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P計画  作者: 黒十二色
33/44

【幕間 ユーナの過去】

ラニ視点

 ハウエル先生の過去は、覗くと楽しかった。


 毎回違う場面が映し出されるからだ。


 その中で、ハウエル先生の過去に、ユーナが生まれた日の様子等、ユーナについてのものが多くあった。


 僕はその記憶をまとめて、ユーナの歩んできた人生というものを、本人すら知らないことを含めて語ろうと思う。


  ☆


 ハウエルが握っていたのは、一枚の書類。


 そこに書かれている内容を最大限に要約すると、


「超能力を持つ可能性が高い遺伝子を持つ子供を生み出す。母親はワンダ・ストライクフィールド。父親、ジェフ・リング」


 リングとは、ソフィアの姓だ。


 確かソフィアの過去を覗いた時に、ソフィアの実の父親だったのが、このジェフ・リングだったはずだ。つまり……ユーナとソフィアは異母姉妹ということになる。衝撃の事実だ。更に、ユーナの母親がワンダ先生であることもわかった。言われてみれば、確かに似ているかもしれない。


 要点だけ掻い摘んで話すと、ユーナは、人工的に作られた子供で、血縁的には超能力者同士の間にできた子供だった。もちろん本当の母親であるワンダの腹で育ったはずもなく、人口の子宮の中で育った子供だった。もしかしたら、人の肉体から生まれていないからこそ、異性との触れ合いを求めるのかもしれない。


 ユーナは、ワンダが母親であることを知らない。ワンダも、ユーナが娘であることを知らない。ハウエルは、彼女ら二人を超能力学校で出会わせた。血というものによって、惹きつけ合ったのだろうか。ワンダは真っ先に、孤立していたユーナに手を差し伸べた。


 幼少期、ユーナは他人とは少し違った。愛らしさというものが無く、常に張りつめていて、何かに怯えているようでもあった。僕も含めて、他の子供たちは本能的に、「ユーナは自分たちとは何か違う」と感じていて、彼女に近付こうとしなかった。そんな彼女に唯一手を伸ばしたのは、二十三歳を僅かに越えた年頃のワンダ先生。


 ワンダ先生は、その頃『P計画』の準備が軌道に乗り始めたこともあり、超能力学校の教師にならないか? とハウエルに誘われていた。


 ユーナは常に一人きりだった。超能力学校の幼児寮の人々も、彼女の出生を知っているらしく、彼女を避けた。ワンダはこの頃はまだ、過去視の能力も持ってはいなかったし、過去視を手に入れた後も、ユーナの過去は覗いていないため、その過去を知る事はない。


 ワンダは、超能力学校の教師となることを了承し、その年に幼児寮のユーナのクラスを受け持つこととなった。それからの教師人生は、常にユーナと共にあった。ハウエルの陰謀である。


 ちなみに、主観だが、現在のワンダの容姿はこの頃から全く変わっていないように見える。十数年前から容姿が変わらないということは……よっぽど良い化粧品でも使っているんだろうか。


 ユーナが心を開くのは、ワンダにのみであった。それが、ワンダの自信にも繋がり、彼女の教師としての成長に繋がる。


 ユーナとワンダは互いに親子のようなものであると思っていたが、ユーナが難しい年齢に差し掛かると、ワンダにさえも心を閉ざすようになり、異性との不純な交遊を繰り返すようになる。それはもう、とっかえひっかえであった。多くの男を傷つけて、同じ分だけ傷ついて、その傷で、自分が必要とされているという実感を欲しがったのかもしれない。


 寂しさを、埋めようと必死な女の子、そんな印象を受けた。


 しかし選抜学級に入ってから、ユーナを取り巻く環境は少し変わる。


 今まで自分を好きでいたはずの男子達が遠ざかっていく。誰も、悪女や魔女として有名なユーナと火遊びする者はいなくなった。同じような悩みを抱えているのがソフィアだが、彼女は皆の憧れの的として有名となり、ユーナの場合は、悪名が知れ渡る形になった。ねたみからか、ユーナに関する悪い噂が舞い、ユーナは深く傷ついた。しかし、それに反発するかのように、ユーナの恋の対象は、年上の教師にまで広がることとなる。要するに意地っ張りなのだ。


 生まれもっての色気で男を誘惑し、寂しさを埋める。こうして超能力学校始まって以来最強の悪女ユーナは生まれた。自他共に認める魔女で、いわゆる純愛ってやつに憧れているらしいのだが、今まで恋愛関係が長続きしたことは無い。


  ☆


 ところで、幼い頃のユーナはとても可愛いな。今ではすっかり大人っぽくなってしまって、残念だ。




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