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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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089 魔法陣の神

 ルー・ガルー( 人狼 )たちとイオナ、それに脳をくりぬかれる予定だったニンゲンたちは、近くに着陸している巨大空艇にエレノアが連行していった。彼らを見送っていると、ゴヤたちが焼け落ちた家屋の裏から姿を現した。魔導通信で俺がここに居ると聞いてきたそうだ。


 話を聞くと、トンネルから多脚ゴーレムが出てこなくなったらしい。おそらく落盤で潰した多脚ゴーレムが予備の機体だったのだろう。

 ゴブリン軍、スクー・グスロー、マイア、ニーナ、全員無事でほっとする。


 気になっていることがあるので、ファーギに声をかけてスワローテイルへ移動した。


「なんだ気になってる事って?」


 操縦席に二人座って話し始める。機器類やメーター類はアナログだが、地球の航空機に負けてないからなあ。


「さっき言ってた識別魔法陣だ。あれってどういう仕組みなの?」


 俺は人工知能のエンジニアでもあるので、どうしてもトロッコ問題が気になる。つまり倫理的なジレンマの問い掛けだ。功利主義と義務論の対立で正解がないとも言える。

 他にもフレーム問題、暗黙知、色々あるけど、識別魔法陣が何をもって敵と味方を判断しているのか知りたい。


「はあ? お前、今更そんなこと聞くの?」

「えぇぇ……」


 ファーギは呆れながらも、説明してくれた。

 魔法は魔力を使って、様々な事が出来るけど、本人の能力で加減できる。


 魔法陣は魔法と変わりないものも多いが、中には神が介在するものもあるそうだ。まさかね、と笑えないんだよな。だって何度も神と会ってきたから。


 神が介在する代表的な魔法陣は、気配遮断、視覚遮断、音波遮断、魔力隠蔽、誘導、認識阻害、識別だそうだ。


 気配、視覚、音波、魔力隠蔽、この四つは、ニンゲンや動物、昆虫や水生生物など、生き物(・・・)に対して有効らしい。対して、ダンジョンにある罠、例えば、紐に引っかかったら矢が飛んでくるとか、踏むと爆発する爆裂魔法陣などは無効になるそうだ。


 そんなもんじゃないの、と思ってしまう。毎度適当に魔法を使っている弊害だ。


 しかし、誘導魔法陣はだいぶ違っていた。

 誰をどっちに、どこからどこまで、という効力を判断(・・)するのは、魔法陣の神クロウリーの仕事らしい。


 認識阻害魔法陣も同じく、誰にどこまで見せないようにするのか、という効力の判断(・・)を魔法陣の神クロウリーが行なっているという。


 識別魔法陣ともなると、使った本人から見て敵なのか味方なのか、魔法陣の神クロウリーが直々に判断するという。


 責任重大だもんな、……誤射で味方を撃っちゃったら大変なことになるし。

 神の判断か。でも、……万の戦いでも、間違わないのだろうか?


 他人の知覚、感覚神経や運動神経、果ては脳に影響が出るものにクロウリーという神が割って入る。ファーギが例に挙げた六つの魔法陣は、効力が強すぎると悪い影響が出る。それで神様がリミッター的な役割を果たしているのか。

 識別魔法陣だけは、地味だけどチート気味の効果があるからな。使い道は限られているけど。


 そういえば、絶対誘導魔法陣ってあったな。あれは神様的にどうなるのかな?

 絶対って付いているし、あれで無限ループ作ったらやばいよね。汎用人工知能、そこんとこどうなの?


『はい……』

『あれ作ったの君だよね?』

『私はソータです。ソータは私です』

『禅問答で煙に巻くな』


「ま、簡単なとこだけだが、こんなもんかな? お前な、時間あったら帝都の学校で勉強してこい。ほとんど自己流だろ? 色々と出鱈目すぎるし。自分で作った魔法陣が神クロウリーに認可されたときは、嬉しいもんだぞ?」


「あ、魔法陣で認可制なの?」


「そうだよ! 認可されなければ、魔法陣が消えてしまうからな! お前な、ほんっっっとに、学校行け! こっちの世界の事知らなすぎる!」


「温暖化で地球が住めなくなれば、こっちに住むつもりだ。目先の問題が山盛りあるけど、解決できたら本格的に考えるわ。ミゼルファート帝国住みやすいし」


「おおっ! ワシと一緒に冒険したいのか?」


「ちげーよ!」


 言いながらふと目をやると、汎用人工知能が反応した。


『識別魔法陣を確認しました。解析します……改善と最適化が完了しました』

『え、マジ?』


 あれか。計器の一カ所が点滅して、そこに魔法陣が彫られてあった。


 それより、汎用人工知能が作った魔法陣って、認可されてるのかな?


『私は忘れてませんよ?』

『俺も全部覚えてるな……』


 つまり、汎用人工知能がこれまで作った魔法陣は、認可されているということだ。これが何を意味するのか……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 スワローテイルから戻ると、マイアが詰め寄ってきた。


「ソータさん! 何で魔導通信機で無事だと連絡しないんですか!」


 かわいい顔してぷりぷり怒っている。そういえばファーギに連絡して、ゴブリン軍に連絡していなかった。


「すまん、今度からちゃんと連絡する」


「絶対ですからね!」


 マイアに叱られていると、スクー・グスローたちが群がってきた。例によって一人のスクー・グスローが胸ポケットに入っていき、休憩という名の睡眠を取り始める。

 ゴブリン軍は、デーモン憑きの獣人から散発的に襲撃を受けていたそうだ。ゴヤたちと色々と情報交換をしていると、エレノアがやってきた。


「ご苦労様。連絡事項がいくつかある――」


 ゴブリン軍やマイアたちが整列して傾聴する。冒険者の俺は端っこに移動した。


 救出した獣人を含むニンゲンとルー・ガルーたち、彼らは空艇に乗せて帝都ラビントンへ連れて行くそうだ。イオナだけが激しく暴れているそうで、厳重に拘束したという。


 リアムは父親の仇討ちをするために、ファーギのスワローテイルに密航していたらしい。そのため無断で兵站部隊を離脱したので、厳罰に処される予定だった(・・・)


 しかし、不測の事態が起きた。

 イオナはシチューメイカーの妹。つまり、リアムの伯母だったのだ。それで事態は急転、リアムは帝都に戻って、イオナの尋問を手伝うことになった。


 元からドワーフ軍は、技術者のイオナを疑っていたらしい。

 その切っ掛けとなったのは、俺が弥山(ややま)を救出したときに見た六本脚(・・・)だ。その話がグレイスから皇帝に伝わり、ドワーフ軍で情報が共有されていたのだ。


 これで確かになったのは、グレイスとイオナが連携して動いていないということ。

 俺の手書きメモをグレイスは読んだはず。それをそのまま皇帝に渡すって事は、イオナを切ったのか、そもそもイオナの存在を知らなかった可能性がある。


 獣人自治区の主要部は、すでにエルフ軍とドワーフ軍が掌握済みで、ここと同じく、スクー・グスローたちが待機している。朝の作戦でドワーフ兵がデーモン化した事へ対処するという。


 現在は獣人自治区をほぼ制圧しているが、大きな問題が一つある。

 それは、この街に住む百五十万の住人が、何処に消えたのか分からないこと。


 住人が姿を消したのは、城門への攻撃が始まってからだそうだ。


「ソータ、お前は一人で動いた方がいいだろう? 獣人自治区の区長と、召喚師を倒してこい」


 わざわざ俺が立っている場所に来て、エレノアが指示を出す。例によって俺の力がバレないよう、気を遣ってくれているのだろう。というか、だいぶ無茶振りされている気がするけど。


「はい。あ、そういえば――」


 デーモンを召喚しているのは、エリスという猫獣人の可能性が高い事と、魔女シビルが率いる実在する死神(ソリッドリーパー)という組織が関わっていると伝えた。


 それを聞いたエレノアは、目ん玉を引ん()いて驚き、ぴくりとも動かなくなった。しばらくすると「シビルシビルシビルシビル」と呟きはじめ、ブリキのロボットのようにぎこちない足取りで動き出し、巨大空艇に戻っていった。


「エレノアさん、どうしたのかな?」

「さあ? エルフは長生きだし、シビルという人物を知っているのかも? エレアさんの年齢は知らないけど」


 いつの間にか近くに居たマイアに返事をしながら伸びをする。昨晩から寝ずに動いているので、疲れている上に、魔力が残り少ない。前みたいに神威を使っても魔力が戻らないから慎重に行かねば。


「んじゃちょっと行ってくる」

「……気をつけてくださいね?」


 胸ポケットで眠っているグローエットをそっと出してマイアに渡し、俺はトライアンフ本部に向かって歩き始めた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ホールに戻ると、エルフ軍が地下通路を調べていた。俺が出てきた通路は、障壁ごとイオナを外に出したので、大きな穴が開いている。その先に研究施設があるので、大人数が中に入っているようだ。


 脳をくりぬかれる予定だったニンゲンたちが、大勢見つかって保護されている。彼らは一応拘束され、エルフの巨大空艇へ連れて行かれた。


 通路の一つから、微かな血の臭いを感じる。


「おっ、おい、勝手に入るな」

「まてまて、あいつは冒険者の遊撃隊だ。エレノアさんが言ってただろ」


 俺の肩に手をかけて止めようとするエルフ兵に、上司っぽいエルフが声をかける。


「あ、すみません。この先にデーモンがうじゃうじゃ居るので、入ってこないようにしてください」


「え、あ、はい」


 エルフ兵の手をゆっくりどけて先へ進む。

 レンガ造りのトンネルは酷く古く、これまでの通路と比べて随分広い。


 枝分かれしたトンネルを迷わず進んでいく、血の臭いを頼りに。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 この街で最大の建築物は、警告にある城壁だ。それは王都パラメダへ通じる街道を封鎖している。

 長い時間をかけて、難攻不落の城壁に改築し、今回ドワーフの攻撃をものともしなかった。


 街に張り巡らされた地下通路もそう。元からあった地下道を修繕して、作り直したのだ。


 これらは獣人の悲願である建国のため、区長ドリー・ディクソンの主導で、長年行われてきた一大開発。もちろん計画は極秘裏に進められ、情報が外部に漏らさないよう徹底されていた。


 その城壁と接している岩山をくりぬき、戦時に作戦本部として使う大きな部屋が造られていた。


「シビルさあん……、エルフとドワーフが、ここまで本気だとは聞いてませんよお~」


 その部屋で泣き言を漏らす筋肉隆々のゴリラ獣人、ドリー・ディクソン。身長三メートルの巨躯がカウチに座ると、ギシリと悲鳴をあげる。


 向かいに座っているのは、ハッグと呼ばれる魔女の一族、シビル・ゴードン。実在する死神(ソリッドリーパー)を率いる人物である。

 艶のある金色の髪の毛に、透き通る青い瞳。均整の取れた体から、艶やかな魅力が匂い立つ美人だ。


 彼女は、魔女カヴンの一族と共に、この世界から追放された古代人の末裔でもある。


 シビルはドリーの泣き言を風に柳と流し、横でお座りをする鉄の猟犬(メタルハウンド)、マルブートを撫でながら優しい声で言った。このマルブートは以前アラスカの地で、デストロイモードになった汎用人工知能が策を講じた個体でもある。


「機械の身体とはいえ、エリスのおかげで現世に戻れたのよ? もう少し我慢しなさいマルブート。……そういえば区長、獣人の避難は済みましたよ? 今頃はリリスの案内で、現地の連絡員と共にアラスカの街を乗っ取っているはず。心配しなくても大丈夫よ」


「そうじゃないんですよう……。私たちはここで、……この地で建国したいのです。獣人(ビースト)王国(キングダム)は、女王キャスパリーグの復活(・・)で成されると伝承がありますし」


悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )として覚醒した、エリス・バークワースを担ぎ上げたい気持ちは解ります。しかし彼女はまだ未熟ですし、それに……」


 エリスは精神的に不安定。彼女はアリスが死んだことで、一度壊れた。その事でエリスは悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )として覚醒した。そこまではよかったのだが、彼女の頭には復讐の文字しかない。ソータを殺害するためにだけ、綿密な思考を重ねているのだ。


 その他にはまったく興味を示さず、自身に憑依させたデーモン――レブラン十二(はしら)のラコーダとばかり話している。

 そんな状態で、切り札となるエリスを、このまま戦争に参加させる訳にはいかない。


 シビルはそれを口にせず、ドリーを見つめる。


「やはり撤退ですか……」


 ドリーはシビルから視線を逸らし、どうにか言葉を絞り出した。天を仰ぎ何とか堪えたが、瞳から溢れ出た涙が床に落ちていく。


 それを見て、氷の微笑(びしょう)(たた)えるシビル。

 彼女の胸の内には、この世界への復讐心で満たされている。獣人(ビースト)王国(キングダム)の復権など、ただの足がかりに過ぎないのだ。


 まずは悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )をしっかり教育(きょういく)し、憑依しているラコーダごと、意のままに操る。シビルはそうすることで、この世界を滅ぼし――果ては神々を討つ計画なのだ。


「区長、徹底抗戦なんてすれば、今の戦力じゃ簡単に滅ぼされますよ? ドワーフの技術者を引き抜いても、空艇を作れなかったんですよね? 空からの攻撃がある限り、勝ち目はありません。今は地球へ避難し、我ら実在する死神(ソリッドリーパー)の戦力を整える方が先です」


「……分かりました」


あの魔術師(・・・・・)は、わたくしにお任せください」


 シビルはそう言って、アラスカへ続くゲートを開く。ドリーがそこをくぐっていくと、周囲に人がいないことを確認し――――シビルは醜く顔を歪め、ゲラゲラと笑い始めた。

 その手には、ビー玉のような魔石がいくつか握られていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 血の臭いを辿って、地下トンネルを随分歩いた。レンガ造りのトンネルは、進めば進むほど古くなっている。所々落盤していたので、相当古いのだろう。

 地上部分はすでに獣人自治区の外、西側にある山間の荒れ地まで来ているはずだ。


 西側は修道騎士団クインテットが来ているはずだ。しかしグレイスの件があったので、本当に来るのか疑われている。だけども、おそらく来ている。確実に血の臭いが濃くなっているし。


 さらに進むと、大人数で戦う剣戟(けんげき)が聞こえてきた。俺は魔法陣四種類を使って姿を消し、足を速めていく。


 トンネルを出ると、廃墟と化した城の中庭だった。

 ここも随分と年代物だ。崩れた城壁が雨風で侵蝕され蔦が這っている。遺跡と言っても過言ではない。


 戦っているのはもっと西の方なので、崩れ掛けの矢狭間(やざま)から外を覗いてみた。


「だいぶ劣勢だな……」


 修道騎士団は、五千人で獣人自治区に来ているはずだ。しかしヒト族――修道騎士団の屍山血河(しざんけつが)が見えている。生き残りはおそらく百もいない。今は風化して崩れた砦で防衛戦をしており、彼らの命は風前の灯火となっていた。


 対してワニ顔の獣人が、五千以上もいる。獣人の死体がほとんど無いことから、初めからこの人数で戦ったのだろう。


 浮遊魔法で空を舞い、上空から確認。


 ――ドンッ


 姿を消したまま、爆裂火球(エクスプロージョン)を放っていく。

 すると、ワニ顔の獣人たちが大混乱となった。そりゃそうだ、何もない空中から、突然爆裂火球(エクスプロージョン)雨霰(あめあられ)なのだから。


 統率している獣人に直撃させると、瞬時に灰と化した。すると、他の獣人たちは蜘蛛の子を散らすように逃走し始めた。

 面倒いけど、一人たりとも逃すわけにはいかない。


 風魔法と火魔法で火炎竜巻(フレイムトルネード)を発生させ、ワニ顔獣人を巻き込んで全て灰にしてゆく。


「ふう、……疲れた」


 獣人を壊滅させたが、魔力が枯渇寸前。気を失う前に、神威に切り替えた。


 修道騎士団は大丈夫かな? 彼らは何が起こったのか分からず、キョロキョロしている。

 少し近付いて見てみると、知った顔があることに気づく。


 奴隷商人の馬車で、屁をこいていたやつだ。


 あいつ修道騎士団だったのか。というか、あいつ指揮官だな。とても高そうな鎧と剣を装備している。


 久し振りだし、挨拶でもしに行こうかな。なんて考えたけど、タイミング的に、何が起こったのか根掘り葉掘り聞かれてしまうな。このまま空を飛んで、一旦ゴヤたちと合流しよう。


 そう思って向きを変えると、身体が硬直して仰け反った。

 オゾン臭!? まずい!


 次の瞬間、雷が直撃――――視界が青く染まった。

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