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P計画  作者: 黒十二色
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第27話 僕のせい 再びリン視点

リン視点

「滅べ滅べ滅んじゃえー! あはははは! 誰か私を殺してー!」


 ファファが、おかしくなってしまった。やっぱり、言うべきじゃなかったんだ。


 僕のせいだ。僕のせいでファファが、変になってしまった。


「来るなああああ!」


 デヴ姉ちゃんが近付くと、ファファは大声で叫ぶ。デヴ姉ちゃんが()()る。


「ファファ……?」呼びかける。


「嫌だ、来るな……私は……逃げるんだ。こんな場所……こんな、また実験される……また……やめて……こわいよ……助けて」


 錯乱するファファ。


 デヴお姉ちゃんは、一歩ファファの方に歩み寄った。


「うわああああああああ!」


 ファファは今まで何もなかった手に、いつの間にか巨大な刀を握っていた。アレが、あの文章に書かれていた青龍刀?


 大きい。この学校で一番おっきなバルザック先生の身長くらいある。


 だめだ。ファファ、それを振り下ろしちゃだめだ。そのまま振り下ろせば、デヴお姉ちゃんが……死んじゃうよ。


「デヴ! よけて!」


 マリア様がデヴお姉ちゃんに飛び掛って、二人は床に倒れこんだ。


 その場に倒れこんだだけで、かえって危険を広げる結果になった。


 このままではマリア様も死んでしまう!


 あの、まがまがしい刀で、やられてしまう!


 マリア様は氷の壁でファファの刀を防ごうとする。


 だめだ。


 あれでは、だめだ。


 どれだけマリア様の氷が分厚くても、それは簡単に切り裂かれてしまう。


 ゆっくりになる視界。氷にファファの刃が入った。


 やっぱり、だめだ。どうしよう。


 何とかしないと。


 少しずつ進む刃。


 さっきから、ここに来るまでに、もう何回も時を止めるという僕の特殊な超能力を使ってしまった。


 この超能力は疲れるんだ。


 だけど、どれだけ疲れても、もし僕が死んでしまっても、僕の二人のお姉ちゃんを死なせないし、ファファに、もう、人を殺させたりなんかしない!


 ――そして、僕は、時間を止めた。


 教室の皆は、全く動かない。


 ファファも全く動かない。


 僕にとって、時間を止めるというのは、息を止める感覚に近い。だから、何百秒も止めていられないんだ。だけど、窒息死したって、三人をなんとかするまでは、僕は時間を止め続ける。


 時間を止めている間に、三人を救う為に解決しなくてはいけない大きな問題がもう一つあった。時間を止めるということは、全ての物質の動きが止まって、その場所に固定されるということだ。


 軽いもの、例えば空気や水蒸気なら動かせるけど、ある程度重たいものになると、ほんの小さな消しゴムも、ひとかけらの氷の塊も動かすことはできない。僕の腕力の問題ではなく、僕の能力で生み出したこの時間の狭間という空間の、ルールなんだ。


 周囲を見渡して一瞬で状況を判断する。


 マリアとデヴに危機が迫っていて、サヨンとミキトがファファを取り押さえようとしている。後は、よくわからない。次に取る行動はわからない。


「…………ッ!」


 動け……と心の中叫びながら、マリア様とデヴお姉ちゃんの体を押す。全く動かない。


 汗が噴出す。このままじゃ、二人が死んでしまう。


 ファファが、殺してしまう。


 もう今まで止めた時間の中で最高記録を越えていた。


 苦しい。痛い……何かが痛い。頭なのか、胸なのか、よくわかんない、全部かもしれない。僕の痛いと感じるところ全部が痛がっている感じだ。


 どうすればいいんだ。


 もうすぐ時間が動き出してしまう。


 押しても引いても動かない。


 制服の端を引っ張ってみても制服の端すら動かない。


「う……ご……けぇぇぇぇぇ」


 搾り出すような声で叫ぶ。


 動かない。苦しい。どうして動いてくれないんだ。


 こんなに強い気持ちで願っているのに、どうして奇跡が起きてくれないんだ。


「――そうだ、念動力……」


 僕は閃いた。まだ試していないことがあった。それは、念動力。僕は念動力を、上手くコントロールできない。そんなことはわかってる。いつも訓練で石を大暴れさせて皆を困らせている。もしかしたら、時間が動き出すのを待たないで、死んでしまう人が出るかもしれない。僕が二つの超能力を同時に使うのは初めてのことだ。何が起こるか分からない。でも、それでも、やらなくちゃいけない。


 僕は精神を集中する。


「動け……動け……」


 マリア様とデヴ姉ちゃんが、二人重なって倒れている。それを少しでも、少しでいいんだ。二メートルでいい。動かすんだ。


「動けえええええええ!」


 動かない。


「うわああああああああああああああ!」


 微かに、動いた。

 動かせる。僕にも動かせる。


 時間さん、まだ止まっていてくれ。


 一生のお願いだ。もう二度と願いごとが叶わなくてもいい。

 三人を、どうか、どうか、助けて。


 神様!


「あああああああああああああああああああああああああ!」


 バチン!


 と、何かが僕の中で弾けるような音がして、マリア様とデヴお姉ちゃんが吹っ飛んだ。五メートルくらいだろう。


 からん……。


 斬られた氷が落ちる音が聴こえた。


「よか……った…………」


 教室の床が傷ついたり、机や椅子が、いくつか切り裂かれてしまったけど、誰も怪我をしなかった。ファファだけが心に深い傷を負ったんだろうけど……。


 疲れた……もう目を開けていられない……。


 ファファのことが心配だけど、僕はもう。超能力を使いすぎたみたいだ……。


 目が覚めたとき……今あった全ての出来事が、夢だったらいい。


 昨日という日まで、時間を巻き戻したいなと思った。


 そうすれば、あんな図書館にあった文書なんか見ずに済んで、楽しく……いつも通りの日常があったはずなんだ。


 時間を止める超能力があるなら、きっと遡る能力もあるはずだ。きっと。


 僕は、今、その能力が欲しい。




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