第14話 悪女ユーナ
ユーナ視点
物心ついた時、私は既にこの学校にいた。母親というものも父親というものも知らない。誰も私の母親と父親を知らないらしい。
私は、幼い頃、何故か孤立していた。その原因を考えてみても、今となってはわからないし、詳しく憶えてもいない。憶えているのは、孤立していた私の面倒を見てくれたのがワンダだったということだ。だから、私の今までの人生はワンダと共にあったと言えるかもしれない。
ワンダが先生になって、私の近くに居るようになってから、私の世界は広がった。ワンダを通じて皆と仲良くなることができたし、超能力的な力も強くなった。私は、ワンダを母親のようなものだと思っていたし、きっとワンダも私を娘のようなものだと思っていただろう。
それでも、先生と仲が良いという事実は、しばしば私と友人との間に亀裂を生んだ。
ワンダが、私を贔屓して採点しているとか、そんな風に思われることもあって、それで私は、ワンダから離れる決意をしたんだ。だけど、離れ方が、よくわからなくて、とにかく距離を置いた。
ワンダを避け続けているうちに、ワンダとどう接すればいいのかわからなくなり、周囲の皆ともどう接すればいいのかわからなくなってしまって、結果的に、また孤立してしまった私だった。寂しかった。
ワンダがいないと自分は何もできないのか、と思って、悔しくて、いっぱい泣いた。
泣いている私を、慰めてくれる人がいた。男の人だった。
私は、その人に抱かれた。寂しさが、埋まったような気がした。
それから何度か体を重ねていくうちに「何か違う」と思うようになった。
確かに、触れ合っている時は寂しさなんて感じない。だけど、自分がその人にとって本当に必要な人間なのか、すぐ不安になった。
そして、何人もの男の人と付き合い、その全てと別れた。もしかしたら、自分の寂しさを完全に埋めてくれるヒトは存在しないのかなと思った。どうやったら寂しさが埋まるのか、考えても考えてもわからない。
私は、女として魅力的だった。自分で言うのもおかしいけど、確かに男の人は、私のような女が好きらしい。そして、男子に人気がある分、女子からは常に反感を買っていた。売られた喧嘩も全部買って、全部勝つ気でいた。時には負けることもあったが、負けると、私が負けたことで、その女子の男子からの人気が下がるので、絶対に負けられない、と思っていた。
全て打ち負かして、跳ね返してやるのが、相手の女子にとっても最高の結果になるんだ。だから私は、強くなる努力を怠らなかった。もちろん、どんな種目で勝負を挑まれるかわからなかったので、勉強もした。
そんな日々を経て、努力が実ったらしく、私は全校生徒が憧れる、選抜学級に入ることとなる。
選抜学級に入ってから、私の世界は大きく変わった。
今まで自分を好きでいたはずの男子達が遠ざかっていく。
やがて誰も「悪女で有名なユーナ」と火遊びする者はいなくなった。
理由は「遠くに行ってしまったから」ということらしいのだが、狭い超能力学校の敷地内から出ることを禁じられているのに、遠くも何も無い。
「どうせ教師と寝たんだろ」
妬みからか、そんな言葉まで飛び出し、私は深く傷ついた。
だけど、私は意地を張り、
「そうよ。先生と寝たの」
と答えるかのように、私の不純異性交遊の対象は、年上の教師にまで広がることとなる。たぶん、本当に意地を張りたかったんだと思う。それでも、選抜学級に入ってからの私は、それ以前と比べると、とても大人しいはずだ。
選抜学級に入ったことで、変わったことがもう一つあった。
それは、ワンダとの再会。
「ユーナ、久しぶりね」
「うん」
「ユーナ……最近のユーナは、少し……」
「うるさいわね、放っておいてよ」
それでもワンダは放っておいてくれなかった。何度も私に話しかけ、心をこじ開けようとしてきた。私は、ちゃんと心を開いていない。だけどそれでも、私が孤立することはなくなった。
ワンダが近くにいるだけで、私の中で何かが変わるのかもしれない。
私は、特別な能力を持っていない。マリアのように氷を作る力があるわけでもないし、デヴのように歌も上手じゃないし、ルネのような絵の才能も無い。もしかしたら何かそういった特別な能力があるのかもしれないし、ないかもしれない。男の人を惹きつけるということが特別な能力なのかもしれないけど……。
とにかく、選抜学級に入ることができたというのは、何か理由があるはずだ。
選抜学級の人々は、とても良い人達で、とても面白い人達で、私は彼らのことをすぐに好きになった。恋愛対象として好きになるとかじゃない。人として好きなんだ。
だけど……私のそばにいたら皆が損をする結果になるんじゃないかと思って、深く踏み込めないでいる。きっと私が求めているのは、体の触れ合いじゃなくて、「仲間」という、心が通じる相手なんだと思う。だけど、学校始まって以来の悪女になってしまった私を、誰が仲間に入れてくれるんだろう?
それでも私は今、人生で一番、寂しさを感じないで過ごしている。
私はユーナ。魔性の女。出席番号は、最後となる十三番目。