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P計画  作者: 黒十二色
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第19話 私の悩み事 デヴ視点

デヴ視点

「ラニ! 先生の過去。見えたら絶対私に言いなさいよ」


 ユーナがそう言った時、私は、論点がずれていることに気付いた。それこそがワンダ先生の狙いだったのかもしれない。


 最初にしていた「誰が親を殺してしまったのか」という話から「ワンダが親を殺したのか」という話に見事にすりかわっていたからだ。


 しかし、私は、それで逆に確信してしまった。私達十三人の選抜学級の生徒の中に、親を殺してしまった生徒がいるということを……。


 私が、「自分が肉親を殺したかもしれない」というようなことを言った時、ラニは、言った。


「――いや、デヴは違うよ。肉親を殺してなんかいない。肉親を殺したのはデヴじゃない」


 過去を見る目を持つラニがそう言うのなら、それは本当なんだと思う。私は殺していない。ラニは最低でロリコンな人間だけど、バカ正直なことでも有名だ。


 その後ワンダ先生が現れて、


「――ラニが私の過去を覗いて、私が親を殺したことを知ったのよね」


 というようなことを言った。


 それなのに、職員室から出てきた時に、ラニが、「ワンダの過去を覗いたという事実は無い」ということを口走ってしまった。


 これは大きな矛盾だ。


 きっと、ワンダ先生は焦っただろう。ワンダ先生とラニの言葉の矛盾が意味するのは、高確率で私達の中に親を殺してしまった人がいるという疑惑。


 幸い、私以外に親を殺してしまった人が私達の中に居るだろうことに気付いてしまった人はいないみたいだ。私は、気付いたことを、誰にも言う気はない。深く掘り下げても誰も幸せな気持ちになれないと思うから。


 翌朝、登校してみると、日常が戻っていた。誰も、昨日のことを蒸し返すつもりはないらしい。もちろん私も蒸し返したりしない。


 これでいい、と私は思った。


 次に「誰かが親を殺した」という話をする時は、もうわかっているワンダ先生の無実を、ラニの過去視が確定させる時だ。


 とにかく私は、そっと胸を撫で下ろしたのだった。


  ☆


 さて、昨日の話とは関係なく、私はもう一つ悩み事を抱えていた。


 それは、バルザック先生の熱視線。


 じっと私を見つめてくるバルザック先生のせいで、私の体温は風邪でもないのに二度ほど上昇したように思う。廊下から片目で私を見つめ続ける信じられないほど怪しいバルザック先生。


 あまりに私を見つめ続けているので、私は目を閉じ、精神集中。今現在いるこの空間をイメージして、そのイメージの中で先生の手の甲に火をつけた。焼いてやった。


 発火能力を人を傷つけるために使うのは少し気が引けたけど、そうでもしないと先生の視線から逃れられないと思った。だから、仕方ないわよね。


「アッツ!」


 遠くで先生のそんな声が聴こえた。


 私が先生の手を焼いてから放課後まで、先生は私の近くに現れることはなかった。だから、きっと今日なら音楽室に行っても大丈夫だな、と思い、リンとファファには先に帰ってもらった。久しぶりに大声で歌えると思った私は、とてもリズミカルな足取りで校舎三階にある音楽室へと向かったのだった。


 しかし、そんな私の心理は完全に読まれたらしく、音楽室にはバルザック先生がいた。もう放課後で、皆帰ってしまった後だ。誰にも助けを呼べない。もしかしたら、それをわかっていて先生は私を音楽室で待ち伏せていたのかもしれない。


「先ほどの、君のあの炎は、俺を火傷させようとしたのかい? 私に惚れたら火傷するわよという忠告だな! だが俺はあんな炎では火傷などしない! あの炎は俺の心に更に火を点けた!」


「もう嫌……」


 私は逃げることを選択した。


 こわい。こわいんだ。


 前回は無理矢理キスされた。


 今回は何をされるの?


 嫌だ。こわい。


「待つんだ、逃げないでくれ。まだ話は終わっていないぞぉ」


 嫌だ……バルザック先生のこと、嫌いじゃなかった。だけど……こんなに追い回されるとは思わなかった。


「ふはははは! 俺の炎は、消えないのさぁ!」


 誰か、誰か……誰か助けて……誰か……。


「来ないでぇ!」


 音楽室を脱出した私は、廊下をバタバタと走った。階段を転がるように降りて、二階の廊下を駆け逃げる。しかし鈍足の私は簡単に追いつかれて、腕を掴まれてしまった。バルザック先生の顔が目の前に現れた時、


「そこまでよ」


 いつも私に冷たい言葉を浴びせる声が届いた。この声は――


「マ、マリア様!」


 驚いたような声を出したバルザック先生。マリア姉さまは落ち着いた冷たい声で、


「バルザック先生、デヴが嫌がってるじゃない」


「いや……これは……」


 ぱっと掴んでいた腕を放してくれたので、私はマリア姉さまの背中に隠れようとした。もちろん体型の関係上、はみ出してしまうけれど……。


「マリア姉さま……助けて」


「ええ」


「俺は何もしてないぞ!」


「そうなの? デヴ」


 マリア姉さまの右目が私を見た。

 私はマリア姉さまの横顔に向かって、ふるふると首を振って、唇にそっと手を当てた。


「無理矢理キスされたのね」


「え? 何でわかるの?」


「そうなのね?」


「……うん」


 こくりと頷く私。


「バルザック」

 マリア姉さまの冷たい声。


「デタラメだ! 今日はまだしていない!」


「最低ね」


 マリア姉さまの冷たい視線がバルザック先生を貫く。


「う……」


 マリア姉さまの横を通り過ぎ、逃げ走ろうとしたバルザック。


 ドン、とマリア様が造り出した氷の壁が阻んだ。


 冷たい壁にぶつかって、バルザックは尻餅をつく。


 バルザックは廊下に座ったままこちらを向くと、マリア姉さまを見て怯えていた。


「デヴは私の大事な妹よ。デヴを傷つけたあなたを、私は許せない」


「マリア姉さま……」


 私は、嬉しかった。


 今までとても冷たかったマリア姉さまが、私を「妹」とまで言ってくれた。


「頼む! 校長には言わないでくれ!」


「はぁ……」マリア姉さまは溜息を吐いて、「小物ね……」呟いた。


 そういう、一連のやり取りを見て、私は、もう十分に満足してしてしまった。私は言う。


「マリア姉さま……もういいよ……ありがとう……」


「え……もう、いいの?」驚いて私の方を見るマリア姉さま。「無理矢理、その……されたんでしょう? 頬が腫れるくらいに引っ叩くくらい、しなくていいの?」

 

「……うん。だけど……バルザック先生も反省しているみたいだし」


「ああ! しているとも! 反省している」


 土下座でマリア姉さまにペコペコと頭を下げる。


「……謝る相手が違うでしょう?」


「あ、ああ、すまん、デヴ」


 私は、頭を何度も廊下にぶつけるように土下座を繰り返すバルザック先生にどうしても訊きたいことがあった。


「バルザック先生……私のこと……本気で好きなの?」


「……ああ、もちろんだ。本気だ」


「じゃあ、ワンダ先生やユーナよりも私が好きなの? マリア姉さまよりも?」


「全員本気で好きだ」


「殺していいかしら?」マリア姉さまが拳を握り締めた。


「やめて、マリア姉さま」


「デヴがそう言うんなら、やめるけど……」


 そして私は言う。


「バルザック先生……もう……二度とあんなことしないで」


「ああ。約束する」


「さよなら……」


「ああ……」


 私は、二人に背を向けて走り出す。


「あっ……デヴ」


 マリア姉さまの声が聞こえた。今は追いかけて来て欲しくない。誰にも、こんな涙なんか、見られたくないんだ。


 私は走った。走って走って、着いた先は屋上。


 屋上なら誰も居ないと思った。思った通り、そこには誰もいなかった。


 私は、歌った。


 醜い炎の歌だ。


 止まらない涙は止める気はない。この千切れそうな胸の苦しみは、誰にも知られたくないんだ。震えた声は震えたままで、私は歌い続ける。


 ただ、私のために。




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