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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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096 久し振りの研究室

 獣人自治区に戻ると、みんな後片付けで大忙しだった。

 巨大な城壁が跡形もなく吹っ飛び、両脇にある岩山も五合目より上がなくなっている。神威障壁を張ったおかげで、街中への被害はなかったけれど、爆撃でボロボロに破壊されているしな……。


「ソータ!」

「はっ! はいっ!!」


 エレノアがゴヤみたいな顔で俺を呼んでいる。おっかないな。側にはファーギとマイアの姿もある。ちょっと来いとエレノアが顎をしゃくるので、あとを付いていく。


 あれだけ言われていたのに、力を使った。ドワーフ兵、エルフ兵、ゴブリン、修道騎士団、みんな誰があんなに大きな障壁を張ったのかと思っているはずだ。


 俺が何かボロを出す前に、お小言を言われるのかな……。気が重い……けど後悔はしてない。あそこで障壁を張らなかったら、何人の死傷者が出ていたのか分からないし。


 案内されたのは、エルフの士官用テント。かなり広いので、ここもまた空間拡張されているのだろう。


「声は外に漏れない。何があったのか話せ」


 席について早々、エレノアは報告を求めてくる。ファーギとマイアも近くの椅子に座っている。ここにいる三人は俺の力を知っているし、つまりそういう事だろう。


 特に隠すつもりもないので、爆弾を使ったハッグを追って、地球に行ったこと。ハッグは、地球の軍と敵対していたこと。トロルの出現など掻い摘んで話した。


「で、これが魔石を使った、電子励起(れいき)爆薬です。今まで使われていた魔石爆弾の五百倍の威力で、獣人自治区の城壁を吹っ飛ばしたのは、おそらくこれです」


 魔導バッグから、ビー玉大の魔石電子励起爆薬と、起爆装置を出して見せる。


「こ、これはどれくらいの威力なんだ?」


 手のひらの魔石電子励起爆薬を見つめながら、エレノアはゴクリと唾を飲み込んだ。あれ? 俺が障壁を張った話じゃないのかな?


「この大きさの魔石爆弾の五百倍、と考えてもらえればいいと思います。実験しないと正確なものは分かりませんが、今言ったように、城壁を吹き飛ばしたのはこれでしょうから、その威力はとんでもなく……」


「そ、その小さな球一つでか……。か、数はどれくらいあるんだ?」


 エレノア、ファーギ、マイア、この三人は、俺が言った五百倍を、そのまま何も聞かずに信じた。これまでなら、何でそうなる、とか、やって見せろ、なんて話になっていただろう。……信用されてきたってことかな?


 魔導バッグから、魔石電子励起爆薬を全部出す。量的には灯油のポリタンク三つ分くらいだ。それと紙に描かれた爆裂魔法陣や時間遅延魔法陣。


「これだけで、獣人自治区が消し飛ぶ威力だと思います。エレノアさん、ファーギ、マイア、この際だから聞いておきたい。これを見て、どうするつもりですか?」


「こ、こんなもの使えるわけがないだろう?」

「ダメだソータ、これはワシらの手に余る。加圧魔石砲でも精一杯なのに」

「修道騎士団でも、こんなの使えませんよう……」


「いえ、そんなんじゃダメです。この火薬は、戦争の流れを一気に変えます。俺たちもこれと同等以上のものを使わなければ、簡単に負けますよ? 幸いにも、この火薬はまだ試作段階。ここの城壁に使ったのは、ある意味実験だったと思います。だけど……威力は見ての通り。だから、難しいとは思いますけど、魔石電子励起爆薬の製造所を全て破壊する。製造方法を知っている人物を、これ以上造らないように説得する。出来なければ全員拘束、または殺害すること。それと、既にある魔石電子励起爆薬を、全て回収すること。それでようやく、対等の戦いに持って行けるでしょう」


 核兵器並みの破壊力があり、放射能汚染が無い。ニンゲンが魔石電子励起爆薬を使うハードルは、限りなく低いのだ。


 魔導カバンから、追加で中身を出していく。魔石を粉末にする装置。成型する装置。そして放射線照射装置だ。これは放射線で、魔石の原子を回る電子を外側に追いやって、エネルギーを高めるための装置。つまりこれで励起状態にするのだ。ただ、これで励起状態にできるのは一瞬だけ。すぐに基底状態に戻って安定する。


 その為、魔石爆弾で使われた、時間遅延魔法陣と爆裂魔法陣が使われているのだ。この二つが起爆装置となる。だから、無効化する順番は、先に爆裂魔法陣を解除、その後時間遅延魔法を解除となる。そうするとただの魔石に戻る。


「何をやってる?」

「いえ、爆発しないように無効化しました。ここにあるのは、粉末にした後固められたただの魔石です」


 一同ホッとしているが、この火薬というか爆弾が敵の手で量産されたら、勝ち目は無い。ただし、運が良いのか悪いのか分からないけど、これはまだ試作段階。

 時間遅延魔法と爆裂魔法陣のタイミングを間違えば、自爆するか不発弾となる。

 今のところリスキーで、読めない兵器という事になる。


 ハッグという魔女集団は、この世界出身だが、地球で生き長らえてきた種族でもある。でなければ、素粒子物理学に片足突っ込んだような爆薬なんて考え付かないだろう。


「――俺は地球に行って。これを造れないようにしてきます」


「……お前の祖父は探さなくていいのか?」


「ファーギの言いたいことは分かるけど、それどころじゃないでしょ……?」


「そ、そうだな」


「エレノアさん、マイア、これでいいですね? 俺の能力全て使ってでも、この爆弾が出回ることを阻止します。任せてもらえますか?」


「お、おう……」

「はい……」


 俺の気迫に押されたのか、たじろぎ気味に、二人とも承諾の意を示した。


「これからすぐに地球に行く。……ファーギ、ちょっといいか」


「な、何だ」


「魔導剣を改造してくんない?」


「ふう、……それくらいならいいけど、どうしたいんだ?」


 改造する内容を伝えると、ファーギが魔導剣をバラし始めた。それをエレノアとマイアが興味深く見守っている。

 これまでの魔導剣の仕組みは、簡単に言うと高圧洗浄機。


 俺の魔導剣は、柄から圧縮された魔力が吹き出すのだ。ただし、ドバドバ垂れ流し状態にならず、魔力が反った片刃の日本刀のような形となる。何かの魔法陣が使われているはずだが、それが何か分からない。


 青白く光る剣は見映えがいいけど、暗い夜中だと格好の的になってしまう。今回はこの光を何とかしてもらうのだ。


「こんなもんでどうだ? 地味になっちまったが、属性付与の機能はそのまま残した」


 ファーギは改造した魔導剣から黒い刀身出し、歪みが無いか目視でチェックしている。ファーギは職人でもあるんだよな。


「助かったよ、ファーギ。お代は――」


「いらねえよ。元々ワシがお前にくれてやったやつだ。ちょいと手直ししただけで、金なんざ受け取れねえ」


「……そうか。ありがとな」


「いいってことよ」


 ファーギにはお世話になりっぱなしだ。必ずちゃんと恩返しをしよう。とんぼ返りで地球へ戻るという俺に、エレノアが物資を分けてくれた。食糧と水、魔石や魔道具、着替えから簡易テントまで。戦場で見せたあの気迫のこもった顔ではなく、まるで母親のように俺のことを心配している。


 百九十歳のおばあちゃんだけど、と思っている事は絶対顔に出さない。顔に出したら死を意味する。


 魔導バッグに一通りの物資を入れて、地球へのゲートを開こうとすると、待ったが掛かった。


 振り向くと、ファーギ、エレノア、マイア、三人ともフル装備で、俺と一緒に行く気満々に見える。というか、連れて行けと視線で強く訴えている。


「はぁ……、遊びに行く訳じゃないけど。来るなら連携して動けるようにしよう」


 三人にそう言うと、そんな事分かってるという。


 魔石電子励起爆薬の仕組みはある程度分かったけれど、もっと詳しく調べたい。誰にでも作られるようだと、詰みだ。もうどうにもならない。


 俺はゲートをくぐった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 国立大学先端医療技術研究所。ここに来るのも久しぶりだ。こっちは夜か……。手を振って研究室の明かりをつける。部屋の人工知能は稼働しているな。

 この部屋の匂いも懐かしい。まさかここで、プルースト効果を体験するとは思わなかったな。


 ……室内が荒らされているなあ。


 この研究室の教授、板垣兵太――俺は偽物だと分かった――が殺害されて、警察の捜査が入った。俺はそのあと、きれいに後片付けした。だから、その後に誰かがここに入ったという事になる。


 ここは国立研究所で、セキュリティは万全のはずだ。許可証を持つものしか入ること

 は出来ない。


「どうした?」


「いや、賊の形跡が残ってるからさ」


 ファーギに答える。エレノアとマイアは、研究室の器具や薬品などを見て回っている。みんな革鎧を着て帯剣しているので、とりあえず服装を何とかしなければ。

 コスプレと言い張るには、クオリティが高すぎるのだ。

 特にドワーフとエルフは。


「そっちにシャワールームがあるから、身体を洗ってきて。更衣室には、他の研究員の服が残ってるはずだから、適当に選んで着替えてね。こっちの世界で革鎧なんて着込んでたら、みんなびっくりしちゃうからさ」


 もちろん男女別でシャワーを浴びる。すると女性組から、キャーキャーと声が聞こえてきた。大きい小さいって話や、シャンプーの香りがどこそこの花の香り似ているとか、一気に女子トークが花開いている。


 ……男のロマンは、また今度にしよう。今はやる事がある。


 髪の毛を洗っていると、ファーギからの視線に気付いた。


「なんだ?」


「ミッシーはどうするつもりだ?」


「……いずれ会えるさ。あいつもSランク冒険者だろ?」


「そりゃそうだけど、お前さ、もう少し相手の事を考えてやれないのか?」


「考えてるさ。ミッシーは自立した立派な女性。俺たちの前から消えたとしても、何か考えがあっての行動だ」


「そうじゃねえ! 男女としての感情は無いのか?」


「……っ。い、い、意識しないようにしてるだけだ!!」


「なんだ……ただの童貞か」


「なんでそうなる!! あと、ど、ど、童貞ちゃうわ!!」


 何でそんな話になる。ミッシーは黙って俺たちの前から消えたんだ。そりゃサラ姫殿下が行方不明とかなら、必死に探すよ? でも子供じゃ無いんだからさ、行った者をこっちが追っかけたって、迷惑かもしれないだろ?


 いや、そうではない。

 本当は追いかけたい。

 ミッシーがどこに居るのか探しに行きたい。


 だけどさ、見つけたとして、そこで否定されたらどうする?

 何で追いかけてきたんだ、邪魔くさい、なんて言われたらどうする?

 そんなの耐えられない。

 結局俺は、自分の心を守るため、波風を起こさないように人付き合いをしているだけなのだろう。


 心の奥の蓋を開けられた気がして、モヤモヤする。

 ファーギはまだ何か言いたそうにしている。

 俺はカラスの行水で済ませ、さっさと先に出た。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 研究室内は静かだ。この施設は、侵入者が音で逃げないよう、警報は鳴らない仕組みになっている。操作パネルの赤い点滅がそれを示しているだけ。

 今頃は警備員が、警察に連絡をしているはずだ。


 連れてきた異世界人三人を紹介するために放置していたが、もういいだろう。俺の指紋認証で、警報を解除しておく。とりあえず、これでいい。


「どうだ? ほれ、この筋肉!」


 ファーギが出てきて、腕の筋肉を見せびらかすように、フロントダブルバイセップスでポージングしている。


 部屋で待っていると、上がってきた女性二人がニヤニヤしている。たぶん、ファーギとの会話を聞かれたのだろう。なんか釈然としないし、やり返すか……。


「ほほーん」


「な、なんだ!」

「ソータさんの目がエッチです!」


 エレノアは、伊差川すずめの服を借りたみたいだ。エレノアは細くて身長があるので、ぶかぶかで、七分袖状態になっている。名誉のため付け加えると、伊差川が太っているという意味ではない。

 白いパーカーは、長い耳を隠すのに有効だ。その美貌と緑髪は隠しようがないけれど。


 マイアは、弥山明日香の服。身長が同じくらいなので、ちょうどいい感じになっている。マキシ丈のスカートも、ちょうどくるぶし辺りなのでバッチリだ。

 だけど、胸がかなりきつそうだ。締め付けられていると言ってもいいくらい締め付けられている!


「うん、かわいい」


「ひゃっ!?」

「……ぴっ!?」

「ワシがか?」

「おめえじゃねえ!」


 三者三様の反応を見てホッコリ。ファーギは、デニムにロンティーでむちむち。あと、かわいくはない。何でか知らないけど、ようやく日本に帰ってきた気がした。


 うん、騒ぎすぎたかな?


「しっ、……とりあえずみんな、そこのカウチに座って」


 警備員が二名こちらへ向かってきているので、慌てないようにしなければ。ここが荒らされているのも、おそらくここ数時間内の出来事。真っ先に俺たちが疑われる。

 その気配がドアの前で立ち止まった。


「誰かいるのか?」


「板垣颯太です。友人たちがいますけど、入ってください」


 警備員に答えると、ドアを開けて一人入ってきた。


「おや、颯太君じゃないか。行方不明者が続出で、研究所はてんやわんやだよ? 今までどこをほっつき歩いていたんだい?」


 年配の警備員は顔馴染みだった。卓上時計の日付を見ると、俺が異世界へ渡ってからちょうど五十日だ。


「ご迷惑をおかけて申し訳ありません。何しろ、研究成果が盗難に遭ってしまい、捜索に奔走しておりまして……。内容が内容なだけに公表するわけにもいかず、ここにいる友人たちと協力して探しているんです」


「あ~、警察もそんな事言ってたな。そういえば、颯太君たち、行方不明だってニュースになってたよ? ありゃなんだい、もっとマシな顔写真を使えばいいのにさあ。板垣教授も、天国で怒ってるんじゃないかい?」


 たち、ってことは、佐山たちを含めた俺たち全員の顔写真が、ニュースで晒されたことになる。


「夜中に忍び込むような真似をしてすみません。緊急で調べなければいけない案件があって戻ってきたんです」


「そっかそっか~、颯太君も大変みたいだね。警報は颯太君が切ったみたいだし、顔も確認できた、僕としては何の問題も無いんだけどさあ……」


 そういった警備員が後ろを振り返る。


「やあ、僕は警備主任の――」


 エレノアの右拳が、後から入ってきた警備員の顎を打ち貫く。糸の切れた操り人形を抱きかかえ、エレノアはそっと床に寝かせた。


「えっ!? な、何を……?」


 警備員がエレノアを見て驚いている。問答無用の暴行だったからだ。


 だけど、警備主任と言われた人物は、デーモン憑きだ。たぶん地球産のデーモンだと思う。

 エレノアがやらねば、俺たちの誰かがやっていただろう。

 しかしこの警備員、こいつがデーモン憑きだと気付いていない。


 俺も人のことを言える立場ではない。この研究室で頑張っていた頃は、デーモンだ、異世界だ、魔法だなんて考えもしなかったのだから。


 運の悪いことに、こちらへ向かってくる人の気配が複数感じられた。おそらく警備員が呼んだ警察だろう。


「予定と違う紹介になっちゃうな。ファーギ、マイア、エレノアさん、言語魔法は使わないで、受け答えしないで下さい」


 俺は慌てて、異世界の言葉で三人と口裏合わせを行なった。

お読みいただいてありがとうございます!


これにて第2章完結です。次話から3章開始です。よろしくお願いします。


現時点で少しでもおもしろい、続きが気になる!


なんて思っていただけましたら、ブックマークぽちっと、☆☆☆☆☆にぽちぽちいただけると作者がとても喜びます。


♪イェーイ₍₍ (ง ˙ω˙)ว ⁾⁾

こんな感じで。


今後ともよろしくお願いします。

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