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5、重責

 帰ってきたアエラスがルースとニクスのところへやってきた。


「ただいま、ルース。きれいになったね」


 所々汚れていたルースをニクスがお風呂に入れてくれたのだ。ルースの金の髪は光を放っているかのように輝いているのをみて、ルース自身も鏡を見ながら驚いた。

 アエラスもそう思ったのだろうか。アエラスが笑顔でルースの髪を撫でた。その優しい手つきにルースは嬉しくなってくる。思わず顔がほころんだ。


「アエラス様、用事は終わったんですか?」

「うん。終わったよ」


 そう言って、アエラスがルースに何かの書類を見せてくる。


「ほら。これが養子縁組だよ。これで私とルースは親子だ」

「本当に?」


 そう尋ねながら、ルースは顔を輝かせた。アエラスは会ってすぐだけど、優しくて綺麗な人だということを知った。正直、アエラスが自分を騙していたとしても、利用しようとしていても構わない。ルースはそんな気持ちでアエラスに笑いかけた。


「ルース、あなたは本当にそれでいいのですか?」


 ニクスが、ルースに尋ねてくる。ニクスは心配してくれているのだろうか。アエラスの近くにいる人もみんな優しいのだろうか。優しい人の近くにいる人も優しいのかもしれない。

 ニクスの言葉に、アエラスは不満そうな顔をした。


「ちょっと、ニクス。それが主に対する態度? そういうのは、私が見ていないところでやってよ」


 その言葉自体を咎めるのではなく、アエラスは目の前で言ったことに不満を述べた。主の悪口を言うなと怒るところではないのだろうか、とルースは疑問に思ったが声には出さなかった。

 ニクスは軽く首を振る。ニクスの真っ白な髪がふわりと揺れるのに、ルースは気を取られた。


「いえ、他意はないです。アエラス様があまり丁寧な説明をせずに強引に話をおすすめになったので」

「説明は今からするつもりだったよ」

「順番が逆では?」


 アエラスとニクスのやりとりを、ルースは目で追うように見ていた。ニクスの発言に、アエラスは首を振った。


「迅速に話を進めないと、どこから横槍が入るか分からないからね」

「確かに、アエラス様の妻の座を望む人間は多そうですからね」

「本当に。こんな婚期を逃したおじさんが持っているものなんて、身分とお金くらいなのに」

「いや、それ以外にも……。何でもありません」


 ニクスはアエラスの顔を見ながら、言おうとしたことを飲み込んだ。なんでだろうか。ルースはニクスが何を言おうとしたかも、何を飲み込んだかも分からないまま、自分の正直な気持ちを口にした。


「アエラス様、綺麗だから、女の人はみんな好きになりますよ」


 ルースの言葉に、ニクスは動きを止めた。ルースは少し首を傾げる。ニクスが少し焦っているような気がした。次にアエラスの顔を見る。ニクスとは対象的にアエラスは穏やかに笑みを浮かべた。


「ルースはいい子だね」


 そう言って、アエラスはまたルースの頭を撫でた。それを見て、ニクスは灰色の瞳を見開く。何に驚いているのだろう。ニクスの表情の理由を読み取りたくてニクスを見つめるが、ニクスは特に何も言わなかった。


「それで、ニクスは何を心配しているの?」

「あなたの息子。その重責をルースに説明がなく、彼にそれを押しつけたからです」

「ニクス、随分ルースを気に懸けているようだね」

「別に、あなたが連れてきた子だからですよ」

「素直じゃないね」


 そういって、ニクスは揶揄いを含んだ視線を向けるアエラスから顔を逸らした。

 アエラスはニクスから視線を外すと、ルースを真っ直ぐに見つめる。


「ルース。確かに、私の息子ということで、余計な感情を向けてくる人間がいるかもしれない。でも、君は何も気にする必要はないんだ。だって、君は私の息子であり、私の保護下にいるのだから」


 その言葉に、ルースは不安な気持ちになった。


「なんで、アエラス様はそこまでしてくれるのですか? 会ったばかりの見知らぬぼくに」


 ルースにとって、不安なのはそれであった。理由なく拾われたのだから、理由なく捨てられてしまうかもしれない。そんな不安をルースの表情から読み取ったのだろう。アエラスは、ルースに微笑んだ。


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