表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/69

68、春

 春は別れの季節だと言い出したのは誰だろうか。アエラスは玄関の外にいた。目の前のルースは支度を済ませている。

 今年はルースが13歳になる年だ。つまり、ルースが学校に入学する年で、今日はルースが学校に行く日。全寮制であるため、長期休暇まで、しばらくのお別れだ。

 持ち物を確認し終わったルースがアエラスの方にやってくる。


「お父様、支度終わりました」

「もう終わったの?」

「はい!」


 少し不安そうであるが、それでも表情は明るい。きっと、学校を楽しみにしているのだろう。

 ルースがアエラスに抱きつく。アエラスもルースを抱きしめ返した。


「お父様、行ってきます!」

「行ってらっしゃい。いつでも帰っておいで」

「はい! 長期休暇には必ず!」


 そう言ったルースは名残惜しそうにアエラスの方を見ながらも馬車に乗った。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 馬車から笑顔で手を振るルースに、アエラスも手を振り返した。



 馬車が遠くにいってしまった後も、アエラスは馬車の向かった方面をじっと見つめる。


「どうか君のこれからが、明るいものでありますように」


 光のように輝け、だなんて言わない。だってそんなことを言わなくても。


「君は私の光だから」


 (ルース)と名付けた少年は、いつの間にかこんなにも成長した。

 アエラスは誰かを救いたかった。エリーのように。それでも。


「救われたのは私の方だ」


 空虚で、つまらなかった日々はがらりと変わった。迷いも悩みもあったが、それ以上に輝かしい、光の中にいる日々だった。


「さびしくなるな」


 それでも。アエラスの中に光はあるから。ルースの帰ってくる場所はアエラスのところだ。帰ってくる場所をなくさないために。彼のために、ちゃんと居場所を守っておこう。この国を安定させておこう。


 凪のように受け止めることはできなくても、風のように包み込もう。


 アエラスは仕事に行く準備をするために、家の中へと入っていった。

 外を優しい春風が吹いた。彼らの未来を祝福するかのように。


補足

凪→ラテン語でマラキア

風→ギリシア語でアエラス

春風→12話でニクスが「アエラスはエリーのことをこう思っているだろう」という例えに使っていた


最後まで読んでいただきありがとうございました!

「かつて天才と呼ばれた男と男に拾われた少年の話」はこれで完結となります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ブロマンス作品を探し求めてこちらの作品に巡り合いました。 アエラスとルースの関係性がとても好きです。エリーが遺した予言めいた言葉をきっかけに引き取ったとはいえ、彼女とルースの繋がりを知らないうちから…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ