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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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085 ミッシー2

 豪雨の中、茶色のフード付きマントを羽織っているミッシー。彼女は馬型ゴーレムの口を引き、ドワーフ軍の補給地近くまで来ていた。


 森の中から開けた草原を見つめて佇むミッシー。


 とうとう連合軍と獣人自治区で戦争が始まった。彼女がそう思っていたのも、束の間。


「前線の主力が獣人にやられたみたいだな……」


 兵站部隊が後戻りしてきたことで、そう判断したのだろう。


 彼女はスキル〝同化(アシミレイト)〟を使い、水浸しの草原を移動していく。彼女がいる兵站部隊は、ソータの兵站部隊から一番遠い位置にある。それは意図的にミッシーが選んだのか、あるいは偶然なのか、ハッキリとはしない。


 ゾロゾロと戻ってくる兵站部隊とぶつからないよう、ミッシーは馬を引きながら森を移動していく。行き先は、獣人自治区の正門。


 獣人自治区のギルマス時代、なにやら城壁を改造したと噂を聞いていたミッシーは、そのせいでドワーフ軍が敗北したのでは、と推測を立てていた。


 彼女は強大な力を持つソータと共に戦えるよう、(ちから)を付けるために修行中の身である。しかし、前線の軍が全滅するほどの大軍がいるのなら、微力ながら(ちから)になろうと考えたようだ。


 雨足が強くなっていく中、ぬかるんでいる森の中をひたすら進んでいると、わずかに獣人とデーモンの気配が漂ってくる。それに気付いたミッシーは、〝同化(アシミレイト)〟に加え、気配を消したまま動かなくなった。


「おっ! こりゃドワーフ兵の馬型ゴーレムだ。いただいちまおう」


 近付いてきた獣人四人に、見覚えがあるのか、ハッとするミッシー。


「えっ?」


 馬型ゴーレムの口を引こうとした、猿獣人のグレーゲルのこめかみに矢が生えた。グレーゲルはクルンと白目を剥き、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


 祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを使ったミッシーが、射殺(いころ)したのだ。ただ、攻撃をしたせいでスキル〝同化(アシミレイト)〟の効果が切れ、その姿があらわになった。


 獣人たちまでの距離は、およそ五十メートル。


「お、おいっ!」

「待て、フーゴ!!」

「クッソ!! 何でこんなとこにギルマスが居るんだよ!!」


 残り三人の獣人のうち、一人がミッシーに向かって走り出した。片手剣と盾を持った、狼獣人のユーアンだ。憑いたデーモンの力を使って、風のような早さでミッシーへ迫っていく。


 しかし、ミッシーの二の矢が、ユーアンの右目に突き刺さった。脳を貫いて、後頭部に矢尻が飛び出す。即死した彼は何も無いところでつまずいて、勢いよく森の地面に叩きつけられた。


 残る二名は、鳥獣人のフーゴ、サイ獣人のイングヴァル。二人は立ちあがって、顔を見合わせる。


「またいなくなったぞ!?」

「何のスキルだ……」


 土砂降りで姿が見えにくい上、スキル〝同化(アシミレイト)〟を使われるとお手上げだ。

 フーゴとイングヴァルは背中合せで、どこから攻撃されても対処できるように構え、障壁を張った。


 それなのに、軽々と障壁を突き破り、サイ獣人イングヴァルの分厚い(ひたい)の骨に矢が刺さった。もちろん即死である。


 それを見たフーゴは、鳥人のスキル〝飛翔〟を使い、土砂降りの空へ舞い上がった。


 フーゴはミッシーを振り返る余裕も無く、一目散に空を飛んでいく。ミッシーから距離を稼いだところで、スキルを解除し地上に降りた。


「クソッ!! なんで追いつけるんだよ!! ギルマスのスキル、貫通属性でも付いてるのか! なんで障壁を貫けるんだ……?」


 いつの間にか追い付いていたミッシーが、弓を構えたまま答えた。


「そうよ。死ぬ前に教えてあげる。スキル〝フレシェット(絶対貫通)〟」


 その言葉と同時に矢が放たれた。


「え、あ、あれ?」


「あら、当たり所がよかったみたいね?」


 ミッシーが射った矢は、フーゴの頭骨を貫通して止まっている。奇跡的に、貫いても死なない箇所だったようだ。が、そこまでだった。


 フーゴの頭に二本目の矢が突き刺さった。


 どしゃっと音を立て、倒れたフーゴ。すでに命の灯火は消えていた。


「まだスキル〝フレシェット(絶対貫通)〟が上手く行かないな。しかし、この軍場(いくさば)には、トライアンフ(・・・・・・)の幹部が出張っている。丁度いい機会だ。皆殺しにしてやろう」


 ミッシーは馬型ゴーレムに乗り、増水が始まっている森から離れていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ベナマオ大森林のトライアンフ駐屯地では、騒ぎが起きていた。彼らは団長のフィリップ・ベアーを失っており、現在は副長のブレナが指揮を取っていた。しかし、本来ならここで指示を出すはずのブレナが姿を消しているのだ。


 その上、幹部連中の相次ぐ無断行動で、規律の取れていたレギオンは崩壊寸前の状態であった。


 この駐屯地に残る幹部は九名。いずれもトライアンフの古参で、新参のメンツに常にイヤミの混じった上から目線の指導するという、嫌われ者の集団でもあった。


「おいコラ新人!! 茶を持ってこい!!」


 虎獣人のヨルゲンが、空気の震えるような大声を出した。


 大きめのテントにこもる幹部九名。雨が続き、気温も下がり、副長とも連絡が取れない。何もかも上手く行かない状態で、幹部全員が苛ついていた。


「……お茶をお持ちしました。皆様もどうぞ」


 震えながらテントに入ってきた、猫獣人の新人。


 その手に持つ大きなトレーには、カップが九つ。湯気を上げる紅茶が、テント内を一時の清涼感で満たした。


 テーブルに置かれたお茶を飲み始める幹部たち。


 しかしてそのお茶には、即効性の痺れ薬が入っていた。


 痺れて動けなくなり、テーブルに突っ伏していく幹部連中。その中で一人だけ、痺れ薬に耐性がある虎獣人のヨルゲンが、新人に問いかけた。


「な、に、を、盛った」


 すると、怯えて動けない猫獣人が口を開く。


「す、すいません。脅されて仕方なく――――」


 そこまで言ったところで、猫獣人の後頭部に「スコン」という間抜けな音と共に矢が生えた。

 即死した猫獣人はひざから崩れ落ちる。


「お前らは、毒で殺すなんてもったいない。私の矢で、きっちりとどめを刺してやる」


 テントに入ってきたミッシーは、痺れて動けない幹部連中を足で踏みつけ、超至近距離で次々と射殺(いころ)していく。


 虎獣人のヨルゲンには一応の耐性があるが、今回ミッシーが使った痺れ薬はかなり強力なものであった。おかげで痺れてはいるものの、少しは動ける状態だった。


 次々と射殺(いころ)されていく幹部達を見て、ヨルゲンは椅子から転げ落ち、地べたを這ってテントを潜り抜け、駐屯地に異常を知らせようとした。


「だ……」


 誰か、と言いたかったヨルゲンは、言葉を失った。そして、血走った目を見ひらいて、驚愕の表情を浮かべた。それもそのはず、駐屯地にいた獣人たちは皆殺しになっていたのだ。全員に矢が刺さっている。


「お前が最後の生き残りだ」


 テントの中から聞こえてくるミッシーの声。上半身だけテントから出てきているヨルゲンは、立ち上がって全力で逃走を始めた。どうやら、痺れ薬の効果が切れたようだ。


 向かった先は、ドワーフ軍から鹵獲(ろかく)した六本脚(・・・)。虎獣人ヨルゲンのスキルは、身体強化、怪力、体術、この三つ。ミッシーの矢の速度には敵わないと判断し、六本脚の魔導銃で反撃するつもりだ。


 テントを短剣で切り裂き、外に出てきたミッシー。彼女が祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグに矢をつがえる動作をすると、魔力の矢が現われる。


 ミッシーとヨルゲンは、すでに百メートル以上の距離となっていた。


 ミッシーは狙いを定め、矢を放つ。


 その矢は、生き物のように軌道修正し、正確にヨルゲンの頭を貫いた。


「スキル〝頭部破壊(ヘッドショット)〟か。これは使える」


 雨の中、生き残りは居ないかと周囲の気配を探るミッシー。しばらく立ち尽くしたあと、馬型ゴーレムを呼ぶための口笛を吹いた。


「この駐屯地の獣人は、全員デーモン憑きで、完全に一体化していた。デーモンがいる限り、この世界に平穏は訪れない」


 ミッシーは馬にまたがりながら、茶色いフードをかぶり直す。


 雨足はさらに強くなり、馬の蹄が水たまりに浸かる頃、ミッシーは西のサンルカル王国を目指して進み出した。

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