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P計画  作者: 黒十二色
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第5話 悪戯っ子リン

リン視点

 好き、好き好き! 皆好き! 大好き!


 僕は、皆のことが好きだ。


 この超能力学校という場所で生まれた僕には、生まれた時から友達がいっぱいいた。だけど、今その友達とは離れ離れだ。選抜学級というところに入ってしまったからだった。


 だけど、選抜学級の皆も良い人ばかりで、僕のことを好きでいてくれている。とても幸せなことだと思う。


 僕は、リン。十歳。


 性別は女性。だいたい一年前に選抜学級に入った。


 不安でいっぱいだったけど、皆優しくて、その中でも特に、僕と同じ時期に選抜学級に入ったファファという女の子とすぐに仲良くなったから、寂しさは感じなかった。


 僕と同じ時期に選抜学級に入った人は、ファファの他に二人いた。デヴお姉ちゃんと、マリア様だ。マリア様はとても綺麗な人だけど、僕のことは好きじゃないみたいで、いつも僕を拒絶する。あっちいきなさいって感じに追い払われる。


 デヴお姉ちゃんは、物理的にも、精神的にもあったかくて、お母さんみたいだった。お母さんというものがどういう人のことを言うのか僕は知らないけど、きっとお母さんはデヴお姉ちゃんみたいな人だったと思う。一時期、デヴお姉ちゃんのことを「ママン」と呼んでいたけど、デヴお姉ちゃんは悲しい顔をして静かに怒ったので、やめた。


 さて、僕は、ある能力を持っていた。その能力について正確に知っている人は、きっと僕以外にいない。皆は僕が「瞬間移動できる」と思っているのだろうけど、そんなことはできない。皆の目にはそう見えるかもしれないけど、実際は違う。


 僕は、時間を止めることができるのだ。


 止まった時間の中を動いて、時間が動き出すと、瞬間移動したように見えるだけ。だから、移動できない場所だって、いっぱいある。


 更に、ある程度重いものだと、その場所にこびりついて動かないから、たとえば、もしも、教室内で時間を止めて、扉が閉じていて窓も開いていなかったら、その教室から出ることもできない。


 僕が触れたモノが動き出す、なんて都合のいい世界じゃないみたいだ。


 どちらにしても、そんな誰に話しかけても応えない世界なんて、寂しいから、だから僕は、その能力を使う事はほとんど無いと言っていいかな。



 放課後になった。前方に、廊下の真ん中を歩くバルザックを見つけた。おおきな身体で、すごく男らしい。僕の大好きな筋肉教師バルザックだ。


「ねえ、ファファ、バルザックがいるよ。体当たりしよう」


 僕がそう言うと、隣にいたファファは、「ええ。行きましょう」頷きながら小声で言った。


 そして、「おりゃああああああ!」とか「うりゃああああああ!」とか言いながら、二人で正面から突撃。


 どん!


 とても強い衝撃があった。手ごたえは十分か……と思いきや、バルザックは笑顔で僕達を見下ろしていた。


 怪人バルザック!

 僕達ピンチ!


「ふははははははははは! そんな攻撃では私は倒せんぞぉ!」


 バルザックは、僕とファファをそれぞれ片手で軽々と持ち上げる。手足をばたつかせる僕と、観念したかのようにだらりと両手足を垂らすファファ。ぴょこんと跳ねた髪の毛も、しなっとなってしまっている。


「あうー……」僕はそんな声を発しながらじたばたしていた。


「ん? ファファ? どうした?」


 バルザックがファファに話しかける。ファファはいつも以上に静かだ。普段は、苦しげに声を出しているような状況なのに。


「げ、気失ってる」


 僕は慌てた。慌てて、


「ファファ! ファファ! しっかりして!」


 そんな風に、バルザックの左手の先でぐったりするファファに声をかける。反応がない。


 ちょうどその時、教室から、マリア様が出てきた。


「どうしたの? リン、何の騒ぎ?」


 言って、あやしいものを見るような顔をした。


「げ、マリア様……えっと……」バルザック。


「バルザック先生? 何……してるの? あと、マリア様と呼ぶの、やめて下さい。先生なんだから」


 廊下の室温が、二度ほど下がった。マリア様が冷気を発したのだ。


 氷を自在に操るのが、マリア様の特殊な超能力だった。


「あ、いや、これは、その……」


「あのね、僕がね、ファファと二人にバルザックに体当たりしたの。そしたら、ファファが……」


「……体罰?」


 マリア様がバルザックを睨みつける。


 確かに、何も知らない人が見たら、少女二人を締め上げているようにしか見えないかもしれない。


「違うよ。違う。僕達が体当たりして、ファファが気失っただけなの」


 僕は説明する。


「そ、そうだぞ」


 言ってバルザックは僕を降ろして、ファファを連れてどこかへ行こうとする。


「先生、ファファを何処へ連れて行くの?」僕はきいた。


「保健室だ。ファファを診てもらおう……」


 バルザックは元気なく振り返ってこたえた。


 その時、


「ん……」


 ファファの声が聴こえた。


「ファファ!」

「ファファ!」


 僕とマリア様は駆け寄って、ファファを見た。


「あ……れ? あ、リン? どうして私……あ、バルザック先生に体当たりして……」


「そうだよ。よかった。なんともなくて……」と僕。


 バルザックも、「ああ、良かった……」って心底安堵したような表情をした後に、ファファを降ろすと、「そ、それじゃあ、俺はこれから先生の会議があるから、またな」と、逃げるように去っていった。


「マリア様!」


 僕がそう言ってマリア様に抱きつこうとする。マリア様はひらりと避ける。


「マリア様!」


 今度はファファが抱きついた。今度は成功。


 左半身の動きを封じられたマリア様を僕が更に抱きしめる。左右にしがみつく僕達。ぎゅっとする。


 マリア様の身体は冷たくて気持ちよかった。


「ありがとう、マリア様。バルザックから僕達を助けてくれたんだね」


「……そんなわけないでしょ。暑いから、離れなさい」


 マリア様は優しくそう言うと、絡みつく僕とファファを優しく解いて、


「気をつけて遊びなさいよ。怪我しても、知らないから」


 冷たい口調でそう言って、階段の方に歩いて行った。


「私達も寮に帰ろうか」


 ファファは僕にそう言った。僕は周囲を見渡して、


「デヴお姉ちゃんは?」


 と言った。


「あ、そういえばさっき、音楽室に行くから先に帰っててって言ってた」


「そっか。じゃあ、先に帰ろう!」


「うん!」


 デヴお姉ちゃんは、放課後、時々音楽室に行く。そこで一人で歌を歌っている。一人になりたい時に音楽室に行くので、僕達は空気を読んで帰ることにする。寮でもデヴお姉ちゃんとは同じ部屋なので、またすぐに会えるから。


 デヴお姉ちゃんの歌は、とても暖かい。できれば、僕達も聴きたいけど、僕達がいると緊張してしまうらしい。


 僕とファファは手を繋いで、寮への道を歩いていく。限りない幸せを感じながら。



 僕はリン。皆の妹。出席番号は、九番目。



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