一つの愛すら貰えずに、朽ちていくだけの存在になるかと問われれば、身分があっても虚しい人生になりそうだと、そう思った。
現にサティアスは優柔不断で、アリエナへの愛を貫き通す訳でも、王位を得んが為に突き放す事も出来ないのだ。
それが、アリエナへの愛なのだとしたら、報いる気にもなれるのだが、ルルフェイアの言葉すら否定しない。
真実の愛はアリエナだけだ、と嘘でも、言ってくれたのなら。
「あの……エルメ公女、今までのご無礼、大変申し訳なく思っております…ご容赦くださいませ。わたくしが浅慮でございました」
言葉遣いを正して、アリエナは立ち上がってルルフェイアに淑女の礼を執った。
ルルフェイアは、そんなアリエナににこりと微笑む。
「そう……お決めになったのね。わたくしは貴女の選択を尊重いたします。そして、謝罪も受け入れますわ」
ほっとしたような表情を浮かべて、そしてアリエナはサティアスに向き直る。
「殿下。わたくしに一時の夢を与えてくださってありがとう存じます。今までの殿下のお言葉は、学生時代の思い出としていつまでも大切にいたします。殿下の治世が安泰である様、遠くからお祈りさせて頂きます」
「……アリエナ……嬢、……」
止める言葉もくださらない、とアリエナは分かっていながら目に溜まった涙を指で払った。
「それでは、失礼いたします」
もう一度、扉の前に立ち淑女の礼を執ると、アリエナは扉から出て行った。
けれど、見送ったままサティアスはその後を追う事はしない。
「宜しいのですか?殿下。追わなくても」
「………良い。全てが足りぬ私では、彼女を幸せにする事は出来ない」
「そう、でございますか。では、わたくし達の婚約解消は一旦保留といたしましょう。ですが、わたくしが解消を言い出さずとも、父に見限られれば殿下は王座から遠くなる事だけは心に刻んでおいてくださいませ。また、イヌス嬢以上の『真実の愛』が見つかったのなら、その旨仰っていただければいつでも解消は可能でございます事、お知り置きくださいませね」
淡々と穏やかな笑みで言われて、憔悴しきった様子でサティアスは頷いた。
学園生活が始まって僅か半年の事である。
その後、公爵の説得をしてみてはというルルフェイアの幾度もの提案にも乗らず、他の女性に目を向ける事もなくなり、真面目に邁進する姿に側近達もまたサティアスを支える事にしたのだった。
ルルフェイアはといえば、少なくとも父の出した課題は達成したのだが、意外にも自分が自由になりたかったのだと知って、少しだけ解消出来なかった事を悔やんだ。
けれど、人は成長するもの。
信用は出来なくても信頼は出来る王子として成長するサティアスに、ルルフェイアもまた過度な期待を持たずに、支えとなれるよう努力を重ねていったのである。
書いてる内にどんどんヒロインがめんどくさくなっていったのです。
どうしてこうなった。
でも、政略>恋愛だし、踏みとどまったから怒ってはいない。
一生直らない人もいるけど、痛い目見て成長する人もいるのです。
だって、皆一度や二度間違った事あるだろうし、黒歴史だってあるでしょう……?
イヤァァ黒歴史イヤァァ!>(・8・)
しばらくフルーツ禁止の肥えたひよこ。