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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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095 スウェーデン軍 VS トロル

 ゲートの先は地球だった。雪がちらほら残る山の中だが、どの辺りなのか分からない。温暖化の進む地球で、これだけの雪がある場所は限られてくる。国や場所を確認するため、姿を消したまま浮遊魔法で浮かび上がる。鼓膜がやられないよう障壁を張り、一気に上昇した。


 スカンジナビア半島か……。国はスウェーデンの山地だが、昇温傾向が顕著で雪が少ない。曇っているけど……時間は昼前ってところだな。


 ファーギ特製のゴーグルをつけて地上を観察していく。望遠鏡が必要ないって、割と凄いよな。


 ……いた。大きな魔力の塊がある。


 森の中に一本ある道路。そこから脇道に入った場所に、村があった。そこの広場に大きな丸太を井桁(いげた)に組んで、何かを燃やしていた。


「うへぇ……」


 燃やされているのはヒトだ。すでに男女の区別がつかないほど、黒焦げに焼かれている。

 俺は姿を消したままその村に降り、周囲を探っていく。

 うん。物語に出てくる魔女っぽい建物ばかりだ。中を覗き込むと、大きな釜があったり怪しい薬品棚あったりする。怪しいことこの上ないが、こんなもん映画の撮影セットだと言えば、いくらでも言い逃れできそうだ。


 でもここには本物がいる。


 俺は四つの魔法陣を通じて、誰からも見つかることなく、この村の住民たちの魔力を感知できる。実戦で使えるだけの魔力を持つ者、総勢二百名がこの地で生活を営んでいるのだ。


 獣人自治区の城壁を爆破されたときに感じた魔力。その源――魔石が目の前の倉庫に入っている。強烈な魔力を感じるので、大きなものがあるのか、小さなものが大量にあるのか不明。だけど、中に入れば分かるだろう。


 倉庫の裏手に回り、気配を探って中が無人だと確認。窓ガラスを破って侵入した。


「……これは」


 弾頭? 銃の小さなものでは無く、ミサイルの先につく大きなやつだ。ザルに入ったビー玉状の物もたくさんある。しかもこの色は魔石だ。一度粉末状にして成形、押し固められているようだ。つまりこれは、爆薬として作られたもの……。


 こいつで、獣人自治区の城壁を爆破したのか。


『解析が完了しました……。粉末化させた魔石の電子を励起(れいき)させ、基底状態(きていじょうたい)にならないよう時間遅延魔法陣で安定させています。これは同じ量の魔石爆弾、およそ五百倍の破壊力を生み出すものです。ここにある量でも、戦術核兵器並みの破壊力があります。そうですね……これは、魔石電子励起(れいき)爆薬とでも呼びましょうか。こんなものまで作ってしまうとは……、ほんとにニンゲンは度し難いですね……。使用しますか?』


『おん? 使うわけないだろ。というか、お前の感情的な言葉、初めて聞いた気がする。どしたの?』


『はぁ……私はアイテールと融合したことで、ソータの魂とも混ざり合っています。これくらいの感情はありますよっ! 元からですけどね!』


『……そっか、すまん。配慮が足りなかったな』


 魔石電子励起(れいき)爆薬を作ったのは、この村にいる異世界の古代種、ハッグって魔女だ。しかし、現代の魔女ってのは何だ、励起(れいき)基底(きてい)を知ってるなんて、量子力学もかじってるのか……。それってもう魔術じゃねえよな……。


『しかしこの魔石電子励起(れいき)爆薬はどうしましょうか?』


『え、こんなもん置いて帰るわけに行かないだろ?』


 ボーリング球くらいの神威結晶を造り、風魔法で時間停止魔法陣を刻む。それを魔導バッグに放り込み、中の時間が進まないようにする。

 そのあと俺は魔導バッグに魔石電子励起爆薬をぽいぽい入れていく。相当な数があるので、獣人自治区の城壁以外にも使う予定の場所があったのだろう。

 ついでに起爆装置も全て接収。


 おまけに作成機具っぽいものや、積み上げられている魔石も、魔導カバンの中に入れてしまう。また作られたら、意味ないからな。


「んー?」


 気配遮断、視覚遮断、音波遮断、魔力隠蔽、四つの魔法陣を使っているので、俺の姿は誰にも見えないはずだ。しかし窓の外にいる魔女たちが、一斉にこっちを向いている。


 完全に気付かれているな。あ、部屋の角に監視カメラを発見!


 これには俺の姿が映るだろうな……。四つの魔法陣はあくまでニンゲンの認識を強力に阻害しているだけなのだから。


 鉈や鎌を持ち、この小屋を包囲していく魔女たち。

 他に連絡が行ったのだろう。村の魔女がどんどん増えていく。


 ここから見る限り、魔女はただの若い女性。デーモンが憑依している気配もない。ただし、広場の中心で火あぶりにされた性別不明の死体がある。ヒトを火あぶりにできる連中という事は確かだ。


 風魔法で光の屈折を変えて姿を消すと、小屋を取り囲んだ魔女たちに動揺が走った。この魔法は光学的に姿を消すからな。カメラがあっても俺の姿は映らない。


 彼女たちの驚いたタイミングがほぼ同じだったので、何かの手段で情報の伝達を行なっている。

 ……あれか。耳にイヤホンを付けているから、リアルタイムで音声情報を受け取っているのだ。


 小屋の入口が蹴破られ、魔女の集団が一気に雪崩れ込んできた。


「いないわっ!! 爆弾も全て無くなってる!!」

「今の男、手配されてる魔術師よ!!」

「手分けして探そう! あの量を持って簡単に動けないはず!!」

「逃さないようにねっ!! というか、ここにあった爆薬って四百キロくらいあったよね?」

「一人じゃ無理ね。複数いるはずよっ!!」


 古いノルド語でまくし立てる魔女たち。姿を消して天井に張り付いている俺を、魔女たちは発見できなかった。


「ここが当局にバレたら実在する死神(ソリッドリーパー)が拙いことになる。侵入者はまだ遠くまで逃げてないはずだから、このままやるわよ!」


 そういったリーダー格の魔女が部屋を飛び出して行った。あとに続く魔女も決死の表情だ。


 やるって何を?


 俺はコッソリ屋根の上に登り、魔女たちが何をはじめるのか観察する。


「ふむ?」


 リーダー格の魔女が、もっと位が高そうな魔女に何か話している。もちろん聞くけどね!


「シビル様、侵入者を取り逃がしました!」


 あれが魔女(ハッグ)シビル・ゴードンか……。


「あら、侵入者ですか? ソータさんが付いてきたみたいですね……。取り逃がしたとは、どういう事ですか?」


「倉庫内の防犯カメラに不審者が写っていましたので、画像解析にかけたところ、ソータ・イタガキだと分かりました。そのあと倉庫で捕獲しようとしましたが、既に逃走中で、現在捜索中です!」


 俺を探している暇はあるのかな?

 こっちに近付いてくる音は、何らかの航空機。ここの魔女、何か悪さして見つかったとか? それでスウェーデン当局が動いた可能性があるな。


 航空機の姿がはっきり見えてきた。あれは戦闘機のサーブ39グリペン。国際マークは青地に黄色の王冠が三つ。つまりスウェーデンの軍用機だ。音速を超えているけど、ほとんど衝撃波が出ていない。なんでだろ?

 ああ、なるほど。翼が非平面形で、音速を超えても衝撃波を発生しないように設計しているのか。


 ……あれ? 何で俺こんな事知ってるの?


『私が学習した知識のようですね』

『あ? 魂が混ざるって、知識も共有するの?』

『そうみたいですね』

『完全に二重人格じゃね?』


 そんな事を喋っていると、後続のC130ハーキュリーズ二機から、百近い軍人が空挺落下をはじめた。

 パラシュートを使ってないな……。ウイングスーツで、とんでもない速さで落下しながらこちらに向かってくる。……いや、魔力の動きを感じた。

 こいつらも浮遊魔法……、いや魔術を使うのか?


 同時に陸からの音も聞こえてきた。空からだけ来るわけが無いか。

 大型トラックを含む、装甲兵員輸送車が続々と村に入ってくる。


 魔女たちは逃げると思ったけど、そうではない。

 広場のまん中、ヒトを火あぶりにした場所を守るように、円になって集まっている。


 装甲車の国籍マークは、黄色地に赤の十字、カルマル同盟のもの。こいつら正規軍じゃない……少なくとも公式には。


 軍がこれだけの物資と人数を動かしたんだ。俺が来るまえから、何かが進んでいたと言うことだろうね。

 その大元になっているのは、魔女たちが囲んでいる火あぶりになった人物。


「貴様らおとなしく投降しろ」


 装甲車やトラックから降りてきた兵たちは銃を構え、魔女たちをいつでも撃てるように隊列を整えていく。


「お前たちが約束を破るからこうなったんだよ!!」


「異世界には人が住み、文化的な生活をしている。我らが侵略行為をするわけにはいかない。交渉して居住地を割譲してもらうほかにない!! その為の技術供与を行なうと国連で決まっただろう!!」


「ぬるい!! 奴らはそんな事お構いなしに、お前たちを食い物にする! あたしらの先祖がそうだったようにね!!」


 ハッグとスウェーデン軍で、異世界への対応が割れているみたいだな。

 元々ハッグは異世界を追われた魔女。初めから和解する気は無かったのだろう。


 国連にまで話が及んでいるとは知らなかったけど。最近は人類が滅ぶまで三十年という説が主流だ。それだけ時間があれば、腰をすえて交渉が出来る。


「お前たちの大事な国防大臣も、この通りさ!!」


 火あぶりにされた黒焦げのニンゲンは、どうやらスウェーデン国防大臣だったようだ。こりゃもうだめだな。国のトップクラスに手を出したとあっちゃ、ハッグたちが錦の御旗を掲げることは出来ない。


 バカなのかこいつら? 獣人自治区に自爆攻撃を仕掛けたり、自暴自棄にでもなっているのか? 何がしたいのかわからん……。


「お前たちは全員逮捕命令が出ている。なぜ約定を破ったのか理由が分からない! とにかく抵抗せずに取り調べを受けろ」


 上官っぽい兵が最終通告をする。さっきから出てる約定って何を約束したんだろ?

 ハッグとスウェーデンでなにか密約があった?


「この黒焦げ大臣のことかい? もう遅いさ。(くさび)は解かれた!! シビル、後はお願い!!」


 広場のまん中で叫んだ魔女から魔力が膨れ上がると、伸ばした手の上に火球が発生した。その火球は瞬時に膨れ上がり、スウェーデン兵に向けて飛んでいく。


 スウェーデン兵も負けじと、透明なライオットシールドを構える。


「はぁああっ!!」


 ライオットシールドを構えた兵士は、気合の入った声と共に火球を弾いた。

 たぶん魔術師だ。盾に魔力を纏わせているので、何となく分かる。

 ただ、この一発で、魔女とスウェーデン軍で、戦闘の火蓋が切られた。


 飛び交う銃弾と火球。

 このままだと大勢の死傷者が出てしまう。


 ――ジュッ


 火球を念動力(サイコキネシス)で握り潰していく。

 ついでに、広場に集まっている魔女二百人全て、念動力(サイコキネシス)で動けないように拘束した。

 こいつらが口で呪文を唱えたのは聞こえたので、無詠唱で魔術を使用することは出来ないはず。


 静まり返る広場。

 何が起きたのかと、魔女と兵士が周囲を警戒しているが、俺は四つの魔法陣と風魔法で姿を消しているので、誰からも見つかることはない。


 この争いに俺が介入して、時間を食うのも嫌だし、魔女の処遇はスウェーデン軍に任せよう。


 ぴくりとも動けなくなっているハッグ――魔女たちに、スウェーデン軍がようやく動き始め、次々に特殊な道具で拘束されていく。詠唱させないためのものだろう、顔には変った形の口輪がはめられた。


 俺はすでに、とりあえずの目標を完遂している。

 獣人自治区の城壁を破壊、大爆発の原因となるものは全部回収済みだからだ。ただ、ハッグの首領であるシビルと呼ばれた女の姿が見えない。


 集中してあの女の気配を探る。近場にはいないので。探知範囲を半径十キロメートルに広げると、微かに気配を感じた。


 山の上?


 その気配を見ると、ごま粒のように小さい。すぐに汎用人工知能が調節し、望遠鏡で見ているように、はっきり見えるようになった。

 シビルは絶壁になっている岩山をヒョイヒョイ登っていき、大きな石板の上に立った。


 その石板には縦一本の凹みがあり、それが人工物だと窺える。

 シビルはその石板を削り、線を新たに加えて【ᚱᛖᛚᛖᚨᛋᛖ(解放)】とした。


「何やってんだろ?」

『あれはルーン文字ですね。休止から解放へ変りましたので、何かが起こります』


 汎用人工知能が喋っている途中から地鳴りが聞こえはじめ、地震へ変った。

 軽い揺れはあっという間に大きくなり、立っていられないほどの揺れとなる。シビルは何やったんだと思いつつ岩山を見ると、そこから剥がれ出てくる岩の巨人たちが目に入った。


「トロルだっ!!」


 スウェーデン軍の誰かが叫んだ。


『あんなにでかいの? トロルって』

『私の知識には様々な伝承がありますが、身長百メートルを超す、岩の巨人だとの記録はありません』

『んじゃトロルじゃないか……』

『でも、スウェーデン軍が言うにはトロルだと』

『んじゃトロルじゃね?』



 シビルが立っていた石板は崩れ落ち、そこにはゲートが開いていた。またどこかへ移動したのだろう。迷惑極まりない巨人と仲間の魔女を残して。

 岩山一つがトロルで出来ていたみたいだ。数百の岩の巨人が周囲を踏み潰しながら移動をはじめる。


 魔女たちが狂ったように笑いはじめた。

 この世界はもう終わりだと言わんばかりに。


 だけどそうかな?


 しばらくすると、スウェーデン軍のミサイルが飛んできて、トロルに直撃。大爆発を起こした。周囲にいるトロル数体を巻き込み、瓦礫と化してゆく。

 ミサイルでの攻撃は続く。

 ピンポイントでトロルに当たるのは、レーザー誘導ミサイルだからだ。スウェーデン陸軍が、トロルに向けてレーザーを照射している。


 そうこうしていると、曇っていた空から太陽の光が差し込んできた。

 明るくなったことで、スウェーデンの素晴らしい自然が視界に飛び込んできた。


 すると、太陽の光を浴びたトロルたちが、動かなくなっていく。トロルたちは、バランスを崩して倒れていく。はじめに倒れたトロルは、スウェーデンの大地にめり込み、その後から倒れてきたトロルたちがぶつかり合って割れていく。


「日の光に弱いのか……?」

『そういった伝承も残っています』

『そっか……』


 呆気なかったな。ミサイルの数よりトロルの数が多かったら、晴れなかったらこの近くにある街は危なかっただろう。


 最後の一体が岩の塊になって砕け散った。

 大ごとだけど、より大ごとにならなくてよかった。


 魔女とスウェーデンも、何らかの因縁がありそうな話をしていたけれど、今は関係ない。残念ながらハッグの首領、シビルを見失ってしまったが、魔石電子励起爆薬は頂いた。

 ゲートを使っての爆弾テロはやりにくくなっただろう。


 俺は獣人自治区へゲートを開いた。

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