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15、探り

「何でもない。それより、君のことを教えてくれないか?」


 フィニスの表情はあまり変わっていない。変わっていない、はずだ。それなのに、ルースは妙な緊張を感じた。フィニスを見つめて気がつく。目が、全く笑っていない。探るようで、警戒しているようで。ああ、そうか。そういうことか。


「もしかして、アエラス様が席を外すように仕組んだのは、国王様ですか?」


 フィニスは焦茶色の瞳を見開いた。そして、面白そうに笑う。


「どうしてそう思った?」

「あの、国王様が、ぼくを怪しんでいるように見えたので」


 ルースの言葉で、フィニスは声を上げて笑った。目を細めてルースの方を見る。やっぱり、彼の瞳にあるのは警戒心。


「はは、君は面白いな。それをわざわざ言うなんて。じゃあ、単刀直入に聞こう。君は、何者だ? どうして、アエラスの庇護下に入った?」

「自分が何者かも、どうしてアエラス様が僕を拾ったのかも分かりません」


 ルースの言葉に、フィニスは怪訝そうな顔をした。その顔をみても、ルースは困った表情を浮かべるだけだ。自分で、何も分からないのだから。


「何も、分からない?」

「はい」


 フィニスはしばらく考え込んでいたが、その後ルースに笑みを浮かべる。


「そうか。疑って悪いな」

「いえ。アエラス様の幼なじみなんですよね。心配して当たり前だと思います」

「幼なじみ? アエラスがそう言っていたのか?」

「……? はい」


 真顔でルースに問いかけたフィニスは手で顔を覆った。その隙間からみえる表情はどこか嬉しそうだ。ルースはよく分からず混乱する。


「あいつの中で、俺はまだ幼なじみでいられたんだな」


 フィニスの呟いた声は、ルースの元に届いていたが、ルースには意味が分からない。何を言えばいいかもわからず、無言でいたところ、元の柔らかい笑みに表情を戻したフィニスが、ルースに声をかける。


「それで、ルース。君はアエラスのところで何をしているんだ?」

「えっと、いろいろ教えてもらっています」

「いろいろ?」

「はいっ。文字を教えてもらいました。後、アエラス様からは魔法を教えてもらいました」

「え? アエラスが、魔法を? 自分で?」

「はい」


 フィニスが何を疑問に思っているか分からず首を傾げるルースを、フィニスは感心したように頷く。


「へえ、アエラスが自ら魔法を教えるってことは、君は相当大切にされているんだな」

「そうなんですか?」


 不思議そうなルースに、フィニスは少し考えてから口を開いた。


「アエラスは、基本的には魔法から手を引いたからね。滅多に人前では使わない」

「そうなんですか?」


 ルースに魔法を教えてくれるとき、アエラスは息を吸うように魔法を使っているように見えた。他の人の魔法を使っているところをあまり見たことがないから分からないが、あれはすごいことだったのだろうか。


「アエラス様は、基本属性の魔法を全部見せてくれました」

「え、ちょっと待て。全部? それは光魔法もか?」

「……? はい」


 フィニスがぎょっとしたような表情を浮かべる。フィニスは、ルースのきょとんとした表情をみて、彼が何も知らないことを悟る。


「アエラスから、聞いていないのか?」

「何をですか?」

「自分の属性以外の魔法を使うことは難しい。魔法の才のあるアエラスはどれも使えるが、それでもたった一つだけ、非常に相性が悪い魔法がある」

「それが、光魔法なんですか?」

「そうだ」


 相性が悪い。フィニスの言葉をきいて、ルースは心臓を掴まれた感覚がした。気づかぬうちに、手が震えてくる。ルースは翡翠色の瞳を伏せてフィニスに問いかけた。


「相性が、悪い魔法を使うと、どうなるんですか?」

「少し使っただけでも、立っているのが辛いくらい疲弊するはずだ」


 その言葉で、ルースは黙り込んだ。強く奥歯をかみしめて、視線を下に向ける。強く、拳を握りしめた。


「どうした?」

「僕は、光魔法の適性なんです」

「そう、か」


 ルースを気遣わしげにフィニスが見る。アエラスは、ルースの属性と相性が悪い。それなのに、アエラスが教えようとしている。その事実がルースの心を重くさせた。


「ルース」


 フィニスが口を開こうとしたところで、部屋の扉が乱暴に開かれた。


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