因縁
アウトランダーの火王と木王の話です
夜が静寂に包まれる森の中、レッドの家はいつもと変わらない暖かさに包まれていた。だが、その静けさは突如として打ち破られた。木々の根が家を飲み込むように地面から這い出し、壁を突き破る音が響き渡る。
「セフィロトが……!」
父が槍を作り出し、母は動揺した表情で何かを言おうとしたが、その瞬間、扉が激しく開かれた。
木王セフィロトが現れた。冷酷な眼差し、無慈悲な冷静さ――圧倒的な力を持つ彼は、まるで周囲の空気すらも支配しているかのようだった。
「何のつもりだ、セフィロト!?」
父が叫ぶ。その声には怒りと困惑が混ざっていた。父と母は、かつてセフィロトと契約を交わしていた。家族には手を出さないという条件のもと、セフィロトのために長年働いてきたのだ。
「貴様に手を貸してきたのは、その約束のためだったはずだ!」
母もまた声を荒げた。だが、セフィロトは一切の感情を表に出さず、静かに口を開いた。
「先代ハイランダーの血脈を絶やす。それが今の私の役目だ」
それだけを告げると、彼の背後から無数の木の根が再び動き出した。瞬く間に両親は捕らえられ、抵抗する間もなくその場に縛り付けられた。
母は炎を出し抵抗しようとするが縛り付けている木は少しも燃えず両親を締め付けていく。
「やめろ!俺たちは――!」
父の叫びも空しく、セフィロトが手をかざすと両親はぐったりと力を失っていった。
「ハイランダーの血脈を絶やす。それが今の私の役目だ」
冷ややかな声が響く。両親の命が奪われる瞬間、レッドは何もできず、その光景をただ見つめることしかできなかった。胸の奥から熱い何かがこみ上げてくる。
セフィロトの目が、レッドに向けられた。その冷たい眼差しに、レッドは身体を震わせた。彼の中に宿る何かを、セフィロトは見抜いていた。
「お前も、ただでは生かしておかぬ」
両親にしたようにセフィロトが手をかざすと、謎の力がレッドを包み込む。瞬く間に呪いが彼の体に刻まれ、その瞬間、彼の中で眠っていた魔力が暴走を始めた。
「う……あああっ……!」
レッドの内側から溢れ出す力は、彼の意思を超えて暴発し始めた。燃え上がる赤い炎が家全体を包み込み、残骸と共に両親の亡骸までも焼き尽くしていく。
「止まれ……止まれえ!」
必死に叫んでも、その力を制御する術はない。炎はどんどん広がり、家の周囲にある森までも燃やし尽くしていった。
セフィロトはその光景を見て、口元に冷たい笑みを浮かべた。
「ふん……その程度なら手を下すまでもない」
嘲笑するようなその声が、炎の中で鳴り響いた。レッドが放つ炎も、彼の苦しみも、セフィロトにとっては些細なものでしかなかった。
「その呪いを背負い続けるがいい……そして、私を超えることなど夢見るな」
彼女は冷然と立ち去った。後に残されたのは、燃え盛る炎と、それに包まれるレッドだけだった。
炎はさらに広がり、周囲の木々を次々と焼き尽くしていく。レッドの中では、力が尽きることを知らずに暴れ回っていた。家も、森も、すべてが炎の中で灰と化していく。
「止まってくれ!」
両親を奪われ、両親の亡骸を燃やしてしまうという現実。レッドの心は怒りと後悔で引き裂かれていた。
ついに彼の魔力が尽き、炎は勢いを失った。全身の力が抜け、燃え尽きたようにその場に倒れ込む。
「必ず復讐してやる…必ずだ」
体を引きずりながら、レッドはかろうじて地下室へと向かった。最後の力を振り絞り、床扉を押し開け、闇の中へと身を投げ込む。
地下室の中は静かで冷たかった。燃え盛る外の世界とは対照的に、ひんやりとした空気がレッドの体を包み込んだ。
「僕はなんてことを」
全てが終わったように思えた。両親を失い、家も森も、自分の手で焼き尽くしてしまったのだ。楽しみにしていた覚醒は期待していた形とは大きく異なった形で発現した。
「あいつだけは絶対に許さない」
疲労感が全身に広がり、意識が遠のいていく。瞼が重くなり、地下室の暗闇が彼を包み込んだ。
「必ず……セフィロト……」
復讐の念を胸に抱いたまま、レッドはそのまま意識を失った。