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39、逃避

「2人とも真っ直ぐに向かう場所がここなんですね」

「あ、シレンテ。探したよ」


 2人のところにやってきたのはシレンテであった。アエラスが穏やかに手を振る。先ほどまでの怒りに支配された彼は残っていなかった。


「アエラス先輩、さっきから目立ってばかりですね。俺は目立つのが面倒なのでできれば近寄りたくなかったんですが」

「あはは。シレンテ。目立ちたくないって、面白いこというね」


 アエラスが面白そうに返事したことの意味はルースにも分かった。シレンテがアエラスに声をかけたことで、また注目を集めている。たしか、『折り合いが悪い』とアエラスは言っていたから、そのことを知っている人は多いということだろう。その2人が仲のよい様子を見せているから、困惑しているのだろう。

 2人ともそれに気がつきながらも、特に気にしていなさそうだ。


「シレンテ先生、こんにちは」

「ルースくん、こんにちは。パーティー楽しんでる?」


 その言葉にルースは苦笑した。シレンテは分かってきいているだろう。今のところ問題しか起きていない。


「……美味しい物食べたいです」

「それが良いと思うよ」


 ルースはシレンテの質問に明確な答えを出さなかった。それにシレンテは笑みを浮かべる。

 シレンテはアエラスへと視線を向けるとにやりと笑みを浮かべた。


「アエラス先輩、今度一緒に飲みましょうよ」

「え……。今度ね」

「そうやって2年以上実現していないじゃないですか」


 ルースは少し驚く。シレンテはこのような場が嫌いだとアエラスからきいていたが、上手く立ち回っていそうだ。アエラスとの仲が2年以上であることを強調させた。アエラスとの仲がこのパーティーだけのつけ刃ではないことを伝えているのだろう。

 シレンテがルースの方を見る。


「アエラス先輩は後でフィニス陛下と話をするんですよね。その間、ルースくんと一緒にいましょうか?」


 いつも『フィニス先輩』と呼んでいるシレンテが『陛下』と呼んでいるのは新鮮だと関係のない感想を浮かべているルースにアエラスが視線を向けた。


「ルース、どうしたい?」


 アエラスはルースを尊重してくれる。そのことを嬉しく思いながら、ルースはアエラスとシレンテの方をみた。


「シレンテ先生にお願いしたいです」

「じゃあ、お願いね。シレンテ」

「はい」


 そしてその後、ルースとアエラスはスイーツを堪能した。シレンテは甘い物を見ているだけで胸焼けしそうだと言い、飲み物を飲んでいるだけであった。


「アエラス先輩」

「なに?」

「さっき手袋を投げつけていましたが、結構高級そうなものじゃないですか?」

「まあ、そうだね」

「あんな人には不相応では?」


 ルースはショートケーキを頬張りながら苦笑した。誰がきいているか分からない場で思いの外シレンテははっきりと言う。アエラスも苦笑している。


「それはそうだけど、でもあの手袋を誰が見るかわからないでしょう? それなら宣伝の意を込めて気にいっている製品を使ったほうがいいかなって」

「あ、ご自身の名を落とさないためではないんですね」


 シレンテの言葉をきいたアエラスは首を傾げる。そして小声で呟いた。



「名が落ちるって……。そこまで私は上にいないでしょう?」

「救国者が何を言っているんですか?」


 シレンテが不可解そうな表情を浮かべる。それをみたアエラスが口を開こうとしたが、遠くにいるフィニスと目があったようだ。申し訳なさそうにシレンテの方をみる。


「ごめん、陛下に呼ばれているから。続きは今度ね。シレンテ、ルースをよろしく。ルース、大人しくしていなくてもいいからね」


 2人にだけ聞こえるように手短に言ったアエラスはフィニスの方へと向かっていく。シレンテが微妙な表情を浮かべた。


「大人しくしなくていいって、どういうこと?」

「お父様は、僕を家に連れてきた日にも言ってくれました。アエラス・クレアティオの庇護下にある君を制限するものは何もないって」

「アエラス先輩だから言えることだね……」


 アエラスの実績があるからこそ、言えることだ。普通の人はそんなこと言えないだろう。


 それにしてもこの会場にいると向けられる視線に怖くなるが、それを見せないように姿勢を正した。全部気にしないようにしよう。そう思ったルースは目の前の食べ物に意識を向けて、口にしていく。


 このケーキおいしい。そう思ったルースはシレンテに一切れ差し出した。


「はい、シレンテ先生」

「え、俺、甘い物苦手なんだけど」

「このチョコケーキは甘くないから食べてみてください」

「えー。あ、本当だ。おいしい」


 2人に声をかけてくる人はいない。ルースのことをチラチラ見ている人はいるが、シレンテに視線を向けられると、近寄ってこない。


「シレンテ先生にお願いして正解でしたね」

「俺もほとんどこういう場に来ないから知り合いがいないからね」


 シレンテはそういうが、それだけではないだろう。ルースはシレンテをながめた。

 シレンテの髪も瞳も赤紫色であり派手なものだ。容貌は格好いい。アエラスのような美しさとは違うが、一目をひく。だからこそ、近寄りづらいのだろう。


「シレンテ先生、かっこいいから皆さん声をかけにくいんですよ」

「え……。アエラス先輩はルースくんにどんな教育しているの? そうやって素直に褒めるようにって?」

「お父様からそうしな、と言われたことはないですが、お父様はすっごい褒めてくれます。かわいい、かっこいい、似合ってるって」

「それでか……。あんまり人を褒めない方がいいかもしれないよ。勘違いされるかもしれないから」


 シレンテが何を心配しているのかよく分からなかったが、ルースはとりあえず頷いた。


「大丈夫です。お父様とかフィニス陛下とか、先生方にしかいいません」

「それなら大丈夫か……」


 シレンテは安心しているようだ。それはともかくとしてシレンテも他の人と話す時間が必要だろうか。


「シレンテ先生、僕がいると他の人と話せませんよね?」

「え、そんなことないよ。だって本当に必要な人はルースくんがいても話しかけてくるはずだから」


 シレンテもアエラスと同様に他の人との付き合いは最低限の付き合いでいいと思っているようだ。


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