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46、状況

 そこは真っ白な空間であった。


『アエラス。貴方は、全部自分で動こうとしないで、人に頼りなさい』


 ああ。エリーの声だ。エリー。君がいない世界は酷くつまらないよ。


『そんなことないでしょう? 私の息子と暮らしているのだから』


 そうだ。そうだった。今はもう退屈なんかじゃない。ルースが。ルースがいるから戻らないと。


『そうよ。アエラス。もうここには来たらだめよ』


 そうだね。ルースの成長を見届けるよ。次に来るときは、世から去るときだ。

 エリー。今も変わらず愛しているよ。


『ありがとう。そうだ、アエラス。1つだけ教えて』


 なに?


『どうして、ルースと名付けたの?』


 ああ。それはね……。





 アエラスは意識が持ち上がる感覚を味わった。幸せな夢を見ていた気がする。アエラスはゆっくりと身体を起こした。


「アエラス先輩、急に起き上がらない方がいいですよ。完治しているわけではないので」

「シレンテ。来てくれたんだね」

「ええ。緊急の連絡が来たので、瞬間移動の特殊魔法を使ってきました」

「ごめんね、ありがとう」


 シレンテにお礼を言ったアエラスは立ち上がろうとする。シレンテが慌てて制した。


「アエラス先輩。どこに行こうとしているのですか?」

「状況を把握しないと」

「何のために俺がここにいると思っているんですか? アエラス先輩に状況を伝えるためにいるんですから」


 有り難いと思う気持ちと申し訳ないと思う気持ちがどちらも湧き上がってくる。


「ごめんね、ありがとう」

「謝罪はいらないです。礼は全て終わった後で」


 そう言ったシレンテは口を開く。


「結論から言います。あの暗殺者はコスモ国からの差し金です」

「やっぱり……」

「アエラス先輩、予想できていたのですか?」

「私の魔法がすり抜けられたからね。そんな技術を研究するのはコスモ国くらいでしょう」


 シレンテが頷く。そして淡々と状況を説明していった。


「ナイフの解析も進めているし、暗殺者の尋問も行っています。フィニス先輩への連絡も済んでいます」

「うわ……。何から何までありがとう」


 本当に申し訳なくなる。自分が何もしていない間に処理は大分進んでいる。


「そうだ、ルースは? 無事?」

「はい。大丈夫です。今は王宮に向かっていると思います」

「え? 暗殺者がきたばかりなのに?」


 移動して大丈夫だろうか。不安で立ち上がろうとしたシレンテがアエラスの肩を軽くおさえて立ち上がらせなかった。


「ニクス先輩がついているので、大丈夫じゃないですか?」

「あ、それなら大丈夫だね」


 アエラスは胸をなで下ろした。それをみたシレンテが不思議そうな顔をする。


「アエラス先輩って、なんでそんなにニクス先輩を信用しているのですか?」

「あー。それはね。ニクスは強いから」

「でも、エリー先輩の方が強かったですよね」

「そうだね。でも、それは剣に限った話だ。学生時代に魔法、剣混合で対決したときに私を一歩でも動かしたのはニクスだけだ」


 ニクスは剣の腕が1番というわけではなかった。エリーに勝てた人間はいなかったから。しかし、強いのは事実であり、さらに魔法への対応力、判断力、察知力があった。

 剣と魔法を混合した対決。強い風魔法で一切相手を近づかせないアエラスに勝てる人間はいなくなるどころか、アエラスを一歩でも動かせる人間はほとんどいなくなった。ニクスを除いて。


「それで王宮には何をしに?」

「フィニス先輩に直接話しをしに行く、と言っていました」


 連絡はしてあるとシレンテが言っていたが、詳しい状況を伝えるためだろうか。


「それにしても、私はあまりに魔法のある生活に依存しすぎていたよ。あまりにも油断しすぎていた」

「それはみんなだと思いますよ。誰も魔法が使えない状態は想定していないので。それに関する対策はまた考えましょう。今は、ゆっくり休んでください。完治していないし、今は貧血の症状がでるでしょうから」



 シレンテに促されたアエラスはゆっくり横になった。目を閉じる。すぐに眠気はやってきて、アエラスの意識はゆっくり落ちていった。


 今度は夢を見なかった。


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