表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/341

088 エリスの正体

 獣人自治区のトライアンフ本部ホールでは、少し毛深い人間(・・・・)たちが慌ただしく動き回っていた。元々あった大きな会議用テーブルは撤去され、地下へ続く隠し扉がいくつか開いている。そこから拘束されたニンゲン(・・・・)たちが続々と出てきていた。


「ナブーさん、人数揃いました」

「ユーゴ、フランス語(・・・・・)はやめろ。こっちの言葉で喋れって、何度も言ってるだろ」

「……ちっ」


 配下の若い男――ユーゴに舌打ちされたナブー・クドゥリ・ウスルは顔をしかめた。それでも(さま)になっている彼は、青い瞳に黒い短髪で、がっちりとした体躯の高身長。映画俳優のようなイケメンである。


こっち(異世界)が戦場になるなんて聞いてねえ。さっさと帰りたいんだよ!」


 他の男も愚痴を漏らす。

 ナブーはそれをスルーしつつ、手首を結束バンドで結ばれ、おとなしく整列したニンゲンをチェックしていく。


「獣人がいるな……あいつらの仲間じゃないのか?」

「イオナ博士が構わないって言ってるみたい」


 ナブーに話しかけたのは、エマ・ランベール。彼女も青い瞳だが、ナブーと違って髪の毛は金髪。

 パリコレのランウェイを歩いているモデルっぽい雰囲気の女性だ。


 二人ともスーツ姿で、この世界ではあまり見ない格好をしている。


「そっか……同族まで犠牲にするって、俺たちルー・ガルー( 人狼 )の一族じゃ考えられねえな……」


異世界(こっち)の考え方は、いまいち分からないわ。みんな納得してないし、早めに帰って、いつものようにクラブで踊ろうよ」


「だな。さっさと片付けて帰ろう。……おっ、そろそろ案内人がくる頃だ。おい、こいつら研究所行きの通路に押し込めろ!」


 腕時計(・・・)を見たナブーの指示で、配下のルー・ガルー( 人狼 )たちが拘束されたニンゲンを突き動かす。総じてやる気が無さそうに見える配下たちは、エマと同じく地球に帰りたいのだ。


 ――ドン!


「うおっ!?」

「きゃっ!」


 突如、床下へ続くハッチが吹き飛び、ナブーとエマが飛び退く。

 そこから出てきたのは、黒眼黒髪のアジア人。


「よっ、チャラ男たち! お前らどこから来たんだ? ルー・ガルーって人狼って意味だよな?」


 フランス語(・・・・・)で話しかけられ、ここにいるルー・ガルー( 人狼 )たちの動きがぴたりと止まった。

 いち早く再起動したナブーが、ソータに問いかける。


「アジア人か……? お前も実在する死神(ソリッドリーパー)に言われて異世界(こっち)に来たのか?」


「……そんなとこだ。ここに並んでるニンゲンはどうすんの?」


 ソータはピクリと眉を動かした。実在する死神(ソリッドリーパー)の存在は、彼の祖父、板垣兵太(ひょうた)から聞いている。


 ソータは眼を細め、拘束されたニンゲンに視線を移していた。


「いやいや、名前くらい教えてくれないか? 誰の指示で異世界(こっち)に来たんだ?」


「俺の名前かぁ……。ソータって呼ばれてるけど。指示したのは、えーと誰だっけ?」


 正直に名前を言うソータだったが、その場しのぎの嘘がさっそく綻びを見せる。すると、エマが何かを思い出し、写真(・・)を取り出してソータと見比べた。


「ナブー! こいつ、シビルが殺せって言ってた、日本人の魔術師よ!」


「俺がやる! お前ら、手を出すなよ!」


 ここにいるルー・ガルーは三十人ほど。拘束されて連れてこられたニンゲンは十五人ほど。ホールが広いとはいえ、少し窮屈に感じる人数がいる中、ソータとナブーが向かい合う。


「あっさりバレて、笑いそうなんだけど……。というか俺は魔術師(・・・)じゃねえ」

「いや、魔術師だと聞いている。お前、実在する死神(ソリッドリーパー)から狙われてるって知らないのか? まあ、殺しはしないが、生け捕りにさせてもらうぜ」


 狙われている? と呟き、首を傾げるソータに、(こぶし)を振りかぶって肉迫するナブー。

 ソータは軽くステップを踏み、近くにいるルー・ガルーの背後に回り込んだ。


実在する死神(ソリッドリーパー)から狙われるような事はやってないけど」


 ナブーも負けじと回り込み、ソータに再度肉迫する。

 周囲のルー・ガルーは、邪魔にならないよう輪になって広がっていく。


「あんたアラスカの件で、当主のシビルに目を付けられてんだよ」


 ナブーは前蹴り、膝蹴り、上段回し蹴りと、連続で打撃を繰り出していくが、ソータはすべて(かわ)していく。


「アラスカかぁ、心当たりしかないな……。つまり米軍と実在する死神(ソリッドリーパー)は、組んでるって事か?」


「組んでる訳じゃ無いみたいだぜ?」


 ソータは上半身を右へ左へと揺らし、左右の拳を連打。ガードを抜けた右フックが、ナブーの(あご)をかすめた。


「くっ!」


 脳が激しく揺らされ、膝から崩れ落ちそうになるナブー。背後のルー・ガルーに支えられ、どうにか持ちこたえた。


「ナブー、当主のシビルって何だ? あんたらは、そいつと協力して異世界(こっち)に来てんのか?」


 ルー・ガルーの輪の中心でソータが問いかけた。その瞳は、暗く静かにナブーを捉えている。周囲のルー・ガルーはソータに手を出さず、成り行きを見守っていた。


「いやな、俺たちの先祖は、異世界(こっち)の生まれでさ、ルー・ガルー( 人狼 )も、その中のいち種族なんだ。だから協力させられてる(・・・・・・)んだけど、正直あんま気が進まない……報酬はいいんだけど」


「ふうん……、ってことは、人狼もこの世界を追放されたのか?」


「さあな? そんな昔のことは知らねえ。俺たちは生まれも育ちもフランス。年寄りのルー・ガルー( 人狼 )なら知ってるかもな。だが、こっち(異世界)を追放されたのは、魔女の一族だと聞いている」


 表情の無いソータは、周囲を見渡す。デーモン(・・・・)憑きが一人いる(・・・・・・・)ことを確認しつつ、結束バンドで拘束されたニンゲンたちで視線が止まった。


「そこのニンゲンが、これからどうなるのか知ってるか?」


「さあ? 俺たちはここまで連れてきたニンゲンを、そこの通路に入らせるまでが仕事だ。その先は知らん」


「……どこからそのニンゲンを連れてきてるんだ?」


「知らねえよ。シビルっていけ好かねえ魔女が仕切ってんだ。何度も言うが、俺たちは正直こんなクソダリい事やりたくねえんだ。ボワット(クラブ)で踊ってた方が楽しいしな!」


 ナブーは、ソータに全然敵わないうえに、山盛りの質問を浴びせられて苛ついているようだ。


「そこのニンゲンはな、……こいつの実験で、脳をくりぬかれる運命なんだよ」


 ソータが地下通路に視線を移すと、床を壊しながら障壁に包まれたイオナが浮かび上がってきた。それを見たナブーたちは、目を見ひらいて驚いている。


「イオナ、何の実験をしていたのか話せ」


 ソータはフランス語をやめ、こちら(異世界)の言葉で話しかける。

 障壁を解除したソータは念動力(サイコキネシス)でイオナの頭を掴み、嘘をつけば握り潰して殺す、と言外に仄めかす。


「わ、私はニンゲンの脳で、多脚ゴーレムを自律行動させる事に成功したの。こ、これは凄い事よ? それで獣人たちに協力しているのだけど……」


 またしてもあっさりと自白するイオナ。そんな姿を見て、ソータは苛立ちを隠せない。


「あんたさ、ドワーフなのに、国を裏切って獣人に付いたんだろ? 脳みそくりぬいて酷たらしい実験をしてるくせに、微塵も罪悪感が無いよな。そんなちんけな理由じゃ無くて、それなりの理由があるんじゃねえの?」


「……わ、私は兄に復讐したいだけなの。だから、裏切りじゃ無い!」


 尻上がりに声が大きくなるイオナ。ソータの言いようが気に入らなかったのだろう。目をつり上げ歯をむき出してソータに向かって行く。しかし、イオナはもう一度障壁の中に閉じ込められてしまった。すると、障壁を殴って、ここから出せと叫びはじめた。


 こっちが本性か、とソータは呟き、声が聞こえないようにするため、イオナの障壁を三重にする。


 それを見たルー・ガルーと拘束されたニンゲンは、全員顔を青くして黙りこくっている。


「……お前ら、こっち(異世界)の言葉が解るみたいだな。もっかい言うぞ。そこで拘束されてるニンゲンは、これから脳みそをくりぬかれるんだ。だけど、お前ら人狼は、誰もこの事を知らなかった。……知ったからには、悪いことしていたと解るよな? 投降する気はあるか? これは警告だ。拒否するならまた殴り合いに付き合うぜ?」


 ソータはナブーに向き直って問いかけた。


「……こいつらの脳をくりぬくって話は本当なのか?」


 ナブーは額から汗をたらし、拘束されたニンゲンを見ていた。ナブーをソータにけしかけたエマを含め、他のルー・ガルーたちも、動揺が隠せない。


 一般的なルー・ガルー( 人狼 )は、人社会に溶け込んで生活をしている。特に彼らは、クラブで遊び()けるパリの若者でもある。今回は(いにしえ)為来(しきたり)で、半ば強引に協力させられているだけなのだ。


「さっき見てきたから、本当の話だ。信じてもらうしか無いが」


「わ、分かった、投降する……。ただし条件がある」


「なんだ」


「この仕事は、俺が受けたんだ。こいつらは俺が無理矢理連れてきた。だから全ての罪は俺にある。仲間は解放してくれないか?」


「見上げた心意気だが、……俺に決定権は無い」


 途端にがっかりするナブー。他のルー・ガルーたちも肩を落とした。


「そんな……。ナブーは悪くないの! わたしが一族に声をかけたんだから、他は解放して!」


 ナブーを庇うエマ。


「……できるだけ口添えはする。軍に引き渡すから、おとなしくしてろ」


 ソータはファーギに連絡を取り、事情を説明しはじめた。それはエルフ軍のエレノアに伝えられ、地球に住所を持つルー・ガルーたちは一旦事情聴取を行なう事となった。

 ニンゲンたちの結束バンドを引き千切って解放していくソータ。すぐ逃げようとしたが、ソータが板状の障壁を張り、行く手を阻んだ。


「さてと……、空艇が到着するまで少し時間がある。ナブー、ちょっといいか?」


「な、何だよ……」


「お前らが、獣人やシビルって奴に従っている限り、こうなる可能性があるって事を教えてやる」


 ソータの言葉と共に、一人のルー・ガルーが苦しみ始めた。


「うぐっ!?」

「ユーゴ!?」


 ユーゴはいつの間にか障壁に閉じ込められていた。それを見たエマが駆け寄ろうとするも、間に入ったソータが通せんぼをする。


「ユーゴは仲間よ! あんた何してるの!」


 ソータを睨むエマ。他のルー・ガルー( 人狼 )たちも、ソータに向かって牙をむき始めた。


「狼に変身するなよ? 言っただろ、どうなるのか教えてやるって」


 ソータは障壁の中の空気を抜いている。気圧が下がって空気が薄くなると、中のユーゴが更に苦しみはじめた。


「ぐぅぅぅぅぅ……るぅぅぅぅぅぅぅ」


 すると、ユーゴが唸り声を発し、身体中に鱗が生え、顔がワニのように変化していく。


「ワニ顔か……。神威障壁はいらんな」


「なっ――なんだよこれっ! おい、ソータ! てめえ仲間に何しやがるんだ!」


 ユーゴはナブーがデーモン憑きだと知らなかった。その勢いでユーゴはソータに詰め寄っていく。


「俺はなんもしてねえ……。この件に絡んでいるのは、獣人と、お前がさっき言ったシビルって奴と、そこにいるイオナだ。お前らがどんな話で(そそのか)されたのか知らない。だけど見ろよこれ、デーモンが憑依するとこんな姿になって、ニンゲンを喰うんだぞ?」


 ソータを殴ろうとしたナブーは、腕を掴まれ、関節を極められる。その体勢のまま、ユーゴを見るようにと、ソータは強制的にナブーの向きを変えた。


「ウ、ウソだっ! ユーゴ! お前なんでそんな姿に!?」


 他のルー・ガルーたちがユーゴに駆け寄るも、障壁に阻まれて触ることができない。

 時を経ずしてユーゴは死亡。倒れた身体から、ユーゴの形をした黒い粘体が起き上がった。それを見て、ルー・ガルーたちは悲鳴をあげながら下がっていく。


「この黒いデーモンに力を借りれば、とてつもなく強くなれるぞ? いまからでも遅くは無い。いまからシビルに頼んで、デーモンを憑依すればいい」


「えっ!? ちょっと待って、ち、違うわ!」


 ソータの言葉に反応したエマが、デーモンを憑依させているのはシビルではないと言い始めた。障壁の中にいるデーモンを獄舎の炎(プリズンフレイム)で焼き尽くしたソータが先を促す。


「シビルはいたけれど、彼女じゃないわ! デーモンを呼び出したのは、隣にいた猫獣人のエリスって子よ! 悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )って呼ばれてたから、間違いないわ! まさか、ユーゴにデーモンが憑依してるとは思ってなかった! ねえ、何なのこれは!」


 半狂乱になって話すエマ。


「……」


 それを聞いたソータは、眉間にしわを寄せ黙りこくってしまった。


 しばらくすると、彼は重い口を開いて説明を始めた。

 それはデーモンを召喚して、憑依させる手順。


 召喚師とデーモン、デーモンと憑依者、この関係を説明すると、エマたちルー・ガルーは泣き崩れてしまった。


 トライアンフのホールが静まり返ると、外からエレノアの声が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ