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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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084 水のキーノ

 矢と魔導銃が、次々と獣人を討ち滅ぼしていく。ただ、数が減らない。森から出てきた獣人は、ゆうに三千を超えている。


「ソータ、何をしている」

「……ちょっといいですか?」


 ブレナを念動力(サイコキネシス)で圧殺しようとしているけど、なかなか上手くいかない。この距離と大雨で、見えにくいというのもある。


「なんだ」

「単独行動します」

「……何か考えがあるのか?」

「いえ、獣人の指揮官を見つけたんで」

「……話がある、こっちに来い」


 副官に指揮を任せ、エレノアは八本脚(・・・)の中に入っていく。

 二つの銃座にエルフ兵がいるけど、身体半分は上に出ている。ここで喋っても聞こえないから来たのだろう。


「どこに獣人の指揮官がいる? 何で分かった?」

「何となくです」

「はぁ……。ソータ、お前はエルフの里――冥界で何をした? あたしたちの目の前で頭を食い千切られたマイアは、何で生きている?」

「……」

「いや、済まない。ソータは姫殿下の病を治した。だから我々エルフは、ソータがニンゲンを蘇らせた事は絶対に口外しない。これは里の生き残り全員で誓ったことだから安心しろ」

「……感謝します」

「まあ、あまり派手にやると、あたしらのように勘付くものも出てくるから、気を付けろって言いたかっただけだ。単独行動を許可する。速やかに獣人の指揮者を殺せ!」

「はい、了解です」


 マイアが死んだとき、エレノアやシエラ、スノウたち生き残りのエルフがそこにいた。それにもかかわらず、マイアは何事もなかったかのような顔で帝都ラビントンに現れたのだから、彼らが驚いたのも無理はない。

 その事を追及されなかったのは、俺がサラ姫殿下のアレルギーを治したからだと判った。


 ミッシー、ファーギ、マイア、この三人から口酸っぱくして能力を隠せと言われてるしな。コッソリ動こう。


 風魔法で、気配遮断、視覚遮断、音波遮断、魔力隠蔽、四つの魔法陣を、俺自身に向けて放つ。

 するとエレノアが息を飲んだ。急に消えたように見えたのだろう。


 八本脚(・・・)のドアを開け、外に出る。

 身体に当たる雨が音を立てて水飛沫を飛ばしているが、誰も気付かない。

 風の魔法で姿を消しているだけなら、雨の中に俺の形が空洞のようになって見つかっていただろう。


 俺は浮遊魔法で空を舞った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 草原と森の間に佇むブレナ。彼女は戦闘に参加せず、ソータを探して補給地を回っていた。


「え、ありがとう。キーノ」


 ブレナの身体が水に変化する。この姿だと、大雨の中で見つかりにくいのだ。しかし、彼女は誰と喋ったのか。


 雨に煙る中、彼女は草原で戦う仲間の獣人たちを見つめる。


「感謝してるわ。でもさ、あなたは、レブラン十二柱の序列七位なんでしょ? あたしみたいなのでいいの?」


 ブレナは自身に憑いているキーノと喋っているのだ。

 レブラン十二柱を完全な状態で憑依させることが出来たのは、エリスが悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )として覚醒したからである。


 水の身体に、雨とは違う波紋が広がった。ソータの念動力(サイコキネシス)が近くを薙いだためだ。

 それを感じたのか、透明な笑顔でブレナが飛び退く。


「この草原に居たのねっ、ソータ!」


 ブレナの声は雨音にかき消される。


「……」


 言ってはみたものの、周囲に何の気配もない。もしかすると見当違いかも知れない。ブレナはそう思い、森の中に潜んでどこにソータが居るのか探る。

 しかし何も感じない。


 ブレナの身体が、突然水風船のように破裂し、濡れた地面にぶちまけられた。


 雨と風の音しか聞こえなくなった草原で、雨足が強くなっていく。

 土砂降りがあっという間に滝のような雨に変わり、一寸先も見えない状態となった。


「ブレナ、お前、逃げ足だけは早いのな……」


 森の中に突然現われるソータ。雑草を掻き分け、いままでブレナが立っていた地面を見つめた。


「水ねぇ……。この勢いで雨が降ったら洪水になるんじゃ?」


 ブレナの気配も消えている。その場を立ち去ろうとすると、ソータの腹に穴が開いた。


「がはっ!?」


 腹から飛び出したのは、丸太のように太い氷の槍。背後から貫かれたようだ。ソータはそれを掴んでへし折った。

 すると腹の傷がみるみる塞がっていく。一滴の血すら流れていない。


「ソータ……あんたがフィリップを殺したと聞いた。だから殺しに来たんだけど、何なのそれ? あんたニンゲンじゃないの?」


 全方位から聞こえるブレナの声。


「そう言うブレナもニンゲンやめちゃってるよな……」


「そう、あたしたちはエリスのおかげで、レブラン十二柱を宿しているの。いくらソータが人外だとしても、あたしたちは負けないっ! キーノ、お願い!!」


 その声と同時に、さらに雨が強くなり、いや、雨ではない、水の塊がソータの頭上に落ちて、彼をその中に閉じ込めた。その水には強い流れがあるらしく、森の木々をへし折りながら、泥水を巻き込み、回転しながら楕円体へと変化していった。ソータはその中で、もみくちゃになっていた。


「話をもっと聞きたいけど、あなたは危険。だからここで死んで」


 地面の水が盛り上がり、ブレナの姿に変った。

 楕円体はものすごい速さで回転して、徐々に大きくなっていく。巻き込まれた木が折れて鋭利な切っ先を作り、ソータに突き刺さっていく。水流で腕がちぎれ、足がねじ切れる。

 茶色い水の塊の中で、ソータの身体はバラバラに引き裂かれていった。


 そんな景色を見つめるブレナ。泣いているような顔をしているが、頬を伝うものが涙なのか雨なのか判別出来ない。


 その表情が一変。驚きのものに変わった。

 ソータの身体が元に戻り始めたのだ。


「キーノ、どうしよう……。こんな化け物だと聞いてないわ」


 するとブレナの身体が水に変化し、バシャリと音を立て地面に落ちた。


 直径二十メートルにまで大きくなった茶色い回転楕円体が動きを止め、その中から平気な顔でソータが出てきた。裸になっているのは、身体がバラバラになったせいで、装備していたものが全て千切れてしまったからだ。


「死ぬかと思った……」


 とは言うものの、特にダメージを受けた様子ではない。水球の動きは、ソータの水魔法で止めたようだ。そこに手を突っ込み、小さな魔導カバンと魔導剣を取り出す。他にも何かないかとまざくっているが、使えそうなものは何も残っていなかった。


 魔法を解除して水球を消し去り、ソータは周囲を確認する。

 雨足が更に強まっている。


 森の排水能力を上回る降水で、水たまりが大きくなっていく。いつの間にか、ソータの足首が浸かるほど増水していた。水面が静かに上昇していることを確認すると、ソータは空を舞った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ブレナが言ったレブラン十二柱って何だ? 柱って神様を数えるときの呼び方だよな? それをエリスが呼び出したって事か。んでブレナに憑依しているのが、キーノって名前のデーモン。これがレブラン十二柱の一柱の可能性があるな。


「エレノアさん」

「ひょっ!? 何だ、ソータか。どうだった?」


 前に集中していたエレノアをビックリさせてしまった。

 獣人たちは、草原の水たまりに足を取られて魔導銃を避けきれていない。かなり数が減っているけど、いまだに戦闘は続いている。


「いえ、取り逃がしました」

「そうか、それなら次の手を――」

「待ってください」


 この大雨の原因が、デーモンの仕業である可能性を伝える。

 味方の獣人を考えていないこの状況は、たぶんブレナに憑いているデーモンが起こした天変地異だと。


「分かった。とりあえず着替えてこい!」

「あっ!?」


 裸なの忘れてた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 八本脚(・・・)の中で着がえを済ませる。俺のではなく、エルフの軍服をお借りさせてもらった。外に出るとかなり増水しており、既に膝くらいまで水深があった。


「撃ち方やめっ!!」


 八本脚(・・・)に上ると、丁度戦闘が終わったところだった。


 正面の獣人は全滅。背後のデーモン憑きドワーフ兵も全滅。

 大雨のおかげで、こちらの勝利に終わった。


 しかし雨足が弱まらない。水位がどんどん上がっていく中、エレノアが魔導通信で巨大空艇を呼び寄せた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 三カ所の草原にいたドワーフ、エルフ軍は、エルフの巨大空艇十隻で全て回収。飛び立つ頃には胸くらいまで水位があったので、もう少し遅かったらヤバかった。

 眼下に広がるベナマオ大森林が水没していく。三カ所の草原はすでに湖のようになっていた。


 窓の外が真っ白になる。雲の中に入ったのだろう。しばらくすると、ウソのように青い空が目に飛び込んできた。


「おいソータ、いつまで黄昏(たそが)れてんだ?」

「まだ昼過ぎだ」

「……そういう意味じゃねえ。いいから手伝ってくれ」


 俺たちがいるのは、巨大空艇の格納庫。そこでファーギや他の冒険者たちが、魔導カバンから自分の空艇を出して整備している。もちろん一気に出せるスペースはないので、交互に協力しながらだ。


「整備の手伝いなんて出来ないって」

「違う違う、魔法陣の刻印を手伝って欲しいんだ」

「ふうん?」


 ファーギのスワローテイルを、大勢の冒険者が整備している。ファーギはそこから少し離れた場所で、一抱えもある大きな兵器をいじっていた。


「これが加圧魔石砲だ。だが、こいつは予備のやつでワシが預かっていたもので、魔法陣が刻まれてないんだ」


 そこまで言ったところで、ファーギがスッと近づいて小声で言った。


「ヒュギエイアの杯を作ったとき、ミスリルを妙な方法で伸ばしてたよな? 空間圧縮魔法陣は軍事機密だから、見えない場所に彫りたい。出来るか? 出来るよな?」


 なるほど……。足元に置いてある加圧魔石砲は、魔法陣がないので使えない。それを使えるようにするため手伝えって事か。

 俺が頷くと、ファーギのボロ工房が姿を現した。小さい一軒家とはいえ、格納庫に出すには大きすぎる。周りの冒険者たちからぶりぶり文句を言われつつ、俺たちは中に入った。


「どうすんの?」

「これをだな――」


 加圧魔石砲を分解して、一つの部品を取り出すファーギ。本来ならこの部分に空間圧縮魔法陣が刻まれているそうだ。


 万が一にでも、加圧魔石砲が鹵獲(ろかく)されてしまえば、軍事機密の空間圧縮魔法陣を知られてしまう。


 そうならないように、空間圧縮魔法陣はヒュギエイアの杯を作ったときと同じ手法が使われているそうだ。


「この部品を作るとき、伸ばした鉄板に空間圧縮魔法陣を刻印して折り曲げる。その作業を十回繰り返して、魔法陣の効果を高めているんだ。しかしこれには刻印がない。それをこの前みたいに、ちょちょいとやってくれないか?」


「やってみるか……」


 これは獣人を滅ぼすため、シチューメイカーが命を賭して使ったやつだ。複雑な気持ちになりながら、部品製作を手伝うことにした。


『空間圧縮魔法陣を確認。空間拡張と空間圧縮の効果を持つことが判明。魔法陣を改良し、より精密な制御が可能になりました。空間拡張魔法では、真空に近い状態を作り出すことができます。ただし、完全な真空は量子力学的な揺らぎがあるため、作り出すことは困難です。また、仮に作れたとしても、真空崩壊が起こるリスクがあるため、慎重に行う必要があります。一方、空間圧縮魔法では、物質を高密度に圧縮することができます。ただし、圧縮の限界を超えると、重力崩壊が起こり、超新星爆発やブラックホールが形成される可能性があります。これらの現象は、自然界では大質量の星の終焉で見られますが、魔法で再現するには細心の注意が必要です。マイクロブラックホールの作成も理論上可能ですが、非常に不安定で制御が難しいでしょう。また、ブラックホールは強い重力で周囲の物質を引き込むため、危険性が高いです。これらの魔法は、強力ではありますが、リスクも高いため、十分な理解と制御が必要不可欠です。使用には細心の注意を払ってください』


『よく分からんから、使わないでよろしい』


 加圧魔石砲が完成し、スワローテイルに取り付けが終わる。なので他の冒険者の手伝いをしていると、艦内放送が聞こえてきた。


 修道騎士団クインテット五千が、獣人自治区西門を突破。旧市街地戦に移行。

 ゴブリン三千が、空爆した門から獣人自治区へ侵入、市街地でゲリラ戦を展開中。

 獣人自治区上空にて、ドワーフ空軍の空爆は継続中。


 エルフの大型空挺は、ドワーフ空軍の補給空母として向かうこととなった。


 そして俺たち冒険者は、当初予定されていた遊撃隊として動く方針に変更された。

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