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P計画  作者: 黒十二色
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第25話 見ちゃダメなもの リン視点

リン視点

 一人で探検するなんて、何ヶ月ぶりだろう。


 ファファがハウエル先生に呼び出されて、デヴ姉ちゃんはマリア様を連れて音楽室に行ってしまった。


 僕は一人残されて、退屈な放課後。


 一人で探検することにした。見つかったら叱られる場所に行くのがドキドキして楽しいんだ。


「これ、何だろう?」


 初めてやって来た図書室三階の床の上に、落ちている何かを見つけた。


 それが何なのか、簡単には判断できないけど、宇宙人が落としていったものだとか、次元の狭間から突然現れたというような変な感じのものじゃなかった。何枚かの紙が黒い表紙に綴じられた書類だった。真っ先にその表紙の隅に大きく書かれた文字が目に入る。


「持出禁止……?」


 本と言えるのかどうかはわからなかった。僕は本ではなく誰かの落し物だと思い、手に取る。表紙の中央に書かれている文字を読んでみる。


「H……UA……HUA……ふあふあ? 何のこと……だろう」


 ペラリと表紙をめくると、答えが書いてあった。


「特別選抜学級生徒、ファファについて……作成管理責任者ハウエル……書斎からの持ち出し禁止……?」


 その場所は所謂ハウエル先生の書斎ではなく恋愛小説が置いてある書架の前だった。


 僕は、大きな音を素早く鳴らす心を落ち着かせて、更にページを捲った。


  ☆


 過去視の結果について。作成者、ワンダ・ストライクフィールド。


 私の過去視は、事実のみを書き記すものである。以下に書かれる全ての文章は、私ワンダ・ストライクフィールドによる過去視の結果であり、一切の私情を含むものでないことをここに主張する。


 私は過去視で、他人の過去にあった出来事を書き記すことができるが、その力を悪用しないことをここに主張する。


 私の過去視は、全て、管理責任者であるハウエル氏の監視の下に行われたものであり、改竄は、一文字も有り得ないことをここに主張する。


 私の過去視で得られた全ての結果を、管理者であるハウエル氏の許可なく閲覧することを禁ずる。



 ファファが次女として生まれたのは比較的裕福な家庭だった。父親は、機械を管理する仕事をしていて、母親はある地方の豪族の娘だったが、いつも家にいた。幸せな家庭だった。


 ファファが二歳になった頃、全国民対象の検査によって超能力的資質が認められ、更に詳細な試験と検査が行われた。その結果、何らかの特殊な能力を持つ可能性が高いことがわかった。しかし、超能力は目覚めていなかったためか、両親は、彼女を超能力専門の学校や施設に通わせることはなかった。


 ファファが住んでいた国の研究機関は、彼女を実験のためのモルモットにしようと、彼女の両親に接触。多額の見返りを手土産に交渉を開始した。しかし、どれほどの資金を注ぎこんでも、両親の了解が得られないことを悟ると、機関は、二人を殺した。そしてファファを誘拐し、実験を開始。無理矢理ファファの能力を目覚めさせた。当時ファファは四歳だった。


 ファファは、それでも機関では優遇されていた。人体実験という事実そのものが非人道的ではあるが、衣食住はそれまでよりもレベルの高いものになった。母親の代わり、父親の代わりも用意した。ファファは、父と母が入れ替わったことに気付いていた様子だったが、何も言わずに、娘を演じた。


 毎日のように、検査と称した実験をして、ファファが七歳の頃、ようやく眠り続けていた能力が開花する。何もない場所から、(いびつ)な塊を生み出したのだ。無から物体を作り上げる力。神の力、悪魔の力。想像によって原子単位で物体を生み出すことができた。


 機関は、その力を有益に利用する方法を探し始めた。しかし、なかなかうまくいかない。上手に能力を引き出すことのできないイライラを、ファファにぶつける事もしばしばあった。


 ファファが生み出せるのは、よくわからない(かたまり)だけ。物体を自由自在に生み出すというわけにはいかなかった。


 そんなファファが、初めて生み出した物は、青龍刀だった。ファファは、その刃渡りが一メートル以上もある巨大な青龍刀で、白衣の研究員達を殺した。青龍刀は、この世のものとは思えないほど鋭利で、地球上で最も硬いとされる物質で造られた扉も、簡単に切り裂いた。今まで、一度も使ったことのなかった念動力まで使い、研究機関の建物を脱出した。この時、ファファの能力は本当の意味で目覚めたのだ。


 ファファは青龍刀を持ったまま建物の外に飛び出し、数百メートル走った後、暗い路地裏に行き倒れた。青龍刀は、破片となって散り、その上に倒れたファファはいくつもの切り傷を負い、血液が道路に広がった。


 ファファが建物の外に飛び出した時間帯が人通りの少ない時間帯だったのが幸いし、超能力学校の事実上の責任者であるハウエルという老人に拾われるまで、人目につくことはなかった。


 以上がファファが超能力学校に来るまでの過去である。


  ☆


「何……これ」


 ファファが……ファファが……人を、殺した?


 僕は、見てはいけないものを見てしまったらしい。記憶を消す超能力が欲しい。こんなもの、見たくなかった。ダメだ。こんなものを見てしまったら、もうファファと普通に接することなんてできない。どうしよう。どうすればいいんだ。


 僕の手は、次のページを捲る。


 次のページには、ハウエル先生が書いた、ファファを保護した時の詳しい状況が書かれていた。

 その次のページには、ファファの能力をどのような方針で伸ばしていくかが書かれていた。

 更にその次のページには、ファファの能力を『P計画』にどう生かすのか皮算用が描かれていた。


 僕の手は、その書類をぱちんと閉じて、元の床の上に置いた。

 そして、その場を去ろうとする。


「僕は……何も……見なかった」


 自分に、言い聞かせた。


 階段を降りて、図書館と教室のある校舎を繋ぐ細い通路で、少し慌てた顔をしたワンダ先生と擦れ違った。


「あ、リン……まだ居たの? 早く帰らないと、暗くなるわよ」


「は、はい、さようなら」


「ええ、さようなら」


 僕は、更に歩く。鞄を教室に置きっぱなしだったから、それを取りに向かう。

 教室に居たのは……。


「あ、リン! 丁度よかった」


 ファファだった。


「私も今終わったところで、リンの鞄があったから……ん、リン……どうしたの? 何だか元気ない……」


「だ、大丈夫だよ、それより、もう終わったんだ? ハウエル先生、何の用だったの?」


「時々呼び出されるのよ。いつもと同じ」


「なんだ、そっか」


「帰りましょう。お腹も空いたし。リンの料理が食べたいな」


「あ、うん。わかった」


「本当にどうしたの? 元気ないよ? 風邪でも引いた?」


「僕はバカだから……風邪引かないよ」


 どうしよう、上手く、笑えないよ。




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