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P計画  作者: 黒十二色
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第26話 知られてはいけないこと ファファ視点

ファファ視点

 短い休み時間の教室で、明らかに沈み込んで座っているリンがいた。


 リンの席は、最前列で、窓際から二番目の列。私とデヴ姉に挟まれる席だ。


 昨日から、リンの様子が少しおかしい。正確に言えば、昨日の放課後。私がハウエル先生と居残りマンツーマンで念動力の訓練をした後に、教室で会ってからだ。


 リンの代名詞でもある「元気」というものが感じられない。小さなことでは悩まないリンだから、悩むということ自体珍しい。料理で、塩と砂糖を間違えるという普段なら絶対にしないミスをするくらいだから、よほど大きな出来事があったのだろう。


 リンが私を避けるように教室の外に出て行ってしまった後、私は席を立ち、窓際に座るデヴに相談する。


「デヴ姉……リンがさ……」


「ええ。わかってる」


 デヴ姉も、リンの様子がおかしいことに気付いているようだった。完璧なはずの演技をしていると自負する私ですら、デヴ姉には隠し事をしているということは看破されたのだ。ずっと同じ部屋で暮らしているのだから、それくらいは当然なのかもしれない。


「風邪というわけでは……なさそうだけど……」


「ええ……ファファと同じよ。自分で言ってくれるのを待つしかないわ」


 皮肉を言われた。


 だからといって、私が自分から自分の秘密を言うことはない。何もない場所から原子を作り出して、物質を構成する力があることは、ラニしか知らないことだ。


「心配ね」とデヴ。


「うん、心配……」


 休み時間が終わる直前、教室に戻ってきたリンを見る。リンは、私と目が合うと、急いで目を逸らした。私が、何かリンを怒らす重大なミスをしただろうか?


 原因が私じゃないと考えるのが自然だけど、私が原因じゃないことで私を避ける理由がわからない。


 誰かに脅されている? その可能性はゼロじゃない。


 ハウエル先生? どうしてハウエル先生にリンが脅されるのか。


 そんなわけない。


 リンを脅すようなその他の人物の心当たりは……ラニかバルザックくらいのものだ。ラニを見ても怪しい素振りを見せないし、バルザックにはリンを脅す理由がない。リンもバルザックも互いに好意を持っているはずだ。


 とにかく、元気なリンが、跳ねることなく(しお)れているのを見ていたくなかった。


  ★


 次の短い休み時間に、リンが私に話しかけてきた。


「ねぇ……ファファ……ちょっと……話があるんだ。いいかな……?」


 この日初めての私に対するリンの言葉だったように思う。


「うん、いいよ。何?」


 俯いたまま、私を見ることもなく、私に背を向けて歩き出すと、


「……僕に付いてきて」


 と言った。相変わらず沈んだ声だ。


「うん……」


 ようやく、私に相談してくれる気になったのだろうか。どんな悩みなんだろう?


 リンは、人気(ひとけ)の無い廊下まで来たところで立ち止まった。この場所は、私がラニを青龍刀で追い詰めた場所だ。


「リン、話って何? 相談?」


「……ねぇ、ファファ……正直に答えて欲しいんだけど……」


「何?」


「人、殺したことある?」


 え……今、なんて……?


「殺してしまったこと……あるの?」


 そんな、まさか、だって、どうして、リンがそれを……何で……。


「私、知っちゃったの。ファファの……過去」


 私の過去を知るのは、ラニだけだ。そういうことか。口止めしたのに口走ったんだ。リンに好かれるためと考えれば辻褄は合う。あの男はロリコンだからだ。


「あの男……許さない……!」


 私は、ラニがいる教室に向かう。ラニを問い詰めるんだ。


「あ! 待ってよファファ!」


 呼び止めるリン。しかし、私は止まる気はない。

 突然後ろにいたはずのリンが目の前に現れ、両手を広げて、私の歩みを止めようとした。


「待って! ファファ! 話を聞いて」


「どいて!」


 私は、それでもどかないリンの横をすり抜ける。


 そして走ったのだが、またリンが私の進路を塞ぐ。


 リンの特殊な超能力の、瞬間移動というやつか。


 そんなもので今の私が止まるとでも?


 今の私の心は怒りで熱く燃えたぎっている。


 私の秘密を漏らした人間に復讐するのは当然だ。


 廊下は広い。私の進路を塞ぎ切れるわけもない。リンと私は立ち塞がってすり抜けての応酬を何度も何度も繰り返し、教室の戸の前に立った。


 戸を開けて、教室に入った。ラニしか目に入らなかった。


「ラニ」


「な、何だ……ファファ……」


 怯えたような表情をしている。身に覚えがあるということだ。やはり暴露したのはラニ。この男だ。この男に違いない。


「私の過去を、リンに教えたでしょう」


「何のことだ?」


 ステレオタイプなとぼけ方だ。いずれにせよ、この最低な男は、私の過去を知っている唯一の人間なんだ。この男以外に、リンに秘密を知られた経路は有り得ない。


「とぼけるの?」


「待ってよファファ!」


「何よ、リン。まさかラニを庇うの?」


「違うよ。ラニは違うんだ。僕がファファの力を知ったのは……違う場所なんだ」


「どういう……こと?」


 思考、停止。


 もう頭の中がぐちゃぐちゃで、何が何だかわからない。


「ファファ……殺しちゃったの?」


 答えない。


「ファファを実験してた白衣の人を、殺しちゃったの?」


 答えたくない。


「人殺しは、いけないことなんだよ。世界で一番、やっちゃいけないことなんだよ?」


 わかっている。そんなの。


「あのね、ファファ、過去視を……つまり過去が見える目を持ってるのは、ラニだけじゃなかったんだ」


 リンは俯きながらそう言った。


「え……誰が……まさかリン……あなたが……?」


「僕じゃ、ないよ」

 リンは大きく頭を振った。


「じゃあ誰よォ!」


「……ワンダ先生だよ。ハウエル先生が監視しているところで、過去を見て、それで……そういう書類があって……」


「――あははははははははは!」


 私は、おかしくなってしまったのだろうか。笑っていた。笑っている自分を、ひどく客観的な視点で見ている自分がいた。何かが、はじけ飛んでしまった。


 知られていた。知られていた。先生に知られていた。


 最初から全て知って私を育てて売り飛ばすためにこの学校に入れた。全ては仕組まれていた。きっと私が実験場から逃げ出したら、この場所に入れることは決められていて、だからそうか、私の実験をしていた連中とハウエルとワンダは繋がっていたんだ。


 逃げ場なんて最初からなかった。


 壊れてしまえばいい。こんな学校。壊れてしまえばいい。


 壊れてしまえばいい。こんな世界。


 全部全部、なくなっちゃえ。そうすれば、私は自由だ。


「こんな世界なんか、滅んじゃえばいいんだー!」


 私は叫んだ。




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